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雪山で遭難しかけた日







リアルタイムの双子との日常はこちらから







田川市といえば炭鉱の町だ。


五木寛之の『青春の門』の主人公、伊吹信介の故郷になっているのがこの田川。

小説の中で何度も出てくる香春岳が、車の窓の外に見える。


信介と織江の幼い恋、川筋の男たちの義理人情、やがて学生運動にのめるこんでいく物語。


助手席にいるのは織江ではなく美香。

































まずは胸の観音や水子地蔵群を見てまわり、それから香春町へ。


巨大な樹の切り株のように、上半分をすっぱり切り取られた岩肌むき出しの異様な香春岳がそびえている。


錆びついた昭和の工場はまるで巨大な昆虫のように鉄管が入り組んでいる。









石炭の採れる鉱山の横にはボタ山がある。


鉱山から採れる鉱石を選り分け、出来損ないの岩石を山の離れたところに捨てるんだけど、それが次第に積みあがり山になったのがボタ山。



『青春の門』の中で、伊吹信介がボタ山に逃げ込み、探しにきた母、タエに抱かれながら夜を過ごすというシーンがものすごく印象的で、いつかボタ山というものに行ってみたかったんだよな。



そこら辺の人に聞きながらボタ山を探し回ったんだけど、昔はいたるとこらにあったボタ山も土地の開発とかのせいでわずか1つしか残ってなく、なんとかそこに行っでみたんだけど茨が生い茂っていてとてもじゃないが頂上に登ることはできなかった。



とりあえず記念にボタが欲しくて地面を掘り返してみる。



「ねぇねぇ、今日クリスマスイブって知ってた?」



「ねぇ、今日俺の誕生日って知ってた?」



「…………」



「…………」



爪の中に土が入るのもかまわず地面を掘り続け、ただの黒い岩を見つけて喜ぶ2人。







「これから何しようか?」



「んー………何する?」



「香春岳、登っとく?」



「そーだね。」



2人ともアホなので、あの香春岳の上の切り取られた部分がどういう風になってるのか見てみたくて登ってみることにした。









夜まで時間を潰し、辺りが暗くなってから香春岳の麓にやってきた。


香春岳は日本セメントという会社の石灰の原材料をとる採掘場になっている。


もうこの時間は働いてる人もいない。






午後20時に出発し、真っ暗な道を懐中電灯の明かりだけを頼りに登っていく。


星明かりの暗い道を歩く。


何個もあるゲート。


発破作業の時刻を書いた看板。


猿の惑星でいう「禁断地帯」的な、何年間も人の出入りがないようなコンクリートの道。





あまりにも頂上が遠く、くじけそうになったけどなんとか登りきった。




そこには月面が広がっていた。





薄明るい光に照らし出された山の頂上は、中央部分が深くえぐれ、何段にも崖ができており、各段に地上の現場では見たこともないような巨大な重機がぽつんぽつんと散らばっている。
 

雪のような真っ白い地表は、石灰石のせい。


そこら辺に散らばった紙袋には爆薬の文字が書かれてある。




2人で奇妙な、安っぽい演劇のセットのような風景の中を歩いた。


眼下に広がる心ばかりの夜景。


水平線近くで揺らめいている赤い月。



くだらない話をしながら、寒さに震えながら歩いた。





今夜はクリスマスイブ。


そして俺の誕生日。


吹きすさぶ風に鼻を赤くしながら、2人で手をつないで歩いた。



















翌日は石炭資料館に行った。




写真を撮らずにはいられない道具。



筑豊といえば炭鉱ってイメージで、福岡県にはいろんな所に炭鉱の山があるけど、やっぱり一番有名なのは田川だ。


月が~出た出た~月が~出た~ヨイヨイ!!



っていうあの炭坑節はこの町の鉱夫によって作られたんだそう。



あんま~り~煙突が高いので~さぞやお月さん~煙た~かろ~サノヨイヨイ!!



