2016年4月2日(土曜日)
【インド】 コルカタ
朝、パッと目を覚ますと、夜が明けていて、どこか知らない町にたどり着いていた。
ゆっくりと動いているバス。
ここはどこだろう。
ていうかおかしなことに気づいた。
バスに乗客が誰も乗っていない。
俺しかいない。
そんなことあるか?
寝ぼけながらも運転手さんに今どこですか?と聞いたら、驚いた顔をされた。
なんでまだいるんだ!?といった表情。
どうやらここは終点のベナポールで、もうすでに全員乗客は降りて今から帰るところだったみたい。
俺がシートを倒して寝ていたから姿が見えてなかったようだ。
危な!!
急いでバスを降りて、ふぅと一息。
朝の国境の町は静かな活気が漂っていた。
たくさんのバスがバングラデシュ中から到着してはゾロゾロと人が降りてきて、みんなトゥクトゥクやリキシャーに乗って国境へと向かっていく。
この前来た時は感じなかったけど、この国境の人たちはそれなりに旅行者相手に金を稼いでいるがめつい雰囲気が漂っていた。
「イミグレーション!!イミグレーション!!」
1人のチンピラっぽい兄ちゃんが声をかけてきた。
俺のことを先導し、荷台のついたリキシャーにつれていく。
「国境までいくら?30タカ?」
「オーケー!!30タカ!!ノープロブレム!!」
国境までは歩くと30分くらいなので30タカ、45円くらいかなと思ってテキトーに言ってみたけど、もっと安かったかもしれない。
10タカくらいで行けるんじゃないかな。
リキシャーに乗ると、チンピラ兄ちゃんも一緒に乗り込んでくる。
「イミグレーション、シール!!パスポートパスポート!!1000タカ!!オーケー!?」
何か一生懸命俺に言ってくる兄ちゃん。
英語をほとんど喋れないけど、単語から想像するに、出国の手続きを代わりにやってあげるよ!!1000タカで!!という国境付近によくいるパターンのやつだろう。
1400円て。高すぎだろ。
「オーケー!レッツゴー!!マイオフィス!!」
しばらく走って国境近くまできたところで兄ちゃんが俺の肩を叩く。
リキシャーが止まり、あそこがうちのオフィスだからそこでパスポートの手続きをやっちゃおう!!カモン!!と言う。
うん、リキシャーのお兄さん、たのんます。
リキシャーの運転手も苦笑いしながらまたペダルをこいでくれ、チンピラ兄ちゃんを残して走りだした。
こんなやり口でパスポートの手続き代行してもらうアホがいんのかな。
リキシャーは国境の前で止まった。
お金を払おうと財布を見たら24タカしかしなかった。
あとは1000タカ札しかなのでお釣りは絶対もらえないので払ったらいけない。
するニヤニヤしながら兄ちゃんが指を4本立てた。
40タカと言ってる。
はあ?と言うと、今度は5本立てた。
50タカと笑ってる。
もう………バングラデシュ人、ボッタくるの下手だなぁ( ^ω^ )
値段下げていくなら分かるけど、増やすってどういうことだよ。
40タカ……いや、もしかしたらもっとくれるかもしれないから50タカって言ってみよう!!
ってのが丸出しで、しかも恥ずかしそうにニヤけてるのが可愛らしい。
すまん、これしかないわ、と24タカを渡すと、オッケーだよ!!バイバイ!!と笑顔を残して去っていった。
国境のイミグレーションに入ると、まぁ相変わらずユルい雰囲気で、どれが職員でどれが旅行者で、どれがただの近所の暇人なのかわからないくらい人がテキトーに入り混じってる。
俺を見ると、チンチョンチャン~~とカウンターの横でたむろしてるオッさんたちが言って笑ってくる。
その後にハウアーユーカントリー?って聞いてくる?
中華系の顔のやつにチンチョンチャンって言ってくるクソに、わざわざ日本って説明する気もにもならない。
ていうかハウアーユーカントリーってなんだよ、知らねぇよと思いながらすぐにカウンターにパスポートを出すと、カードを渡された。
入国カードだ。
出国するのにまた入国カードを書くのかよ。
面倒だなぁと思いながら書いていると、そこに周りのオッさんたちがゾロゾロ集まってきて、書いているカードを覗き込んでくる。
イライライライラ……………
人の個人情報のぞきこんでんじゃねぇ。
ムカつくので荷物をガバッと持ち上げて人ごみをかき分けて離れたところに行きまたカードを書く。
フゥーウ、怒ってるぜーみたいなジェスチャーをしてるオッさんたち。
やっぱり国境の人間は旅行者に慣れてるから下品だ。
カードを出すと、今度は金を払ってこいと言う?
は?そんなんあるのか?
