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路上は奇跡を起こす

9月18日 木曜日
【韓国】 プサン





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「フミ、ありがとう。ギター大事に使うよ。」



朝ご飯を終えて、制服に身を包んだ学生姿のソンウンたちと別れの挨拶をした。


「うん、いつか日本に来たら連絡しなよ。遊ぼうな。そして立派な神父さんになりなよ。」


「ありがとう!!きっと素晴らしい神父になるよ。」


みんなとハグをした。
欧米諸国ではあんなにハグをしていたのに、アジアに入ってからすっかりそんな習慣もなくなっていたので若干恥ずかしい。

でもやっぱりハグは気持ちを直接伝え合うことができるよな。



みんなに会えて良かった。


なぁ、音楽ってすげぇんだぜ。
それだけで世界一周できるんだ。

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荷物をまとめ、スタッフの皆さんにお礼を言い、車で街まで送っていただいた。

こんな機会を与えて下さったことに感謝。











ハダンの駅前で車を見送って1人になると、街の雑踏に包まれた。
せわしなく行き交う車、ケバケバしい看板の群れ。
そういえばまだプサンのこと何も知らないな。

いろいろ聞いた話では行くべき場所はたくさんあるし、地図を見ただけで様々なエリアがある。
どこから攻めようか。



まぁ、とりあえずやるべきことは…………








山の中の藪に隠しておいたキャリーバッグを取りに行くこと。


雨の中、2日間放置していたので死亡確定(´Д` )


昨日めっちゃ降ったし(´Д` )


ぜってービショビショだ………


タイで取った象使いの証明書とかえらいことになってるだろうな。
まぁ別にいいけど。名前間違ってるし。カウェマルだし。







今更別にいいかと思いながらハダンの飲み屋街の中を抜け、裏山を登って先日野宿した場所に戻って来た。

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ひでぇことになってるだろうなと諦めながら藪を覗き込む。

ていうかまだここにあるのか?捨てられてないかな。













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無事にゲット。

そしてなぜかわからないけどほとんど濡れていなかった。

藪の草木が少しは雨を防いでくれたのかな。

外面は湿っていたが中までは浸透していなかった。
うん、いいバッグだ。










ベンチに座って財布の中身を数えてみたらまだ2千円入っていた。
昨日有り金をつぎ込んでギターを買ったのでこれが今の手持ちの金。

日本に向かうフェリー代はいくらだろうと、地下鉄に乗ってフェリターミナルへとやってきた。

たくさんの車が止まっているフェリーポートを歩いてターミナルの中に入り、日本への船の値段と時間を聞いた。
当たり前に日本語で対応してくれる。

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選択肢は下関か博多。

値段は博多のほうが安くて9万ウォン。9千円だ。

時間は毎日夜の22時半に出ているとのこと。



よし、路上で歌ってチケット代が稼げ次第船に乗るぞ。

これがこの旅最後のミッション。
楽勝だ。













フェリーポートの周りにはこの国の玄関口らしく賑やかなショッピングエリアが広がっている。
ナンポーという街だ。

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昔から旅行者たちを迎えてきたであろう古き良き商店街が蜘蛛の巣のように入り組み、安食堂や居酒屋がひしめく下町の雰囲気が漂っているし、メインストリートに出ればガラス張りのブランドショップが並ぶモダンな道でたくさんの人たちがわらわらと歩いている。

フェリーポートの目の前ということで観光客も多いようで、それらのお店の看板にはほとんど日本語の表記がしてあるし、歩いてるといらっしゃいませーと声をかけられる。

ここは日本と韓国を繋ぐ街だもんな。

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プサンには先日歌ったソーミョンをはじめとして、たくさんの繁華街がある。
バスキングポイントも無数にあるだろう。

