リアルタイムの双子との日常はこちらから
昨日と同じアーケードの中で目を覚ますと時間は11時だった。
ちょっとぶらぶらしてニューハーフのオジサンのところに洗濯物を受け取りに行き、それから目をつけていた宿に行ってみた。
後払いで泊めてもらえないかお願いしてみよう。
1泊2千円というものすごく安い宿に着き、荷物を置かせてもらって身軽になって街を歩いていると、1泊千円!!と書いてある野立て看板を見つけた。
うおぉ!!マジか!!と思いすぐにさっきの宿に戻って、他のとこに泊まります!と荷物を担いだ。
とまりんという大きなビルの近くにその千円宿「南風」はあった。
俺の第一声は、
「うわぁぁ…………」
だった。
開きっぱなしの玄関には汚いスリッパや靴が脱ぎ散らかしてあり、奥の大広間には弁当の容器やら空き缶、ペットボトル、タバコの空き箱、よく見れば米粒やら髪の毛、雑誌の切れっ端やらが散らかりまくっていた。
ボーゼンとする俺の横を、裸足でハーフパンツ1枚の男がタッタッタと階段を上がって2階に消えていく。
マジかよ…………と思いつつも、Tシャツを腕まくりして首にタオルを巻いた受け付けのお姉さんらしき人に声をかけた。
「1週間9500円です。」
どうやら1泊千円というのは1ヶ月泊まった時の割引金額らしい。
それにしても破格。
でも今の俺には1円もない。
水曜日に払ってもいいですか?とお願いすると、免許証を人質に取られた。
お金を払ったら返してくれるみたい。
こうして俺は民宿というよりかは収容所といった雰囲気の建物にお世話になることになった。
民宿「南風」は細い縦長の建物なんだけど、2階、3階と上がるにつれて、顔がどんどん歪んでいく。
物置のような部屋の中に並べられた2段ベッドに横たわる人たち。
湯垢のついたシャワー室。
いたるところに転がってるゴミ、ゴミ、ゴミ!!!
千円だからなぁ、我慢しなきゃなぁ…………と思っていると、下からペタペタペタと足音をさせながら赤い顔をしたオジサンが上がってきた。
こんにちはーと挨拶した俺に、何やら訳のわからない言葉を言って上に上がっていった。
なんだ…………?と思っていると、オジサンは階段の途中で振り返った。
「早く来い。今のは一度会ったらみんな友達っていう意味の沖縄弁だよ。」
手招きをするその人の後について階段を登ると建物の屋上に連れて行かれた。
そこにはテーブルや椅子が置いてあったんだけど、ここも先日の台風でめちゃくちゃに散乱していた。
もう1人、上半身裸のオッちゃんがいて、どーも、と笑ってくれる。
ぬるいビールを手渡され、訳もわからずに一気にそれを飲んだ。
久々のアルコールが喉をゆっくりと降りていく。
色んな話をした。
こっちに来てからの話や、台風の時の辛さ。
そんな俺の話を聞いてくれていたオッちゃんたち。
しばらくすると、最初に手招きをしてくれたオッちゃんが、汚いウエストポーチの中からクシャクシャの千円札を2枚取り出し、俺に差し出した。
遠慮する俺に彼は言う。
「お前は俺の若い頃の目に似ている。すごく疲れているぞ。俺も色んな人に助けてもらった。金がなくて死にそうな時とか、飯を食わせてくれたり金をもらったりした。このおじちゃんも俺が死にそうな時に金を貸してくれたんだ。俺はまだこの人に金を返してない。でもお前にこれを貸してやる。俺がこの人から渡してもらった助け合いの心をお前に渡す。だからお前は今の気持ちを忘れないで生きていけ。そしてお前の周りにお前のような困ってる奴がいたら必ず助けてやれ。この2千円は俺に返さなくていい。もちろんこのオジサンにも返さなくていい。お前がこれから出会う困ってるやつに返してやれ。それは金じゃなくてもいい。この感謝の気持ちをお前なりに次に渡してくれ。それがユイマールってもんだ。」
