2016年4月28日(木曜日)
【インド】 ゴカルナ
電車は何もないジャングルの中を走り抜けていく。
ヤシの木がどこまでも茂って、緑が太陽に光る。
たまに大きな川が流れており、ポツリポツリと民家も見える。
こんなところでどうやって生きているんだろう。
どうやらこの南インドの西海岸はあまり町がない僻地のようだ。
電車は名もなき駅に止まる。たまに。
しかし人の乗り降りはほとんどない。
電車の中には乗客はほとんど乗っておらず、この車両には俺たちしかいなかった。
なのでこんなポーズもできてしまう。
おかげで物売りもほとんどやってこず、喉が渇いていた。
無人の駅にはベンチが取り残されているだけで、土の地面は焼けていた。
汽笛がなり、電車はまたゆっくりと走り出す。
どこに向かっているのかわからなくなるような、静かな線路。
このままどこか最果ての終点にでも向かっていきそうだ。
かろうじてやってきたサンドイッチ売りの兄ちゃんから野菜とチーズのサンドを買った。
不味かったけど、とりあえず口に放り込んでおいた。
やがてゴカルナの駅に到着して電車を降りた。
あああああ!!!!やっと着いたあああああああああ!!!
よっしゃこのままソッコーで海にダイブして魚とたわむれて三ツ矢サイダーとチューブと珊瑚礁とシュノーケリングとマンタとマンタとオマンマン!!
期待が膨らむ俺たちの前にあるのは、超絶森。
海どこですか?
ただのゲロ田舎なんですけど?
海の気配が1ミリもしない森の中の孤独な駅。
え?ここビーチリゾートの町の駅ですよね?
林業の町と間違えた?
2人で笑いながらささやかな駅舎を出ると、一応そこにはタクシーとオートリキシャーの客引きがいてすぐに声をかけてきた。
同じ電車に乗ってきた欧米人バックパッカーカップルもいて、彼らも値段交渉を頑張っていた。
「ハロー、あなたたちはどこにいくの?」
「私たちはメインビーチよ。あなたたちは?」
「僕たちはオムビーチかなー。」
ゴカルナにはいくつものビーチがある。
1番大きなメインビーチが中心部で、その周りに山に隠れるようにたくさんの小さなシークレットビーチが点在している。
俺とカンちゃんは最奥にあるオムビーチというどん詰まりのビーチまで行くつもり。
理由はもちろん、そっちのほうが秘密のビーチっぽいからだ。
値段はかなり高くて、オートリキシャーでメインビーチまでが200ルピー、オムビーチまでは280ルピー。500円近い。
距離的にこの駅からオムビーチまでは6キロちょいってとこだ。280ルピーはかなり強気な値段。
しかしドライバーたちは譲る気配ゼロ。
なんせこの周りに民家すら何もない取り残された駅からだと、オートリキシャーに乗らないとどこにも行くことはできない。
そりゃ彼らも強気に出られる。
昔の俺なら2時間くらいかけて根性で歩いたかもしれないけど、今はカンちゃんもいるしおまけにこの暑さだとヨユーで倒れる自信がある。
大人しくオートリキシャーに乗ることにした。
オートはささやかな村の中のひなびた道を駆け抜けていく。
民家がわずかに散らばり、ヤシの木が生い茂り、本当にこの先にビーチリゾートがあるのか?と疑わしいくらいの飾り気のなさ。
道の脇に広々とした田んぼらしきものがどこまでも広がっており、所々が白く染まってるのを見ると、どうやら塩田のようだった。
しばらくすると村の中心部に入ってきた。
市が立っており、生い茂る木陰の地面に、たくさんの野菜が並べられている。
それらの横を通り過ぎ、オートは脇道から上り坂に入る。
かなり急な坂道で、オートはギアを1番下に落とし、エンジンをブンブンうならせながらゆっくりゆっくりと登っていく。
木々の木漏れ日がきらめき、周りには何もなく、この先に秘密めいたビーチがあるのかと思うとワクワクしてたまらなくなる。
早く宿に入って、海で泳いで、ビーチ沿いのカフェでビール飲みながらワイファイして…………
楽しみすぎる!!!!
オートはかなり高いところまで坂を登り、そこから下っていき、やがて道のどん詰まりまで来て止まった。
そこにはいくつかのオートが止まっており、ビーチの入り口になってるようだった。
すぐ横にナマステゲストハウスという宿がある。
来る前に調べていたんだけど、ゴカルナのビーチでおそらく1番レビューが多い人気の宿がここだ。
値段はダブルの部屋が800ルピー。1350円。
ちょっと高めだ。
といっても1人たったの670円なんだけど。
ビーチリゾートで1泊この値段はさすがインドというところだけど、俺たちはこのオムビーチに300ルピーで泊まれるという宿の情報をゲットしている。
そっちを目指すことにした。
しかしこの決断があんな地獄を招くことになるとは……………
「この辺にラスタホテルってありますか?」
「ラスタホテルはこのオムビーチの反対側だよ。歩いて25分くらいかな。でもビーチウォークだからキツいよ。」
んんん………………ビーチウォークか……………
でもまぁここは一応リゾート地だ。
多分ビーチの外側に遊歩道とかあるだろう。
「頑張ってみる?奥のゲストハウスのほうが秘密の場所っぽいし。」
「そうだね!行ってみよー!!早くビール!ビール!!」
というわけで勇んでビーチへレッツゴー!!
