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白川郷とオーストリア



2017年5月20日(土曜日)
【オーストリア】 クレムス ~ シュピッツ





「イングリッド!!レイモンド!!これお土産!!」



「ワオオオオ!!フミ!!ナオ!!ダンケシェン!!」




アフリカからのお土産をあげると大喜びしてくれたイングリッドおばちゃん。



カラフルで異国情緒あるものが大好きなおばちゃんだったらきっとこの絵を喜んでくれると思ってたんだよな。


ずっとバッグの中に入れてアフリカを回ってきた甲斐があった。










それから4人で美味しい朝ごはんを食べた。






あぁ、美味しいなぁ。


色鮮やかなプレートの上。


バッハウ名物のアプリコットジャム、可愛らしくトッピングされたハムとチーズとピクルスのパンを口に入れると、フワリと香りが鼻から抜ける。







オーストリアの朝にはグリルしたソーセージなんかは出てこない。


イギリスに行ってからイングリッシュブレックファーストにハマって、いつもグリルしたソーセージやベーコンを食べていたけど、こうした火を使わない爽やかな朝ご飯もやっぱり美味しい。


温かい紅茶を飲むと体にじっくり染み込んでいく。





写真が大好きなイングリッドおばちゃん。
















さて今日は土曜日。


土曜日は朝マーケットで午前中に人が町に出る。



路上パフォーマーならオーストリアでこのルールは絶対に忘れたらいけない。



というわけでギターを持って9時にシュピッツを出発。




車を飛ばして曇り空の下、クレムスにやってくると、さすがにサンデーマーケットでたくさんの人が歩いていた。









今回オーストリアに戻ってきて少し心配していたのは、他のパフォーマーで通りが埋もれていないかどうかというところ。


前回11月にオーストリアを出るとき、夏場に比べてかなり路上パフォーマーが増えていた。



地元の人もそうだし、ジプシーの楽隊なんかも出てきており、やり慣れたポジションにガッツリ誰か他の人が陣取っていたりしたんだよな。



なので、こりゃ今回の南ヨーロッパは激戦になるかなぁと覚悟していた。






でも久しぶりのクレムスの路上には、いつもいる地元の銅像のオッちゃんしかいない。


俺とオッちゃん、いつものレギュラーメンバーだけだ。


去年の11月には5組くらい通りにいたんだけど、どうしたんだろ。




やっぱりタイミングってことなんだろな。



ジプシーの楽隊も、流れ者パフォーマーたちも、みんなそれぞれにヨーロッパをグルグル回っていて、それがたまたま同じタイミングで同じ町にぶつかる瞬間があるんだよな。



みんな、曜日やシーズン、近隣のフェスティバル情報なんかを加味し、さらには町の人たちの給料日なんかまで計算に入れて路上を選んでいる。


あざといけども、給料日後の土曜日なんか絶対に外したらいけない日だというのはバスカーなら常識だ。




今回の南ヨーロッパ旅。


上手く他のライバルたちとかぶらないよう町を選んで、自分の良いところを引き出せる路上にしていかないとな。






















演奏は昨日よりはだいぶマシだ。


歌詞もそんなに飛ばないし、ギターもまぁまぁ。



ただ指は痛い。


指先がなまってるなぁ……………

早いところ固くなってもらわないと。






声もそれなりに出てきているけど、アフリカ最後に少し喉を痛めていたのを引きずっていて、痰がからむ。


上手いこと声が抜けてこなくて悔しいなぁ。



これもリハビリしていこう。


そして新しい良い声を探していくぞ。











今日のあがりは3時間で187ユーロ。23300円。


オーストリアの土曜日でこれはちょっと不本意だけど、まだまだ万全じゃない。



もっと感覚を取り戻して演奏の質を上げていくぞ。




























それから帰り道に激安スーパーのホーファーに寄ってちょこっと車の中の必要なものを物色。


このあたりにあるホーファーやアルディといった激安スーパーには、食材や洗剤とか以外にも簡単な生活用品がカート売りしてあるので面白い掘り出し物があったりする。



クッションやクーラーボックス、スーツケースなんかもあったりして、たまにめっちゃ便利なものを激安で発見できたりするのでナイス。



ただ野菜とかはたまにカビが生えてたりするところが大阪のスーパー玉田なので微笑ましい。

















シュピッツに帰ったら、明日からの出発に向けて車の中の改造。


これが楽しい!!