モーレツに感動している俺に、オッちゃんはニヤッと笑った。
その瞬間、オッちゃんが座ってた椅子の足が折れ、後ろにひっくり返った。
「デージヤッサー!!いててて…………まぁこれがオチなんやけどな。」
腹を抱えて笑った。
久しぶりに大声を上げ、涙が出るほど笑った。
辛かったこの数日間を吹き飛ばすように笑った。
貸してもらった金で宿のすぐ近くにあるルビーっていう食堂に行った。
いかにも大衆食堂といった雰囲気のその食堂でCランチっていうのを注文。
数日ぶりのまともな食事にがっついた。
そして決意した。
このユイマールの輪を本島に持ち帰り全国に広めよう。
お互いを助け合い、困ってる人に手を差し伸べる心をみんなに必ず広めるんだと。
その夜、宿に泊まっている俺と同じような旅をしてる若い奴らと旅の話で盛り上がった。
全国から集まった金のない旅をしてるやつらなので、みんなの話がめちゃくちゃ共感できて楽しかった。
すると、さっきお金を貸してくれたオッちゃんが、飲みに行くぞと俺を誘った。
千葉から来てるショウタ君も一緒に誘い、俺たちは3人で国際通りへ。
しばらくオッちゃんに着いて歩いて行くと夜の繁華街に辿り着き、オッちゃんはとあるクラブに入っていく。
やったぜ、と思いながら受け付けで手の甲に牛の焼印みたいなハンコを捺され、中に飛び込んだ。
爆音が響き、目がチカチカするような照明の店内には外国人さんしかおらず、おずおずする俺らを尻目にオッちゃんは次々と見知らぬ外国人さんに「オー!ハイサーイ!」と声をかけている。
あの人殺されるぞ?とショータ君と2人でカウンターでラムコークを手に入れ、俺たちは黒人さんが座っているソファー席に割り込んだ。
タバコをスパスパ吸いながら落ち着かない俺たちは、しばらく外国人さんたちの英語を聞いていた。
すると突然、ダンスフロアーから白人の女の人がやってきて、ショータ君に「let’s dance!! 」と声をかけた。
え!?えっ!?と戸惑うショータ。
女の人は強引にショータ君の手を引っ張り、外国人さんの群れの中に消えていった。
1人取り残されてしまい、しばらくスパスパタバコを吸っていたが、これじゃいかんと思い、隣にいたアメリカ人の女の子に声をかけた。
「Do you have boy friend?」
「No, i don’t have boy friend.」
その時、ちょうどビトゥイーンザシーツが流れていたので、
「Let’s go between the sheets!!」
と言うとものすごい爆笑して、それをキッカケにその子としばらく話していた。
すると、それまで誰からも相手にされてなかったあのオッちゃんが、俺が女の子と話しているのが気に食わなかったのか、急に不機嫌になり始めた。
「誰のおかげでここに入れたんだ!!!」
なんてことを言い出し、必死でオッちゃんをなだめていると、それを見てショータ君も戻ってきた。
なんとか2人でお世辞を言い機嫌を戻そうとしたんだが、最後には、
「俺はここのオーナーだぞおおお!!!」
なんてろれつの回ってない舌で叫び始めた。
俺もショータ君も、せっかく友達になれそうだった女の子を放ってなんとかなだめようとするが、勢いは止まらず、とうとう周りの外国人さんとケンカが始まりそうになり、必死でオッちゃんを外に引きずり出した。
確かにオッちゃんがいなかったらこんなクラブ来られなかったし、お金のこともめっちゃ感謝しているんどけど、さすがに俺もショータ君も腹がたった。
「今度は2人で来ようね。」
オッちゃんに聞こえないようコソコソ話しながら、朝5時の国際通りを3人で宿に向かって歩いた。
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