スポンサーリンク





愚地克巳並みの馬力で金を盗むおばちゃん


2016年10月3日(月曜日)
【オーストリア】 バードイシュル






たった一晩で落ち葉がフロントガラスに何枚も落ちてくっついていた。






しんしんと降りしきる雨。


車の中も冷えており、この化繊の寝袋ではかなり寒い季節になってきた。

結露が窓ガラスにびっしりついている。




野宿を考えたら、雨風にさらされない車中泊は快適そのものだ。

野犬に囲まれて一晩中吠えられ続けることもないし、ホームレスと同じ橋の下で眠ることもない。


車だったらかなり郊外まで行けるので、誰もそんなところまではやってこない。



でもこの寒さはちょっと寝にくい。

これからまだまだ寒くなるだろうから防寒対策を考えないとな。









やっとの思いで寝袋から出て、車を降り、雨の中で荷物を整理してエンジンをかけた。

暖房をかけるとゆっくりと体が温まっていき、窓ガラスの結露も消えていく。






そしてフロントガラスの外に田舎の山々が姿を現してくる。

白い霧にけむった山、静寂の湖。日本を車中泊で旅していたころをフッと思い出す。



あぁ、日本だったらこのまま山奥の湯治宿にでも行って500円くらいでのんびり温泉に入って温まれるんだけどここはオーストリア。そうもいかない。


三朝とか八甲田とかの湯けむりが懐かしいなぁ。


車の暖房で体を温めたらゆっくりと走り出した。























ひなびた山奥の町、バードイシュルはやはり独特な山里の景色だ。

軒の広い木造の家屋が川沿いに並び、懐かしい旅情に溢れている。

よく温泉街にあるストリップの潰れた看板でも立っていそうな雰囲気だ。






そんな町中の細い道を進んでいくと、なにやら昨日はなかった進入禁止のバリケードが道をふさいでいた。

通りの向こうに人だかりが見えたので、なにやらイベントでもやっているのかな。


おかげで町中はかなりの人出で溢れており、駐車場もどこもいっぱいでなかなか止めるところがない。

バードイシュルは小さな町なので道がアミダのように複雑でぐるぐる回っていると変なところに迷い込んでしまう。









やっとのことで駐車場を見つけたけど1日8ユーロと少し高い。1000円。

でももう探し回るのも大変だったので仕方なくそこに止め、傘をさして町の中心部に向かったんだけど、今日はまたやたらと伝統衣装の人たちを見かける。





緑色を基調にした皮の服、羽付きの帽子、女性は緑色のマントなんかを羽織っており、みんな絵本に出てくるような格好でこの山里を歩いている。

どうやらさっきやっていたイベントに、町の人たちが伝統衣装を着て参加していたようだ。




おじさんが童話の中に出てくる狩人みたいな格好をして歩いている。

これで斧を持っているか、木の笛でも吹いていたら完璧だ。


本当素敵な町だなぁ。



あ、またライオン。



















昨日、雨の中だというのにかなり稼げたこの町。

ファンタジックな雰囲気もあって今日はなんとしても路上に立ちたかったんだけど、お昼ご飯のケバブを食べ終わったころにちょうど雨が上がっていた。

こりゃやるしかない!!





しかも人も多い!!!







