2016年3月5日(土曜日)
【インド】 アラコナム
アラコナムの町の中を歩くと、民家の玄関前の地面に不思議な模様が描かれているのを見かける。
ほとんどの民家がこの模様を描いていて、その形は様々だ。
唐草模様みたいなのもあるし、ただの五芒星からかなり複雑なものまでがある。
これってこのタミルナド州の風習で、毎日朝と夕方に、お母さんが米粉を使って描くものなんだそう。
コーラムって呼ぶそうだ。
無限のデザインがあるようで、カデルが言うにはこのタミルナドの女たちは遺伝子的にこのコーラムの描き方をわかっているらしい。
米粉で描くことによって蟻なんかの虫が寄ってくる。
タミルの人々は家の周りにたくさんの生き物がいることを豊かさの証として考えているらしい。
世の中には様々な風習、習慣がある。
さて、そんな自然と共に生きることを重んじるこのタミルで音楽の授業2日目だ。
カデルの学校がそうなのかタミルの学校がそうなのかはわらかないけど、土曜日はノーブックデーというふうに決められているらしく、生徒たちは情操教育を行う。
体育とか、音楽とかだ。
金丸先生の活躍の日。
おかげで昨日よりもたくさんの生徒たちが俺の授業に参加してくれ、全員で30人くらいが教室に集まってくれた。
お気に入りの生徒、ゴータム。
お腹を触ると恥ずかしそうに笑うからいつもなでなでしてる。
まずは昨日と同じく本職の先生たちによるタミルの歌の合唱から。
この日本人にはかなり難しい節回しのインドのメロディーラインを生徒たちは慣れた様子で歌っている。
でもよく聴いてみると、ちゃんと音階を追えているのは3分の2くらいか。
あとの生徒はみんなに混じって音程にこだわらずに歌っている。
先生たちもそれを細かく訂正するつもりはないようだ。
うんうん、おおらかでいいと思います。
音楽は楽しむものですからね。
そんなに厳しくやって音楽が苦痛になったらいけませんからね。
楽しくやりましょう楽しく。
とか言うわけねぇだろうがオラアアアアアアアアア!!!!!
1ミリたりとも音外すことは許さんぞコノヤロウ!!!!
まずはサレガマパダニサからだこのプリティーガールどもめ!!!!
スカートめくるぞ!!!
「サレガマパダニサ~~、はい、ワンツー、」
「サレガマパダニサ~~~!!!!」
「よっしゃあストップ!!ストップ!!音外してるやつがおる!!!!誰が外してるかわかってんのかああああんん??!!?てめぇか!?てめぇが外してるのか!?あとで職員室来い!!個人的に身体検査だ!!」
と、いきなり椅子をぶん投げて泣き入れるまで顔面至近距離でこのブタ野郎が死ね!!!!!!と、映画「セッション」のフレッチャー並みの形相で叫び散らかしたりするわけありませんよ。テディベアー先生ですもの。
入念に、これでもかというほど入念に、何度も何度もサレガマパダニサを発声していく。
確かにそれっぽく聞こえる。
でもそれは大勢で歌ってるからだ。
1人1人はちゃんと音を捉えてない。
インドって音楽盛んだから音感いいと思うんだけどなぁ…………
これを考えたら日本人ってマジで音感いいなって思うわ。
「もう1回行くよー!!ちゃんと自分の歌ってる音を聞いてね!!はい、サレガマパダニサ~~。」
「サレガマパダニサ~~!!」
どういった順序が1番正しい歌の上達方法かわからないけど、とにかく声を出して音を区別することだ。
15分くらいサレガマパダニサをやりまくって、やっと音が合ってきた。
よーし、そろそろ本番に入るぞ。
昨日に比べて人数が増えているので、翼をくださいの歌自体を知らない子たちが半分くらいいる。
昨日授業を受けた経験者たちを均等に振り分け、初心者たちとミックスして3つのグループを作った。
そしてグループごとに練習だ。
昨日授業を受けた子たちはすでに曲の流れは掴んでいる。
ここから細かい音程をみっちり叩き込むぞ。
昨日の反省を活かし、今日はちょっとやり方を変えてもっとフレンドリーに子供たちと交流しながらやってみることにした。
いきなりスタートするんじゃなくて、最初に少し雑談をしてみんなの心をほぐしてから始めたほうがみんなの固さもとれるはずだ。
幸いなことに生徒たちはみんな俺に興味と好意を持ってくれている。
いつも休憩時間には引っ張りだこだし、外を散歩しててもフミー!!と手を振ってくる。
外国人が珍しいってのもあるだろうけど、それを上手く利用しよう。
これ自惚れではなく、みんなにひっぱりダコの俺がこの時間だけひとつのグループに付きっきりになるという状況はきっと子供たちにとって嬉しいことのはずだ。
「ハーイみんな、音楽は好き?」
「イエスフミ!!音楽大好き!!」
「いいね!ところでワンダイレクションの中だったら誰が好き?」
「…………なにそれ?」
「ワンダイレ……?それなに?」
ぬおぉう!!!
