2016年3月13日(日曜日)
【インド】 アラコナム
学校、休み。
やることない。暇。
カデルと部屋でネットしてたけど暇だから2人で外に出て、グラウンドを散歩。
端っこのほうで何人かの子供たちがクリケットの練習にきていて、ボールをぶん投げている。
ラケットに当たってカーンという乾いた音が聞こえる。
仲良しの先生たちは今日は用事で町に行っていて誰もいない。
暇だ。
マジでやることもなく、カデルと日陰のベンチに座ってあーだこーだ喋る。
今日も暑くて、最高気温40℃とかiPhoneに表示されてやがる。
暑すぎる………………3月なのに……………
「カデルー…………インド人って休みの日は何してるの?カラオケとかないの?」
「カラオケなんていいホテルにあるかないかくらいだよ。みんな行かない。」
「じゃあみんな何するの?」
「あれだよ。」
そう言ってグラウンドの端っこでクリケットをやってる子供たちを指差す。
カデルはいつも、クリケットなんて超つまんねー、意味わかんねーと言ってる。インド人なのに。
「ショッピングは?」
「インド人はショッピングは好きだよ。ただみんな買うのはゴールド。ザッツイット。」
確かにインド人は金が好きだ。
「シネマ、クリケット、クリケット、シネマ、バイゴールド、アンドダイ。ザッツイット。」
極端すぎるカデルに大笑い。
2人の笑い声がグラウンドに響く。
「ゴールド以外にもブランド物とかは買わないの?この前妹のハニーに買ったバッグ、あれ400円だったじゃん。もっと高いのが欲しかったりしないの?」
「インド人には400円のバッグもルイヴィトンも同じだよ。チェンナイにルイヴィトンのお店があるけど10万円のバッグなんて愚か者が買うものだとみんな思ってるよ。それよりみんなゴールドだよ。ゴールド、ゴールド、クリケット、シネマ、クリケット、ゴールド、アンドダイ。ザッツイット。ヒャッヒャッヒャ。」
国によって物の価値観なんてバラバラで当然だよな。
あー、このクソ暑いのに蝉の鳴き声がしないのが不思議だな。
片手に麦茶のコップくらい持ってそうなのに。
そう感じてしまうくらい、カデルとは昔からの友達のように自然体でいられる。
こんなに遠く離れた場所で生きてきたのに。
やることないと言っても、本当はやることなんて腐るほどある。
今後に向けてレパートリーをどんどん増やしていきたい。
この前コルカタで歌っている時にブルーノマーズをやってよ!と若者に言われたんだよな。
しかし残念ながらブルーノマーズはやっていないし、やる予定もない。
俺が好きな音楽はフォークだ。
60~70年代のカントリー、ロック、ブルースをずっと聞いてきた。
ビートルズやストーンズ、CCR、ニールヤング、ボブディランとかその辺り。
やってる曲は全部この辺りのオールディーズ。
最近加えた新レパートリーはCCRのLodi。めっちゃいい。
知ってる人は少ないだろうけど俺は大好きな曲だし、オールディーズ好きの人ならニヤリとくるやつだと思う。
まぁ新レパートリーと言っても昔やってたんだけどね。
今歌うとめっちゃ気持ち入るし、やってて気持ちいい。
やっぱりそういう曲をやりたい。
別にブルーノマーズが嫌いなわけじゃない。
むしろすごくいいと思う。
あのピアノ1本で弾き語りやってるバラードとかマジで痺れる。
そしてブルーノマーズとかジェイソンムラーズとかその辺の流行りの歌をやればウケるのはだいたい想像できる。
日本でいったらゆずとかコブクロみたいな感じだ。
でも日本でも俺は吉田拓郎やかぐや姫をやってた。ゆずとかコブクロはめっちゃリクエストされるけど断ってる。
単純に古い曲が好きなんだよな。
好きなことやって生きてるんだ。
これが俺のスタイルだ、とかじゃなくて、好きな曲を歌わないと気持ちも入らん。
そんな話をカンちゃんにすると、フミ君にジェイソンムラーズとかチャラい歌うたって欲しくなーいって言われた。
本当カンちゃん好き( ^ω^ )
い、いや、ゾロさんのこと批判してませんよ!