よし!!いきなり石段!!!
ま、まずこれを降りないとビーチまで行けないのね……………
思わず顔を見合わせる2人。
「……………が、頑張ってみようか?」
「う、うん、きっとすごくいい宿が待ってるよ!!」
根性でバッグを持ち上げて、ひょこりひょこりと階段を下りていく。
ぐおお………重い…………
背中に5キロのバッグ、ギターが3キロくらい、それにキャリーバッグが20キロくらい。
カンちゃんも20キロのキャリーバッグを背中に背負い、前に5キロのバッグという、2人揃って重装備。
死ぬほど重い。
階段を下りていくと、やがて目の前に海が見えてきた。
おお!!めっちゃ綺麗やん!!!
そしてすぐ横に波打ち寄せる楽園のようなビーチが広がった!!!
うおおおおお!!!!すげええええええ!!!!
遊歩道とか1ミリもねえええええええ!!!!
びっくりするくらい手つかずうううううううう!!!!!
あまりの隠れビーチ的雰囲気とえげつない荷物の重さでテンションがおかしなことになりながら、なんとか100段くらいある階段を下りきった。
すぐ横にはこれぞ南国ビーチリゾートって感じの開放感溢れるカフェ!!!
しかもお客さんたちビール飲んでる!!!!
うおおおおおおおお!!!!!飲みてえええええええ!!!!!
よおおおおおし!!!早く宿に行くぞ!!!!
「すみません!!ラスタホテルってどこですか!!??そこですか?イヤッフォウ!!!」
「ビーチの1番端だよ。」
弧を描くビーチ。向こうが見えない。
超遠い。
な、なんなの……?
そこホテルですよね………?
なんでそんな不便なとこにあるんですか?
どう考えてもおかしいよ…………
イバラの道をかいくぐってきた者のみが泊まれる勇者のアレ的なアレですか?
そんなに知る人ぞ知る隠れた宿なのか…………
これは逆に期待が高まる。
おっぱい丸出しの美女たちがピニャカラーダ持って逆3Pしてくれる様な背徳のシークレット宿なのか。
よおおおおおし!!!気合いだ!!!!
行くぞおおおおおおお!!!!!
愚か者のすがた。
死ぬ。
マジで死ぬ。
30キロの荷物で砂浜歩くとか拷問以外の何物でもない。
しかも気温は40℃近い。
足の裏がヤケドするくらい砂が焼けついている。
汗が滝のように流れ、マジで10メートル歩いてはゼーハーゼーハーと足が止まる。
カンちゃんも汗だくでうなだれている。
でも、とにかく進むしかない。
ぐおおおおお………………
重すぎる……………
こんな砂の上でキャリーのタイヤが回るわけもなく、腕がピクピクと痙攣しそうになりながら引きずっていく。
ビーチで優雅に日光浴をしてる人たちが、俺たちのアホな姿を見て笑っている。
こ、こいつはヤバイ……………
こりゃマジで無理だ……………
すでに体力が底をつきかけているというのに、まだビーチの半分も来ていない。
ていうかビーチに牛がおりすぎで、砂浜が糞まみれ。
インドやけども!!
ビーチに牛て………………
「カンちゃん…………これは………ヤバイね…………」
「うん…………もう本当キツい……………」
ぶっ倒れそうになりながらそれでも歩を進める。
横には気持ち良さそうな海。
今すぐ飛び込みたいのに、宿はまだはるか向こう。
もうダメだ…………
俺たちも勇者の宿にはたどり着けないのか………………
逆3P……………
というところで、奇跡が起こった。
「ヘイメーン!?辛そうだねメーン!?手伝うかいメーン!?」
インド人の若者たちが声をかけてきた。
大学生らしく、友達とバカンスに来ているところだという。
「で、でもかなりしんどいから悪いよ……………」
「ヘイメーン!!固いこと言いっこなしだぜメンメメーン!!そのバッグをパスミーメーン!!」
3人のイマドキの大学生たち。
マジでインド人優しすぎる…………
これが欧米諸国だったら手を貸そうなんて人いるか?
