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香港マジ最高

8月24日 日曜日
【中国】 香港






「おい………おい………べらんめぇこんちくしょう………起きろー……」



「………あ!!は、はい!!」



「おう、朝飯食いやがれ。」




リビングのソファーの上で目を覚ました。

顔がむくんでいるのがわかった。
ゆうべあれから街のど真ん中にあるお宅にお邪魔させていただいて、餃子を食べながら日本酒を飲み、夜遅くまでお話させていただいた。



誰のお宅かって?










ヤ………






嘘です。この方の正体は………







東京の下町ど真ん中の深川のヤクザです。







嘘です。やべぇ、これ以上書いたら怒られる。






深川といったら東京でも1番べらんめぇのところです。
義理と人情だけでどんぶり飯いけるようなところです。

銭湯の温度、60℃くらいないと納得しないような人たちです。



そんな生粋の江戸っ子であるオジキは口は悪いけど実はめちゃくちゃ優しいです。

本業は……まぁ伏せておきます。
決して日陰の商売なんかではないということだけ書いておきますね。








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オジキが作ってくれたカレーとお吸い物をかきこむ。

美味しいですと言うと、あたぼうよなめてもらっちゃいけねぇや、と笑うオジキ。


洗濯物はねぇのかい?充電するもんはねぇのかい?とバッグパッカーに必要なものをよくわかってくれている。

パーソナルコンペーター!?なんだそりゃ!!新しい和菓子か!?みたいな時代に流されなさそうな江戸っ子だけど、実はこういう人ほど柔軟な思考を持ってるのかもしれないな。



「おう金ちゃん、おめーさん59ヶ国も行ってんだったら普通の観光地なんて行かなくてもいいんじゃねぇかい?」


「はぁ、まぁそうです。」


「よし、それじゃあ今日はおいら先輩と飯食いに行くからそこに一緒に行こうじゃねぇか。香港の地元の人が集まる場所で、多分稼げるぜ。」



香港にはザッと見ても様々な見所がある。
歴史的建造物はあまりないが、近代的なビルディングや整備されたハーバー、山の上から街を見晴らす展望台、それぞれに特色あるショッピングエリア。
ディズニーリゾートもある。



香港のイメージと言ったら悪の巣窟、九龍城が真っ先に浮かぶ。
何十年も前からの古いアパートたちがぐちゃぐちゃと密集した陰湿で怪しい巨大アパート群。
あまりにもどローカルなその場所は怖いもの見たさをくすぐりはするけどマフィアの巣窟となっており、立ち入ることの許されない禁断の建物。


なのだが、香港の負の歴史の代名詞的なその九龍城は1990年代に取り壊されて現在はただの綺麗な公園になっているそうだ。


古い街の光景がなくなっていくのは旅するものとして寂しいものだけど、それでも香港は香港らしい光景を今も残しているんじゃないかと通りの巨大看板やボロいアパートを見て思う。







そんな近代的な国、香港だけど、都市部以外は緑の多い山々が広がり、入り組んだ小島や入り江が形成された自然豊かな風景を見ることができる。

今日オジキはご友人の方たちとそんな自然の中にある小さな港に海鮮料理を食べに行くという。

海鮮料理を食べたついでに店からみかじめを回収して回るという。

嘘です。








「おーう、待ったかい。ん、このお兄ちゃんはどちらさんだい?」


「あ、は、始めまして、お、おひけぇなすって、手前姓名を発しまするに金丸文武という未熟者にござんす。生まれは荒波さかまく日向灘の町、日向であります。歌を生業に宿無しをやっておりまして、こちらのオジキの組にワラジを脱がせていただいておりやす。以後お見知り置きを。」


「へー、そうなのかい。昨日はいくらか稼いだのかい?1200香港ドル?なかなかいい水揚げじゃないかい。オジキちゃん、この兄ちゃん追い回してあげたら?」


「カシラ、客人は旅ガラスなのでまたすぐに違う空の下なんでさぁ。」



オジキの先輩にあたるカシラに仁義を切らせてもらってから、もう1人姐さんも加わって4人で向かったのは西貢という町。

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電車とタクシーを乗り継ぎ、緑の多い住宅地や丘を抜けていくと、海に面した小ぢんまりとした町が現れた。









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静かな入江の海がひろがりたくさんの漁船が浮いており、海辺の遊歩道沿いにズラリと海鮮料理屋さんが並んでいた。

