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大阪にファントムを取りに行く







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1ヶ月経ち、免停の期間が明けた。


車を預けていた大阪鳶会社のハヤシさんに連絡する。



「俺の車、どんな感じですか?」



「おーうカネ!!まぁ会社からあの車なんやーとか言われたさかい、うまいことゆーといてやったわ!心配すんな!!」



お世話になった兄貴にお礼を言って綾瀬を出る。


さぁ、大阪までオールナイトヒッチハイクだ。

かかってこいや!!







とりあえず都会を出るために電車で神奈川まで行き、平塚からヒッチを開始した。


結構パンパン捕まることは捕まるんだけど、距離が短い。


3台目で静岡入りしたときには、すっかり暗くなっていた。



小田原で働いている兄ちゃんが、グータと焼肉弁当をくれた。


沼津で乗せてくれたトラックの運ちゃんは、いきなり飯代や!!と5000円をくれた。






なんとか前に進み続けるが、島田の郊外あたりでめっちゃ苦戦してしまった。


車がビュンビュン走り去る国道の脇で親指を立てるが、すでに真っ暗、夜も遅いのでこんな怪しいやつなかなか乗せてもらえない。



凍えそうになりながら、2時間ぐらい。



やっとトラックが止まってくれた。




急いで乗り込むと、運転席のおじさんは無線をやっていて、トラック運ちゃん仲間とやり取りしていた。



「ガーガガ…………ピー…………はい了解…………えー、乗せましたよ、ヒッチハイク乗せましたー。確かに髪の毛長いですねー。でもサオついてんじゃねーか!!どうぞー!」



「ガー…………了解…………ハーハッハッハッ!!クマさーん!!やられちゃいましたねー山下君に!!山下くーん届いてますかー?クマさん怒ってますよー。どうぞー!」



「ガーガガガ…………了解ー……………ギャーハッハハハ!!すみませーんクマさーん!!でも確かに女の子に見えたんですもーん!!あれはしょうがないっすよー!隣の彼ー!!捨てられないように気をつけなよー!!どうぞー!」



「おう!!お前しゃべれっ!!」



「ガガーガガガ・・・ピー・・・あっあの、すいませーん!男でーす!!」




どうやら俺のことを女だと思って乗せてくれたみたいだった。


これって結構あるんだよな。


目の前に止まったはいいけど、窓がウィーンって開いて俺の顔を見るなり、男じゃねぇかって窓を閉めて走り去る車も何度かいた。










眠気覚ましに無線で喋っていた仲間たちも、夜がふけると次々とダウンしていき、最後の1人も現地に到着しちまって、とうとう無線は切れた。


このトラックは、運良く大阪の八尾行き。


眠いのを我慢して、ガラ空きの国道を飛ばすクマさん。


俺も眠いけど、我慢してクマさんに何かと話しかける。


クマさん曰く、眠らないためには誰かを横に乗せてしゃべるのが一番らしい。



「食ったら眠くなる!!」



と飯も食わずにガンガン飛ばす。


最初はあんな感じで気まずかったものの、夜空が青白くなる頃にはすっかり打ち解け、いろんな話をした。



いつのまにか大阪に到着。


クマさんの目的地に無事着いて、そこで降ろしてもらってトボトボと肌寒い朝の街を歩いた。
















翌日、ハヤシさんの寮の部屋の前に隠しといてもらったファントムの鍵をゲットした。



やっと戻ってきたぜー!!!


お前と離れてると気が気じゃなかったよー!!



でもまだ運転はできない。

一眠りしたいとこだったけど、じっとしてられなくてそのまま門真の免許センターへ。


そして1ヶ月ぶりに免許証をゲット!!

やったあああああああ!!!!








それから鳶会社に給料を取りに行った。



「おつかれさまでーす!」



「おうカネ!!あの車お前のやろうがー!!どないなっとんのやああああ!!」




ハ、ハヤシさん…………


心配ないって言ってたじゃないですか…………




こうこうこういうわけで車を動かせなかったんです、と事情を説明してなんとか撲殺を免れ、給料ゲット。


手取り16万円。




「お前ところで、Nのやつ知らんか?」



「え?いや、知らないですけど…………もしかして飛んだんですか?」



「そんなことええやんけ、まぁ知らんならええわ。お前それより、はようちの会社戻ってこんかい!!」



会社を後にし、ファントムの中で軽く眠り、夜になったら仕事を終えて帰ってきたハヤシさんに、車を見ててもらったお礼ということで立ち呑みをご馳走させてもらった。



それからヒロシさんにも最後の挨拶へ。



「おう!!金丸!!お前、Nとウメとは連絡つくんか?」



「は?はい、つきますけど…………」



「ほなゆーとけや。ウメとNのアホ、あいつら寮から備品の布団とテレビとテレビ台持って飛びよったんや。ほんで会長がキレてなぁ、ヤクザつこーて追い込みかけるゆーとったから気ぃつけろや、ってな。」



…………まったくどこまでアホなんだ。







ヒロシさんと別れた後、Nくんと連絡を取り、どことは言えないけど、Nくんとウメくんの住んでる部屋へやってきた。



「こっちだよ~!!カ~ネマ~リく~~~ん♪」



指定された通りに行くと、ビルの上の窓からものすごい大声で叫んでるNくん。


部屋に入ると、真っ暗。


テレビの明かりのみ。


その明かりの中で、カップラーメンを食べてる2人。


もちろん布団とテレビと台は、寮から持ってきたやつ。


テレビ画面にはプレステ2の三国無双。


1日が三国無双に始まり、三国無双に終わるらしい。



「金がないのよおおおおおお!!!」



「まぁ、ビールでもおごるよ。」



「ほんとですかー!!」



スタスタスタ。

無言で窓の方に歩いていくウメくん。



ガラガラガラッと窓を開ける。



「カネマリく~ん!!うれしいよ~~~~!!」



通りに響き渡る声。

マジイカれてる。





ビールを買いに行く途中でも、通り過ぎるカップルを冷やかしてる。



「ヒョウ!ヒョウ!」


「今夜は燃えるのかい?ひひひ!!」



彼氏が迷惑そうにこっちを見ると、



「なんやゴルァ!」



マジイカれてる。





「ラ~ラ~ララ~ラ~、ララ~ラ~やっぱり~今日も明日もお金がぁ~ない~~~」



ビール片手にそんな歌をずっと歌いながら歩いてるウメくん。



仕事探しもしてない。

金もなくグータラ。

家賃も滞納。

朝起きて、早く起きた方がもう1人をゆすり起こして、でも別に何もせず、ひたすら三国無双。



都会ってホント落ちるやつはこうやって落ちていくんだなぁ…………




「会長がヤクザ使って追い込みかけるって言ってたよ。」



「へー、そりゃあゼヒ追い込みかけてもらいたいのぉ?ああああ!!!暇だああああああああ!!!!」



さすがに謝りに行けなんて言えなかった。



せめて見つからずに逃げおおせることを願ってるよ。









あ、そうそう、関西に戻ってきたついでに、ずっと気になっていた東福寺に行った。








京都を代表する紅葉の名所である東福寺に前回行った時はまだ初夏で、新緑の風景しか見られなかった。


あれから数ヶ月が経ち、そろそろ葉の色も変わったはずだろうと見に行ってみた。

















まだ完全に紅葉にはなってなかったが、ほのかに色づいた木々はやっぱりすごく美しかった。



いつかまた、ベストシーズンにここに戻ってきたいな。









よし、これでひとまず関西での心残りは何もない。


奈良とか滋賀とかは折り返しでキッチリまわるぞ。



こっからは未知の東日本だ。






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