何がウケるのかきっちり分析して実践して確実に稼ぐ。
僕なんかよりよほどプロ意識あります。
というわけで北欧に向けてオジーオズボーンのグッバイトゥロマンスを練習しましょうか。
ふ、ふざけてないし!!
本当いい曲。ずっとやりたいって思ってた曲なんだよな。
ランディローズのギターがマジで泣けるなぁ…………
国民の99パーセントがオジーオズボーンは神だと思ってる北欧なら間違いなくウケるはず!!
あとはタミルナドの曲も練習中。
Nenjukkule peidhidumって曲。
もう本当読めない。
なんなのネンジュックルペイディドゥムって?
歌い出しが、
ネンジュックルペイディドゥムマ~マレ~イ~
ニ~ルックルム~ルギ~ドゥムタ~マレ~イ~
です。激ムズです。
発音が独特すぎて言えないし、そ、そこから下げる!?みたいな人生でやったことのない音程の変化球くるし、結構苦戦してる。
でもこれをマスターしたら世界中でインド人に喜んでもらえるだろうなぁって思ったらカデルが一言。
「え?これはタミルナドの歌だよ?他の州ではみんな知らないよ。」
なんなの!?州によって言葉が完全に変わるとかインドなんなの!?
「ワオ!!フミ!!これ見て!!すごいぜー!」
いきなりカデルが笑顔で喜びだしたので、なんだ?とカデルのiPhoneを見てみると、昨日の敬老の日で歌った翼をくださいガールズと俺の写真がタミルナドの隣の州の新聞に載ってたらしい。
おお、結構嬉しい。
「やったね!で、これ俺たちのことなんて書いてるの?」
「え?わからないよ?全然違う言葉だもん。でも63って数字が書いてあるから63ヶ国ってことだろうからフミのことだろうね!」
隣の州の言葉がエイリアンの言葉並みにわからんないよ、と言うカデル。インド!!
じゃあこのネンジュックルペイディドゥムを覚えてもタミルナド人限定じゃねぇか…………
まぁいい曲だからキッチリ覚えてアレンジするけどね。
「よし、フミ、ちょっと出かけようぜ。ギターマスターのところに行こう。」
お昼ご飯を食べてからカデルの運転する車に乗り込んで久しぶりに外出した。
日曜のアラコナムの町はとても賑やかで、日曜限定のチキンのお肉を販売するお店があちこちに見られる。
他の州はどうかわからないけど、このタミルナドは基本お肉は日曜だけ解禁なんだそう。
店先でチキンをバッコバコさばいているけど、衛生とかそんな概念ほぼないんだろうなぁ…………
埃が舞いまくっている道路ぎわで捌きたての肉が無造作に置かれて売られている。
さらにビビるのは、鶏だけじゃなく、他の色んなお肉も売られていること。
地面に鳩とかカラスを並べているのを見たときはさすがに絶句した。
カラスって食えるんだ………………
「あー、うん。田舎ではたまに食べる人いるよ。ネズミとか、ウサギも。」
「へー、牛はもちろんダメだよね?豚も。」
「牛の肉は犬にあげるものだね。」
「他の肉は?鹿とかは?」
「え?日本人って鹿食べるの!?インドで鹿を食べたら刑務所だよ。鹿は他の動物たちを守る神聖な存在だからね。」
象とかトラを食べてもインドでは刑務所行きらしい。
うーん、厳しいのかなんなのかよくわかんねぇ。
アラコナムの町の雑踏を抜け田舎のほうへと走っていくと、しばらくしてギターマスターがバイクで待っててくれていた。
ギターマスターが先導する後ろについて走っていく。
バイクは脇道に入り、どんどん田舎のほうへと進んでいく。
民家がなくなり、隣には田んぼが見える。
のどかな田舎の一本道をのんびり走った。
やがてバイクは農地の横のスペースに止まった。
ギターマスター、そしてピアノマスターに挨拶。
ギターマスターはこんな遠いところからわざわざ学校に来てるんだな。
魚が食べたいと言っていた俺の言葉を覚えててくれて、昨日俺のために魚を料理して持ってきてくれた優しいギターマスター。
本当、笑顔の柔らかい素敵な人だ。
昨日、ギターマスターの家の田んぼが収穫の日だったようで、空き地の脇に大量のお米がストックされていた。
インドのお米は1キロ50ルピーくらいだそうだ。80円くらい。
