前編の続き…………
「いやー、飯食べよ!!飯!!辛いのいっちゃおうか!!往復2万円だからねー、もう外国に来てる気がしないね!」
エジプト、パリ、ニューヨークからのアメリカ横断と、3大陸で落ち合ってきたミュージシャン仲間であり旅人仲間のカッピー。
今回会いに来てくれたのはもちろん韓国料理を食べてコリアンガールを金にものをいわせていてこましまくるためですね。
今や三軒茶屋にライブバーを持つ社長ですからね。コリアンガールの1人や2人ちょちょいのチヂミですよ。
怖いですね、人の変わりようというのは。
やりまくりだぜウヒョウ!!!
嘘です。そんなこと言ってません。
韓国人の彼女に復縁を迫るためにやってきたみたいです。
そして金にものをいわせてライブバーの2店舗目をこのソウルにオープンするための下見………
嘘です。
普通に旅を終えた後に何をしていくかの打ち合わせです。
ロサンゼルスのビーチの桟橋の下で語り合った夢。コロナビールにいっちょまえにカットレモンを入れて飲みながら、なんか大きなことしようぜと話した夜は今もかがり火のように胸にともっている。
カッピー、俺ここまで来れたぜ。
アメリカから随分かかったけど、俺なりに必死に前に進んできたよ。
カッピーもこの1年で確実に有言実行してきてるよな。
また会えて嬉しいぜ。
やっぱり持つべきものは信頼できる仲間だよな。
「イエエエエエイイイ!!何この女の子!?カリーちゃん!?マレーシア人!?ホテルいっちゃうの!?よし!!ここにきてラストスパートでアジア人の女の子ヤリまくるって流れ面白くない!?これブログ的に熱いよ!!」
「う、うん……それはいいかな………」
「カネマルちゃーん、なーに言っちゃってんのよー!!攻めようよ!!攻め!!よし!コンドーム買ってきてあげるよ!!」
コンドームはいらないけど差し入れマジでありがとう!!
川田君夫婦からもこんな差し入れ………
マジでありがとう。
カッピー、ジュンジュン、俺、そして未だ宿が決まらなくて結局ずっと一緒にいるカリーちゃんとみんなで晩ご飯へ。
日本の居酒屋を思い出す賑やかで雑然としたローカルのお店の中、ジュンジュンのチョイスでトッポギとなんかチヂミみたいなやつを食べた。
辛い辛い!!と言いながらも韓国料理の辛さは中国みたいな乱暴な辛さではなく、日本人好みの旨辛い味だ。
赤すぎだろ………
口が焼けそうだけどステンレスの箸が止まらない。
そんな辛い韓国料理にはやはりこれ。
マッコリ。
ジュンジュンオススメの栗のマッコリは日本で飲むような酸っぱいばかりのマッコリではなく、深い味わいと爽やかさで焼けた口の中をサッパリさせてくれる。
あー、もう!!韓国料理マジで美味い!!
日本人の口に合う!!!
そして酒が進む!!
ガヤガヤと騒がしい店内では韓国人たちが楽しそうに酒を酌み交わし、赤い料理をつついている。
その充実した笑顔に人々が豊かな人生を送っているように見える。
韓国の平均収入は日本と同じ。
そして物価も日本とだいたい同じようなものだ。
この居酒屋の値段はだいたい6千円くらい。
4人で飲んで食べてこの値段だから悪くない。って言ってる俺のバッグパッカーとしての感覚どこいった?
今までの貧しい国なんて比べものにならない豊かさだし、中国や台湾に比べても、街のムードに余裕や活気を感じる。
世界的な企業をたくさん持つ国の誇りのようなものも、どこか見えるような気がする。
物が溢れ、お金が動き、人々は生活必需品以外のものに使うお金がたくさんあり、路上パフォーマーが夢を追い、アートが根づき、飽和して枠の外に飛び出す変わり者もたくさんいる。
日本と人種が違うだけのアジアの先進国。
台湾のような過剰な日本贔屓にはむず痒い思いをしたが、こうして自分たちの文化がドッシリと腰を据えている国には遠慮なく思いっきりぶつかっていける気がする。
懐に入ったときの、迷子になった気分。
いつだってそれを求めてきたのかもしれないな。
「あああ……もう!!酔っ払ってないんです………からね!!」
楽しそうにお喋りしてコップを傾けまくっていたカリーちゃんがいきなり酔っ払いに豹変してしまい、もともとワガママな雰囲気だったのが輪をかけてめんどくさいことになってきた。
首をフラフラ前後させながら目がとろーんとしている。
20歳の女の子。遊びたい盛り。
異国の地で何もわからない状態からいきなり男たちに色々世話を焼いてもらってテンションが上がるのはわかるが、さずがに無防備すぎる。
こんなに酔っ払ってどこ連れて行かれるかわからんぞ?