この歌に出てくる有名な煙突も実際に残されている。


約21万個のレンガからできているその煙突は下から見上げると不気味なぐらい大きかった。






資料館の中にある鉱夫たちを描いた絵では、ほとんどの男が刺青をしている。


きっと職を求めて日本全国からヤクザ者とか、スネに傷のある男たちが集まっていたんだろうな。


体力さえあれば働けるっていう、坑夫ってのはそういう仕事だったんだろう。




そんな血気盛んな男たちが集まったこの筑豊。


川筋気質(かわすじがたき)と呼ばれる男達は、キッパリしていて潔く、熱く、金使いが荒く、まさにこの人たちから九州男児って言葉が生まれたんだなって思う。


朝飯のご飯に味噌汁をかけると「ミソがつく」という意味で縁起が悪く、新入り鉱夫がみんなの前でそれをやったため、叩き殺されたっていうやり過ぎな話もあるくらい、気性の荒い男達。



うん、ここまでなくとも、俺もすっきりと潔い九州男児になりたいもんだ。













ゆうべ香春岳から降りたころにはお店がどこも開いてなくて、結局ジョイフルでご飯を食べることになってしまったので、今夜こそはいいクリスマスにしようと北九州市の小倉に向かった。


あれだけバイトしたのに派手に金を使ってると一瞬でなくなってしまい、すでに美香のヒモ状態の俺。


ケーキを2人で5個買い、街の中をいい感じのレストランを探して歩いた。



でもなんだかどこもイマイチで、どこ行く?どこ行く?と言ってるうちにポツポツ店も閉まりだし、今夜も結局コンビニ弁当を買った。








せめてどこか行きたいと思い、八幡の山の方にあるあじさいの湯へ向かっていると、暗闇の中から白い粒が降りそそいできた。


美香は窓を開け、白い粒を手にとって俺に見せてくる。


すぐに溶けてしまう雪がワイパーに積もる。





しかし温泉に着いた頃にはすでに閉館20分前だった。


はぁ………上手くいかないなぁ………


どうせなら慌ただしく入るよりも明日の朝1番にゆっくりお湯に浸かろうということになり、近くの駐車場に車を止めてささやかなクリスマスパーティーをした。


といってもコンビニ弁当なんだけど。



ホワイトクリスマスの夜にコンビニ弁当………


せっかく遠くから美香が会いに来てくれたのに情けない………




「メリークリスマス!!」



「メリークリスマスー!!」





車内灯を消して、ショートケーキに無理矢理立てた10数本のロウソクを吹き消す。


車の中が真っ暗になった。


暗闇に流れるウィリーネルソン。





こうして闇の中に2人きりでいると、いつあの時のような孤独が襲ってくるか少し怖くなる。


今夜は大丈夫みたいだけど、いつ、どこでやってくるかわからないあの孤独の闇は逃れようがなく、そして強大。


大きな声でしゃべっても、楽しく振る舞ってもきっとやってくる。


気付かないようにしよう。


口に出さないよう。



今夜くらいは孤独を無視してしまおう。


















狭い車の中、美香と揉みくちゃになって目を覚ました。


荷物が多くて寝るスペースがほとんどない。

でも美香とくっついて寝られることがすごく嬉しい。




朝一番であじさいの湯につかると、露天の岩風呂の周りには昨夜の雪が積もり、晴れ渡る空と枯れ木の山がすごく綺麗だった。








今日は平尾台という所に行ってみようと、山に向かって車を走らせた。


北九州市の国定公園に指定されているカルスト台地、平尾台。


高台をどんどん登っていくと、丘を登り終えたとき、一面の雪景色が広がった。


真っ青な空、光り輝く白い雪。


鮮明な色彩に心が洗われる。






駐車場に車を止め、雪道を歩く。

凍てつく風が吹きぬけるけど、晴れやかな気分だ。


こんな時期に観光に来てる人なんて誰もおらず、貸し切りの山の上で2人で写真を撮った。










1人だけいたおじさん。



無駄にひょうきん。












しばらく散歩していたが風が強くて凍えそうになり、そろそろ行こうかと車に戻った。


早く暖房、早く暖房、と車を開けようとポケットに手を入れる。




…………あれ?




か、カギがない…………?





