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イングランド最高の町

2016年12月26日(月曜日)
【イングランド】 ウィットビー





海を見晴らす草原に一頭の馬がいる。





寒立馬のように足が太くてずんぐりした体型をしており、雨よけの服を体にかけていた。


驚くほど毛深くて、それが吹き荒れる風になびいて、とても寒そうではあったけど清々しい青空の下で気持ちよさそうだった。


しかし馬はその一頭だけでひとりぼっちだった。



















昨日すっかりこの小さな港町であるウィットビーのことが気に入り、しばらくここに滞在することに決めた。

丘の上の修道院の廃墟は、今日も青空の下で海原と赤い屋根の町を見下ろしている。


ウミネコがニャーニャーと歌う声はしみじみと寂しい。















そんな町に降り、やってきたのは昨日目をつけておいたカフェ。

フルイングリッシュブレックファーストが5ポンド、720円というのを見ていた。



イングリッシュブレックファーストにはどこもグレードがあり、値段によってソーセージなんかの品数が変わる。


その中でもソーセージや卵、ベーコン、トマト、マッシュルーム、豆なんかが全て乗っているフルブレックファーストは、だいたい相場で6ポンド。それにプラス1ポンドでコーヒーか紅茶がついてくる。

つまり安くてだいたい7ポンド。1000円だ。こうなると高い。



でも今日やってきたこのカフェはコーヒーもついたフルブレックファーストで5ポンドなので、久しぶりに外で朝ごはんを食べることにした。





うん、朝からグリルしたご飯は元気が出る。


田舎はやっぱり都市部に比べて物価が安いので、それでまたストレスなく過ごすことができる。


















それから港にかかる小さな橋を渡って町の中心部に向かったんだけど、なにやら桟橋のほうにすごい人だかりが見えた。

桟橋を埋めつくさんばかりの黒山の人混みがあり、今もたくさんの人がそちらのほうに歩いて行っている。



あ、と思い出した。


昨日カフェにいるときに地元のおじさんが、明日は海で楽しいことをするんだよ!と楽しそうに話しかけてきた。


初めて聞いた名前だけど、今日26日はボクシングデーというキリスト教の祝日らしい。


かつてキリストは神の子だと発言したことでユダヤ教の教えに反するとして石打ちの刑で死んだステファノさんを偲ぶ日なんだそう。


クリスマスも仕事をしなければいけないお手伝いさんたちが休みをもらえる日らしく、なんかちょっとした勤労感謝の日みたいな感じなのかな。




そんなボクシングデー。

ゆうべのおじさんはみんなで海に入るチャリティーイベントがあるのさ!って言ってたけど、まさかこんなに人が集まる大イベントだったなんて思わなかった。


こんな暴風が吹き荒れるクソ寒い日にみんなで海に入るだなんてマジか?って思ったけど、よく考えたら日本でも全国各地でフンドシの男たちが真冬に海に突撃したりしてるので同じようなもんか。




























なんだかワクワクしてきて急ぎ足で桟橋に向かうと、ものすごい人混みが海沿いを埋め尽くしており、みんな海岸を眺めている。


桟橋の下には砂浜が広がっており、そこにたくさんの人が集まっており、今か今かと突撃する瞬間を待ち構えていた。







桟橋の辺りには募金箱のバケツを持ったスタッフたちが何人もいて、確かにチャリティーイベントのようだった。


いろんなところから欧米人特有のフォオオウ!!という雄叫びが聞こえ、みんなテンションが上がりまくっているようだ。






とても寒い……………
















俺たちも桟橋のところに陣取り砂浜を見下ろしていると、どんどん参加者たちが波打ち際に集まってきた。


日本みたいにフンドシ一丁というものではなく、みんなそれぞれに趣向を凝らした衣装を着ている。



「フミ君!お相撲さんが来た!!」



お相撲さんの着ぐるみを着た集団までやってきた!!




あえてのそのチョイス謎!!








マリオとルイージもいる!!




このイギリスの田舎で日本人気がすげえ!!