見ると、他の旅行者たちもみんなパスポートに領収書みたいな紙を挟んでいる。
これは例外なく全員みたいだ。
ていうか初めから言えよ………ってイライラしながら来た方向に戻って建物の反対側に回り、看板も何もないカウンターに行くと500タカだと言われた。
しかし俺はさっき換金所でバングラデシュの残ったお金を全部インドルピーに替えてしまっている。
だったら500ルピーね、とおじさん。
500ルピーは590タカだ。
でもこれは現地通貨で払わないのがいけないと諦めるしかない。
バングラデシュの出国税、710円。
領収書を持ってカウンターに戻ると、ようやくスタンプを捺してもらった。
やっと出国できると思ったら、今度は逆方向に戻って、向こう側にあるカスタムオフィスでスタンプをもらって来いと言う。
だからよー……………
……………なんでもっとスムーズにできないのかな…………
あっち行ってこっち行って、また戻って、またあっち行って……………
チェックポイントが順路沿いに並んでいれば流れるだけでいいのに、みんな旅行者が近くに来ててもくっちゃべって遊んでるし、マジでヤル気ゼロ。
テロが起きてる国の国境とは思えんわ……………
やっと建物を出たら今度は長蛇の列ができている。
ゲートのところで警備員さんが再度スタンプの確認をしている。
朝は国境を越える人が多いみたいだ。
俺もそこに混じって待ち、ようやく俺の番になる。
すると、オーウ、ジャパニーズだぜー!と喜びだし、周りの警備員たちも集まってきて俺のパスポートを見て遊んでいる。
「日本はどこに住んでるの?」
「どんな音楽やるの?」
「バングラデシュ好きだった?」
質問されるのは国境ではしょうがないことだけど、完全に暇だから遊んでるだけだ。
俺の後ろには長蛇の列が続いている。
それなのにずっと俺に質問をし、ギターを触り、パスポートの他の国のスタンプを笑いながら見てる。
ヤル気ねぇなぁ………………
というわけで国境越え。
バングラデシュ、色々あったけどいい思い出ばっかりだよ。
またいつかISのことが落ち着いたら、もっとゆっくり遊びに来る!!
人々のピャアさが失われないことを祈るばかり。
インドに戻り、イミグレーションカウンターへ。
俺はマルチのビザを持っているのでなんの問題もないので鼻ほじりながらカウンターにパスポートを出したら綺麗に別室行き。
な、なんでぇ!!!??
どうやら、インドではなにしてるの?という質問に、友達の学校で音楽教えてますと答えたのがいけなかったようだ。
ツーリストビザでは働くことはできないんだよと。
うん、イミグレーションで余計なこと言ったらダメだね。
別室で、これは仕事ではない、お金ももらわないということを説明すると、さらに奥の部屋に連れて行かれる。
なにやらお偉いさんの部屋に通されると、中には小太りの可愛いおじさんが座ってて、しばらくおじさんのベンガル語の歌をマンツーマンで聞かされるという謎の時間を過ごしてから開放された。
なんの時間だったんだろう……………
なにはともあれ、これで無事バングラデシュから戻ってきたぞ。
最後に一言。
これを読んだみなさん、現在バングラデシュに行くことはオススメしません。
日本人がリキシャーに乗ってて射殺されています。
イタリア人がジョギング中に殺されてます。
海外のジャーナリストも何人も殺されてます。
海外で事件に巻き込まれるのは運でしかないです。
実際5日過ごしてみて、バングラデシュはとても平和な国だと感じました。
人々もとても優しいです。
良いところです。マジで。かなり好き。
でもやっぱり行くのはやめときましょう。
直感で、そう感じます。
いつか本当に安心して行ける日が来るのを心から祈ります。
イスラムというだけで恐れられるこの時代が早く終わらないかな。
インド側からまずはボンガアンの駅までシェアオートで向かう。
25ルピーって言われた。いや、来た時の半額やん。
来た時50ルピーでも安いなぁって思ったのに、実は倍の値段だったりするからインドの乗り物はわからん。
まぁ自分が納得できればそれで良いんだろうけど。
20分ほどでボンガアンの駅に着いたら電車に乗ってコルカタ市内へ。20ルピー。34円。
刻んだらコルカタとダッカは900円で行けるってことだ。
電車の中は土曜日ということもあって死ぬほど大混雑。
オッさんたちと嫌ってほど体を密着させるんだけど、バングラデシュでから戻ってきて気温が一気に上がり、みんな汗だくだ。
気持ち悪くてしょうがない。
2時間ちょいでドムドムという駅に着いたら地下鉄に乗り換えて、あとはパークストリートまで1本。
やっとのことで見慣れた町まで戻ってきて、そのままサダルストリートの定宿、マリアホテルに着いた。
3月の忙しいシーズンが終わったことで部屋はだいたい空いており、1階のシングルルームに案内された。
日本人の姿も結構ある。
案内された部屋には見覚えがあった。
離れの建物の1番奥。
トイレの横の薄暗い通路にあるこの独房のような個室。
汚いベッドがひとつ置いてあり、壁は無数の落書きが埋め尽くしている。
ここに泊まってきた旅人たちが残していったものだ。
天井にはファンがぶら下がっている。
これ……………
あの時の記憶が少しずつ蘇っていく。
確かここだったよな、と思い、壁の落書きを見渡していると、それはあった。
「エブリアンサーインユアハート」
あの時、ブッダガヤからの電車の中で財布をスラれ全財産を失い、たどり着いたコルカタで死に物狂いで歌って手に入れた金で転がりこんだこの部屋。
体調はズタボロで、汚れきった体をベッドに横たえた時、この落書きが目に入った。
全ての答えはお前の中にある。
知るかボケ、って思いながらも、今考えればその安っぽい言葉がインド人とのやり取りで疲れ切ってきた俺を奮起させてくれた覚えがある。
この言葉があったからこそ、俺はまたインドに来たのかもしれない。
答えが見つけられなかったから。
あれから3年。
今この部屋にまた入ったことにはきっと何か意味があるはず。
ひと眠りし、シャワーを浴びたらギターを持って宿を出た。
俺のやるべきことに出会わせてくれ。
まだ答えは見つからない。