店頭にはいくつもの水槽が置かれてその中で新鮮な魚介類が元気に動いており、今まさに水揚げされた魚たちが海から運ばれてくる。

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どこのお店もほとんど満席の賑わいをみせているが観光客はほとんどいないとのこと。

どうやらこの西貢は香港の人たちがのんびりとした時間を過ごしにやってくる行楽地といったところらしい。



というわけで………








これもんです。

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「金ちゃん~、たくさん食べてよー。」


「いただきます!!」


「あ、ビールでいいよね?」


「え、あ、お、お酒は……今から歌うのでやめとこうかなと……」


「…………なに?」


「いやー!!実は僕吐くまで飲まないと気が済まないんですよねー!!さ!!レッツ下痢!!ひょう!!」



嘘です。そんな脅されたりしてません。
カシラもオジキも姐さんも優しい方です。






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美味しすぎる海鮮料理をご馳走になり、スーパーお腹いっぱいでいい感じに酔っ払ったところで路上やりましょう。

暑いくらいの太陽がさんさんと降り注ぐハーバー沿いのレストラン通りにはたくさんの家族連れやカップルがガンガン歩いており、この優雅な空気はまさに路上におあつらえ。
他にバスカーもおらず、完全に独壇場の場所選びたい放題。

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てなわけで広場の中にある木陰のベストスポットに堂々と陣取ってギターを鳴らした。










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酔っ払っててお腹に力が入らないが、オジキたちが聴いてくれているので死刑台に立たされた気持ちで歌うと、通る人々も足を止めてパラパラとお金を入れてくれる。

しかも入るお金がでけぇ。
みんな20香港ドルから。300円。

それがあっという間にギターケースを埋め尽くしていく。

周りにレストランの客引きのおばちゃんやおじちゃんでさえ、みんな笑顔でお金を入れてくれる。


誰にも止められず、自分のペースでリラックスして歌える…………

ああ、香港マジで自由の国だ…………

カシラとオジキと姐さんを見送り、それからも1人で夕方まで路上を続けた。

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時間は18時をまわり、太陽が傾いて涼しくなってくると急に人通りが増えてき始めた。

ボートのクルージングに出ていた人たちがぞろぞろと海から帰ってきて、今からディナータイムに突入するレストラン街はさっきまでの軽く倍の数の人々で溢れかえった。

ここからが稼ぎどき!!






なのだがササッと荷物をまとめた。

今夜はまたオジキと夜に会う約束をしている。もったいないところだけどたった2時間でもすでにまぁまぁ稼げている。
この辺にしとこう。

ギターを持って行列ができているバス乗り場に並び、香港の市街地へと戻った。


あがりは1200香港ドル。1万6千円。












電車を乗り継いでやってきたのはチムサッツという駅。

人の流れに乗って明かりの少ない薄暗い出口から外に出てビルの脇の小道を入った。


そうそう、書き忘れていたけれど香港の見所で大事なものを忘れていた。

世界を代表する、誰もを虜にするあれ………






暗い小道を抜け、パッと広場に出た瞬間、凄まじいものが目に飛び込んだ。


足を止めてため息が出た。

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暗い海の向こうに浮かぶ壮大な香港島の夜景が、夜の底で宝石のように輝いていた。

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香港島の海沿いはまるでドレスアップしたショーケースだ。
全てのビルディングがきらびやかにライトアップされており、それが海沿いにずらーっとどこまでものびている。

本島側のハーバーはそんな夜景を堪能できるように余計な明かりがなく整備された桟橋がのびおり、ものすごくたくさんの観光客たちがその光のパレードに酔いしれていた。


こりゃすげえや。

こりゃ世界三大夜景にもなるわ。





ただひとつ言えることは、こんなロマンチックな場所に1人で来るとか罰ゲームでしかないということですね。


へー!!道に迷ってたら偶然たどり着いちゃったけどなんか綺麗なとこだね?!日向の米の山といい勝負ジャン?ねぇお兄さんもそう思うでしょ?


と隣にいた無口っぽい兄さんに声をかけたら仲良くなってお喋りしました。



いやー、僕なんて夜景とかひとつも興味なくてこんなとこにわざわざ来る人の気持ちがわかんないんすよねー。カンフーなら好きって言うかちょっと昔かじってて、ジャッキーチェンの息子とかいつもパン買いに行かせてたんですよ。ウケますよね!お兄さんはカンフーとか好きですか?









