「穴場のビーチ知ってるぜ!!」
お昼になって雨も弱くなってきたので、みんなで「一休」という定食屋に飯を食いに行き、それからショータ君とたかお君と3人で浜に貝殻を拾いに行った。
ショータ君の運転で、マジかよ…………ってくらいのけもの道をズンズン車で入っていく。
道がなくなったとこで車を降り、草むらを突き進むと真っ白なビーチに出た。
確かに穴場で人っ子ひとりいない。
岩場を歩くと、ガリガリ、シャリシャりとヤドカリたちが至る所で動き回っている。
30分くらい貝殻を拾い、そろそろ戻ろうかと車に帰ってバックしていると、
ズゴッ!!
あれっ動かない。
車を降りるとやっぱり泥にハマっていた。
俺とたか君で押しまくってもタイヤは空回りするばかり。
後ろからやってきた地元のおっちゃんたちが「ロープで引っ張ってやる。」と、軽トラとつないで引っ張ってくれた。
「せーのっ!!」
ブチッ!!!
一瞬でロープが切れた。
おっちゃんたちも車を押してくれたが、全然動かない。
「ちょっと待ってろ。」
おっちゃんたちはどこかに消え、しばらくするとドッドッドッとトラクターに乗って戻ってきた。
ぶっといロープを縛りつけ、残りの人たちは車を押した。
「せーのーっ!!」
雨でぐちゃぐちゃになったドロしぶきを裸の上半身に浴びながら押しまくった。
「ありがとうございましたー!!」
「おう。」
ドロまみれの車、ドロまみれの俺たち。
無事泥から脱出し、笑いながら今度は俺の運転で玉取崎に向かった。
雨雲のすき間から太陽が顔を出し、海が緑に澄み渡っていく。
駐車場から展望台に向かうハイビスカスの道を上半身裸で歩いた。
観光客達がジロジロ見ていく。
風が気持ちいい。
展望台からは石垣島北部の陸が細くなっている部分が見て取れる。
島の周りを珊瑚のリーフが定距離で走っている。
3人で笑い話をしていると、妙に場違いで綺麗な女の人がやってきた。
後ろにはごっつい機械を抱えた男の人、なにやら女の人の写真を撮っている。
「グラビアだよ、グラビア!!」
「ビール買ってきて飲みながら冷やかす?」
「そしたら怖い人出てくるんでしょ?」
「こんなことして楽しい?みたいな。」
「いえ、楽しくないです。むしろ悔しいです。」
「ギャハハハハ!!!」
もちろんそんなことする度胸はないので、女の人のスリットから見える生足を拝んで収容所に戻った。
夜になったら今度は愛知県出身のカイヌマ君と4人でカレーを食べに行こうぜということに。
カレー屋さんがどこにあるかもわからない中テキトーに走っていると、加利屋という黄色の看板を見つけて中に入った。
が、カレーの匂いがしない。
席につき、メニューを見てもカレーの文字がない。
「あのぅ…………カレーないんですけど…………」
「うちカレー屋じゃないです。」
え?どう考えてもカレー屋でしょ?とメニュー表を見ると、隅っこに、
『カリーとは「めでたい」という意味の沖縄弁です』
と書いてあった。
みんなで大笑いした。
雨は連日降り続く。
今日もキビ狩りのバイトは休みだ。
石垣島全体が土砂降りの雲に覆われている。
毎日毎日あまりにも雨が多くてろくにバイトもできず、不毛な日々が過ぎていく。
この倉庫に来て16日。
働けたのはたった7日。
はぁ…………なにしてんだろ。
この倉庫の宿泊代は1泊千円。
こんな農機具小屋に押し込められてるだけで千円。
しかも働いてない日の分まで取られるんだからたまったもんじゃない。
虫すごいし、汚いし、大雨が降ると床上浸水して湖みたいになるし、マジで考えらんねぇ。
はぁぁぁぁ…………やることねええええ…………
体からキノコ生えそう…………
このままじゃいかん!!!
いい加減何かしよう!!
