2016年9月17日(土曜日)
【オーストリア】 クレムス
今日は土曜日。
土曜日の路上は午前中勝負だ。
朝ごはんをスパパっと食べ、準備をしたらすぐにクレムスに向かった。
昨夜から結構激しい雨が降っていて、今日は路上は無理かなぁと思っていたんだけど、かろうじて今は降っておらず、クレムスのショッピングストリートは朝からたくさんの人出でとても賑やかだった。
おお、こいつは腕がなるぜ。
通りのカフェでカプチーノを買ったら、ゆっくりと一服して精神統一。
そしてゆっくりと演奏開始。
ギターの音が尋常じゃないくらい良いのは昨日弦を替えたから。
そしてカポを新調したので挟む力が強くなってビビリが減った。
マジで歌ってて今日は良い演奏できてるぞって思える。
そして足元のギターケースが新品の立派なやつなのがなんか変な感じ!!!
ギターケース広げて、なんかストリートミュージシャンみたいだ!!
みんなギターケースの中にお金を放り込んでくれるんだけど、ケースが立派でちゃんとした容れ物になっているので投げ込みやすいし、お札も風で吹っ飛ぶことがない。
喉の調子も良い。
今日選んだ場所は背後が小さなトンネルみたいになっているところで、後ろに下がってトンネルに入ると声が反響して大きくなる。
こいつはいいな、とその効果を利用して、Aメロは後ろに下がってトンネルの中で静かに声を響かせ、サビになったら前に出てエフェクトを切って声を張るという、もはやガイヤ並みの環境利用闘法。
めっちゃ大きな声出して窓ガラス割らないように気をつけながら歌い続ける。
もうクレムスでの路上も4回目なので、知り合いが増えており、常連さんが何人も聞きに来てくれた。
面白かったのは先週のこと。
路上を終えてシュピッツの家に帰ると、イングリッドおばちゃんが、フミ!とフェイスブックを見せてきた。
そこにはついさっきの俺の路上の動画があがっていた。
素敵なストリートミュージシャンがいた!!というその投稿をしているクレムスの人が、イングリッドおばちゃんの知り合いだったというわけだ。
小さなエリアなので色んなところで繋がるよなぁ。
まるで美々津から日向に出るみたいに、もはやこのバッハウを地元のように感じている。
このドナウ川も
耳川に見えなくもない。
もう本当、天領うどん超食べたい。
ていうかこの前、ブログの読者さんから日向行ってきましたーっていうメールとともに天領うどんの写メが送られてきて、キエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!って奇声を発しながらドナウにダイブしました。
ころころころころ殺すうううううううううううう!!!!!!!!!
肉うどん食べたすぎて殺すううううううううううう!!!!!!
昆布のオニギリとソーセージのおでん食べ散らかしてうめこうじで買い物して帰るうううううううううう!!!!!!
嘘です。めっちゃ嬉しいです。天領うどんの姿を見られただけで幸せです。
ありがたいことに僕が天領うどんとか爛漫とか書きまくるので、たまにブログの読者さんから宮崎へ旅行がてら食べに行って来ました!というメールをいただきます。
みなさん、日向の天領うどんに行ったら肉うどん食べてください。
日向人の魂の味です。
宮崎の洋食屋さん、爛漫に行ったらチキン南蛮を食べてください。
胸肉とモモ肉のハーフハーフにしてもらえませんか?とわがままを言っても、男前のお兄さんが上腕二頭筋でシャツを破りそうになりながら優しくオーケーしてくれるはずです。
激ウマですので。
金丸のブログを見て来た、と言ってもらえたら1割引きには決してなりませんのでご了承ください。
あぁ、爛漫行きたい……………
というわけで今日のあがりは3時間で372ユーロ。42300円。
帰りにスーパーに寄ってお買い物し、家で手羽先のトマト煮を作って遅めのお昼ゴハン。
美味しい。カンちゃん料理上手。
それからしばらくネット作業をし、夕方になるとイングリッドおばちゃんが部屋にやってきた。
「フミー、ナオー、準備はいい?そろそろ行くわよ。いやぁ、楽しみだわ!!」
イングリッドおばちゃんとレイモンドパパは本当に音楽が大好きで、月に何回もライブに出かけている。
そんなおばちゃんたちが、今夜も近くでいいライブがあるからと誘ってくれていたのだ。
いつもよりもオメカシしているイングリッドおばちゃんとレイモンドパパ。
