3月16日、午前10時。
六甲アイランドに美香の乗ったフェリーが到着した。
最初に美香が福岡に会いに来たのが12月だから、4ヶ月のうちに3回も会ってるとか会いすぎ!!
旅中なのに!!
でもこうして美香と旅先の色んな土地を回れるのはめっちゃ嬉しいけど。
美香を乗せ、雨の降る中まずやってきたのは神戸の灘区。
阪神大震災で全壊し、新しく造られたばかりという「灘の酒蔵」澤の鶴資料館でさんざん日本酒の勉強。
日本酒も面白い。
これから日本全国で色んな酒蔵まわって地酒飲みまくってやるぞ。
その後、三宮にやってきたんだけど、パーキング高すぎ…………
10分100円て…………
なんとか30分100円のとことかを見つけてもどこも満車。
ちくしょー…………とぐるぐる不毛に走り回ってると、ふとあることに気付いた。
…………みんな路駐しすぎ。
出るときどうするんだろ?ってくらいギッチリ道路ぎわに車が並んでる。
鳥取のお好み焼き屋さんの兄さんが言っていた言葉を思い出した。
関西は路駐天国。
よっしゃとそれならばと路駐して南京町へ向かった。
南京町は神戸一の中華街。
ビル街の中にいきなり現れる異様なほど中国っぽい門をくぐると、そこには無数の中華料理店がひしめいていて、漢字や極彩色に溢れて完全に中国。
この神戸は港町なので、いろんな国の文化が混ざり合っていて、すごく異国情緒が漂ってる。
そんな南京町のほぼ中央で、すごい行列を発見。
噂に聞いた、行列のできる豚マン屋、老祥記だ。
ソッコーで俺たちも並んでみた。
持ち帰りの人ばっかりだったのでそんなに長くは待たなかったものの、それでも20分くらい雨の中で並んでいた。
っていうか、うますぎる!
1口サイズぐらいの豚マンが3個で240円とちょっと高めだけど、ハンパじゃなくうまかった。
本当にこんな豚マン食べたことない。
みんな絶対行くべき!!
他にも屋台などがたくさん並んでいて、ぎこちない日本語で「オイシーヨ!!」と叫ぶ中国人たち。
出店でギョーザやビーフンを食べ、車に戻った。
夕方、北野町を探し、街中を走り回る。
通行人に聞きながらやっとこさ辿りついた北野町は、異人館の立ち並ぶエキゾチックな街。
英国館、仏国館、風見鶏の館など、レトロなレンガ造りの異人館や、チャペルや、お洒落なカフェなんかがあって歩いているだけでワクワクする。
ホントはクレミエというソフトクリーム屋さんに行くつもりでやってきたんだけど、あまりにも街並が綺麗で、もう全部見たくてしょうがない。
ソフトクリーム屋さんが18時まで、とパンフレットに書いてたので後で行くことにして、観光案内所の白髪に黄色のメッシュを入れたケバいおばさんに話しかける。
「この館とこの館は2つで入場料が1700円もするのね。でもなぁ、こっちのチケットは2千円で5つの異人館を周れるん。絶対お得ですよ。さぁどうします?お得ですよー。」
テディベア博物館やらなんやらかんやら気になるのがいっぱいあって、1時間じゃとても見きれないなぁと思い、異人館巡りはまた別の日にすることに。
今日はソフトクリーム屋さんだけ行っとくことにするか。
…………閉まってる。
ソフトクリーム屋さん閉まってる。
まだ18時なってない!!!!!
片付けてるおばちゃんに話しかけると、今!!今!!機械の電源を切ったらしい。
「ごめんなー、この時期は早く閉めてしまうんよー。」
なんもうまくいかんね。でいじゃこら。と言いながらメリケン波止場へ走った。
神戸タワーやいろんなきれいな建物がライトアップされてすごく綺麗、と聞いていたんだけど、どこか全然わからん。
高速の乗り口がいっぱいあったり、立体道路まみれだし、標識わけわからんし、ああああああ!!!!都会の運転難しい!!!!