ティーンの女子だったら白熱の討論が繰り広げられるはずのこの話題が2秒で終了。
ワンダイレクション知らないなんてインドの子供ってマジで欧米に侵食されてないんだなぁ…………
まぁとにかくそんな感じで、生徒1人1人と向き合ってゆっくり時間をかけて一緒に歌っていく。
歌詞も日本語だし、インドにはない音運びだろうし、いきなり歌えないのは昨日でよくわかっている。
根気が必要だ。
長く続きすぎたら、たまにリフレッシュのために違う日本の曲を歌ってみせたりしてみんなを楽しませることを心がける。
そうこうしていると、昨日は気づかなかったことが色々見えてきた。
リズムも音程もバラバラの歌の中に、かなり正確に音を追えている子供がいた。
お、と思ってその子のほうを見て親指を立てると、はにかんで笑う。
周りの子供たちは俺に褒められたことが羨ましいようで、一層真面目な顔になる。
そういった上手い子が何人かいる。
かなり上手な子は今の所、ニラという女の子だ。
その下にまぁまぁ上手な子たちが3~4人いる。
あとはみんなをどっこいどっこい。
そうした上手な子たちにもまた個性があるのを見つける。
恥ずかしがりながらも上手な子、自慢げに歌ってみせる子。
生徒会長的存在のカトリーヌはもう自信満々で、私は他の子とはデキが違うのよ!!みたいな感じで、みんなで一列に並んで歌ってても一歩前に出て自分をアピールしてくる。
確かにカトリーヌは英語もほぼネイティブだし、頭もスーパーいいし、先生たちからも頼りにされている。
でもそのカトリーヌを簡単に褒めたら他の子たちのやる気を削いでしまうような気がして、なるべく目立たない、控えめな子たちを中心にまんべんなく声をかけていく。
でもカトリーヌのことも要所要所でちゃんと褒めなかったらプライドを傷つけてしまうので気をつけないといけない。
クラスの輪の中で影響力のある子供は上手くコントロールしないといけないってのを肌で感じるな。
1時間くらいたってからかな。
ようやくAメロを全グループに教えてサビ部分に入ったんだけど、ここからがまったく上手くいかない。
みんな高音が出てこない。
高音が上がりきらないので教えてもないハモりラインを歌ってるという状況。
ナチュラルハモり。
ここを何度も何度も練習した。
この大空に~~の、「ぞ」の音をひたすらみんなで発声する。
しかし合わない。
目の前で、ぞ~~~~~って音を出してるのに、ひたすらそれを捉えられない。
もう本当ビビる。
単音すら出せないなんて。
色々と試行錯誤しながら何度も何度も、ぞ~~~~!!って繰り返す。
他のグループの子たちが早くこっちに来て欲しそうに待っているが今日は途中でやめないぞ。
なんとしても、ぞ~~~の音を出させてやる!!!
ゴータムのお腹気持ちいい。
が、しかしやっぱり正しい音が出ない。
しかもAメロからサビに入った時にみんな1オクターブ落として歌いだす。
今練習してるキーはC。
翼をくださいの合唱は基本C。混声もCだ。
別にインド人だから声が低いなんてことはないはず。
ちゃんと声を張れば出せる範囲だ。
しかしいつも練習してる曲が結構低めに設定しているんだろう。
高音に慣れていない様子。
正しい声楽とかベルカント唱法なんて今から教えるのは無理っていうか、そもそも俺ができない。
ああ!!マキちゃーーーんん!!!
