2016年3月16日(水曜日)
【インド】 アラコナム
「フミ、今日は授業は休みにしよう。毎日ずっとやってると子供たちも疲れてくるからね。フミがベロールから戻ってきて月曜日から再開しよう。そしたらまたリフレッシュしてスタートできるからね。」
ここ最近、翼をくださいガールズだけでなく幼稚園児にも低学年の子供たちにも歌を教えていたので、1日中授業をやっていた。
子供たちはみんな懐こくて、今も俺を見かけると大声でフミーーー!!!と手を振ってくる。
でもさすがに毎日毎日授業をやっていて、飽きてきてるなとは感じていた。
なんでも最初は飽きるもの。
ギターでもベーシックなコードをひたすら練習することから始まる。
そしてFコードという壁にぶち当たって、大半の人はそこでギターを諦める。
それでもコードをひたすら弾きまくって、指から血が出ても弦を押さえ続けて、1週間くらいして指先の皮が分厚くなってきたころに、いきなり、あれ?となる。
コードチェンジが早くなるのだ。
それまでは左手を見ながらまごまごと場所を確認して、やっとポジションを押さえられるって感じだけど、いつの間にか指が自然とコードの形になっていく。
体が覚えるってやつ。
そしてFコードを押さえられるようになった時からギターが楽しくなっていく。
それまではこんなことになんの意味があるんだ?って感じだ。
このモチベーション。
痛い思いやコードを押さえられないもどかしさにギターをぶん投げたくなりながらも続けるモチベーションはみんなそれぞれ。
俺の場合は中学の時の先輩がギターを弾いてて女子にキャーキャー言われてたから。
ああなってやる!!と思って家にあったお父さんのギターで練習を始めた。
一生懸命コードの練習をして、そして今に至る。
なんでも最初は辛い。
出来なくてもどかしい。
それを乗り越えた時に本当の楽しさが待ってるんだけど、
まぁ乗り越えるまで続けられるモチベーションがなかったらやめてしまうんだよな。
そしてモチベーションのないやつに教えるのはとても難しい。
というわけで今日は1日授業はなし。
カデルが何やら生徒たちの写真を撮っているのを見ながら新しい曲の練習をした。
明日から少し出かけることにしている。
このアラコナムから内陸に電車で1時間ほど行ったところにベロールという結構大きな町がある。
そこからさらに20キロほど田舎に走ったところにある学校に行く予定だ。
なんでそんなところに行くことになったのか。
話は2週間前に遡る。
この前まで俺とショータ君に会いにインドに来てくれていたカッピー。
日本音楽界の重鎮たちから漫画家の先生まで、人脈が人間の毛細血管くらい半端ないこの男はなぜかインドにも友達がたくさんいて、カッピーはそれらの友達にも会いに行っていた。
その友達の中の1人が、ベロールの学校にJICAで派遣されている。
JICAとは、ジャパンインターナショナルコーポレーションエージェンシーの略だそう。
漢字だと国際協力機構。
主旨は、日本及び国際経済社会の健全な発展の促進。
そして開発途上国への技術協力、ということらしい。
こういう海外で慈善活動的なことをしてる団体のことなんて全然知らんけど、なんとなく聞く話では、発展途上国に行って、工業系の技術指導をしたり、農村で作物を作る指導をしたり、学校で教育をしたりとか、そんなことしてるイメージだ。
その女の子が派遣されている学校はなにやら貧しい子供たちのための学校らしく、カッピーが俺の話をしたところ、リコーダーを少し分けてもらえないかということになったのだ。
資金面でかなり厳しいらしく、物資や人材が不足しており、一般的な数学とか歴史とかの授業以外の情操教育がほとんど行われていないとのこと。
そのJICAの女の子はもしリコーダーを分けてもらえたら学校で大事に管理して教育に役立てていきたいということを言っていた。
インドに来てからずっと考えてる。
この日本で集めてきたリコーダーの使い道を。
カデルの学校に来てインドの教育事情を聞き、コルカタに行ってストリートチルドレンたちと触れ合い、前回のインドで感じた思いが少しずつ変わってきているのを自分自身、認識していた。
ストリートチルドレンに音楽を教えて稼ぎを助けてやりたい、そう思ってリコーダーを集めた。
しかし今回インドに来て、前回よりも深くその部分に足を踏み入れた時に見えたものは、俺なんかの薄っぺらい正義感が空回りする実情だった。
物乞いというものに対して免疫が出来てきてるのかもしれない。
彼らは風船やガムを売ってそれなりに稼ぎ、この国の一部としてたくましく、楽しそうに生きている。
物乞いをしてる子供でも昼間は学校に行ってるやつもいる。
現在、インドでは就学率がうなぎ登りに上がっているそう。
その大きな要因として、学校では無料のご飯が出るらしい。
貧しい家庭だったら教育費も免除されるし、さらにご飯も食べられるんだから食費の節約になるし、ドンドン学校行け!となる。
インドはインドで教育に対して様々な努力をしている。
そこに俺が入っていき、路上で稼ぐスキルを上げさせるのはどうなんだろう。
これがヨーロッパなら話は違うけど、インドで子供が音楽を演奏しても物乞いの一部にしか見られないんじゃないだろうか。
もちろんそんなことは前回の時点で考えたけど…………
物乞いや世界の貧困に対して、それも世界の一部と思っている俺は、ものすごい冷血な人間なんじゃないだろうか。
いくらインドが急成長して教育の充実を図っていたとしても、まだまだこの国にはズタボロの生活をしてる子供たちが星の数ほどいる。
その存在を知りながら、みんな高いご飯を食べて、いい車に乗って、大きな家を買って、でかい液晶テレビを見てる。
それが悪いとは言わない。
世界のみんなが幸せになれるように分かち合いましょう、なんてやってたらこの世界は均衡を失う。
でも、なんか出来るよなぁ。
なんか出来るはず。
マザーテレサとか、そんな偉大な人たちが人間の美しさを教えてくれている。
明日、その貧しい人たちのための学校に行き、JICAの人から実情ってやつを聞いてこよう。
そしてこのリコーダーの1番有意義な使い道を考えないとな。