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なぜか別府に住みついてるあの男

2016年1月8日(金曜日)
【大分県】 別府市







黄金色の風が吹く。
















さらさらと寂しく、道はうねり、その中を鹿の群れが駆けていく。


指の間からすり抜ける音のかけら。


黄金色の風が吹く。

















傾いた太陽が山を染め上げていた。

山は一面がススキに覆われていて、穂が光を浴びて透明に輝いている。


緩やかな曲線を描く山肌はとても雄大で、その真ん中にポツンと立っていると、ここがまるで世界の果てのようにも思えてくる。
















ススキの海。




その波間に、立ち枯れた黒い木々がまばらに散らばり、硬く枝をのばしている。


あまりにも美しくて車を止めずにはいられなかった。
















長崎から車を走らせ、大分の山の中を越える道の途中にこの風景に出会える。

玖珠町、久住高原、湯布院、それらの高原には寂れた観光地を象徴する変わったお店がポツポツとあり、ここにはどんな人が住んでいるんだろうと思いを巡らせる。


昔は変わり者が町から離れてやっているんだろうと浅く考えていたけど、今ならこの美しい高原で朝日を浴びて寝起きすることの贅沢さをとてもよく理解できる。



季節とともに火をくべて、思い出を燃やしながら生きていくんだ。




























窓の向こうにひときわ大きな山が見えて、その山頂に白いものがうっすらと色づいているのを見つけた時、チラチラと外を舞うものがあった。



晴れの日に、風で遠くから運ばれてきた雪のことを風花と呼ぶ。



あまりに軽いので、空気抵抗で風花は車体には当たらず、そうしてかすかな季節の訪れをすり抜けながら山を下っていくと、やがてどこからともなく硫黄の匂いがしてくる。


よく、腐った卵のような匂いと呼ぶその匂いが辺りを包み始めると、そこはもう別府だ。
山道のうねりの向こうに別府湾が静かに広がっている。

そして眼下に広がる町のあちこちから白い煙が立ち上っている。



あれが卵の腐った匂いの正体だ。



















別府の町は本当に久しぶりだ。

宮崎からほど近い場所にある一大観光地なので、小さな子供の頃から何度も家族旅行で来ている。

そんな遠い記憶と相まって、なぜかずいぶん久しぶりのような気にさせる。





新しい建物があるのは国道沿いだけで、駅前通りに入ると本当に昭和のままの古い町並みがあり、その中をボロボロのアーケード街が伸びている。


気がついてみると、あちこちに公衆浴場がある。

公衆浴場だけじゃなく、ホテルも、民宿も、どこそこに温泉の看板があり、湯桶を持ったオッさんが家着で歩いている。

もちろん、観光客の姿も多い。













湧出量日本一の大温泉地として知られる泉都、別府。

源泉の数が日本の総源泉数の10分の1をしめるというから半端じゃない。


昔から行楽地の代名詞として日本中、世界中から観光客が訪れる町だ。


血の池地獄、海地獄などの地獄巡り、海たまご、高崎山などの観光地も豊富で、少し足を伸ばせば修験道の聖地である国東半島もあるし、さっき俺が走ってきた久住高原はツーリングやキャンプに最適だ。


関サバ、関アジなんかの食も素晴らしいし、今じゃ大分の唐揚げ、鳥天はすっかり全国区。

時代を越えて今も昔も別府は日本の伝統的な観光地として人々を集めている。









懐かしいなぁ。

子供の頃に家族で別府に来た時、血の池地獄で迷子になってしまい、慌てたお母さんが俺のことを探していたら、なぜか知らない家族が記念写真を撮っているところでその知らない家族のお母さんに不安そうな顔してくっついて一緒に写真を撮っていたらしい。


あら?この子どこの子?ってそのお母さん思っただろうなぁ。


ちなみに知らない家族と一緒に写ってる写真は、後から送ってもらったのか知らないけど、アルバムの中に入っている。


不安そうな顔がいい感じの写真( ^ω^ )
















