昨日の夜は怖かったー。
神郷町で温泉に入ってから、鳥取に突入したんだけど、峠の途中でまさかの雪が降り出して、しかも道の脇に残雪が見え始めたと思ったら、すぐに道路も真っ白に。
道はどんどん登り坂。
峠の上のほうまで来ると、ガードレールはもはや跡形もなく埋まり、夜の底が白くなったってまさにあのことだった。
四駆に切り替え、時速20kmくらいでゆっくりゆっくりと登っていき、下りはエンジンブレーキ効かせながら時速10kmで下った。
こんな山奥でスリップして事故って動けなくなったらマジで凍死してしまう。
「集中ううう…………俺集中だぞおおお……………ふううう…………頼むよ勘弁してくれよおおおお…………」
めちゃくちゃ緊張しながら、手に汗をかいてハンドルを握っていた。
途中で軽くスリップしたりしながらも、やっとの思いで無事町まで下りることができた。
そんなこんなで、やっとこさ鳥取県突入。
今日から春ですよってくらい暖かい快晴の中、気持ちよくファントムのアクセルをふかす。
九州男児の俺には、山陰のこの県は砂丘以外は何も知らない謎の県。
どんな出会いがあるのか、長年の謎を剥ぎ取ってやる。
まずは県の一番西、島根との県境の町、境港市にやってきた。
この町は陸地がアーチ状に海にグルッと飛び出し、島根県とつながっている珍しい地形。
また、カニの水揚げ量日本一の港らしく、とにかくカニがすごいとのこと。
とりあえず情報収集しようと商店街に入ると、道の脇にやたらと何かのオブジェがある。
『水木しげるロード』と書かれた看板。
そう、ここは水木しげるの出身地。
オブジェは「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する妖怪たちで、商店街のお店はどこも鬼太郎グッズのお土産を置いている。
目玉のおやじの使ってる盃やら、色んな妖怪のフィギュアやら…………
美香の実家に送ろうと、1個400円のいったんもめんとぬりかべの箸置きを3つ買い、港へ向かった。
港でかすぎ!!
つーか海岸線が全部港で、船の数もハンパじゃない。
今まで見てきた船とは違い、大きくて設備がすごい。
日本海の荒々しさを船が物語ってるようだ。
なんか魚欲しいなぁと市場を探し、やっとこさ見つけるもすでに16時。
魚は全然残ってなく、黒いゴムエプロンと長靴の人たちが後片づけをしてた。
明日もう一度出直そう。
何かないかなーと車を走らせてると、港のはずれ、岸壁のすぐそばにポツンとお店があった。
お魚料理のお店らしく、夜の営業に向けてまだ準備中みたい。
入り口の脇のメニューを見ると、や、安い!!
エビフライ定食650円に、お椀から足が飛び出してるような立派なカニ汁が800円とか。
こりゃ入るしかねぇと営業時間を見ると、18時から。
まだ時間があるので今のうちにデジカメのメモリをCD-Rに焼いとこう。
街をぐるぐる周り、やっとこさカメラ屋を見つけてCD-Rにデータを焼き、デジカメのメモリを空にする。
結構時間がかかってしまい、すでに20時をまわり、急いでさっきの店「魚山亭」へ戻った。
店にたどり着くと、さっきまでガラーンとしてた店の周りに車がゴロゴロ並んでいる。
うわー…………と思いながら中に入ると、
「あーごめんねー、もう終わりだよ今日はー。」
とおじちゃんが言った。
表の営業時間の紙を見ると、夜の営業は20時までとのことだった。
やられた…………
でもすごいよ。
お昼合わせて1日5時間しか営業しないのにこんなに人気ってことは、本当に素材が新鮮なんだろうなぁ。
こんなにわかりにくい所にある店なのに、この客の入り…………
明日は絶対来よう。
どうしてもお魚料理が食べたくなって結局違うお店に行ったんだけど、ここもヤバうま!!
本当に魚が新鮮。
海老天と海老フライを同時に食うという偉業を成し遂げてしまった。
市場の前に車を停め、布団にくるまる。
1人で寝ると、ゆったりしてすごく寝ごこちがいい。
美香がいると布団は取り合いになるは、すぐ散らかるは…………
明日は朝から市場に突撃だ。
目を覚ましてドアを開けると目の前が市場という効率の良さ。
よっしゃ行くぞおおお!!!
カニでかすぎ!!