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レーザービームショーがマジで半端なかった。

街全体にビームが飛び交ってた。











桟橋を歩いて行くとフェリー乗り場があり、ここから香港島に渡ることができるが今回は無し。

このピア前の広場にはたくさんの人が溢れているので、他ではほとんど見なかった路上ミュージシャンがわんさかライブをしていた。

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でもみんな下手くそ。
高校生みたいなのがアンプ使ってペキョペキョとギターを弾いて、隣の男の子がマイクを手に持ってカラオケみたいに歌ってる。

みんな3~4人のグループなのにまったく同じコードをジャカジャカ弾いてるギターが2人いたり、まぁとにかく高校生レベル。

たまに人をたくさん集めてるグループと他の違いはカホンを叩いてるってとこくらいだ。

1997年までイギリス領だったんだからもう少しポップミュージック文化が高水準にあってもいいものなのにな。









「おーい、金ちゃん待ったかい?どうだい、あれから稼げたかい?」


「最高でした!!めちゃくちゃ良かったです!!さすがオジキのナイスチョイスですね!!」


「あったぼうよべらんめぇこんちくしょうてやんでぃ。ところで腹は減ってんのかい?ここでいいかい?」


「こ、ここは!!!オジキ!!最高です!!最高のチョイスです!!!」


「べらんめぇこんちくしょうてやんでぃべらんめぇ!!」





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べらんめぇ美味え。


吐くかと思った。


香港では若者たちのオシャレなご飯って感じでした。

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香港には吉野家とか味千ラーメンとか牛角とか和民とか日本のものがなんでもあります。
看板の文字も普通に日本語だったりします。
かなり日本寄りの国ですね。




トンカツ食べたいです。


あるけど高いです。











「よし金ちゃん、最後にちょいと1杯やって行こうか。」


腹ごしらえを終え、チムサッツの街の中を歩く。
ネイザンロードから1本中に入った漢口通りあたりはネオン街になっており、たくさんのバーやレストランが並んでいるんだけど、その角の1番いい場所にあるのも大阪という名前の居酒屋だ。

綺麗で高そうなお店が多くいい感じなんだけど、日曜日の夜はそこまでたくさんの人は歩いていない。





て、ていうかどこに行くんだろう…………

どこの鉄火場に連れて行かれるんだろう…………






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老舗ジャズバーでした。


鉄火場っていうかアームストロングでした。

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めちゃくちゃ歴史を感じさせる古びた店内で、かなり渋いお店。

またバンドのクオリティも高くて、年季の入ったベテランジャズマンたちがステージでイカしたソロ回しをしています。

店内にはおそらく香港在住であろう白人たちの姿が多く、みんなジャズを楽しみながら薄暗いテーブルでグラスを傾けて話をしている。


これこれ、イギリス領だった香港だもの。
欧米文化は確かに息づいている!!



ていうかオジキ、江戸っ子がジャズ。ハイカラ。

いやー、粋な人だ。




「おいらが初めてこの店に来たのは25歳くらいのころだ。あの頃ァ欧米人しかいなくてなぁ、よく白人のおばちゃんと踊ったりしたもんよ。」



オジキはお店に入った時にバンドのメンバーと手を上げて挨拶していた。

今も仕事帰りによく来ているし、バンドの昔のボスのことも知ってるような常連さんってわけだ。



その時バンドが君の瞳に恋してる、を演奏し始めた。

顔をしかめるオジキ。でもその横のフィリピン人の姉さんは盛り上がって一緒に歌い始めた。


「ばっきゃろう、こんな曲やんじゃねぇやなぁ。でも時代なんだよなぁ………てやんでぇ。」


新しい層のお客さんを獲得するためにお店もこうしたポップなナンバーをリストに加えさせたりしてるんだろうなぁ。

1972年からあるこのお店。異文化が混ざり合った古き良き香港のエキゾチックなムードは、キャントテイクマイアイズオブユーの軽快なメロディに乗せても遜色なくしっかりと残っている。



豊かな自然、モダンでオシャレな街並み、美味しい料理、現代文明の象徴である美しい夜景、そして植民地時代の名残をとどめる混沌と自由の夜風。


香港マジで面白いわ。

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