ただでさえ暴風なのに海に飛び出した桟橋にいるので風がもう半端じゃないことになっており、吹き飛ばされてそうになってしまう。

観客たちみんなブルブルと震えながら今か今かとその瞬間を待ち構えている。



すると、パーーーーー!!っという開始の合図が鳴り響いた。


と同時に一斉に海に向かって走っていくイカれた集団!!!


今日の気温5°C!!そしてこの暴風!!

イカれてる!!!!



お相撲さんたち走りにくそう!!!








そして集団は海に突撃していき、バシャアアアア!!!と水をかぶりみんな狂ったように暴れまわっている。

なんかその光景を見ていて、日本の年の瀬をふと思い出した。


クリスマスも終わり、色んなことがあった1年が過ぎ去り、もうすぐ新しい歳が始まる。


何かをやり残したような、そんな気持ちがふと心をざわつかせるけど、今年も、俺は俺なりに色んなことに取り組んだと思う。


全然ダメだったこともいっぱいあったけど、それは来年に持ち越しだ。























さぁ、とはいっても2016年はまだ終わっちゃいない。

最後の最後まで駆け抜けるために路上をやるぞ。


昨日見て回った様子では、このウィットビーは路上場所には困らない様子だ。


199階段の下の路地裏である観光ストリート、
地元の人のショッピングストリート、
そしてこのハーバー沿いの桟橋ストリート。


この3ヶ所が人通りのあるポジションになる。



通りによってそれぞれ客層が変わるのでどこをチョイスするかは気分次第。



そして町のお店もクリスマスが終わりオープンしてるところもちょくちょくある。

ボクシングデーという休日なので3分の1といったところだけど、それでも人出はバッチリだ。









まず選んだのは桟橋通り。

寒中水泳の観客たちが今まさにぞろぞろと大量に歩いてきており、狙ってみることにした。







ギターを構えて歌い始めると早速1ポンドが入った。

うん、まぁまぁいい感じだ。













それからも1時間歌い、人通りが落ち着いたところでとりあえずこの桟橋通りはフィニッシュ。

他の通りも試してみよう。















次にやってきたのはショッピングストリート。




ここが良かった。


人通りは半端じゃない、道幅はほどよくて生音に最適、そして他のパフォーマーがいない!!

もう完璧。これで稼げなかったらマジで終わってる!!






そして勇んで演奏開始!!


うん!!微妙!!


いや、入ることは入るんだけど、人の数に対して反応が薄い。


なかなかいい歌うたえてると思うんだけどなぁ。

これがイギリスだよなぁ。









日本でお世話になっているイギリス在住のご家族がいるかたからメールをいただいたんだけど、イギリスでは足を止めてストリートミュージシャンの演奏を聞く人はほとんどいないとのことだった。


確かにと思う場面をイギリスに入っていつも見てきた。プロ並みの人でも1人で寂しそうに演奏している。



それはなぜなのか?

やってるやつが多すぎて飽和状態になってみんな見飽きているのか?

ビートルズとかストーンズとか世界の音楽シーンを牽引する国なのでみんな耳が信じられないくらい肥えてるからか?

それともストリートカルチャーに興味がないのか?




