2016年3月12日(土曜日)
【インド】 アラコナム
今日の気温、37℃。
まだ3月。
これから夏になったら45℃とか超えてくるらしい。
人間が住む気候じゃねぇ(´Д` )
マジで家から外に出た瞬間、頭がクラクラしてくる。
太陽の威力が半端じゃない。
しかしこんな灼熱地獄だというのに学校にエアコンはない。
扇風機のみ。
「あああ!!今日も暑すぎる!!!カデル!!日本はまだ雪降ってるぞ!!」
「おいおい、これくらいで死ぬとか言ってたらドバイに行ってどうするんだ?ドバイは50℃とかになるんだぞ?外で路上するなんて自殺行為だよ。」
ドバイ稼げるかなぁっていうかまず路上やったら体がもちそうにないな…………
一応チャレンジしてみるけど……………
そんなギラギラと太陽が照りつける土曜日の学校だけど、いつもと少し様子が違う。
カデル家族はみんないつも以上に綺麗な服装に身を包み、正装をしている。
カデルも昨日は町の美容室にヒゲを剃りに行っていた。
気合いを入れるときはちゃんと美容室で剃ってもらうのが男のたしなみってやつだ。
今日はカデルの学校の敬老の日。
生徒たちのお爺ちゃんお婆ちゃんが学校にやってきてセレモニーが開催されるのだ。
すでに朝からゾロゾロとお年寄りのみなさんが集まってきている。
先生たちもみんな大忙しだ。
俺も髪の毛もすっきりなでつけ、ヒゲを剃り、持ってる1番綺麗な服を着る。
そしてずっとバッグの中にしまっていた革靴を履いたらカデルやママがいいね!!と言ってくれた。
今日は俺にとっても晴れ舞台だ。
なんせ初めての翼をくださいガールズのお披露目。
カッコよくきめなきゃな。
子供たちも気合い入ってる。
お気に入りの生徒のニラ。可愛いよ!!
大きな部屋の中には椅子がズラリと並べられており、前方に軽いステージが組まれている。
ここがメイン会場だ。
みんなで大きな看板を貼り、マイクチェック。
俺もきっちりギターのチューニングをして、準備を終わらせる。
しばらくしてお爺ちゃんお爺ちゃんたちが教室の中に入ってきて、椅子は後ろの方まで埋まった。
もれなくみんなインド人。
アジア人とか欧米人なんて1人もいない。
その分、俺に注目が集まる。
セレモニーはまず何かの燭台に火が灯されるところから始まった。
天才カトリーンのスピーチで会が始まると、たくさんの出し物が披露された。
おめかしした女の子たちによる国歌斉唱。
タミルの歌。
小さな子供たちのあどけないスピーチ。
そんなほのぼのした内容にお爺ちゃんお爺ちゃんたちから笑い声があがり、みんなニッコニコでとてもいい空気。
その柔らかい表情は、コルカタなんかの北インドの喧騒の中で見る荒んだ絶望に満ちたものではない。
我が孫の成長を見守るとても穏やかなもの。
これが当たり前なんだよなぁ。
今度は伝統衣装に身を包んだ女の子たちによるタミルナドの伝統舞踊が行われた。
手のなめらかな動き、指先の不思議な形はとてもインド的で、よく日本でも見る、首を水平にクイクイッと移動させるあの独特な動きももちろん入っている。
ニラが俺の方を見て恥ずかしそうにニコリと笑う。
ニラ!いいぞ!!
素敵だぞ!!頑張れ!!
踊りが終わると大きな拍手が会場から起こった。
男の子のスシの耳をいじって遊んでたらカデルが肩を叩いてきた。
「よしフミ、次が出番だよ。」
よっしゃきたぞー。
この学校で音楽を教え始めてからの10日間の成果をバッチリ見てもらおう。
謎の日本人が住み着いているのは知ってるけど、どんなことしてるんだ?って思ってる人も中にはいるはず。
今日来ているお爺ちゃんお婆ちゃんたちにとったらあいつ何者だ?って感じだよな。
ちゃんとやることやってるだぞってのを発表しないとな。
まずは3歳の幼稚園児チームがゾロゾロと入ってきてステージに上がった。
みんな綺麗な服を着てモジモジしてて可愛い。
細かいことはいいから大きな声で元気いっぱい歌おう!!
まだ1番の歌詞と2番の歌詞がごちゃ混ぜになってて覚えきれてないけど、まぁなんとか歌いきることができた。
可愛いからオーケー!!!
でもこのままだとなんか変な歌を教えてる変なやつってイメージしか残らんから翼をくださいガールズ頼む!!!!
ビシッと決めていいとこ見せるぞ!!
そして教室に入ってきた翼をくださいガールズ。
カトリーン、カニモリ、ニラ、みんな真剣ないい表情だ。
司会の男の子が俺のことをタミル語で何やら紹介してくれている間、みんなに近づいていってアドバイスした。
「みんな緊張してる?してるならそれはいいこと。それがいい歌を歌わせてくれる。よし、大きい声でいこう。大きいけどそれを押さえ込みながら、自分の声をしっかり聞いてね。」
「イエス!!」
シーンと静まり返る教室。
ゆっくりとギターを鳴らした。
みんなに合図を出すと、ピタリと綺麗に歌い出しがキマった。
よっしゃでかした、と思いながらみんなの顔を見ておどけた顔をしてみせたりしてリラックスさせる。
やはり少し緊張しているようで、いつもより声が出ていない。
でもそれがかえってハーモニーを作り出していた。
サビもバッチリ、そして2番もいい感じ。
ただリズムが走る!!