シートを整え、荷物を選別し、どこに何をどうやって置くか、完璧な形に仕立て上げていく。



これからまた何ヶ月もここが家になるんだから少しでも快適に、移動の手間がないように作らないと。





そしてイングリッドおばちゃんの家の隅っこの部屋に行くと、前回オーストリアをまわっていたときに使っていた俺たちの荷物のストックがある。


食材や鍋、お皿なんかの道具をここにまとめて置かせてもらっていたので、新たに買い揃える必要なしという完璧な作戦。




さらにアイルランドから冬服やその他の荷物を発送していたのも、イングリッドおばちゃんのところ。


同じヨーロッパ内なら、デカいスーツケースサイズで2500円くらいで発送できるので、ルートが分かってるなら知り合いのところに送るのはめっちゃアリだ。





俺のスーツケース、カンちゃんの靴や洋服、ガスコンロ、ガス缶などなど、すでにほぼ全部揃っているという、もはやレンタカー旅の匠です。



ヨーロッパレンタカー旅のことならなんでも聞いてください。


トイレの小さな蛇口で根性で髪の毛を洗うコツをお教えします。


後頭部の届きにくいところは、手のひらで水を溜めながらダムみたいにして洗うとやりやすいです。


その際に大事なのは心を無にすることです。



心の弱いかたは洗いながら泣いてしまうかもしれませんのでやめておいてください。





洗濯物4回転!!!!




服も寝袋も全部信じられんくらい汚れすぎ!!!!



いやー、やっとアフリカの汚れを全部落としてやったぞ。
















整理が終わったらキッチンで晩ご飯を作った。




もはや何がどこにあるのか完全に自分のキッチンくらい把握しているカンちゃんがチャチャっと作ってくれる。



完成したのはオーストリアのスーパーでどこでも買えるママーのトムヤムクンヌードル!!


安定の美味しさ!!!