そういう感じのところなのかなと、俺たちもフォーマルとまではいかないけど少し綺麗めな服を着た。
レイモンドパパの運転する車でやってきたのは、ほんの10分くらい走った隣町。
国道から入ったぶどう畑の真ん中に小さなテントが設置されており、その中からライブ音楽が聞こえてきていた。
田舎の集落の農道なので道が細く、そんな道路脇にびっしりと車が止まっており、近隣の人たち全員集合って感じだ。
ワクワクしながら俺たちもテントの中に入ると、中には300人くらいの人たちがびっしり座っており、前方のステージではすでにライブが行われていた。
ビッグバンドがスウィングしており、スーツをビシッと決めたおじさんが、指を弾きながら渋い声でi get a kick out of youを歌っている。
客層は完全におじちゃんおばちゃんのみ。
みんな白ワインのボトルを目の前に置いてグラスを傾けながら演奏に体を揺らしている。
俺たちもそんな中に席を見つけ、ビールで乾杯。
歌っているのはフランクシナトラみたいな渋い低音ボイスのおじさん。
そフライミートゥーザムーンをセクシーにダンディーに歌い上げている。
司会っぷりも慣れた感じで、客をいじりながら笑いをとり、小芝居やモノマネなんかも挟んだりして、かなりのエンターテナーだ。
きっとオーストリアとドイツでは名の知れた人なんだろう。
ジェイムスボンドみたいなダンディーな雰囲気で、日本だったら郷ひろみのディナーショーみたいな感じなのかな。
そうやって見てると面白い。
ていうか前の席に座ってたオッちゃんがクレムスの市長さんかなんかだった。
あ!どうもです!と挨拶すると、今日君の歌を聴いたよと言われてビビった。
どうやらさっき路上やってる時に前を通っていたみたい。
「レディースアンドジェントルマン!!スペシャルゲストです!!」
ジェイムスボンドが紹介して出てきたのは可愛らしい若い女性シンガー。
この子がウルトラ上手くて、ニューヨークニューヨークでみんな拍手喝さい、ホイットニーヒューストンを歌うとスタンディングオベーションでテント内に歓声が響き渡った。
めっちゃ上手いわぁ……………
俺もさっきまで町で歌ってて、たくさんの人に拍手と嬉しい言葉をかけてもらっていい気になっていたけど、当たり前だけど世の中には上手い人はゴマンといる。
分かってることだし、俺の声で俺のスタイルでいい演奏が出来ればいいことだけど、さっきの今でこんなに素晴らしい歌を聴いたら若干凹む。
俺もスタンディングオベーションの1人に加わって拍手をした。
「フミ、次のシンガーが私は好きなのよ!!ホラ来るわよ!!アンディーよ!!」
イングリッドおばちゃんが興奮しながら俺の耳元で言う。
するとまたジェイムスボンドの紹介が始まり、バンドの音楽とともにまた別のおじさんが我、覇者なり、みたいな笑顔でステージに出てきた。
ドヤ顔が半端じゃねぇ!!
イングリッドおばちゃんの話ではオーストリアの有名なロックンローラーというこのおじさん。
完全にハゲてるやん!!
お腹も出てて、見た目可愛いブルースウィリスみたいな感じだけど、ロックンローラーらしい!!
ロック好きの俺としてはどんなステージをかましてくれるのかと楽しみになって、客席の間を縫ってステージ前までやってきた。
するとそれまで大人しく笑顔で歌っていたアンディー。
いきなりステージを飛び降りて俺の横のテーブルに駆け上がった!!
テーブルの上にはお客さんたちのワイングラスが所狭しと並んでいるんだけど、そんな危険極まりないテーブル上をガンガン突き進んで会場の真ん中あたりまで行き、客あおりまくりでものすごい盛り上がりに!!
いくぜー!!みんな一緒にいいいい!!!みたいな感じでマイクを観客に向けると全員大合唱になり、そのど真ん中で両手を広げてスーパードヤ顔!!
完全に覇者しかやったらいけないポーズ!!!!
もちろんテーブルの上のワイングラスをすべてかわすことは出来ずに足に当ててひっくり返しまくっている!!
でもまったく気にせず突き進むアンディー!!
ロックンローラーだからって暴れん坊すぎやろ!!
しかしお客さんもそのパフォーマンスに大喜びでみんな立ち上がって超絶盛り上がる!!!
さっきの女の子のウルトラボーカルの後なので、ハゲてるし大丈夫かなって不安になったけど、そんな心配ぶっ飛ばして会場を鷲掴みにした!!
アンディー超カッケェ!!!!!!