ということで意を決して露店をやってみることにした。
これまでチマチマと作り溜めていた麻の編み物を路上に並べて売ってみることに。
あやぱにモールという商店街では、いろんな旅人が手作りの品を持ち寄りこのアーケードの路上に露店を出すという話を聞いている。
ショータ君と一緒に新聞紙と品を持っていざ出発。
商工会議所で許可をもらい、白髪のヒゲがボサボサになっているいかにも浮浪者っぽい爺さんが店を出してるすぐ横に新聞紙を広げ、ブレスレットを並べた。
出店完了。
「……………………」
な、なんでだろう…………
涙が出てくる…………
とりあえず頑張ってと告げて、ちょっと用事を済ませに何軒かお店をまわり、1時間くらいしてショータ君のところに戻ってみた。
するとそこには1時間前と寸分違わぬ姿勢で観光客の流れをぼんやり眺めながらポツンと座るショータ君の姿。
な、なんでだろう…………
涙が出てくる…………
「どう?」
「売れたよ、金丸君のが。指輪2つとも。これいいねーって褒められちゃったよ。ハハハ!!オレの買えっ!!!」
ショータ君の品物の中に俺の作った指輪を2つ紛れ込ませてたのが売れたみたい。
な、なんかごめん…………
1つ300円で売ってくれたので、委託料を200円払った。
翌日は俺が露店を出してみた。
ショータ君は西表島の情報を集めてくる、と本屋に行っている。
周囲130kmの西表島は90%がジャングル。
つまり石垣島の面積分がジャングルになってる感じだ。
島の周囲半周分は道が走ってるが、後の半分は自然を壊さないために道がない。
マングローブの河、至る所にある断崖絶壁、帰ってこない旅人が多数出ているという危険極まりない秘境…………
地元の人やキャンパー達に、島を1周したいんですけど言うと、
「死ぬぞ。」
と即答が帰ってくるほどの場所だ。
「2mぐらいのハブがウヨウヨしてるらしいよ。」
「サソリもいるらしいよ。」
みんないろんなこと言ってくる。
そんな西表島を一周する気満々のショータ君。
「伝説を作ってやる。ふふふ…………」
みんな無謀なことが好きなんだよなぁ。
路上に座りこんで「沖縄戦」という本を読んでいると、観光客達がチラチラと俺のアクセサリーを見ていってくれる。
最初の10分ぐらいで300円のブレスレットが2本売れた。
でもそこからは全然売れなくて、結局売り上げ600円で倉庫に戻った。
露天もそんなに簡単じゃない。
もっと色々編んだり、見せかたの工夫をしなきゃな。
雨は相変わらず降ったり止んだりだ。
たまに降ってなくて朝に集合場所に行ってみると誰もいなかったりする時がある。
「あぁ?今日休みだよ?今日課長が休みだから配置する人いないんだよ。」
はぁぁ!?!!?!?
たまの晴れだよ!?!?
作業したほうがいいんじゃない!?!!!
っていうか休みなら休みで連絡してよ!?!?
地元石垣島の作業員たちは誰も来てない。
電話がないから行かないっていう考えかたみたい。
倉庫に戻って桜井さんに聞くと、
「よくあることだよ。これが島人のやり方。」
とのこと。
南国の人ってホントテキトーなんだなぁ…………
みんなで麻雀したり、飲み屋街に歌いに行って現地のカップルの喧嘩に巻き込まれたり、マラリア記念館の美人なおばさんをお食事に誘ったり、暇だったけどそれなりに色々あったキビ狩りバイト後半。
そんな日々も11月が近づき、終わりになろうとしていた。
結局、残りの数日も大雨でバイトはできず。
もういい加減早く先に進みたい。
桜の京都、夏の日本アルプス、紅葉の富士山、そして美香の住む街………
心をかきたてずにはいられないよ。
早く動きたい。
そしてついに石垣島最後の日がやってきた。
昼に目覚めたが、外はまだ豪雨だった。
天気予報によると記録的な大雨なのだという。
もちろんバイトは休み。
仕方なくみんなで最後のドライブに出かけた。
石垣島ももうほとんど行き尽くしたなぁ。
行ってないっていったら具志堅ようこうの記念館ぐらいだ。
うん、別にいい。
倉庫に戻り、ビールと島をみんなで飲んだ。
沖縄の人は泡盛のことを「島」と呼ぶ。
俺の全財産が20円というのを聞き、田村さんが500円くれた。
「このチラシを本島の港や安宿に貼りまくって来い!」
サトウキビ狩り、バイト生募集!!と書かれたチラシを50枚渡された。
12月から始まるキビ狩りシーズンには毎年20人ほどの旅人が日本各地から集まるらしい。
日給だいたい7千円。
夜逃げするヤツや、すぐケンカするヤツなんかがよくいて、田村さんも結構苦労してるみたいだ。
「50枚ばっちり貼ってきたら宿代の残りの6千円はチャラにしてやる。」
田村さんのビニールハウスを解体した作業、3日間で1万5千円。宿代は2万1千円。
足りない分はこいつでチャラにしてくれるという。
キビ狩りをしたバイト代は後日、農協から振り込まれることになっている。
24時になり、出発の時間になった。
「ガンバレよ!!」
「死ぬんじゃねぇぞ!!」
みんなに手を振って、約1ヶ月過ごした旅人収容所を後にした。
言葉は無力だという人もいるが、心のこもった言葉には必ず相手に伝わるものがある。
それを実感することができるようになっただけでも俺は随分成長したと思う。
言葉の持つ本当の意味というのはまだ俺にはわかんないけど、新しい経験・たくさんの出会いで日々成長していくのを実感できる俺には、いつかその答えがひらめくはず。
無駄になるものなど何1つ無い。
朝6時45分。
フェリーは沖縄本島に向け出港した。
【八重山諸島編】
完!!
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