8月22日 金曜日
【中国】 成都 ~ 電車の中
お腹の調子がいいような気がする。
ぐるぐるぐるぐる鳴ってはいるが、下痢の音とは少し違っていてオナラがたくさん出る。
これすごいこと。
これまで1ヶ月、ずっとオナラが出来なかった。
間違いなく下痢と一緒に出てしまうから。
立ちションもできなかった。
なにかお腹に変化が訪れている。
この数日の日本食のおかげのような気がする。
ゆうべもセブンイレブンでお弁当を食べた。
今まで薬とか乳製品とか果物とか、病院以外のことはたいがい試した。
でも全く回復する兆しはなく、本当に辛い1ヶ月半だった………
そうだよ……足りなかったのは日本食だった………
お腹に優しいさっぱりした料理だよ………
今日から香港への長距離移動に備えてセブンイレブンで大量に食料を買い込んだ。
カップラーメンとオニギリとネスカフェのコーヒー。
全部お湯で作れる。
中国はどこでもお湯が手に入る。マジでお湯がなければ生きていけない人々なので、もちろん電車の中にも蛇口が設置されている。
お湯文化最高。
さぁ、香港までぶっ飛ばすぞ。
雨の降りしきる朝の街を歩き地下鉄に乗って成都の北駅へ。
メインステーションの北駅はすごい人ごみで、相変わらず敷地の入り口、駅舎の入り口、ホームの入り口に厳重なチェックゲートがあり、エックス線の荷物チェックまである。
それらをくぐってプラットホームへ行くと電車が待ち構えており、寝台車両の前を過ぎて座席車両に入った。
座席車両の中はたくさんの人でごった返しており、すでにほぼ全ての席が埋まっていた。
チケットのシートナンバーを見ながら座席を探しだし、なんとかこれから30時間ともにする席を確保。
荷物を棚に放り込み、ふうと一息ついた。
中国の電車のクラスは5つある。
硬座
軟座
硬臥
軟臥
読んで字の通り、硬いシートと柔らかいシートの座りか寝台だ。
30時間の移動なので寝台にするか迷ったが値段が2千円くらい変わってくるので節約。
これまでも30時間超えのボロバス移動なんて何度もあった。
硬いシートっていっても耐えられるだろう。
ちなみにこのさらに下に天座っていう座席なしのチケットがある。
立ちっぱなし、もしくは車両の連結部分で地べたに座るってやつだ。
すでにこの車両の連結部分にも、最底辺の民が地べたスペースを確保して座り込んでいた。
電車が走り出す。長い移動の始まり。
この電車は香港までは行かない。香港の隣町の広州までだ。
そこから電車を乗り換えて向かうことになるので実質移動は明日いっぱいかかりそうだ。
香港は同じ中国ではあるが、イミグレーションがあったり通貨が違ったりと特殊なエリアになっている。
嬉しいのは香港ではFacebookやGoogleなどのインターネットの規制がない。同じ中国なのに不思議なもんだ。
イマイチ香港ってとこがどういうところかよくわからない。まるで別の国のようだけどれっきとした中国の一部。
自由な街なのでおそらく路上もできる。バスカーの間では香港は稼げる街として有名だ。
あのカジノアイランドのマカオもすぐ近くにあるし、本当なら1週間くらいとりたいところだけど残念ながら2日だけしかない。
お腹の調子も良くなってきているし、どっかで野宿かましながら2日で稼いで、旅行代理店で台湾から韓国の飛行機チケットを買う。
失敗は許されない。
何がなんでもやりきってやる。
電車の中はまぁ賑やかなもので、ワイワイガヤガヤと話し声が溢れている。
中国人はとにかく声がデカイ。
大げさじゃなく車両の端から端まで聞こえる大声で叫ぶように話すのでまぁうるさい。
小さな子供たちも遠足気分でテンションが上がりまくっており、裸足でバタバタ走り回りながらギャアアアアアア!!!!と叫びまくっている。
泣きわめく赤ちゃん、
スマホで音楽をかける若者たち、
パソコンでドラえもんを見てる家族、
さらにさらに、そこに輪をかけるのが車内の売り子さんたち。
南米やインドみたいに列車に乗り込んでくる個人の売り子ではなく、日本みたいに車掌さんがお菓子や飲み物を満載したカートを押してやってくる。
ジュースー!!サラミー!!とか中国語で声を上げて車両を行ったり来たりする。
他にもご飯とおかずをたくさん乗せた調理カートがやってきてお弁当を詰めてくれるサービスは長距離移動にはありがたい。
極めつけは実演販売。
いきなり車両の真ん中で流暢に売り口上を並べ始める車掌さん。
「お立ち寄り!!ここに取りいだしたりまするは小さな小さなポーチ!!ポケットサイズのこのポーチを開けてみると、さぁご覧あれ!!毛抜き、ハサミなどが入ったジェントルマンの身だしなみキットだどうだこの野郎!!これであなたも若い女の子にモテモテ!!」
そこらへんのテレビの販売員顔負けのべシャリで次々と商品の紹介をしていく車掌さん。
笑顔で陽気な声を出し、車内にお客さんたちの笑い声が響き、ここはもう彼らのオンステージだ。
速乾タオル、ベルト、財布、オモチャ、ケータイの予備バッテリー、歯ブラシ、
電車の中というシチュエーションを考慮したチョイスなので面白いように売れていく。
南米のバスの物売りみたいに窓のサッシを売ってきたりしない。
カップラーメンや中華料理の美味しそうな匂いが立ちこめ、テキ屋の粋な売り向上が響き渡り、子供はかけまわり大人は大声で笑い、もう電車の中がさながら縁日の賑わいだ。
ここまで来ると公共の場でケータイで話したらいけないとか、そんなレベルの問題ではなくなる。
このお祭りを楽しむのが正しい過ごし方。
さすがにお酒は販売してないけどね。
そんな大騒ぎの車内ではすぐに周りの席の人たちと仲良くなれ、みんながタバコを差し出してきて一服しようぜと誘ってくれる。
車両の連結部分に行くとおっさんたちがもくもくと煙をあげている。
お湯を入れてコーヒーを飲みながらタバコを吸うことができるのは長い移動においてはだいぶストレス削減になるな。
しかし足元は痰の海。
カアアアアアアアアア!!!
ぷへえっ!!
床に痰が投下される。
これだけはどうしても慣れん………
中国人が外国で嫌われてる理由のひとつはそこらじゅうで痰を吐き散らかすというところもあるんじゃないだろうか。
祭りの後の静けさが訪れたのは23時を過ぎたころだった。
みんなシートに座って目をつぶっている。
騒ぎ疲れた子供たちもみんな大人しくなった。
さぁ、俺も疲れた。寝よう。
って、全然眠れない(´Д` )
シートがリクライニングなしの直角で、硬座の名前の通りほぼクッションなしなのでお尻へのダメージがなかなかのもんだ。
ほんのちょっと、ほんのちょっと背もたれが倒れるだけで全然違うのに。
いくら目をつぶって楽な態勢を探してもどうにもならず、疲労は増す一方。
足は伸ばせないし、首は痛くなるし、腰はビリビリ痺れるし、たまらなくなって目をこすりながらタバコを吸いに行くと、天座のシートなし組が連結部分のスペースで荷物をベッドにして寝ていた。
よほどこっちのほうがマシだな。
床は痰の海だけど。
シートに戻り、どうにもならずにコクリコクリと首を揺らしシートから転げ落ちそうになりながら朝を待った。
ああ………きつい………
寝台って偉大だな………