「やばっ!!」



どこでどう落としたかわからないけど、いつの間にかポケットから鍵が消えていた。



めちゃくちゃ焦りながら、今歩いた道を2人ででうつむきながらカギを探してまわった。


ブーツの足跡がついてる部分を雪をかきわけたりしながら黙々と探す。


でもどこにもない。


日も傾き、強くなりはじめた風に乗って雪まで降ってきやがった。



ヤバすぎる。


マジでやばいくらい寒い。


指の感覚がなくなり、ブーツの中の足がちぎれてしまいそうなくらい痛い。



あまりにも寒くて美香が眠いとか言い出した。



「眠ったらダメだ!!寝たら死ぬぞ!!」



ってなんかの映画のシーンみたいだ。



でも本当に死ぬかもしれないくらい寒いし、鍵がなかったらこの雪山から動くことができない。


あああ!!!ヤバい!!!!



雪の中、さっき歩いた道を2人で3往復くらいトボトボ探して歩いたんだけど、どうしても見つからず絶望。



さすがにもうこれ以上は危険だと思い、警察に電話してカギ屋さんの番号を聞き、カギ屋に来てもらうことにした。






カギ屋さんに山まで来てもらうのにさらに30分かかり、ファントムの陰で2人抱き合ってしゃがみこんだ。


いつまでたってもお互い震えがとまることはなかった。














マジでもうヤバいかも、というところでカギ屋さん登場。

すぐに合鍵を作ってくれて車の中に飛び込んで暖房全開。


はぁぁぁぁぁ…………生き返った…………


危なかったあああああ…………



しかし合鍵を作るのにかかったお金は12600円。


俺、無一文。

美香の金もこれでほとんどなくなってしまい、このままじゃお正月に実家に帰れないと途方にくれている。




「よし!!今日歌うぞ!!」




美香の風邪がうつり、喉がかすれてしまっていて、こんなときに歌うとゼンソクが出てしまうのであまり歌いたくないんだけど、そうもいってられない状況になってしまったので田川の町へ戻る。


「青春の門」の中で伊吹信介の父親、重蔵が惚れた女を無理矢理連れて逃げたシーンがある。


その女、タエが働いていたお店があったのが、田川の繁華街、栄町。


実物の栄町は昭和ムード漂う路地裏の飲み屋街だった。


そんな町のど真ん中でギターを鳴らす。



借金のあったタエを連れ出したもんだから、重蔵はヤクザにボロボロにされたんだけど、そんな怖い町というイメージとはうらはらに、みんないい人ばかりで、親しげに話しかけてくれたりして、お金も結構入った。


歌ってる俺の隣で美香がヘンプを売ってくれた。


が、そっちは全然売れず。

残念…………







でも美香に外国人の友達ができた。


マレーシアから来てる路上アクセサリー売りの女の子。


マレーシア人だからみんなからマリーと呼ばれていて、この繁華街の人気者だ。

道行く人やお店の女の子達が「ヘイ!マリー!!」と声をかけていく。



アクセサリーはほとんど売れないけどこの町が好きだからと毎日同じ場所に露店を出しているそう。


俺の歌で故郷を思い出したと言ってくれた。


そんなマリーと色んな話をして、美香とマリーは泣きながら抱き合ってた。










1時半ぐらいになり、そろそろ帰ろかなと思っていると、俺の携帯が鳴った。


知らない番号だし、こんな時間に誰だ?と出てみると、それはなんと警察だった。
 


「もしもし、ケーサツだけど、金丸さん?あんた車どこに止めてる?」



「あ!!路駐してます。」



「いかんでしょ、そんなことしたら。早く移動させなさい。ケータイの番号は実家にかけて聞いたから。」



「すみません、すぐに動かします。」



マジかよ。

駐禁切る前にわざわざ調べて電話してくれるなんて、田川の警察、なんて人がいいんだろう。








結局1万5千円以上稼ぎ、とりあえずお金のことは一安心。


お金もゲットできたのでジョイフルに行ってまずいビールで乾杯した。



クリスマスなのに、ジョイフル、コンビニ弁当、ジョイフル、


雪山で遭難するわ鉱山に侵入するわ、ホントロクでもない美香との再会だよな…………


もうちょっとロマンチックにしてあげたいのに、俺全然上手くできないな………




そんな美香との日々も残り2日しか残ってなかった。






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