9月8日 月曜日
【韓国】 ソウル
韓国の空港のベンチはとても快適だった。
兵役があるような国なので結構警備が厳しいかもしれないなと心配していたんだけど、セキュリティのおじさんも兵隊も兄ちゃんもみんなベンチに寝転がってる俺を気に留めることもなく、朝までグッスリ眠ることができた。
目を覚ましてぼーっと人の流れを見るともなく見、いつものようにトイレで顔と髪を洗い、歯を磨く。
アナウンスは全て韓国語で、アニョハセヨとカムサハムニダいう言葉だけ聞き取ることができた。
壁に貼られたポスターでポップなキャラクターが何か喋っているんだけど、その文字はこれまでの世界中の文字のどれとも似つかない形をしている。
日本とも中国ともほとんど同じ顔をしているのにこんなに文字が変わるなんて、朝鮮半島とはどうやら俺たちとは違う独特の文化を持ったエリアなんだなと思った。
世界一周最後の国、韓国。
お隣の国であり、古くから交易が盛んで、現在もアメリカと並んでとても繋がりの強い国。
文化、経済ともに日本と同じく世界で指折りの先進国だ。
韓流ブームでさらに身近な存在になってからはもはや外国という意識もほとんどないくらいの兄弟みたいな存在になっており、だからこそこうした旅のスタイルで訪れることがとても楽しみだった。
観光旅行では見られない韓国の人々の日常に触れ、日本とどういう違いと共通点があるのかを発見したい。
兄弟なんて書くと敏感に反応する人が多いってとこも興味深い。
未だに韓国のことを見下してる日本人はたくさんいる。
歴史の溝は埋まらないし、今も大きな壁があるけども、個人レベルでは彼らは間違いなく俺たちの兄弟だ。
中国のカンさんが教えてくれたように、人間の博愛は歴史の軋轢を超えることをここ韓国でも見つけたい。
そのために必要なのは俺自身の韓国人への下らないイメージを捨てること。
しかしその準備はこの旅の最初のころにもうとっくに終わっている。
ひとまず台湾ドルを韓国のお金に換金。
韓国ウォンのレートは100円が1000ウォン。
0をひとつ減らすだけでいいという簡単なものだ。
35000ウォンほどをゲットして空港の中にあるトレインステーションからソウルの街中へ向かうことに。
まず目指すのはホンギというエリア。
これまで出会ってきた韓国人たちに、路上演奏するならどこ?と質問すると100%の確立でみんなホンギと口にしてきた。
さぁー、ホンギ駅はどこかなー………
よし、まったく字が読めねぇ。
1ミリも読めない。
なにこの謎の文字?
英語みたいに読むことができないし、中国語みたいにイメージすることもできない。
ぬぬ……こんなお隣の国なのに………
しかもなんだこの異常なまでの路線の多さは?
無数のラインが蜘蛛の巣のように入り乱れて絡まり合って、ぐちゃぐちゃになっている。
東京より多いんじゃねぇか?
この複雑極まりない路線図の中からうろ覚えの駅を探し出すなんて至難の技だ。
ソウル、どうやらめちゃくちゃ大都会だな。
仕方なく隣の券売機で切符を買っていた女の子に声をかけた。
「エクスキューズミー、あ、アニョハ…セヨ?」
「……?」
「ホンギって場所どこか知ってますか?」
「いやー、私も韓国初めてだからわからないんですよー、キャハハ。」
ビビる(´Д` )
英語で聞いてるのに日本語で返してきた(´Д` )
どうやらこの子、マレーシア人。
1人で韓国旅行に来たところらしい。
日本語も、英語も、中国語も、マレーシア語も、ついでに最近韓国語も勉強中という天才だった。
「ホンギってのはー、これですね。私も行くところないから一緒に行っていいですか?」