馬車が走り、伝統衣装を着た人たちが歩く中、ホコ天のショッピングストリートでギターを取り出す。

そしてゆっくりと1曲を始めるとすぐさまコインが入った。


やっぱりこの町いい。

反応めちゃくちゃいいぞ。




よーし!!やったるぞー!!と気合い入れて歌ってるところだった。




30分くらいして警察登場。


ん?オーストリアの路上で警察なんて珍しいな。




「いい演奏だね!でも路上やるにはライセンスがいるんだよ。」



「そうなんですね!どこで取ることができますか?」



「うちのオフィスだよ。来るかい?」



「もちのろんです!カンちゃんちょっと荷物見ててー。」



「はいはい!!」




というわけでそのまま目の前にあった警察署に行き、オフィスでライセンスをゲット。




5時間の演奏で5ユーロ。550円。

1人5ユーロなので複数人ならそれぞれ5ユーロだ。



条件は特になく、うるさくしないで、場所をたまに変えることって感じだ。



身分証のパスポートを車に置いてきてたのでカンちゃんのパスポートで申請したけど問題なし。


路上のライセンスなんてそんなもんだ。












よっしゃこれで心置きなくやりまくりだコンチクショウ!!というところで雨。



ぐぬううう……………
うまくいかん……………



でもなんとか軒があるところで演奏させてもらい、寒さに震えながらも歌っていく。




傘をさしながらも、たくさんの人が足を止めてくれお金を入れてくれる。


カッパを着てる人なんてわざわざカッパの下から財布を取り出して入れてくれる。




そしてあとは中国人。

このあたりはハルシュタット周辺の観光エリアなのですでにアジア人観光客が多く、したがって中国人たちがいつものように俺のことを写真撮りまくっていく。



まるで銅像かのように、写真撮るだけ撮りまくってシェーシェーもなければ笑顔も会釈もない。

まぁいつものことなので慣れたもんだけど、今日はそんな中国人観光客が3組のお金を入れてくれた。



めっちゃ驚いた。

中国人がチップを入れることはまずない。中国には路上文化がほとんどないので仕方ないことなんだけど、そんな彼らに入れてもらえると逆に戸惑ってしまう。




そしてフッと思う。


そうだよ、中国人観光客にすらチップを入れてもらえるような演奏ができないといけないんだよ。

前回の一周中は、あまりの不躾な写真撮影攻撃に、中国人は本当マナーがヒドいって辟易していたけど、そこで財布に手を伸ばさせてこそ心に響く演奏なのかも。





















いつものように3時間やってそろそろ終わるかとギターを置いた。

ギターケースの中にはたくさんのチップが入っており、月曜の雨の中なのにこんなに稼げるなんてバードイシュル最高だよ。


今日のあがりは3時間で………………






と、そこに突然1人のおばさんがやってきた。


ニットコートにズボンという普通のおばさんの格好をしており、笑顔で俺たちに何か言ってくるがドイツ語なので何を言ってるかわからない。



でもまぁこれはよくあることなので、俺たちも笑顔でいたんだけど…………





そのおばさん、いきなり腰をかがめてギターケースの中の5ユーロ紙幣を手に取った。


そして笑顔で俺たちにそれを見せてきて、折りたたんで自分のポケットに入れた。




は?




え?何してるの?




あがり泥棒?


いや、そうじゃないよな?

だいたいあがり泥棒はホームレスか、それともガラの悪いヤンキーだ。


こんな、いたって普通の清潔感のある服装をしたおばちゃんがするはずない。


だがしかし、




「ちょっと、なにしてるんですか?」



カンちゃんがおばちゃん近づいて腕を掴もうとすると、おばちゃんはいきなり真顔になってカンちゃんの手を振り払って歩き始めた。

やっぱりあがり泥棒だ。



すぐにおばちゃんを追いかけて引き止めるが、制止する俺とは目も合わさずに力ずくで歩き続けるおばちゃん。

おばちゃんといっても体格がよくて俺よりも大きいので力も強い。







ガンガン歩き続けるおばちゃん。

周りの通行人たちがなんだなんだ?とこっちを見ている。




一瞬、5ユーロならいいか………という諦めの気持ちが浮かんだ。


この変なおばちゃんと取っ組み合いしてみじめな気持ちになり、町の人たちから5ユーロを奪い合ってるよ、なんて風に見られるなんて結構耐え難い。


でもその気持ちをグッと抑えつける。



金額の問題じゃない。

このお金は歌を聞いてくれた人が入れてくれた気持ちのこもったもの。

それをなに言ってるかもわからんやつにかっぱらわれるなんて納得いかない。


そもそも金額は関係なく、盗みを見逃すわけにはいかない。











ラガーマン5人に羽交い締めにされても平然と歩き続ける愚地克巳のごとく前だけを向いて怖い顔で歩き続けるおばちゃんの腕をちょっと強めに掴んだ。

するとさすがに反応してきて、ドイツ語で何か言ってきた。うっとおしいわねぇ!!みたいな感じで。



英語で喋ってくれと言うが、おばちゃん英語は全くダメ。


会話にならない。

返せと言ってもワーワー言って返してくれない。


胴まわし回転蹴りくらわすぞこの克巳おばやん!!