24時間400円というナイスな値段のパーキングに車を入れたら、ボチボチ歩いて別府の駅前にやってきた。

この辺にいるはずだけどなー。





お、いたいた、分かりやすい姿形してるなぁ。

久しぶり、アツシ君。






「おー、金丸さん、お久しぶりです。」



「久しぶりやねー。なんかアツシ君が別府にいるってのが面白いわー。」



「いやー、本当どうなるもんか分かんないですね。」








アツシ君が最初に別府に来たのは1年くらい前かな。

車椅子でバスキングしながらアジアを回っているノリさんと知り合って、なんとなく別府にやってきたんだそう。




アツシ君も相当な旅人だ。

ギターで弾き語りしながら旅してるやつは今やとてもたくさんいるけど、アツシ君は俺とほぼ同時期に回っており、ヨーロッパや南米など厳しいところでもガンガンに歌ってきたツワモノ。

なので話していてとても面白いし、リスペクトできる男。


音楽の趣味もかなり渋くて、吉田拓郎ならビートルズが教えてくれた、ボブディランならくよくよするなよ、他にもたくさんレパートリーはあるけど、元々の音楽知識の深さがわかるイカした選曲をする。


歌詞の意味も知らないでウケ狙いで有名な英語の曲をやる人ってすごく多いけど、アツシ君はとても曲を大切にしてるんだよな。
















そんなアツシ君、別府に来て海沿いの公園で寝泊まりしながら路上をやり、すっかりこの町が気に入って長居するようになり、どんどん知り合いも増えていき、やがて別府にある博堂村というライブバーとも繋がって通うようになる。


博堂村は九州を回る弾き語り系のツアーミュージシャンが足しげく通うお店なので、俺もいつか行こうと思っていたところだ。





そこのお店で演奏し、ママに気に入られたアツシ君。


かと思ったら、なんとしばらくしてママの娘さんとアツシ君は付き合い始める。




そして2人はアパートを借りて同棲を始め、今やアツシ君は別府に住民票を移している。



いやー、面白すぎるよアツシ君( ^ω^ )

旅人やなぁ。

















とりあえず温泉入ってから博堂村に挨拶に行くことにして、アツシ君オススメの温泉に連れて行ってもらった。



「温泉、別府スタイルでいいですか?洗い場とかないですけど。」


「そういうのがいい!!!」



別府スタイルとか言って、アツシ君もすっかりこの町の人間になってるやん( ^ω^ )




というわけでやってきた温泉がこれ。














マジでお寺か神社かと思った。

ものすごくデカい木造のお屋敷がドーンと鎮座している。

周りは古い町並みで、横丁の明かりがチラついており、湯上りセットというメニューを出してる居酒屋もある。



道後温泉を彷彿とさせるレトロな建物なんだけど、こっちのほうが大衆感があってめっちゃくちゃいい感じだ。

ここが別府の象徴、竹瓦温泉だ。
























中に入ると広々とした待ち合いスペースがあり、大正時代にタイムスリップするようだ。


これほどのイカした温泉の値段がマジでビビる。




100円。

入浴料100円。


別府の実力パネェ。









大喜びで浴室に入ると、思わず声を出してしまった。


「うおおおおお!!やっべえええええ!!!!」



















目の前に洞穴みたいな浴槽があった。

一個だけ。

茶色い湯の花でデロデロになった浴槽が一個だけポカンと真ん中にあるだけで、洗い場なんてなく、湯桶だけ端っこに置いてある。


みんな湯船の端に座って、湯を汲みながら体を洗うんだそうだ。





あまりの渋さに狂喜して服を脱ぎ捨てるんだけど、窓が開けっ放しなので外の道路から裸丸見え。
別府の人は裸に対する耐性がすごい!!









海が近いからか少し塩分のあるお湯につかると、ホッと息が漏れる。

あー、気持ちいい。


壁や天井にしみついた汚れに、長い歴史を思い浮かべる。

暑くなったら湯船からあがって窓のところに立つと、吹き込む1月の夜風が体を冷ましてくれる。




それを何度か繰り返す。

あー、気持ちいい。

別府サイコーだな。




















大満足で温泉を上り、それから博堂村に向かった。











まだ営業前の店内にはママと娘さんとアツシ君がいた。

3人ですでにお酒を飲んで楽しそうにお喋りしている。




「あ、アッちゃん下の看板、営業中にしちょってー。」


「あ、はいー。」




アツシ君、すでにこのお店、継ぐくらいの勢いで馴染んでるね( ^ω^ )