「え?いいけどホテルとか予約してないの?」
「カウチサーフィンでホストを見つけてたんだけど、いきなりホストが今日は泊められないって言いだして。だから今夜は宿がないの。」
そうか。
そういうことなら今から俺は韓国人の友達と会う約束をしている。
もしかしたらそいつが彼女の力になってくれるかもしれない。
一緒に行こうかと誘ってそのマレーシア人の女の子、カリーちゃんと電車に乗り込んだ。
電車の値段は4400ウォン。440円。
「事務所の仕事はとてもつまらない!!毎日毎日つらいです。早く辞めて自由に生きたいです。フミみたいに旅がしたいなぁ。」
マレーシアで日系の会社で働いているというカリーちゃん。
日本人の同僚たちはみんな優しいしいい仕事だとは言うが、20歳の若い彼女にはデスクワークは退屈なものでしかないんだろうな。
明るい女の子でぺちゃくちゃ喋ってるうちに電車はあっという間にホンギユニバーシティの駅に到着した。
韓国語が読めるカリーちゃんがいて助かった、というところだけど、韓国の電車の中は英語よりも日本語のアナウンスが流れるのでここまでくるとなんの心配もなかった。
やはりここは日本のお隣なんだよなとはっと気づかされる。
地下鉄から地上に上がり、近代的なビルが立ち並ぶ路上でさてどうしようかとiPhoneを開く。
別に何の予定もたてていない韓国。
とりあえずやることはこれまで旅の中で出会ってきた韓国人の友達と再会すること。
そのうちの1人と今日会う約束をしている。
電話番号を送ってもらっているのでまずは連絡をとらないとな。
ビルの入り口の大理石の花壇に座っていた無愛想そうなおじさんにアニョハセヨと声をかけて、iPhoneの中の電話番号を恐る恐る見せてみる。
するとなんでもないようにポケットから自分の携帯電話を取り出して俺に差し出してくるおじさん。
す、すげぇ、韓国人いきなり優しい………
ありがたく貸していただいて友達に電話をかけた。
「あー!フミさん!!お元気ですか?!ていうかこの電話誰のですか?」
電話の相手は流暢な日本語を喋る若い男。
うーん、懐かしいな。
「今どこですか?ホンギに着きましたか?!僕は9番出口のところのケンタッキーにいます!!」
というわけで再会したのは………
ジュンジュン。
オーストラリア最終日にゴールドコーストで路上している時に声をかけてくれた韓国人の男の子。
一緒にゾロさんのお店にご飯を食べに行き、美味しすぎる焼肉をご馳走になった仲。
そう、あのアラレちゃんメガネの男子。
ジュンジュン、相変わらずアラレちゃんメガネやね!!
てなわけで早速3人でご飯を食べに行った。
韓国ならまずはこれでしょう!!ということでジュンジュンが連れて行ってくれたのはサムギョプサル屋さん。
サムギョプサルってなんだ!?
聞いたことあるけどわかんねぇ!!
豚肉の焼肉ですね。
これをナムルやらキムチやらと一緒にサンチュで巻いて食べるのが正しいサムギョプサルの食べ方みたい。
昼間っからビールで乾杯。
あ、やばい、今オシッコ漏れかけた。
あー!!ビールと焼肉っていう相性の神がかりっぷりが失神レベル!!
なんだなんだ!!なんだこの国は!!
こんなにビールを美味く飲むことに特化した国が今まであったか!?
なんかいきなり韓国の懐に飛び込めたみたいですごく嬉しくてドキドキしてくる!!
「フミさん、韓国の可愛い女の子はいりますか?」
ん?なんだね?ジュンジュン。
韓国では友達に可愛い女の子をあてがうという風習があるというのかね?
仕方ない、そういうことなら俺のトッポギをコリアンガールのキムチチゲにマッコリして2秒でペヨンジュンだぞ!!