そんなアンディーのパフォーマンスが終わったら第1部が終わり休憩タイムに。
お客さんたちはみんなトイレに行ったりで、ガヤガヤとしている。
そんな中でレイモンドパパにドイツ語を教えてもらったりしていたんだけど、イングリッドおばちゃんの姿がない。
近隣の人たち大集合なのでお友達とお喋りしてるのかな。
しばらくして第2部が始まる前にトイレに行っておこうと入り口のほうに行くと、そこにイングリッドおばちゃんがいた。
「あー!フミ!!こっちこっち!!」
イングリッドおばちゃんはいつも俺のことをお友達に紹介してくれる。
日本から来てる子でウチに泊まってるのよー!!と、自慢げに話してくれてる様子がいつも嬉しい。
この時もまた周りの人に俺のことを話してくれているんだけど、なにやらその中にちょっと毛色の違う人がいる。
ていうかその人にめっちゃ俺のことを話している。
その女の人はピシッとした格好をしており、受け付けのところに立っている。
どうやらライブの関係者らしい。
もちろんドイツ語なので何を言ってるかはわからないんだけど、その関係者の女の人は何かを確認してくるわね、みたいな感じで出演者の控え室のほうに歩いて行った。
「フミー!どう?ライブは?!」
「素晴らしいよ!!イングリッド!!連れてきてくれてありがとう!!」
「よかったわ!!フミはこんなステージで歌ったことある?」
「うん、日本ではたまにこういうところで歌うよ!!」
「なら大丈夫ね!!」
「え?なにが?」
「今、フミがステージで歌えないか聞いてもらってるから!!いやぁ!楽しみだわ!!」
「そうなんだ!!それは楽しみだね!!っていうかオラアアアアアアアアアアアアアア!!!!!な、な、ななな、なになのなにねぬぬ、にな、なにしてくれてるんだああああああああああああああああ!!!!!」
ぬあああああああああああいああああああああああ!!!!!!
おばちゃんの暴走!!!!!
日本でもこういうことよくある!!!!
俺の意思、全無視で勝手にコトを進めるおじちゃんおばちゃんの超よかれと思っての暴走!!!!!
「ちょ!!ちょちょちょっと待って!!!!!無理無理無理無理無理!!!!!こんな状況でステージ上がるとか無理!!!!今ここで謎のアジア人が飛び入りなんて、ワインボトルで頭カチ割られてドナウ川に捨てられてブダペストあたりで発見されるから!!」
「大~丈夫!!大丈夫よ!!フミは素晴らしいシンガーなんだから自信をもって!!こんな素敵なステージであんなバンドの演奏でフミが歌うなんて楽しみだわー!!」
もうすでにイメージがカマキリと戦う刃牙レベルに完成してしまっているイングリッドおばちゃん。
おばちゃんの中では第2部の始まりで俺がこのステージで歌って大喝采を浴びることになってしまっている!!!
「ちょ!!本当に無理だから!!あんなに演者さんたくさんいるし、みんなそれを楽しみに来てるんだし、何よりあんなジャズスウィング系の曲とか歌えないし!!!」
「大丈夫よ!!あー!!楽しみだわ!!あ!!女の人が戻ってきたわ!!」
その時、控え室のほうから戻ってきた受け付けの女の人。
そうだ、きっと関係者側がこんな申し出断るはず。
謎のアジア人にいきなり歌わせるなんてまずありえないことだ。
そ、そうだ!!こんな焦る必要なんかないさ!!
「ギブミーユアサウンド。」
厳しい顔つきで俺にそう言ってきた女の人。
いきなり耳を近づけてきた。
え?なに?舐めてほしいんですか?
ちょ、え、なに?
「だから、ギブミーユアサウンドよ!!早くしなさい!!」
え?これ………まさかオーディション?
オーディションなの?
今はライブの休憩中。
BGMが流れる中、グイと耳を近づけてくる女の人。
これってもう…………はじまってんじゃん!!!!
と刃牙並みの大文字が頭に浮かび、超焦りながらもとりあえず歌うしかない!!!