カンちゃんと2人で何度も何度もお礼を言いながら歩いた。
しかし勇者の宿への道はあまりに過酷で、そこからもさらに遠く、大学生3人もヘットヘトになってる。
途中、人に聞いて、あそこだよと指さされた場所はめっちゃビーチのマジで再奥の建物だった。
小さくポツンと見えるその遠さに3人とも結構真顔になる。
もうすでに俺とカンちゃんは茹でダコみたいな顔になってる。
でも、行くしかない…………………
20キロのキャリーバッグを肩に担ぎながら砂浜を歩き、マジで、マジでもうあと1歩で死にさらすというところでラスタホテルの入り口にバッグを投げ捨てて口から魂放出。
それに続いてカンちゃんもぶっ倒れて魂放出。
つ、ついた………………
ビーチの端っこにある小さな海の家みたいな掘っ建て小屋…………
中でインド人の兄ちゃんがハンモックに揺られながらこっちを見ている………………
ここがラスタホテル……………
確かに壁がラスタカラー…………
こ、こんな道もないビーチの1番奥にホテル作るとか頭狂ってるんじゃないですか………?
いや、だからこそ、だからこそここにしかないイカしたホテルのはず!!
まるで映画の中のようなエキサイティングでロマンチックで冒険心をくすぐるヤバい宿に間違いねぇ!!!!
「うわあああああああああ!!!!お兄さん!!!僕たち今ナマステゲストハウスから荷物担いでここまで来たんですよ!!マジウケますよね!!いやー死ぬかと思った!!じゃあ部屋に案内してください!!さーて!ソッコーでビールからの逆3Pとしけこみますかああああ!!!!」
「クローズだよ?」
「いやああああ!!最高ですよね!!ビール飲みながらビーチボーイズのサーフィンUSAを尾崎紀世彦のモノマネで歌いながらむせて鼻からビール吹いてもイイっすか!??超楽しいいいい!!!ところで今なんて言いました?」
「だからホテルはクローズだよ。」
「あーえーいーうーえー。聞こえーなーいー、全然何言ってるか聞ーこーえーなーいー。」
「今シーズンオフだからナマステゲストハウスしかホテルやってないよ。」
「2人で~名前消~し~て~、2人で~ドアを閉~め~て~、その時~心は何かを~~、あー、ラーメン食べたいなぁ。トンコツかなぁ、家系かなぁ。」
振り返ると、あまりの衝撃に尾崎紀世彦みたいな顔になってるカンちゃん。
その向こうに、いやー!俺たちいいことしたぜ!という充実感あふれる背中で去っていく、大学生たちの後ろ姿。
20分くらい無言が続いた。
なんで誰も教えてくれなかったんだろう。
何人かに尋ねたのに。
無理。
完全に無理。
今からスタート地点のナマステゲストハウスまで戻るなんて絶対に不可能。
汗が出きって、体がマジでどうにかなりそうだ。
どんなにキツいときでも励ましてくれるカンちゃんも、今回ばかりは言葉もない。
お互いに、もうそこのヤシの木の木陰を今夜の宿にしようという言葉を耐えることしかできない。
でも…………
もう本当に、戻るしかない…………
道がそれしかない……………
ゆうべ夜行電車で疲れた体。
朝にマズいサンドイッチを2切れ食べただけなのでエネルギーもない。
でも戻るしかない…………………
30分くらいうなだれてから、根性を振り絞ってまたキャリーバッグを引きずった。
もう本当に太陽が頭を焼き、腕の力が入らなくなって、めまいがしてきて、ぶっ倒れそうになる。
あとミリで死ぬ。ミリで倒れる。
というところでまた奇跡。
「ヘイメーン!なにしてんだい!?こんなとこらで荷物運んでメーン!?俺たちが手伝うぜメーン!?」
またビーチにいたインド人の若者たちが声をかけてきた。
「……い、いや………重いから…………悪いから……………」
「カモンメーン!?ナマステゲストハウスから歩いて端まで行ったのかいメーン!?手伝うから遠慮しないでいいよメーン!!」
「…………………うううううわああああああ!!!ヘルプミープリーーーズ!!!!」
そこから若者たちに励まされ、10メートルごとに休憩して肩で息し、なんとかビーチの端まで到達。
最後の難関の100段の石段を足プルプルさせながら登りきった。
そしてナマステゲストハウスの入り口まで荷物を運んでくれた若者たち。
ハブアグッドトリップメーン!!と彼らも汗だくで爽やかな笑顔を残して去っていった。
あ、あへぇ………………
ぷへええええ。
宿の部屋に荷物を捨てて、フラフラ歩いてビーチへ。
そして波打ち際でドザエモンみたいにザバーンザバーンと波にのまれ、フラフラ立ち上がって濡れたままビーチのカフェへ。
オープンテラス席に座りタバコに火をつけ、運ばれてきたキンキンのキングフィッシャープレミアムをグラスに入れて飲み干して一言。
「カンちゃん………明日ラスタホテルに立ちションしにいこう。」
天国の日々の始まり。
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スペイン南部、カディスの宿をアゴダからとってくださったかた、どうもありがとうございます!!
あの海沿いの麗しい町のご旅行が素敵なものななることを心から願っております!