俺のトッポギて(´Д` )
このシリーズももうラストか………
いや、マジで韓国の女の子可愛いです。
可愛いというかセクシーです。
セクシーというか性格キツそうでブン殴られそうです。
猟奇的な彼女のイメージが…………
顔が同じ、とは言うものの、やはり日本人と韓国人では多少の違いはありますね。
旅中もパッと見てだいたいどちらの国かわかったもんです。
韓国の女の子は日本よりもオカメな感じですね。
みんな細くて色がびっくりするくらい白くて、髪が綺麗です。
でもイケてる系の女の子とそうじゃない子が綺麗に分かれてるのも都会っぽいなぁと感じるところ。
ソウルもやはり東京みたいに田舎から上京してきた若者たちが集うところなんだよな。
「フミさん、ほらあそこにマスクしてる女の子いるでしょ。ホラ向こうにも。韓国では日本みたいにマスクはしません。マスクをしてる女の子はだいたい整形中なんですよ。」
ニヤリと笑うジュンジュン。
そうそう、ここは整形大国でもあるんだよな。
気持ち良くなったところでホンギの街の中を散歩した。
韓国人の誰もが、路上演奏ならあそこだよ!!と言ってたホンギ。
韓国中のアーティストが集まる美大があり、その若者たちの街となっているホンギはさながら原宿のような場所で、細い裏路地が無数に入り組んでおりどの路地にもたくさんの小洒落たカフェやバー、セレクトショップなどがひしめいている。
アーティスティックな雑貨屋さんやギャラリーも多くまさにソウルのアートの発信地であり、よく芸能人のスカウトもいるとのこと。
歩いている若者たちはみんなオシャレで洗練されており、奇抜な服に身を包んだモデルみたいなやつも、虹色の髪の毛をした女の子なんかも闊歩している。
韓国はダサい、なんて一昔前のイメージを今も持ってる人がいるならもはやうぬぼれでしかないな。
生まれも育ちもソウルっ子のジュンジュンもやはり洗練された若者だ。
路地にあるアンティーク雑貨のお店でコーヒーを飲んでついでにお願いして荷物を置かせてもらってそれからも迷路のような街の中を散策した。
韓国は今、日本でいうところの中秋の名月で、先週末からこの水曜日までがお盆期間となっておりみんな里帰りをして閑散としているとは聞いていたが、確かに街の中はゴーストタウンとまではいかないがほとんどのお店が閉まって静まり返っていた。
路上はもちろんやるつもりだが、この感じではもしかしたらキツイかもしれないな。
まぁホンギは大学の街なのでその影響が強いだけで他のローカルエリアならもう少し人がいるかもしれない。
ソウルも広い。
かなり広大な市域にたくさんのエリアが散らばっている。
ジュンジュンに軽く教えてもらっただけでも路上できそうなポイントは無数にある。
韓国は日常的にたくさんの路上ミュージシャンを見かけるという自由な国だ。
おそらく厳しいことは言われないはず。
実際このホンギのメインストリートですでに似顔絵描きの女の人がキャンパスを立てて仕事をしている。
ほら、向こうの方からイスとギターを抱えた欧米人の男の人が歩いてくる。場所選びをしている時の顔だ。
彼もきっとバスカーだな。
「あ、どうもこんにちは。はい、僕はバスカーですよ。いつもあっちのほうでやってます。」
話しかけたらまた日本語ペラペラだし(´Д` )
スペイン人なのに日本語も韓国語もペラペラだし(´Д` )
「明日から僕日本に行くんですよ。前も日本でバスキングしたんですけど、原宿で1時間で2万7千円くらい稼ぎました。東京はいいですねー。宿も中野にすずやっていうとこがあってとても快適ですね。まぁ2千円なので安くはないですけど。」
く、詳しすぎ(´Д` )
こうしてバスカーとバスキング事情の話をすることはよくあるけど、俺の国である日本について話すってことはまずないのですごく新鮮だ。
欧米人バスカーにとって実は日本はとてもやりやすい国みたいだ。
「韓国もいいですね。だいたい1時間で10万ウォン、1万円くらいです。日本も韓国も警察何も言わないですし。僕のトップ3はアイルランド、韓国、日本ですね。バスカーパラダイスですよ。あーラーメン食べたい。」
タッピング奏法のギターで世界を回っているというスペイン人のパブリオ。
ちょっと聞かせてもらったけど確かにこりゃ稼ぐわっていう上手さだった。
16時以降ならバスキングOK、このホンギがベストプレイス、などなど、韓国のバスキング事情を聞き、俺も香港・シンガポールなどのバスキングポイントの教えてあげた。
小一時間お喋りしてからパブリオは欧米人らしいフレンドリーな笑顔を残して去って行った。
日本で会いましょうと約束して。
旅人同士、次の目的地がお互いに日本だということに、またもやハッと驚いてしまった。
本当にここが最後の国なのか。
約束したはいいが、その時俺は旅の途上ではないんだな。
その時俺は旅人であるパブリオからしたら、現地の人、になるんだよな………
そうかー………と不思議な感情を持ってパブリオの背中を見送ると、ちょうどそこにメールが来た。
ちなみにソウルは世界一Wi-Fiが飛んでいる街と言われるほどなので、道端だろうがどこだろうが、四六時中インターネットに繋がっていられる。
メールをチェックしてホンギ駅に行くと、人ごみの中にボケーっと座っている懐かしい男の姿を見つけた。
久しぶりだな。
一瞬であの日々が蘇る。
1年ぶりに再会したそいつは、俺の記憶の中にある常にサックスを肩からさげているスタイルではなかった。
もう旅人じゃないんだもんな。
カッピー、久しぶり。
後編に続く…………