日本の米に比べて細長い形をしているということはデンプン質が少ないということかな。
それで米自体の甘みがあんまりないんだろう。
ていうか3月に米の収穫て。
これが二期作ってやつなのかな。
「フミ、ココナッツをとってきてあげるからね!!」
そう言って田舎の若者がそこらへんに生えてるヤシの木に向かっていく。
そして黄色いロープを肩にかけてヤシの木の幹にしがみついて両手両足を上手く使いながらスイスイと登っていった。
こんなの日本だったら危なすぎてとてもできないけど、インドの田舎ではごく当たり前の光景なんだろう。
7~8メートルはあるヤシの木に登ったら、葉が生い茂る中に潜り込み、ココナッツが実っている部分にさっきの黄色いロープを縛りつける。
そしてロープを他の枝に固定したら、鉈でゆっくりと枝を切る。
するとココナッツがたくさんくっついた枝が切り離されてロープで宙吊りになった。
ゆっくりとロープを下に下ろしていき、下で待っていた人がロープを外す。
こうして収穫するんだな。
大きな木だと1回で50個ものココナッツがとれるんだそうだ。
ヤシの木の上から手を振る若者の笑顔がとてもハツラツとしていて素敵だった。
これ懐かしい。
投げ合って遊んだよなぁ。
これも懐かしい!!
「さぁフミ!!飲んで飲んで!!」
収穫したココナッツを手に持ったまま器用に鉈で削っていくと、やがて実の中心に達してそこからジュースが溢れてくる。
ココナッツの中には見事なまでに綺麗な天然の水分が入っており、人々の飲料水になっている。
味は少し青臭いんだけど、ほのかに甘みがしてこれぞ南国の味わいって感じだ。
前に初めて中国で飲んだときは、マズくてとても飲めたもんじゃなかったけど、こうした暑い地域のココナッツはとてもいい飲み物だと思う。
ちなみにこのストロー。これってそこら辺に生えてる植物の茎。
マジで全てが天然だ。
ひとつに300~400mlほどのジュースが入っており、飲み終わったら今度はその空のココナッツをカパッ!と鉈で割る。
するとさっきまでジュースが入っていた空洞の周辺に白いプルプルした固形物がくっついており、これを手にとって食べる。
これがナタデココなのかな?
味はとてもナタデココみたいな甘いのもんじゃなくて、無味の寒天みたいな感じだ。
あんまり美味しくないけど、みんなパクパク食べている。
「フミ、ココナッツは本当に体にいいものなんだよ。体を冷ましてくれるし、戦争時代の物資が足りないときには点滴として人体に使用されたりしてたんだ。」
なにやらココナッツのジュースは生理食塩水の代わりに使われていたものなんだという。
南国地域で良く飲まれているのがよくわかる。
そこらへんに天然の健康食品が実ってて、それを当たり前に口にして、本当田舎の人たちの自然と共に生きる姿に感動を覚えるよ。
「前にテレビで見たんだけど、インドネシアかどっかに歯でココナッツをむく人がいたけどあれはすごかったなぁ。」
「え?そんなのここらへんにいくらでもいるよ?」
さすがはインド…………
ちなみに町で売られているココナッツはひとつ20ルピーとかだ。30円。
もっと冷やして砂糖を足したらすごく美味しく飲めるだろうな。
でもやっぱり収穫したては格別の味わいだ。
「とってきてくれてありがとう!!すごく美味しいよ!!」
若者にそう言うと、笑いながら首を振る。
タミルナドの人たちは、どういたしましてという表現で首を横にフリフリと傾ける。
それがとてもユニークで面白い。
こんなアラコナムという田舎の、さらに農村部に入った小さな田んぼで暮らす人たちと触れ合えているこの状況がとても不思議だった。
カデルがいなきゃ絶対に来られてないし、こんなにも人々の中に入って行くこともできてない。
友達の友達ということで、みんなが受け入れてくれて、おもてなしをしてくれている。
こんな謎の東洋人を。
人間はみんな、どこに行っても同じだよな。
うろ覚えのタミルナドの歌を歌うと、スーパー!!といって拍手をしてくれた。
刈り終えた草の匂いがふわりと香る。
牛とヤギに囲まれて、みんなでココナッツを飲んだ。