肝っ玉人情派、といった感じの優しくて豪快なママ。


アツシ君は最初にお店に来た時からほとんどお金を受け取ってもらえないんだそう。



そして娘さんのマイちゃんも可愛くて気配り上手でたまらなく優しい子。



もう、なんなの?なんなのこの素朴で素敵な親子!って感じ。


アツシ君、いい彼女と出会えたねぇ……………
俺まで嬉しくなるわ…………………





「いやー、別府いいよねぇ。このまま別府に住めばいいやん。サイコーやん。」


「別府めっちゃいいんですけどね、でも、近いうちに別府を出て車で日本一周しようと思ってるんですよ。マイちゃんと一緒に。日本中を回って2人で住みたい場所を探して、それでやっぱり別府がいいなって思えたら別府にします。」





いやぁ……………本当素敵な人生送ってるよね……………


アツシ君と出会えてうれしいよ。


















そんなアツシ君がオススメする別府の路上スポットは、国道の下を通る地下道らしい。


飲み屋街のあるこちら側から、大きなホテルが固まる宿泊エリアのある向こう側まで、ほとんどの人がその地下道を通るそう。


しかも観光客や仕事の出張で来てるような人がほとんどなので、落とす金額もデカくて、1日のあがり2万~3万というのは普通なんだそう。


アツシ君はそこで歌いながら、海沿いの公園で寝泊まりしていたみたい。


いやー、いいね( ^ω^ )







アツシ君や車椅子のノリさん、さらには稼げると噂を聞きつけたゾロさんもやってきて1ヶ月くらい滞在してこの地下道で歌ってお金を貯めていたそうだ。

世界一周してますーって看板出して歌ってるやつ、やけに別府に多くないか?みたいな状態になってる。


別府は世界を旅するバスカーが集まる町だ。










しかしその地下道、お小遣いが稼げるので地元の高校生や大学生、ほかにもゆずを演奏するおじさんたちなど色んな人が歌いに来るスポットになっていて、他の人が歌ってる時は歌が終わるのを待って、順番で1曲ずつ回していかないといけないそうだ。


そんな短い地下道に何組も歌うやつが並んで順番に歌うとか、面倒くさすぎるよ。


俺は自分の場所でやろう。






































別府には飲み屋街がちゃんと存在しているので、いつものようにそちらで歌うことに。


ずーっと昔にヤクザさんに怒られてからやってなかった別府。

なので少しビクビクしてたけど、周りの居酒屋や飲み屋の人たちもみんな上手いねーと言ってくれ、とても楽しく演奏することができた。



別府は温泉もいいし、歌って稼げるし、海も山も綺麗で食べ物も美味しい。




いやー、たまらない町だなー。





「いやー、やっぱり金丸さんすごいっすわ。別府の地元の人ってまず立ち止まらないのに、1曲目からずっと人が聞いてるんだもん。しかもこの飲み屋街のど真ん中でやってしまうってのがすごいっす。ガラ悪いし、危ないのに。久しぶりに感動しましたよ。」




同業者のアツシ君に言われるとなんだか照れる。

まぁずっとネオン街の路上で生きてきたからね。
喧嘩まみれの盛り場の空気の中で。










この夜は路上を終えてアツシ君とマイちゃんと3人で遅くまで飲んでいた。

いやー、別府いいわー!!






2人して巻きタバコ!!
仲良し!!




ていうかマイちゃん、子供にも老人にも優しい本当に天使みたいな子!!!


アツシ君、愛のある子見つけたね!!











お知らせ!

インド出発までのライブですが、まず次が兵庫県。

1月19日(火曜日)
三田市『Bar ニューオリンズ』
(南ヶ丘 1-17-38)
19時オープン
19時半スタート
1500円(ドリンク別)








あと変更なんですが、1月24日の東京品川でのライブ。

好評につき、僕の呼べる人数枠を増やしてもらえました。

もうちょっといけるんで、東京最後のライブ、良かったら見に来てください!!


★日にち………2016年1月24日(日曜日)
★場所…………『カフェ Ours』 品川区北品川5-7-2
★チケット……投げ銭
★オープン……14時半
★スタート……15時










次に1月25日(月曜日)に、旅出発前の飲み会したいと思います!!

誰でも参加オーケーです!!

場所は東京三軒茶屋のバー、四軒茶屋です。

20時から飲み放題、軽食付きで3000円です。

東京で遊んだみんな、しばらく日本離れるので飲もう!!!






最後が山口県岩国市。大好きな町で思いっきり歌ってその2日後には飛行機です!!

2月7日(日曜日)のお昼過ぎくらいから夕方にかけてやります。詳細はまた後ほど!!
ご予定空けておいていただけると嬉しいです!!

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