女の人の耳元で軽くレットイットビーの出だしを歌った。
頼むからキレてビンタしてくれと思っていたら、やるじゃないの、みたいな納得した顔でうなづき、待ってなさいとまた控え室に入っていった。
事態が深刻化している気がする………………
「ホラ!!言ったじゃないの!!フミなら大丈夫だって!!あー!このステージで歌うフミが見られるなんてワクワクするわー!!」
ちょっと待て、今完全に合格的な感じで控え室に戻っていったということは話が進んでいるということであって、もし歌うとしたら第2部の始まりか1曲目終わりのタイミングだからそこで俺が呼ばれてこのビッグバンドの演奏に合わせて歌うということになるので完全に頭から原曲通りにやらないといけないわけで、そうなると歌えるのは高田渡の生活の柄か、いや因幡晃の分かってくださいか、待てオーストリアで因幡晃の分かってくださいを分かってくださいとか絶対わかるわけねぇっていうか、この前帰国中に秋田県の横手市の路上で歌ってる時に酔っ払ったオッちゃんが曲のリクエストをしてきて、うんだらあんだらへっだらって方言がパナすぎて何言ってるか1ミリもわからなくてどうしようと思ったら最後に分かってくださいって言われて絶対分からんって思ったっていう、そんなことどうでもいいからとりあえずリンガーハット行きたい。
ここまで0.2秒。
ちょっと待てええええええええええええ!!!!と思っていたら、女の人がまた戻ってきて、こっちに来てと呼ばれしまった。
終わった、マジでエルビスあたりで攻めるしかねぇ!!と覚悟を決めて控え室に行くと、さっきまで歌っていたジェイムスボンドの前に連れて行かれた。
ステージの上では笑顔全開で笑いをとりながら歌っていた紳士だったのに今は、なんだこの小僧?殺されたいのか?みたいな冷たい目で俺を見てくる。
忙しいんだからこんなん連れてくんなや、みたいな感じだ。
受け付けの女の人が、このアジア人なかなかいい声してるんだけどどうかしら?みたいな感じで相談してくれている横でフナムシのような顔で立ち尽くす俺。
するとジェイムスボンドが、おい歌ってみな、と言った。
震えながらも根性でまたレットイットビーの歌い出しを歌う。
するとすぐに真顔で、オーケーイナフと制された。
こ、怖え………ジェイムスボンド怖え………
「あなた、スウィングはできる?次の第2部はスウィングがメインだからそれができないとダメよ。」
普通に無理ですと言った瞬間、関係者が第2部始まりまーすと控え室に呼びに来てジェイムスボンドはさっさとステージに出て行った。
ふ、ふうううううううう………………あ、焦ったああああああああああああ………………
いや、ライブの飛び入りはめっちゃ緊張するけど別に嫌いではない。
日本ではよくやってたし、外国でもそんな状況はたまにある。
飛び入りって、何ヶ月も前からキッチリ日程の決まってる演者さんたちが何日も前から準備して、お客さんを集め、やっとその日ステージに上がれるという状況の中で、なんの打ち合わせもなしに出てきてパフォーマンスできるという、言ったら不公平なもんだ。
だからこそしょうもないことは絶対にやったらいけないし、お店の人もその人のパフォーマンスがどういうものなのかある程度理解して飛び入りさせないと悲惨なことになる。
緊張するけど、やり甲斐のあることだ。
旅の中ではいつも、誘われたら極力いろんなことに参加するようにしてる。
そこにどんな面白い展開が待ってるかわからないから、どんどん体当たりするように心がけているけど、
今日のはさすがに怖すぎるわ………………
こんな極限アウェーの中で歌うとか、マジでイングリッドおばちゃん勘弁してよっていうか、残念だったわねええ!!!と抱きしめてくるおっぱいでかすぎて笑えてくるわ!!
緊張がほぐれてフラフラしながら席に戻ってカンちゃんにこんなことがあったよ、と話すと、ええええ!!歌うのおおおおおおおお!!!??あ!!歌わないでいいんだ!!良かったあああああ………そんなことになったら私のほうが緊張で吐いてまう!!ってびっくりしてた。
それからもジェイムスボンドの流暢で大人なライブは進み、最後に歌の上手い女の子とアンディーとの3人のパフォーマンスがあり、22時過ぎに終了。
あー、いいライブだった。
いいライブだったけど………後半緊張とか開放感とか色々であんまり楽しめんかったわ……………
あそこでスウィングがバッチリかませないのは歌うたいとして不甲斐ないとも思うけど、自分のやれるジャンルを守ることは大事なことだ。
あそこに高田渡が出て行ってもウケることはできん。
でも玉置浩二みたいにジャンル吹っ飛ばして歌声のみで誰でも飲み込んでしまうような人もいる。
どっちも好きだけど、俺は高田渡みたいな歌が歌いたいな。
もっといい歌、いいパフォーマンスしなきゃって再確認になったわ。
もっともっと正確に、感情をこめて、味を出して、テクニカルに、個性的に。
頑張ろ。