市内から少し離れたヘウンデビーチという場所がこのプサンのリッチエリアで、たくさんの人たちが遊びに来るリゾート地らしく、本当はそこでやってみようかなと思っていた。

金が出来るまでビーチで寝るなんて理想的だ。



しかしこのナンポーの親しみのある街を見ていたらこっちでもいいかなと思った。
こっちの方が今までやってきたザ・ストリートといった雰囲気だ。

屋台や路上販売の人たちも多い。


最後の路上はここにするか。












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テキトーにそこらの食堂でいつものうどんと海苔巻きのセットを食べて歩いていると、メインストリートから1本裏手の飲み屋通りの一角にちょっと歩道が広くなったいい感じのスペースを発見した。

俺の路上場所に対する嗅覚がここしかないと言っている。





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ギターを置き、いつものようにタバコに火をつけ、素早く準備をしてチューニング。

タバコが半分なくなる前にチューニングを終え、残りを吸いながら心の準備を整える。

いつものこの流れ。




でも今日は心がはやる。タバコを吸うペースが早くなる。


早く歌いたい。

体調はバッチリだ。
ご飯を食べてお腹もいっぱいで元気が体の内側から湧いてくる。

いい声が出そうな気がする。
たくさんの人が足を止めてくれそうな予感がする。


早く歌いたい。

毎日毎日吐くほど歌ってるのに、性懲りも無くこんなに歌いたくてたまらない。

俺はやっぱり歌が好きだ。









思いっきり声を出すと、予想以上にいい声が通りに響き渡った。

芯があって、ハリがある。
そして細かいブレスや小節が綺麗に喉から滑り出る。

あー、俺歌うまい。

俺の声めちゃくちゃいいやん。



ギターの音もふくよかな中低音と高音がバランスよくはじき出される。

理想的な音量とサウンド。




そして歌っている俺の見た目もいい。

細い体、長い髪、年季の入ったブーツとギター。
見るからに旅をしてきたホーボーの雰囲気は観客に歌の世界への想像をしてもらいやすい。

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歌ってる場所もバッチリだ。
歩道は幅5メートルほどでこれくらいが通行人に対して近すぎず遠すぎない距離を保てる広さ。
街灯の明かりが程よく照らしてくれてムードを演出してくれる。

おまけに後ろが屋根のかかった建物なので声が響いてモニターの役割もしてくれる。







完璧だと思えた。

歌うことが楽しい。
路上が楽しい。

自然に心がこもり、そして笑顔がこぼれる。

まさに理想的な路上パフォーマンスを作り出せたと思う。


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たくさんの人たちが俺を取り囲んで歩道を埋めていく。
拍手が響き、周りの居酒屋や洋服屋さんのお店の人たちも外に出てきて聞いてくれている。

ヨチヨチの子供がリズムに合わせて体を動かし、それを見た他の観客たちはみんな笑顔になっていく。

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最初に路上演奏をしたのは確か16歳の頃。
あれから日本中の街で歌い、そして世界中の街で歌ってきた。

警察や酔っ払いやチンピラや、そして自分の実力不足といつも戦ってきた。



そして今日、この路上こそまさにその集大成だと思えた。

全てが完璧だと思えた。


2時間歌ってギターケースには98000ウォンが入っていた。9800円。

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いやーもうノルマクリアしちゃったなぁ、と思いながら休憩。

タバコをふかしながらどこでも自由に飛んでいるWi-Fiでインターネットをする。

帰国が近づくにつれどんどん増えてきているメールの返信だけでなかなか時間がかかる。


もちろん全てが無事の帰国を応援してくれているものなので、ひとつひとつに返信をしていく。

本当にありがたいな。




「金丸さん。」





その時、声がした。





俺を呼ぶ声?





え?誰だ、こんなところで。



なんだ、このただならぬ瘴気は?

































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「…………え…………あんた何してんの……?」


「金丸さん、今から俺のゲロみたいな話を聞く準備はできてますか?俺のこの3ヶ月、マジでゲロでした。」




え?……ちょっと待って……?


…………え?



な、何でお前がここにいるの……?



………は?




「この2日間、ずっとフェリーターミナルで朝から晩まで金丸さんのこと待ってました。ずっと出入り口を睨みつけてました。でも全然来ないんですもん。お金なくてご飯食べられなくて死ぬかと思いました。」






え……?こいつ何言ってるの……?