食べ終わったら食器は食洗器の中へ。




ヨーロッパ人の食器洗い事情なんだけど、結構驚くことがある。



食洗器に馴染みのない日本人からすると、本当にちゃんと綺麗になるのか?と手で洗いたくなってしまうけど、逆にヨーロッパの人は手洗いよりも食洗器を信仰している。


ちゃんと熱湯で殺菌もするし確かに綺麗にはなりそうだけど、ただこっちの食洗器って洗うのに2時間くらいかかるんだよな。


1枚5分くらいかけて入念に洗ってもそんなかからんし!!ってなる。



そんで手で洗おうとすると、もうこっちは食洗器が主流なのでシンク自体が小さくてフライパンとか洗おうもんなら周りが水びたしになってしまう。







いやぁ、ヨーロッパ人はよほど食器を綺麗にしないと気が済まないんだなぁって思うんだけど、これが実はそうでもない。



食器の手洗いをするときこっちの人はまずシンクに水を溜め、そこに洗剤を入れて泡を立てる。



そして食器をそこにぶち込んで、泡水でジャバジャバと洗うんだけど、なんとその後お皿をゆすがないで拭いて棚にしまう。


ええ!?水でゆすいで泡を流さないの!?って驚くけど、オーストリアではこれが普通だ。




うーん、よくわからん。

















そんなこんなしていると自分の部屋でテレビを見ていたレイモンドパパがワインを持ってキッチンにやってきた。









英語が皆無のレイモンドパパ。


でも気持ちは分かり合えるから不思議だ。



ニコッと笑って棚からワイングラスを3個出して注いでくれた。







プローストー!!と乾杯し、それからグーグルトランスレートの日本語ドイツ語翻訳を使ってたくさんお話をした。




本当このグーグルトランスレートは便利だ。


ドイツ語の勉強にもなる。



普段はいつもイングリッドおばちゃんとばかりお喋りしてるけど、こうやってレイモンドパパとたくさんお話ができてすごく楽しかった。






ワインがなくなると、もう1本いくか?とニヤリと笑うパパ。


一緒に地下のワインセラーにボトルを取りに行き、これにしよう!とまたキッチンに戻ってグラスに注ぐ。



頼りになるイカした父ちゃん。









「アラー!やってるわねー!!」




22時くらいになってイングリッドおばちゃんがバイトから帰ってきた。


近所のホイリゲのお手伝いをしているおばちゃん。



団体のお客さんが来たときなんかにいつもこうしてアルバイトに出かけている。



家の掃除をし、ホイリゲでお手伝いし、シーズンにはワイナリーのお手伝いをし、いつもアクティブに忙しくしているおばちゃんたちはもう59歳だ。



レイモンドパパは来年の60歳で退職する。



オーストリアの退職は65歳だけど、レイモンドパパは家具取り付け屋さんという職人仕事だ。


この仕事はハードワーカーという枠になり、少し早めの60歳での退職になるシステムなんだそうだ。


















「最近この家をどうするか考えてるのよねー。2人でこの家は大きすぎるのよ。手間がかかるから、もう少し小ぢんまりした家でいいんだけどねぇ。でも、思い入れがあるのよねぇ。」



それからイングリッドおばちゃんも混ざってみんなで飲みながらお話した。



これから老後のために家を引っ越そうか考えているというイングリッドおばちゃん。


もちろんこれだけ住んだ家なら思い入れもあるよなぁ。
ラルフと過ごした大事な思い出も詰まってる。






するとおばちゃんが奥からひとつのアルバムを持ってきてくれた。


そこには古い写真がおさめられていたんだけど、全てが建築現場の写真だった。








何かと思ったら、どうやらそれはこの家を作っている様子を撮ったもの。


裏手の山の斜面を削り、地面を掘って基礎のコンクリートを打ち、レンガを積んで外壁を作り、内装するまでのすべての工程が細かく写真に撮られていた。



そして日付けを見てみて驚いた。



最初の基礎の写真から完成までに6年の月日が経っていた。



こんなに時間がかかったのには訳があって、どうやらこの家はレイモンドパパが自分で作ったものなんだそう。




すげぇ!!!基礎から内装まで全部やったなんて!!!!




もちろん色んな人に手伝ってもらったりしながらだったみたいだけど、それにしてもすげぇわ。


そりゃこの家に思い入れがあるよ。







「オーストリアの田舎ではね、近所の人が家を建てることになったらみんなお手伝いに行くの。そうやってたくさんの家のお手伝いに行くから、田舎の男たちはだいたいみんな家の作り方ってのを知ってるのよ。」




話を聞いて白川郷のことを思い出した。


世界遺産の合掌造り民家で有名な白川郷。



あの立派な茅葺の屋根は何年かに一度葺き替えを行うんだけど、葺き替えをする時、家主が村の人たちのところに酒の一升瓶を持って挨拶に回る。


よろしくお願いしますーって言って回り、村の男たちが一丸となって一軒の家の葺き替えを協力して行う。



屋根に上がれるのは男のみで、女衆は食事や酒の準備をするのが習わしだ。



白川郷の男たちの中では、屋根を葺き、締め上げる作業ができて初めて一人前と認められるんだそう。


この相互扶助を結と呼び、結の文化も含めて白川郷は世界遺産なんだよと地元の人に教えてもらったのをよく覚えている。





オーストリアでもそうなんだなぁ。


そういった村文化がしっかり残ってるこのオーストリアの温かい人の繋がりに嬉しくなる。

やっぱりいいなぁ、オーストリア。











アルバムの写真の中に、建築現場の中で座るイングリッドおばちゃんの若い頃の写真があった。




細くて、ロングスカートが似合うショートカットのおばちゃん。



そんな写真を見ると胸がきゅっとなる。



俺が日本で産まれて生きてきたその間、おばちゃんやレイモンドパパもこの地で生きてきたんだ。


ヒッピー時代があって、80年代のファッションがあって、みんな若い青春時代を越えてきているんだよな。






その頃のオーストリアはどんなところだったんだろう。


おばちゃんたちが若い頃、どんな物語があったんだろう。






世界のすべてを知ることはできない。


俺は誰にもなれない。


でも色んなことを知り、経験していけば、より深く人のことを思えるようになる。



きっと、これからもっともっと、色んなことを学んでいけるはず。


人生が喜びに満ちていて、虚しさに彩られていることを知り、そこから人を愛していける。




爺ちゃんとかになったら、一体どんなものが見えてくるんだろうな。


見えすぎるようになってしまうんじゃないかとちょっと怖くなる。





目の前にいる、知らない土地で生まれたイングリッドおばちゃんとレイモンドパパの一生を思うと、この瞬間を大事にしようと思えた。























気がついたら深夜の2時になっていた。


ワインボトルが3本空いた。




いい夜だったな。たくさん話せて嬉しかった。





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