2016年4月17日(日曜日)
【インド】 アラコナム
カデルの学校でのミッションは終わった。
途中バラナシやコルカタに抜けたりはしたが、ほぼ2ヶ月このアラコナムの学校で過ごし、子供たちに音楽を教えてきた。
ドレミファソラシドもほとんど発声できないほど音楽教育が進んでいないインドの田舎の学校での授業は、最初はかなり手こずったけどその分とてもやり甲斐のあるものだった。
むしろ、先生!このト長調のフォルテシモのウンポーコはイングヴェイマルムスティーンしなくていいんですか?とか意味不明なことを言われなくて良かった。
俺でも充分いろんなことを教えることができた。
しかし、俺が本当やりたかったのはもっと、明日の飯に困ってる子供たちに音楽を教えることだ。
そのために色んなツテをあたって学校を探していたんだけど、ひとつ、とある場所とコンタクトを取ることができた。
それはここチェンナイから10時間ほど北上したところにあるビシャカパトナムという町の学校。
ここは何やら日本人と関わりのある施設らしく、生徒たちのほとんどが家庭的な問題を抱えているという。
孤児も多いそうだ。
そんな子供たちが共同生活をしながら過ごしているという。
すでに学校側と連絡も取れており、今夜の電車でビシャカパトナムに向かい、明日の朝に駅にスタッフさんが迎えに来てくれる手はずになっている。
カデルの学校でのミッションはやり切った充実感がある。
しかしコルカタでの敗北感はいまだ胸に黒い影を落としたままだ。
俺のやるべきことをやらないとインドに来た意味がない。
リコーダー、タンバリン、鍵盤ハーモニカをバッグに詰め込み、カデルに駅まで送ってもらった。
カデル、サンキュー。
また数日後に戻ってくるから。
チケット買うのにくっつきすぎ。
ローカル電車に乗り込み、カンちゃんとくっついて席に座る。
いつものようにフレンドリーなインド人たちはニコニコしながら話しかけてくる。
暑い熱気が充満する車内。
開け放たれた窓やドアから吹き込む風は熱風で、うだるような暑さだ。
カデルの話では現在この南インドに数十年ぶりという記録的な熱波が襲いかかってきているらしい。
うんざりするほど暑いのに、気持ちはかなり穏やかだ。
それは間違いなくカンちゃんがいるから。
1人旅と2人旅では気持ちの持ちようがまるで別物。
旅の孤独を味わうためには1人旅がいいけど、心に余裕を持つには2人旅。どちらも美しい。
トイレに行くにも、わざわざ狭いトイレ内に全ての荷物を無理やり持って入ることもないし、宿を探すときでも1人にカフェかどっかで荷物番をしててもらって手ぶらで回ることができる。
辛いことも悲しいこともムカつくことも2人だったら分け合うことができる。
自分だけで全てのミッションをクリアーしていかないといけないあの1人旅とは全然違う。
冒険感はないかもしれないけど、それでも初めての本格的な2人旅。
想像しただけで楽しくたまらなくなる。
ていうかキュウリ食べ過ぎ。
「ほらカンちゃん見てごらんー。あのおじさんむしゃむしゃキュウリ食べてるねー。」
「そ。キュウリ好きなの。」
「キュウリがヒゲについてるねー。」
「そ。わんぱくなの。」
ニコニコしながら見てたらおっちゃんがキュウリ食べる?ってキュウリくれた。
というわけで俺たちもみんなに混じってキュウリむしゃむしゃ。
チェンナイの駅に着き、ビシャカパトナム行きの夜行電車に乗り換え。
インドの今の時期はホリデーシーズンなので電車の空きが少なく、3Aクラスの席しか取ることができなかった。
でもおかげでエアコン付き寝台での快適な移動だ。
ところで、この電車のチケットは俺がお金を払っている。
ふと思うんだけど、カップルや夫婦で2人旅をしてる人たちってお互いの日々の旅費ってどうしてるんだろう。
電車のチケットなんかでも、それぞれの財布から出してるのかな。
俺とカンちゃんの場合は旅先で稼ぐスタイルなので別にどっちのお金ということもない。
ひとつの財布からお金を出していくことになると思う。
でもカップル旅だったら、日本でそれぞれが稼いだお金を使っていく形だろうから、どうしても差が出てくるんじゃないかな。
お互いに買いたいものも変わってくるだろうし。
そうしてどちらかが先にお金が尽きてしまった場合ってどうするんだろ。
夫婦の旅だったらひとつの財布になるのかな。
お金の使い方が違ったら喧嘩の原因とかになりそうだなぁ。
女の子はいいホテルに泊まりたい。
男は節約のためにも安宿に泊まりたい。
男の子は本場のスタジアムでサッカーの試合を見に行きたい。
女の子は興味ないからカフェでお茶したい。
意見が分かれることって必ずあると思う。
よほど気が合わない限り、どちらかが我慢して譲らないことには旅は続いていかないよなぁ。
「私たちも喧嘩するのー?」
「ねー。2人で稼いでるのにカンちゃんの方がお金たくさん使ってる!!つって。」
「そんなことない!フミくんも使ってる!!」
「カンちゃんは化粧品とかいっぱい買うやん!!俺は化粧品いらないし!!」
「フミくんだってギターの弦とかハーモニカとか買うやん!!高いやつ!!」
「それは路上で稼ぐために必要なものだから仕方ないやん!!」
「じゃあ私がお化粧しなくなってシミだからけの真っ黒に日焼けしたらフミくん嫌やろ!!」
「とりあえずこっちでご飯食べようよ。」
「うん食べるー。」
寝台列車の小さな1人用のベッドで2人でくっついて横になった。
1人でも狭いくらいなのに、そこに折り重なって2人で寝る俺たちを見てニコニコしてるインド人たち。
電気が消されて真っ暗になった車内で毛布をかぶった。
2人での旅も色んな苦労があるだろうけど、カンちゃんとなら全てを楽しめると思う。
2人で美味しいものたくさん食べようね。