夜のホンギは昼の静けさから一変してものすごい人で溢れかえり光が飛び交い、盛り場の顔を存分に発揮していた。
ストリートミュージシャンも張り切って演奏しているし、露店もいる。
活き活きとした熱気が街全体を包んでいる。
こんな光景も。
平和だね。
そんな嬌声が入り乱れる街の中で、酔っ払って千鳥足になって笑っているカリーちゃんは見事に街の一員だ。
本当はカリーちゃんはサウナあたりに泊まらせようとジュンジュンと話していたんだけど、この様子ではとてもお風呂なんか無理だ。
あまりお金はないみたいなのでネットで近場の安いゲストハウスを探し出して、みんなで酩酊してるカリーちゃんを抱きかかえて連れて行った。
もうその間ずっと俺の手を握って抱きついてきてチューしてくるし、ホテル一緒に泊まろうとか言ってくるし、いきなりフラフラどっかに歩いていって電信柱にしがみついて動かなくなるし、大変なことになっていたんだけど、なんとかキムチゲストハウスに到着。
なんで私だけ1人~!とゴネるカリーちゃんを部屋に放り込んだ。
ハァと落ち着いて外のアスファルトに座ってタバコをふかす。
外灯が光り、ひと気のない住宅地をたまに散歩のおじさんが通る。
「さ、俺たちも寝ようか。」
「どこの宿で寝るの?もうゲストハウス見つけてるの?」
「え?野宿に決まってるじゃん。」
「えええええ~!!!?なんで韓国まで来て野宿しなきゃいけないんだよ~!!」
「ほら、アメリカ思い出して。公園探そう。」
「俺もう旅人じゃねぇし~!!一応お店のオーナーなのに~!!」
笑いながら嫌がるカッピーと一緒にホンギの街に戻り、ここでジュンジュンとはお別れ。
またソウルにいるうちに会おうねと約束して俺たちは街の裏路地の中を公園を探してさまよった。
しかしうまいこと良さそうな公園が見つからない。オシャレなカフェやバーが並んでおり、寝られそうなスペースもない。
「んー、この辺は無理っぽいねー。」
「ああ、荷物重いよぉ~。仕方ないなぁ……フミ君と行動するんだからこうなるかなとは思ってたけど………ちょっと待って、マップ見るから……えーっとね、こっちの方角に公園があるね。」
というわけでカッピーに着いて歩いて行くと、メインストリートを抜けたすぐ裏手に静かで小ぢんまりとした公園を見つけた。
その中央には屋根のある東屋。
公衆トイレがあり、向かいにはコンビニがある。
まさにおあつらえ向き、これ以上ない野宿スポット。
「いやー、さすがやね。そのGoogleマップから野宿場所を探し出す技術は衰えてないね。勘が冴えてる!」
「あああ~……いらねぇー……こんなテクニックいらねぇ~………俺はもう旅人じゃねぇんだあぁ………」
コンビニでビールとマッコリを買い込んで東屋の中に荷物を降ろして寝転がった。
木の床がとても気持ちいい。
台湾でのあの熱帯夜から打って変わって韓国は本当にちょうどいい気候。
日中はうっすら汗をかくくらいで、夜は肌寒い気温だ。
野宿には最適の気温。
「さぁー、日本帰ってからまず何しようかねー。」
「そうだねー、まぁとりあえず乾杯。」
「乾杯。」
ロサンゼルスのビーチの橋の下からずいぶん遠くへ来た。
コロナビールからマッコリへと飲む酒は変わった。
あれから1年。
あの時は本当に何も持っていなかったけど、1年経って俺たちに出来ることは少しは増えただろうか。
夜の闇に溶けながら、やはり夢を語った。
でもあの頃に比べると、ほんの少しだけ現実味を帯びていた。