2016年5月14日(土曜日)
【アラブ首長国連邦】 ドバイ
「やったー。新しい服嬉しいー。」
荷物が帰ってきてご機嫌のカンちゃん。
よりによって初めての空港泊の時にロストバゲッジで替えの服なしとか可哀想な状況だった。
それ以外は普通に寝袋の中で爆睡してるカンちゃん。家のごとく。
子供みたいで可愛いなぁ。
荷物は帰ってきた。そしてドバイが路上が出来そうだということもわかった。
ゆうべ歌ってる時に警備員さんが何度も目の前を通ったけど一度も注意されなかった。
1人だけ声をかけてきた人がいたんだけど、その人は、対岸ではやったらダメだけどここならOK、と言っていた。
場所選びが良かったのかな。
いやー、金持ち以外に用はない、と言い放つこのドバイの懐に少しだけもぐりこめたような気がして、嬉しくて朝から自動販売機のコーヒーを飲んだ。
うん、マズい。
水っぽくて甘ったるいコーヒーを飲み干したら今日も気合い入れて空港を出発した。
昨日見つけたマリーナプロムナードで勇んで駅を降りた。
まだ夜まで時間あるなーと思っていたら、ちょっと面白そうなものを電車の路線図に見つけた。
このマリーナ周辺はドバイの中心地なのか、メトロの他にトラムが走っている。路面電車だ。
全部で10駅くらいなんだけど、主要のホテル街を繋いでいるよう。
さらにその途中からモノレールの線が少しだけのびている。
そのモノレールが走っているのが、かの有名なカブトガニエリアだ。
ドバイと言ったら、あの海に飛び出した不思議な形をした人工の陸地。だいたいどの写真にも出てくる。
ヤシの木のようでもあるんだけど、まぁどう見てもカブトガニだ。
何本もの足みたいな陸地が細長く弧を描いて海に作られている。
こんな凄まじい、遊び心っていうか悪ふざけみたいな陸地を海の上に作ってしまうドバイ。
ここってホテルか何かの敷地で一般人は立ち入りできないのかと思っていたけど、どうやらこのモノレールで先っぽのほうまで行くことができるみたいだ。
あのカブトガニの中に行けるなんて、モノレールに乗らない手はない。
「カンちゃん、行ってみる?」
「行く行くー!!どんな風になってるんだろうね!!」
ワクワクしながらトラムに乗ってモノレールの乗り換え駅を目指した。
ゲートウェイタワーズという駅でトラムを降り、ガランとした少し寂しげな場所に出ると、すぐ向こうにエレベーターがある。
2階に上がって車の駐車場の中を歩いていくと、奥にモノレールの出発駅があった。
値段はさすがに少し高くて1人往復25ディルハム、750円。
2人なので1500円だ。
今の懐にはそこそこのダメージだけど、ろくに観光らしいこともしてないのでこれくらいは乗ってみよう!ということでチケットを購入。
やってきたカッコいいモノレールに乗り込むと、ほとんど音もなくかろやかに走り出した。
モノレールの中には、なかなかの数の中国人観光客がいた。
そういえば最近この中国人観光客を見てなかった。
中国人はインドあんまり好きじゃないのかな。
やっぱり贅沢なところに旅行行きたいよな。
写真が撮れるいいポジションはバッチリ彼らが占領し、ワーワー!!言いながらカメラを構えている。
久しぶりだな………この感じ…………
モノレールは海を渡り、早速カブトガニの胴体部を滑っていく。
どうやらこのあたりは普通に一般人が住める住宅地になっているようで、両側に高級そうなマンションが並び、その隙間の空中をモノレールが走っていく。
まるで漫画で描かれる未来都市みたいな状況だ。
このモノレールは日本の日立製作所が作ったものというから驚く。
胴体部を抜けるとカブトガニの足の部分に入っていく。
両側に葉がしげるようにのびている陸地には、どうやら建て売りらしき住宅が整然と並んでおり、その間を道路が綺麗にのびていた。
ビビったのは、それらの住宅のすぐ目の前がビーチになっていること。
細い陸地に建てられているので全ての家が海沿いに並んでいるんだけど、家の裏が白砂の美しいビーチになっている。
プライベートビーチ付き一戸建て。
目の前にはスカイブルーのペルシャ湾。
そりゃ誰もがこんなとこに住みたいって憧れるわ………………
そんな凄まじい人工物の1番奥。
遠くの方にとてつもなく巨大な宮殿みたいな建物が見える。
モノレールは海の上を飛ぶように走り、その宮殿へと吸い込まれていく。