タコでかすぎ!!
魚おりすぎ!!
おばちゃんたち元気すぎ!!
おばちゃんにうまいことのせられて、カレイやらタイやらノドグロとかいうやつの日干しを買わされ、実家に送った。
バイト代入ったばかりだから懐があたたかい!!
でも調子乗ってたらすぐなくなるからちゃんと考えて使わないとな。
ちょっと早かったけど昨日の魚山亭に行くと、さすがに他に待ってる客はいなかったが、開店30分前にもなるとどんどん集まってきたのでやばいやばいと店の前に行くと、後ろにたくさん並び始めた。
すると、店の人が出てきた。
「予約の方、どーぞー。」
俺の後ろに並んでる人たちがゾロゾロ入っていく。
えええ…………
よ、予約って…………
もちろん俺は予約なんかしてませんよ…………
入っていく人たちを呆然と眺めていると、昨日俺にごめんなー、と断わった主人が出てきた。
「おー、昨日の兄ちゃん!!」
「はい、どうしても食べたくて…………」
「あーすまんなぁ、今から予約で40人の団体が入るんじゃー。」
「マジっすか!?はぁぁぁ…………」
「あー、うーん…………よし!!もうええ!!入れ!!夕べ食えんかったけぇな。入れ!!」
おじちゃんありがとうございます!!!
そしてドンッ!!!!
特盛魚山丼、すごすぎ!!
エビ、タコ、イクラ、ハマチ、サーモン…………
もう色々うますぎて、テーブルの下で足をバタバタしてしまう。
「兄ちゃん、ありがとー!!」
厨房の中から主人が叫んだ。
「ごちそうさまでーす!!」
境港大満足。
今日は朝から雨。
灰色の日本海を眺めながら倉吉方面へ走る。
遺跡など色々見てる途中の道で、パッとそそられる看板が目に入った。
『鳥取県立淀江産業技術高等学校 閉校式典』
閉校?マジか。
すぐに学校の門をくぐり、保護者らしきおめかししたおじさんおばさんがゾロゾロ歩く駐車場に車を停める。
そういえばもう卒業シーズン。
受付まで行って、ふと思った。
………俺の格好。
オレンジのズボンに、ダボダボのスウェットみたいなの。
ちょっとあんまりだなぁと思い、車に戻って白と黒に着替える。
古びた木の下駄箱にブーツを詰め込み、人の流れに乗って体育館へ。
緑のシート、パイプ椅子、来賓席、ステージ上のセットに派手な花。
体育館の作りって、式のやり方って、どこも一緒なんだなぁ。
あぁ、こんな体育館でバスケとかやってたなぁ。
思い出を振り返りながら椅子に座った。
淀江産業技術高等学校の歴史は古く、創立130年以上とのこと。
130年以上も前ってことは、ジャンギリ頭をたたいてみれば文明開化の音がしてた時代からここで授業やってたってことか。
すごすぎる。
その学校が今日、現3年生の卒業と共に閉校なんだ。
校長や卒業生たちの思いを察するにあまりある。
それにしても来賓の爺さんたちの話ってなんであんなに下らないんだろ?
とりとめのないことをダラダラと。
しかも何人も話すくせに、誰も彼も同じことばっかり。
人の話を多少聞けるようになった今でも、とてもじゃないけど聞いてらんねぇ。
卒業生たちが先生に花束を手渡し、式は終了。
それから鳥取在住の宇宙飛行士のナントカさんの話があったけど、つまらなかったので体育館を出た。
学校内を歩き回り、生徒の教室を見つけ、中に入ってみた。
『祝卒業』とチョークで書かれた黒板。
それぞれの机の上には笑顔の集合写真と卒業証書。
誰もいない教室、廊下。
椅子に座ってみた。
胸がつまる。
あー昨日のようだ。俺の高校時代。
高校を後にしてから、車を走らせていると秋田さんから電話が入った。
秋田さんは沖縄の安宿で出会い、西表島で一緒に「節祭」に行った神戸の旅人。
旅の大先輩である彼は、いろんな貴重な旅情報を持っていて、しかもストーンズもトムウェイツも好きという人。
「俺もファントム乗せてくれやー。」
「ごめんなー。はるか、もうめっちゃかわいいわー。」
西表島で出会った、北海道からの女の子の片方、はるかちゃんと現在付き合ってる秋田さん。
旅の中で出会って付き合うなんてよく聞く話だけど、本当にそんなことあるんだなとなんか嬉しくなった。
秋田さんとその後の旅の話をしながら車を走らせ、中山町の9号線から入ったところにある中山温泉で温まり、そのままそこの駐車場に宿決定。
はー、ねむ。
目が覚めるとカーテンの隙間から眩しい光が差し込んでる。
今日は快晴。
車の中も少し暖かくなってきてる。
もう春だ。
またひとつ、旅の中で季節が変わってしまった。
つーか鳥取何もねぇ!!!