「…………うーんここはどこでしょうー。」
「…………うーんどこでしょうねー。」
結局、19時ぐらいまで走り回ったけど神戸タワーは見つけられなかった。
マジ都会疲れるわ…………
しょうがなく神戸を後にして、今夜は明石の秋田さんの家にやってきた。
日曜日にまた来ますと約束していたんだけど、おばちゃんは言ってた通りお好み焼きを用意してくれていた。
「ただいまー!!」
「はーい、おかえりー。」
優しいおばちゃんにすっかり安心して、美香とおばちゃんと3人でコタツに入る。
おばちゃん特製お好み焼きは、生地が少なく、キャベツやエビ・イカ・チーズ・豚肉たっぷり。
「生地は包むんやなくて、具と具のつなぎや。」
お好み焼きを食べ終わると、ソバメシも作ってくれた。
ソバメシって初めて食べたけど、すごいおいしかった。
「もうこれでお別れやなぁ。また来ィーやー。」
今日がおばちゃんと一緒に過ごす最後の夜。
おばちゃん、本当にありがとうございました。
どうかお元気でいてください!!
目が覚めると、朝日が部屋に差込み汗だく状態だった。
おばちゃんはもう仕事に出かけていて、机の上にカギが置いてある。
美香を起こし、昨日のソバメシの残りを2人で食べ、部屋を出た後にカギを言われたところに隠し、出発。
おばちゃん元気でね!!
秋田さんありがとうございました!!!
さぁそれじゃあ行くぞ!!
まずは175号線で北上、一気に丹波へ。
山南町を抜け、柏原町で歴史街並を見て周り、すぐに176号線で篠山市へ。
丹波は有名な丹波立杭焼の産地。
日本六古窯の1つに数えられているこの立杭焼を見るべく、今田町に入る。
周りを山に囲まれた集落にたどり着くと、どこの家にも「◯◯窯」っていう看板が立っている。
ここに住んでる人たちはほとんどが焼物を生業にしてるみたいだ。
そんな集落の中にあるギャラリーをたくさん見て周った。
立杭焼は、備前焼に比べるとこれ!!っていう決まった特色がないらしい。
備前焼はのぼり窯で、うわぐすりを使わない、土と灰の色で勝負してる感じだけど、立杭焼は備前焼に似たものもあれば、うわぐすりを塗って細かい細工を入れてるものもある。
俺は備前焼の方が好きかな。
坂道がキツくて登るの大変、という悲しくなるほど無駄な写真。
あんまり興味も湧かなかったので、すぐに次の目的地、有馬温泉を目指して出発。
標識を見ながらやっとこさ辿り着いた有馬温泉はものすごくでかかった。
さすがは超有名温泉地。
山間の谷から中腹まで、巨大なホテルの明かりがピカピカ光ってる。
これまで行った温泉街ってのはどこも隠れ家的な雰囲気の場所だったけど、ここはもはや1つの街になっていて、落ち着くどころか、車の通りも多いし、標識ありすぎだし、慌しいことこの上ない。
この有馬温泉。
歴史的には日本で一番古い温泉らしい。
豊臣秀吉がよく入ってたことで全国的に有名になり、今でも都会からすぐ近くにあるから気軽にやってこれるということで栄えてはいるものの、俺はイヤだな。
やっぱ温泉ってのは都会から離れた所にあって、静かであんまり観光地化されてないところでなきゃ風情がないよ。
こんな日本全国からやってきたツアーとか慰安旅行とかの観光バスがバンバン走ってるようなところは全然旅情を感じられない。
とりあえずどこかに入ろうと、この有馬温泉で一番メジャーだという金の湯へ。
650円で鉄サビ色の温泉につかり、帰りに近くの居酒屋で軽く食事。
焼きメンタイうどん、すごくうまかった。
温泉街を出て、山道の脇のパーキングに車を停めてこの日は就寝。
翌日は宝塚市へ向かった。
宝塚といえば歌劇団と手塚治虫。
駐車場代がクソ高いので、少し離れたファミレスのパーキングにタダ停めして、まずは手塚治虫記念館へやってきた。
言わずと知れた日本マンガ界の父、手塚治虫。
幼少時代、泣いていてもペンと紙を渡すと泣き止んでたそうな。
小学生の頃から本格的に描き始めたマンガの絵は、とても小学生のものとは思えない上手さで、中学生の頃のマンガには既にあのヒョウタンツギが描かれてあった。
大学では医学研究で博士号を取る位だから、ほんとに多才で努力家だったんだろうなぁ。
貴重そうな古いマンガからフィギュア、セル画などを見て回っていると、一角にガラス張りの研究室みたいなところがあった。
何やら計器やハンドルとかがいっぱい並んでいて、ブースの中には等身大のアトムが横になっている。
そして横に、「アトム誕生まであと20日」と書かれてあった。
そっか!!