みんな突っ込んでしまうので、少しずつ早くなって行ってるんだけど、ここは無理やり矯正するよりこのままの勢いでいったほうがいい。
そして最後の転調までバッチリ合わさり、ジャーン!と最後のストロークをした。
盛大な拍手が起こって、みんな嬉しそうに笑った。
「みんなめっちゃよかったよ!!どうしたの!いつもより綺麗だったよ!!さては本番に強いタイプか!!俺も本番したい!つって!」
「フミ!アリガトウ!!」
「フミ!!もっと練習しようー!!」
生徒たちみんなが歌を楽しいと感じてくれてるのがわかった。
うおー………いい感じだぜ…………
こりゃみんなもっと上手くなるぞ。
あと半月。
コーラスパートもやってみっか。
その後も色々と出し物があり、カデルのパパのリクエストで俺1人でもなんかやってくれということになり、3曲歌った。
まだ風邪の残りで喉がガラガラだったけど、最近練習してるタミルナドの有名な曲をさわりだけ歌うと1番の拍手が起こった。
やっぱり外国人が地元の歌を歌ってくれるのは嬉しいんだよな。
なんとかここを出るまでにこのタミルナドの曲をキチンと弾けるようになりたいな。
3時間ほどで会が終わると、お爺ちゃんお婆ちゃんたちはゾロゾロと部屋を出てグラウンドのほうへと出て行く。
ブラスバンドの演奏。
待機の構えがウケを狙ってるとしか思えない。
顔がマジ。
カデルに呼ばれて俺もそれについて行くと、みんは幼稚園の建物の前にあるスペースに集まった。
お爺ちゃんお婆ちゃんたちがみんな椅子に座って一列に並んでいる。
何が行われるのかな?と思ったら、子供たちが銀色のお皿を持ってきた。
するとその銀のお皿を床に置き、子供たちがお爺ちゃんお婆ちゃんたちの足を洗い始めた。
おお、これはすごい風習だな。
みんな洗うだけでなく、普段インド人がおでこにつけている赤や黄色のサフランの粉を足に塗り、手でタッチして自分の頭に触れる。
まるでクリスチャンがイエスの像にやるように、最大限の敬愛を込めてそれを行なっている。
わずか5歳とかの子供も。
「これはタミルナドの伝統的なリスペクトの行為なんだよ。こうやってみんな老人を敬い、大事にするんだ。」
お爺ちゃんお婆ちゃんはニコニコしながら手に取った花びらをハラハラと子供たちの頭上から舞わせ、降り注いだ。
子供たちの無邪気な笑顔と、お爺ちゃんお婆ちゃんのあふれんばかりの笑顔が、その花びらの向こうにあった。
とても美しかった。
といった感じでインドの敬老の日はすべてのプログラムを終えたわけだけど、なんとも感動的な内容だった。
インドの片田舎でこんな素敵な時間を共に過ごせたことを奇跡のように嬉しく思える。
お爺ちゃんお婆ちゃんたちが俺のところにやってきて、素晴らしかったよと笑顔で手を握ってくれて胸がつまる。
全ての光景がとても美しいものだった。
でも、その後が結構驚いた。
プログラムを終えてからみなさん学校のティーコーナーに集まって紅茶を飲んだんだけど、まぁみなさんインド人ですね。
窓口に群がって順番無視で我先にと紅茶を頼んでいる。
さっきまであんなに上品で素敵な人たちだったのに、譲り合いの心ゼロで紅茶の奪い合いを繰り広げている。
さらに飲んだ後はこれ。
孫たちの通う学校の地面にゴミ散乱。
さ、さっきまであんなに上品で素敵な…………………
マジで苦笑いしてしまう。
でもこれがインド。
これが失礼なことではなく、インドの当たり前のやり方なんだよな。
インドに来るとだいたいの人はその汚さとかマナーのなさとかに嫌気がさし、観光客相手のアグレッシブなボッタクリに遭い、インドはもうウンザリだ!と言って帰っていく。
そして日本に帰り、インドの悪口を言って、モラルがないと笑う。
でもこうしたインドを非難する人たちに対して、よく軽率だと言う人たちがいる。
インドだけの話ではないけれど、観光で来て、数日上辺をなでただけでその国の何がわかる?私はこの国に何回も来ていて地元の友達がいてこの国の本当の素晴らしさを知ってる。数日滞在しただけでその国を非難するのは浅はかだ、と。
これ、前から思ってけど、俺はそうは思わない。
旅行者にとったら数日滞在した間に起きた出来事がその国の全てだ。
物を盗まれてロクな思い出もなければ大嫌いになるし、めっちゃ優しくされて美味しいご飯食べられたら最高の国。
それでいいんじゃないかな。
国民の全員が悪いやつじゃないことなんて誰だって分かってる。
本当は素晴らしい人たちばかりの魅力的な国なんですよ!なんて自分の経験からくる考えを自慢げに押しつけてくるほうがむしろ浅はかだと思う。
今俺は南インドの美しい人たちに囲まれて暮らしている。
今なら、数日の滞在でインドをバカにする人たちに、インドは素晴らしいところですよって言える。
でもそんなこと言わない。
自分が感じたこと、経験したことが全てだ。
俺もこれからも言う。
嫌なことがあったら、嫌いになる。
泰然自若のインド。
お爺ちゃんお婆ちゃんの笑顔を見てると、なんでもかんでも気を使って良いところを探し出してあげるような優しさなんてまったく要らないように思えてくる。
自分の思うように、自分のあるがままに。
自分の輪郭を感じよう。
大地と空が交わる真ん中にいる。
インドは普通の、この世界の営みの一部だ。