あ、あなた小林なにがしさんですよね……?



ちょっと前にシンガポールから突如姿を消して東南アジアのどこかで餓死したはずの行方不明者の方ですよね……?

シンガポールのエミさんからそんな話は聞いていた。



「全ては金丸さんに会うためでした。シンガポールが全然稼げなくて。本当は飛行機でヒョイって来るはずだったんです。でもお金が8千円しかないからもう陸路で行こうと思って、シンガポールからタイ、ラオス、ベトナム、中国、香港って上がってきました。全ての町でまったく稼げなくて、声も出なくなって、小銭が入ったらそれで行けるところまでのチケットを買って移動してって感じで進んできました。ずっと野宿して、飯食えないし、風邪ひいてヤバイことになるし、もう何度も諦めかけて、それでも会いたくて歌い続けました。でも香港でもうどうしても間に合わないってなった時にエミさんが飛行機のチケットを取ってくれたんです。それでなんとかソウルに着いて、でも声まったく出ないし、ていうかミョンドンで歌って奇跡が起きて、えーっと、あ、僕来年からオーストラリアに住むんで。プロになりますから。あ、ていうか僕とっくに世界一周やめてますから。えーっと、俺今超冷静っすから。」









えーっと…………









狂っておられます?


…………この男は何を言ってるんだろう?




「いやー、マジで辛かったー……何回諦めかけたか………韓国に着いたはいいんですけどプサンまでの金がなくて………早くしないと金丸さん帰ってしまうと思ってすぐに歌ったんです。でもミョンドンで歌った時、風邪で声がボロボロすぎてひどすぎて………ソウルのミョンドンってマジで日本人だらけなんですけど、なんか色んなところから、あ、イクゾーだ……って声とか聞こえてくるんですよ。金丸さんのブログのせいですよ。でもそんな中、もうダメだー!!って時に韓国人の人が2万ウォン入れてくれたんです。それでやっとプサンまでのチケット買えたんです。全ては金丸さんに会うためです。金丸さんに会って言いたいことがたくさんあったからです。」

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………こいつバカだ(´Д` )

シンガポールから韓国て、どんだけ距離あんだ(´Д` )


3ヶ月間マジでほぼ飲まず食わずで死に物狂いでここまで這いずってやってきたようだ。

こいつのことだ、どれほど限界を超えた日々を送ってきたのか簡単に想像がつく。




ちょっと、マジで目の前にあの小林イクゾーがいるってことが信じられない!!

嘘だろ!!
お前マジか!!!




「いやー、本当稼げなかったんですよ………ベトナムにたどり着いた時、早く稼がなきゃと思ってハノイの路上でギター抱えたんですよ。そしたらそれだけで50人くらい人だかりできたから、やっべぇこれ一撃じゃんと思って上を向いて歩こう歌ったんですけど、う、の時点で1人もいなくなりましたからね、マジウケますよ。」



いつ会っても最高のネタを持ってるイクゾーの面白すぎる話に大笑いした。

数ヶ月別々の旅をしていたけれど、イクゾーはどこまでもあの頃のままの飛び抜けたバカだった。

地面に座ってイクゾーが持って来てくれたビールを開けて乾杯した。



「香港マジビビるほど稼げなかったんです。金丸さんのブログで香港がすごい稼げるって知って、香港にさえたどり着けば……って死にかけになりながらやっと着けたんです。でも全然稼げなくて………これマジで男としてダサいんですけど、金丸さんが歌ってた場所をブログで調べてそこでやらせてもらったんですよ。稼げると思って。でも全然でした。単純に実力不足です。マジダサいことしてすんません。本当、8ヶ月でやっと気づきましたよ。」