そしてこのタイミングでまた雨が降り出し、しかもかなり本降りになってきて、道の真ん中で摑み合いをしてる俺たちびしょ濡れ。


なにこのトレンディードラマ系の状況?中西保志並みにびしょ濡れなんですけど。


本気で忘れるくらいなら泣けるほど愛したりしない、誰かに取られるくらいなら強く抱いて君を壊したいっていうか5ユーロ返してください。










ワーワー言いながらも俺の手を振りほどいて歩いていこうとするので、さすがに頭にきて横のお店の壁に押しつけた。


通行人はみんな足を止めてこっちを見ている。


すると角のお店から店員のおばさんが出てきて、何があったの?と聞いてきた。



「この愚地克巳おばやんが僕のお金盗んだんです。」



「わかったわ、すぐに警察を呼ぶから待ってて。」



店員さんは店に戻って警察に連絡をしてくれた。

ここまできたら克巳おばやんも諦めればいいものを、頑なにお金を返してこない。

このババア…………さすがにムカつくなぁ…………



するとバッグの中からタバコを取り出した克巳おばやん。



おい、オノレこの状況でタバコ吸うか?っていうかタバコ買う金持ってんじゃねぇかコノヤロウ?マッハ突き背中で受け止めるぞコンチクショウ?


と思いながらもポケットからライターを出してタバコに火をつけてあげるとダンケシェンと言う愚地克巳。




もー、こんなのいいから早く終わらせてくれよー、通行人みんな見てるしー、恥ずかしいことしてんじゃねぇよー、とウンザリしながら警察が来るのを待っていたら、1人の地元のオッチャンが近づいてきた。



そして克巳おばやんにドイツ語で話しかけているオッチャン。


どういう状況だ?
タッグを組んで俺に殴りかかってくるつもりか?


そうなったらバッグの中から薄力粉の入った袋まき散らかして、耐熱ジャケット着て本部道場爆発させて全身黒焦げにしてやるぞ?





とドキドキしていたら、克巳おばやん、ポケットから5ユーロを出して返してきた。


どうやらオッチャンに説得されたみたいだった。




本当はここで許したらいけないんだろうけど、ちゃんとお金も返したことだし、掴んでいた腕を放して解放してあげた。



もー、やめてくれよ本当ボケナスー。







するとようやくそこにお巡りさん登場。

克巳おばやんも早くどっか行けばいいのに、わざわざお巡りさんが来るまで近くにいるもんだからめっちゃ怒られてた。


周りのお店の店員さんにも、ドイツ語でめっちゃなんか言われてた。


外国人のお金盗んで!!オーストリア人の恥よ!!みたいなこと言ってそうだった。





結局お巡りさんに翻訳してもらったところ、克巳おばやんがドイツ語でずっと言っていたのは、お金がないから欲しかった、っていうことだった。


そして、ちょっと頭がおかしい人みたいだわってお巡りさんも言っていた。


お金がないからなんてのは盗みを働く理由にはならん。



今日のあがりは252ユーロ。29000円。


500円くらい盗られても、と思ってしまいそうだけど、それを思ったら路上でお金もらう資格はない。



















路上を終え、震えながら車に戻ってすぐにエンジンをかけた。

膝下が冷え切っており、指も冷たい。

カンちゃんも鼻を赤くしてトナカイ状態だ。



でもまだ10℃くらいある。

雨で体感温度は低いだろうけど、マイナスになってないだけまだマシだ。






車を動かして今日はまた違う湖沿いの展望台に寝床を決めた。

雨がバタバタと降っており、冷たくてたまらない。

明日は一日中雨の予報なので路上はできないだろうから、観光でもしにいくか。






それにしても愚地克巳が使ったミゾオチに蹴りを入れながら駆け上がって肘打ちをするあの技を実際に使う高名な武術家って誰だろう?

スポンサーリンク



ブログのランキングというやつをやっています。
よかったらクリックして下さい。
クリックが投票の代わりになります。

にほんブログ村 ライフスタイルブログ 田舎暮らしへ
にほんブログ村



世界中のホテルが予約できるサイトです。
家族旅行もバッグパッカーも、ここから予約してくれたら僕にアレがアレなのでよろしくお願いします! ↓↓