試しにキーをCからAに落としてみた。
高音の綺麗なハーモニーを期待していたんだけど、それがキーを落とすことで失われないか不安なんだよなぁ。
できればCでやりたい。
でもやっぱり、キーを落としたことによってみんな歌いやすくなったのがすぐにわかった。
音程も結構安定している。
おお、これが正しいキーだったのかな。
カデルも後ろで頷いている。
よし、ひとつ修正ができたぞ、っていうか生徒たちのキーの確認なんて1番最初にやれって話だよな。本当素人だ。
俺自身、マジで勉強になるわ。
最後にみんなで一緒に合唱すると、2日目とは思えないほど曲が形になっていた。
教えるって面白い。
みんなも俺が感じてるように面白いと思ってくれてたらいいな。
授業を終えて教室を出ると、校庭で生徒たちが元気に遊んでいた。
みんな様々なスポーツをして遊んでいる。
男子はクリケット、バスケットボール、サッカーなんかをやり、女子はだいたいバレーボールだ。
みんな元気に走り回ってるのはいいんだけど、そこはさすがにインド人の子供なので、みんなテキトーにやりすぎでグラウンドがかぶりまくっている。
サッカーやってるスペースの中でクリケットをやったりしてるので、メンバーが入り混じって色んなボールが飛び交って危なくてしょうがない。
「フミーーー!!!!トゥギャザアアアアアアアア!!!!!」
俺を見つけるや、それぞれのスポーツをやってる生徒たちが全力で走ってきて自分たちの輪に参加させようとしてくる。
ここはやっぱりサッカーをチョイス。
中学のときにサッカーやってた腕前見せてやるぞ!!
みんなと一緒に走り回ってボールを追いかけた。
しかし、やっぱりインドではサッカーはメジャーなスポーツではなくて、みんなあんまりルールやプレイの仕方をわかっていない。
全員でボールを追いかけ、とにかく思いっきり蹴飛ばして、チームワークとかゼロ。
全然ゲームになってない。
よし、ここはいっちょ日本のゲームを教えてみんなで盛り上がってみよう。
というわけでみんなを集めて教えたのはドッヂボール。
わんぱくな子供たちにはうってつけの遊びだと思う。
「よーし、みんなー。じゃあ半分半分に分かれて、3人が向こう側の外に出てね。ボールを投げて当ててキャッチできなかったらアウトで外に出るんだよ。わかった?」
「わかったああああ!!!!イヤッホオオオオウウウウ!!!!」
超絶盛り上がってゲームスタート!!
しかしボールを当てても誰も外に出ない!!
そして外にいた外野のメンバーが勝手に中に入ってきてボールの奪い合い!!
ら、ラグビー!?
「おい!ルール守って!!今ボール落としたやろ!!外に出て!!」
「いやだ!!ここで投げる!!イヤッホオオオオウウウウ!!!」
さ、さすがインド人…………
誰もルールを守らない……………
そりゃ赤信号無視したり、一方通行の道を逆走して前から車が来たら逆ギレしてクラクション鳴らすような傍若無人なインド人の子供たちだもんな………………
ルールに従わせるのがこんなに難しい国民なかなかいないと思う……………
あとでカデルにこのことを話したら、インド人はみんなそれぞれの独自のルールで生きてるからねと普通に言ってた。
よく国が成り立ってるよ……………
しかしこのルールを守らない自分本位な子供たちでも、勉強やらせたらテストで全教科満点叩き出すような秀才揃い。
インド人ってマジで頭がいい。
もしこれで彼らが規律を守るという能力を身につけたならば、インド人が世界を席巻するんじゃないかと思えるよ。
それぞれの国に、培ってきた国民性がある。
お互いのキャラクターを尊重しながら、より深くわかりあえたらいいな。
とりあえずドッヂボールはもう2度とやらない!!!
ルールのないドッヂボールとかクソつまんねぇ!!
サトウキビ積みすぎ。
インドのアイス。結構美味しい。
クリケット難しい!!
仲良し先生たちメンバーの宿舎。俺顔疲れてるなぁ。ていうか髪型ダサすぎる。