「な、何に気づいたのかな……?」


「俺、海外くるの早すぎました。」



い、今ぁ!!?ってアスファルトをのたうち回って大笑いしながらも、このイクゾーの男気に溢れる性格がめちゃくちゃ気持ちがよかった。


バカがつく純粋さと、実は頭のいいところ、やっぱりこいつはイクゾーだ。



いやー、やっぱりお前は最高だわ………

こんなとこまで会いに来てくれるなんて。

このまま帰るつもりだったけど、また帰りたくなくなるじゃねぇか。




「あはははははははは!!!!!!アカン!!!なんやねんこのツーショット!!アカンわ!!」






え?この声………


え?聞き覚えのある関西弁…………

























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「ちょ、マジでなにしてるんですか………」


「あはははは!!!また会えたなぁ!!やっぱりミゲルの路上はええなぁ!!向こうで聞いとったんよ!!うっわ、イクゾーの顔気持ち悪っ!!」






嘘だろジェニファーさん。

いや、この3日前くらいから、今どこなん?とか、プサンはどこで路上やるん?とかっていうメールは来ていた。
でもそんなメールはいつものことなので別に気にしてなかった。


どうやらこの2人、数日前から連絡を取り合って昨日プサンで合流して俺を待ち構えていたというのだ。



「イクちゃんが何がなんでも金丸さんに会いに行って言いたいことを伝えるんですって言うもんでなぁ、ホンマありえへんくらい死にかけとったんよ。声とか爺ちゃんみたいでなぁ………もうウチもいてもたってもおられへんなって飛んできてん!!」


「マジでジェニファーさんにはご飯食べさせてもらってホテルで部屋で寝かせてもらったりして、おかげで生きながらえました。」






マジか………


おおお………すげぇ!!

この2人が揃った!!!

最強の2人がこのタイミングで揃うなんて奇跡でしかねぇ!!!

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もう興奮してたまらなくて、とりあえず飯食いに行こう!!って言って焼肉屋さんでビールで乾杯。

2人とも面白すぎてずっと爆笑。

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「なんなん!?ミゲル、孤児院にギター寄付したん!?」


「えええ!!?ていうかなんでそのギター僕にくれないんすか!!?僕のギターマジでゴミですよ?3弦のところに5弦張ってますもん、マジヤバいですよ。」



もう本当、ビール吹き出すくらい笑いっぱなし。
ジェニファーさんも涙出るくらい笑わされてる。



「はぁはぁ………ところでイクゾーなんかオシャレになってるやん。その服どうしたの?」


「あ、このシャツ50円です、ズボンは200円です。」


「ハァハァ……あー、オモロ……もうみんなお肉いらんか?」


「あ、もうちょっと注文しようかな。んー、でもどれが何なんだろ。全部韓国語だからわかんないなぁ。」


「えーっと、これがサムギョプサルで、これがカルビですね。」


「え?なんでわかるの?」


「あ、僕韓国語読めるんですよ。」



イクゾー(´Д` )

なにその謎のスキル(´Д` )


この男いまだ謎が多すぎる。



「僕もう英語ペラペラっすからね。マジ余裕っす。ベトナムとか、あ、君英語喋れないの?あー、ごめんごめん、ベトナムだもんね、ソゥリィィとかって言ってましたもん。楽勝っすね、チュっす。」



あまりにも楽しすぎてお酒が進み、マッコリを飲み干した時にはだいぶフラフラになってしまっていた。

おそらく世界一周最後の夜。

この旅の締めくくりなら、砂浜か公園のベンチの上で1人星を眺めながら缶ビールを飲む、というのがふさわしいシチュエーションだったかもしれない。

でももうそんなこだわりどうでもよかった。

この最強のメンバーが揃い踏みの夜なんて、なんとか流星群が見られるくらいの確立だよ。


こんな大好きな2人が俺のためにここまで来てくれたということが嬉しくてたまらなかった。


最高の最後の夜だ。

2人とも本当にありがとう。





「ところでイクちゃんって本当にノーパンなん?」


「あ、パンツは重いから旅に出て3日目に全部捨てました。ずっとノーパンです。」


「あはははははは!!!!アカン!!アホすぎる!!!ノーパンで韓国語が読めるってどないなっとんねん!!あははははは!!!」




この夜はジェニファーさんのホテルの部屋に転がり込んでイクゾーと一緒に床にマットを敷いて眠った。

最高に満たされた気分だった。



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