アトムがマンガの中で、天馬博士によって作り上げられたのが2003年4月7日なんだ!!!
すごいなぁ。
当時手塚さんが想像していた科学技術の発展した近未来に、今僕らは生きている。
アトムはまだ生まれそうにない。
それから宝塚歌劇団の本拠地、宝塚大劇場に行ってみた。
いろんなグッズが売られてるけど、まったく興味ないのでスタスタ歩く。
そんな俺の横で色んな団員のプロマイドやポスターを手にとり、おばちゃんから若い女の子までがキャッキャッ言いながら買い物してる。
男の人はほとんどいない。
どうやら宝塚って女の人が好きになるものみたいだ。
ステージでは「傭兵ピエール」という月組の公演をやっていた。
男はたとえスタッフと言えども、上がることのできないステージ。
凄まじい試練を乗り越えた者だけがここでトップスターになれるんだなぁ。
なんかホント、女の王国って感じだ。
外に出ると、正面玄関の横の階段の所でマニアっぽい女の人たちがカメラ片手にソワソワしてる。
「ねぇねぇ、誰か通るんじゃないの?」
美香がワクワクしながらそう言ってくる。
面白そうだから俺たちもそこに混じって待ち構える。
男はもちろん俺だけ。
「あーさみー。もう戻ろー。」
「そうだね。」
しかし10分ほど待ったけど誰も来ず、いい加減我慢できなくなった。
もういいか、と車に戻ることに。
が、そのとき。
向こうの人ごみから、明らかに常人ではないオーラを放った人が2~3人のマネージャーっぽいのを引き連れてこっちに歩いてきた。
あ、あれが宝塚のスターか!!!!
女性のはずなんだけど背が高くて肩幅もあって、さらにジャケットにズボンという服装でマジで男の人みたい!!!!
発狂し始める周りのファンたち。
しかしそこはみんなマナーをものすごくわきまえてるというか、躾が行き届いてるというか、宝塚ファンの間の厳密なルールがあるのか知らないけど、みんないきなり突進して取り囲んだりしない。
控えめに、順番を守って手紙やプレゼントを渡している。
スターらしき女の人はカッコよく俺たちの前を通り過ぎ、階段前で振り返り笑顔を残して去っていった。
「すっっごくいい匂いがしたー!!」
「つーかちょーすげーちょーすげー!!」
もー女の人なのに、後ろ姿かっこよすぎて俺も美香もファンじゃないのに大喜び。
手紙を渡してた結構いい年のおばちゃんたちが、キャーキャー言ってるのもかなりわかる。
あれがスターのオーラなんだなー。
「すいませんー、あれ誰だったんですか?」
「えええ!?!?蘭寿とむさんですよ!!!!」
そんな事も知らねぇのかこのゴミ!!みたいな顔で見られる。
へぇ…………
すごい人なんですね…………
っていうか、あんなに深く帽子かぶってサングラスしてるのに、よくあれが誰とかわかるなぁ。
なんかすごい世界を知ってしまった気がした。
「らんじゅとむ!!らんじゅとむ!!」
車の中で2人で叫びながら南下して、西宮の甲子園球場を見て周る。
春の大会の出場校の選手たちが、実際にグランドで練習していた。
「いいぞー!!いいぞー!!バッター!!空振りでもそんだけ振れたらOKー!!」
みんなすごく声がでかい。
青春なんだよなー。
ポートアイランドに向け走る。
神戸タワーや周りのホテル、船までがイルミネーションで輝いていて、おまけに星一つない夜空には小さな月がポツリと寂しそうに光っている。
ものすごくきれい。
埋立地の島の端っこで、だだっ広い道路の脇に車を停め、車のライトで照らしながら彫刻刀で木を削った。
風が強く、まだ夜はすごく寒い。
美香は車の中で毛布に包まって、俺と話すフリしながらこっくりこっくりしてる。
月に照らしだされた空き地の向こうに、海を挟んで神戸の街明かりが見える。
立ち並びそびえるビルの群れはお互いに寄り添っているよう。
その向こうに六甲の山並み。
神戸は山と海に挟まれた、狭い、大都会。
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