やっぱりなんとかしたい。

すごくいい演奏ができて、心に届くような歌が歌えたらきっと足を止めてもらえるはず。

同じ人間なんだもん。

















それからも根性で歌った。

空が暗くなり、風が吹き抜け、寒くて体の芯から震えてくる。


コートの上から冷たさがじんわりと浸透してくる。


風は冬の路上の大敵。
指がかじかんで感覚がなくなっていく。



でも今までで1番辛かった冬の風は群馬県。あそこの赤城おろしはマジでエグい。

あの凍てつく風に比べたらまだまだこれくらいなんてことない。







そして16時を過ぎて暗くなってから面白いくらいコインが入りだした。

お店もほとんど閉まってまばらにしか通りに人がいないけど、ほとんどの人がお金を入れてくれる。


やっぱり喧騒に紛れたらいけない。

静かな状況で、丁寧に雰囲気を演出しながら歌うこと。



路地裏のギター弾き。

渋い選曲と寂しげなメロディ。

ボロいギターケース。

壁にもたれて静かに歌う。


そんな、俺の中のカッコいいジプシーのストリートミュージシャン像をちゃんと演出すること。


うん、最後の30分めっちゃいい感じだったな。

あがりは3時間半で103ポンド。14800円。



















昨日クリスマスで町がゴーストタウンになってて何も出来なかったので、その分今日は遊ぶぞー!!とやってきたのここ!!





カジノっていうかゲーセン!!


35歳と34歳でコインゲームに燃える2人。






これ日本で暇な時とかやってたよなぁ……………

ジャックポットのやつとか……………




「これもうちょっとで落ちる!!!」



「うわー!!もうちょっと!!めっちゃ絶妙なバランスで引っかかってる!!」



「ていうかこれ何?」



「え?知らない。知らないけど落としたいよね。」



「もうちょっとーーーー!!!!」






結局まったく落とせずに虚しく4ポンドほど消滅してカジノを後にする。


いやぁ、1時間くらいめっちゃ遊べて楽しいわ。

旅してるとこういう普通の遊びがめっちゃ新鮮になる。



















それからパブに行ってビールで乾杯。

今日は2ヶ所のパブでライブミュージックの看板を見かけていたので楽しみにしていた。


どちらにするか悩んで選んだのはおじさんバンドのほう。

チラシに載ってた写真が本格的なアー写みたいな感じだったので期待できる。


この辺りでは有名なバンドなのかもしれない!













ガヤガヤとすごく賑やかな店内にはたくさんのお客さんが溢れ、みんな笑いながらグラスをあわせている。

家族と過ごすクリスマスが終わり、祝日の今日はみんな町に繰り出してパブで近所の人たちと大盛り上がりってわけだ。



いい雰囲気だなぁと思っていたら、店内の一角をステージにしてセッティングしていたおじさんたちが楽器を構えた。


お!ライブ始まるぞ!!






ジャーン!!とエレキが鳴り、ドラムが軽快に入ってきた。


おお!!1曲目にダイアーストレーツのスルタンズオブスウィング!!

痺れる選曲!!!!!


ドラムの人がボーカルをとっていたんだけど、この曲は完全にマークノップラーギターが命!!!

どんなソロをカマしてくれるのか!!!!


間奏に入った!!!!






うん!!たどたどしい!!!!


めっちゃたどたどしい雰囲気だけどみんな一生懸命楽しそうに演奏してて、どうやら地元のオッちゃんたちのバンドのよう。


それからもビートルズメドレーをやってくれたり、色んなオールディーズを楽しく演奏してくれ、店内のお客さんたちもみんな一緒に歌いながらお酒を飲んでいる。



ビートルズの時のみんなの合唱ぶり!!

面白いくらいみんな一緒に歌ってる!!



やっぱりイングランドの人はビートルズ大好きなんだなぁ。

あんまりメジャーすぎて逆に人気ってあるのかな?って思ってたけど、そんな心配なんかいらなくて、ビートルズはやっぱり不動なんだなぁ。



地元のおじちゃんおばちゃんたちにとってのビートルズって、日本でいうどんな存在なんだろ?

拓郎?タイガース?ちゅーりっぷ?




んー、これだけ老いも若きもみんなに知られてる音楽って日本にはないかもなぁ。









小ぢんまりとした美しい港、丘の上の寂しげな廃墟、クック船長なんかのロマンある歴史、

ちゃんと路上で稼げて、地元の人が集まるパブで飲み、やっと見つけたよ、イギリスで腰の落ち着く町。



ていうか今まで訪れた世界中の町の中でもトップクラスに素晴らしいところだ、ウィットビー。

こりゃもうあと何日かこの町の一員でいさせてもらおう。




イギリスに来て良かったって思える町をあといくつ見つけられるかな。





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