そしてモノレールはその宮殿で止まった。どうやらここが最終駅。
ここから先はどこまでも広がるペルシャ湾の水平線だ。
宮殿はアトランティスザパームというホテルだった。
1泊10万円が最安という、まぁお金持ちじゃないと泊まることができない高級ホテルっていうか、確かにこのウルトラ凄まじいロケーションの中に滞在できると思ったらこのくらいは払わないといけないか。
ホテルの敷地はちょっと見ただけでも、とんでもなく豪華なものだった。
プライベートビーチ、ユニバーサルスタジオみたいな水のテーマパーク、豪勢なカフェテラス。
その中を優雅に歩く人たちが見える。
残念ながらそれらは全て宿泊客だけのものだ。
そりゃそうだ、一般人も入ってこられるんなら10万円も払う特別感がない。
観光客が行けるのはホテルに併設してある小さなショッピングモールのみ。
あとは殺風景な海岸線が広がるだけだ。
ショッピングモールなんてすでに見飽きている。
ただモノレールに乗ってドバイのラグジュアリーのど真ん中を飛んでいけるあの光景は、ドバイに来たなら必見だと思った。
「いやー、カンちゃん、俺たちなんだかんだお金ないなりにドバイ楽しんでるね。」
「そうだねー。でも10万円あったらインドで1ヶ月間、王様みたいに過ごせるねー。」
今日のお昼ごはん。
さて、そんな1万円~2万円とかなんでもないようなど金持ちたちから今日も路上で稼がせてもらおう。
昨日もやったベストスポット、マリーナプロムナードの遊歩道にやってきた。
よーし、暖色の街灯がぼんやりと照らすウッドデッキの歩道、ベンチに座るムスリムのカップル、上空にそそり立つ鏡張りのようなビルディングの夜景、
雰囲気は完璧。
ムードが大事だ。
スローでメロディアスな曲を、聴く人の立場になって柔らかく歌おう。
ゆっくりとギターを鳴らした。
「ハーイ、いい歌だね。君はこのストリートパフォーマンスで世界を回ってるのかい?」
ポロシャツにハーフパンツのおじさんが声をかけてきた。
「そうか、ナイスだね。それじゃ旅を楽しんで。」
そして無造作にポケットからクシャクシャの紙幣を取り出してギターケースに置いてくれた。
後で数えたけど、130ディルハムあった。
1人で4000円…………………
ぬおおおおおお!!!!
ドバイイイイイイウウウウリリイイイィィィィィ!!!!!
ヤバすぎる!!やっぱり入りかたが尋常じゃない!!よっしゃこの調子で10万くらい稼いでカンちゃんに可愛い洋服を買ってあげると見せかけて風俗で逆3P!!
「ハーイ、アイムソーソーリー、ここで歌ったらいけないよ。」
来てしまった……………警備員さん…………
「ごめんね、僕も音楽が好きだから止めたくないんだけど、決まりだからさ………本当厳しい国なんだよ。」
その警備員さんは肌の黒い若いお兄さんだった。
インドとかそっちから来てる出稼ぎの人だろう。
「そうですかー。ちなみにパーミッションて取れるんですか?」
「向こうの方にオーロラタワーっていうビルがあって、その中でパーミッションが取れるよ。」
「え!?そうなんですか!?」
「でも音楽系のライブはイベントととしてオーガナイズされてるものがほとんどだから、ストリートパフォーマンスが取れるかはわからないけどね。でもトライしてみるといいよ。」
「お兄さんはこれまでドバイでストリートパフォーマーを見たことあります?」
「4年いるけど、このUAEでは一度も見たことないよ。」
「そ、そうですか…………」
「このプロムナードはまずいけど、その橋の上ならいいと思うよ。警備のエリアじゃないから。」
そういうことならと、橋の上に上がって歩道で路上再スタート。
確かにここは誰にも注意されなさそうだ。
でも後ろが車道でうるさいのと人通りが少ないことでお金の入りはイマイチ。
そしてやっぱり、もしジェイル行きとか言われたら怖いなと思うとあんまり長いことはできない。
30分やってあがりは60ディルハム。1800円。うーん、稼げるんだよなぁ。
というわけで今日は計6000円か。3Pどころの話じゃない。
カンちゃんの洋服は…………H&Mなら買ってあげられるかな。
「すごいよー!おかげでドバイでの生活費がほとんどかかってないもん!」
まぁ少しは稼げたおかげで、とりあえずイスタンブールまではなんとかなりそうだ。
明日はドバイ最後の日。
どこか面白い場所に行ってみよう。