「名探偵コナン」や「YAIBA」の作者の青山剛昌さんの出身地である大栄町にやってきたんだけど、橋の欄干や手すりにコナンやYAIBAのオブジェがあり、町のいたるところにもコナンにまつわる場所があったけど、そんなにファンでもないのですぐ終了。
倉吉市も特に目を引くものはなく、せっかくの小春日和を持て余してしまった。
がっかりしながら海辺に車を止めて写真を撮ってると、いきなり運転席の窓に1人の兄さんが現れた。
「すいません、ちょっと砂にはまっちゃったんですけど、引っ張ってもらえないですか?」
後ろを見ると、名前は知らないけどスポーツカーみたいなのが砂浜にはまってて、軽バンとワイヤーをつないでる。
「軽じゃ無理じゃねー。」
と、地元のおっちゃん。
「まかせてください。」
鳶をやってたとき、現場では雨が降るとドロにはまる車続出で、多いときは1日5~6台、でかいヤツじゃ7tのユニックも引っ張り出したことがあるファントム。
四駆のデリカ。パワーがある。
とまどう彼と彼女さんの前で、チャチャッとワイヤーをつなぎ、余裕で引っ張り出してあげた。
「ありがとうございましたー。」
「あ、あのー鳥取でおすすめの場所、教えてもらえませんか?」
「えっ!あー、うーん、何もないんですよねー。砂丘………温泉…………ぐらいかなぁ…………」
そんなになんもないんですね…………
まぁだったら温泉を攻めてみようと、川原に露天風呂があるという三朝温泉まで行くことに。
羽合町にあるハワイ温泉も名前的に惹かれるけど、さっさと先に進んでしまうか。
つーか三朝温泉、超おすすめ!!!
いい!!レトロ!!!
三徳山の上流にあるこの温泉街。
川の両岸に広がる旅館たちもそんなにハデハデじゃなくて、町全体がゆるやかでしっとりとしたイメージ。
あまりメジャーじゃないおかげで、知る人ぞ知るって感じでそんなに観光地化されていないのが素晴らしい。
ウキウキしながらのんびり歩いていると、飲み屋街発見。
そこに「射場」と書かれた看板を見つけ入ってみると、もーシビれた。
中央に村上春樹の小説に出てきそうなピンボール台が並び、射的台、それと一発一発親指で玉をはじくパチンコ台。
それぞれを楽しむ浴衣姿の老夫婦に家族連れ、恋人たち…………
レトロすぎる!!!
昭和にタイムスリップしたみたいだ!!!!
「おばちゃーん!!玉当たったー!!」
「はいはーい、うまいねーお兄ちゃん。」
もーーー嬉しくて3種類全部やっちまった。
どれも1ゲーム500円。
射的でもらった景品のなんかわけわかんないキューピーちゃんみたいなちっちゃい女の子のキーホルダーを持って、食堂でお好み焼きを食べ、いよいよ温泉へ。
町の中央を流れる三徳川にかかる三朝橋のたもとから川原へ下りると、すぐそこにモクモクと湯気の上がる池のような温泉がある。
ワクワクしながら服を岩場に放り投げ、体に湯をぶっかける。
ぎええええええええええ!!!!!
アチイイイイイ!!!!
ここの湯、熱すぎ!!!!
慌てて外に飛び出して、今度はソロリと入った。
最高。
すぐ横を川が流れ、目の前の橋では浴衣の人たちが歩いてる。
橋やホテルから、丸裸の俺が見え放題だ。
すげぇ開放的な露天風呂。
日が沈み、夜がこの山間に忍び寄ると、気持ち控えめな外灯たちがぼんやりと川沿いの町並みを浮かびあがらせる。
800年以上もの歴史を持つこの三朝温泉。
今までどんな人たちがこの湯につかってきたんだろう。
21世紀もいろんな人間が入ってるよ三朝温泉!!!!
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