8月21日 木曜日
【中国】 成都
所持金8千円。
香港には行けるし、台湾行きのチケットも持っている。
しかし………台湾出国のチケットがない…………
もう嫌だーこのシステム………
今までどれだけこのルールに悩まされてきたか。
国は自国で不法に滞在する者を増やしたくないので、キチンと出国する意思と証拠を持った者しか入国させたくない。
なのでイミグレーションではたいてい出国チケットの確認をされる。
ないと入国拒否を食らう可能性がある。
そのため航空会社も、チケットがあっても出国するためのチケットがなければ飛行機に乗せてくれない。
万が一イミグレーションで入国拒否をされた場合、元いた国に航空会社が責任持って戻さないといけないからだ。
そんな無駄なことしたくないので、航空会社は入国拒否をされる可能性のあるやつは初めから飛行機に搭乗させてくれないってわけだ。
このチェックは国によってめちゃくちゃ厳しいところもあれば、全くのノーチェックの国もある。
アメリカとかイギリスなんかは100%必要だ。
そして台湾もまた必要な国らしいんだよなぁ。
正確に出国する期日が決まってるならちゃんとチケットを買ってしまえばいいけど、バッグパッカーってのはあんまり先が読めない人たち。
もしその国を気に入ったら気ままに過ごしたいもの。
しかし出国チケットを買ってしまえば、どんなに面白いことがあったとしてもその日程をずらすことはできない。
そんなバッグパッカーがよく使う手はふたつ。
ひとつ目はテキトーに近隣への最安のチケットを買って捨ててしまうこと。
隣国とかなら安ければ5千円~6千円で買えるのでそんなに痛くない。
もうひとつがダミーチケット。
アメリカン航空のインターネットサイトでキャンセル無料のチケットを買って入国後にキャンセルをかましたり、外国人検査官が日本語を読めないのをいいことに日本語翻訳した保留ページをプリントアウトして見せるという豪胆な人もいる。
たまにバレるらしいけど。
今まで何度このチケット問題で頭を悩ませてきたことか。
そしてクレジットカードがあったらどれほど楽だったことか………
今の時代、インターネットで予約すればほぼ全てのチケットが割安になる。
旅行代理店も悪くはないけど。
今回の台湾出国のチケットも旅行代理店で買わないといけない。
行き先はもちろん韓国。最後の国。
台湾を何日とるか考えないとな。
香港に着いたらすぐに買わないといけないんだけど、残念ながら金はない。
香港に着いて2日以内に金を稼ぎ出してソッコーで旅行代理店で買う。
値段は希望を込めて2万円てとこか。
なんとかなるかな………
いや、なんとかしないと台湾に飛べない。
2日以内に2万円を稼いで確実にチケットを買う。
雨でダメだったー、は通用しない。
香港稼げる……よな?
まぁ今はこの四川を思いっきり堪能しないとな。
よーし、それじゃあ美味しい美味しい四川料理を食いまくるぞおおおおおおお!!!!!!!
脇目もふらずにセブンイレブンに行ってカツカレー食べました。
う、うめぇ、美味いよー。
ただのコンビニのカツカレーなのにものすごく体にしみるよー。
優しい味だー。
もう辛くて油を直飲みするような料理は勘弁です。
値段は17元。290円。
さて、今日ももちろん路上に出るけども昨日やった街の中心部は外そう。
人はどこにでもいる。無理して警備員だらけのショッピングエリアでやることもない。
釣り人の気分で地図を睨みつけ人の歩いていそうな場所をシミュレーションし、最初にやってきてのは四川大学と病院が並ぶポイント。
予想的中でバス停と地下鉄の駅の周辺にはすごい数の人通り。
入れ食い状態。
よっしゃ行くぞー!!
一瞬で人だかりが出来てバンバンお金が入っていく。
警備員は来ない!!
ここは手薄なのか!!
5曲目で警備員登場。
もう……ショッピングエリアはわかるけど、こんな場所でもダメなのか……?
今度は地下鉄駅の入り口の階段下。
ちょいちょい入っていくお金。
いい感じ!!
10曲目で警備員。
ふぅ、こりゃダメだ。もっと街の外れまで行こう。
人の反応は最高なんだよなぁ。
みんなすぐに足を止めてくれるし、お金離れもいい。
みんな珍しいことに興味しんしんだし、音楽を楽しんでくれている。
しかし警備員がすぐに止めてしまう。
中国は規制の厳しい国だ。
FacebookやGoogleもそうだし、様々な若者のカルチャーが抑え込まれている。
この国に住んでる欧米人も、中国はアートを潰してしまうのよと言っていた。
成都はこんなにも綺麗で清潔感のある街だけど、規制規制でカタッ苦しくて、どこか無機質に感じてしまう。
活気がないっていうか人間味が薄いっていうか。
まぁそこに安心感を感じるってとこもあるんだけど。
ちなみに昆明を回ってきた人から聞いた話では、昆明はバスカーだらけだったそう。
地方都市レベルならイケるみたい。
もっと時間があったら名もなき町をガンガン攻めてみたかったな。
それからも何度か試すがことごとく警備員が現れ止められてしまい、げんなりしながら歩いていたら大きな川に出た。
おだやかな川の両側にはスモッグにけむった高層ビルがズゴンズゴンそびえ立っている。
本当にすぐそこのビルでさえ霞んでみえるほどで、遠くの方のビルはほとんど姿が消されてしまっている。
中国の大都市の大気汚染はひどいものだと聞いていたが、これほどのものとは思わなかった。
まるで霧雨でも降ってるみたいにどんよりと淀んでいる。
せっかくの綺麗な街が陰湿な空気に充満している。
チベットの透き通った冷たい風が夢の中の風景だったみたいだ。
標高が下がったことで体は確かに楽になったが、この淀んだ空気を吸ってるのは気分がいいものではない。
疲れた体でとぼとぼと川沿いを歩いた。
向こうのほうに宮殿のような建物が川に架かっているのが見えた。
引き寄せられて向かって行くと、川沿いの細い道になにか派手な看板が並んでいるのが見える。
歩を進めて行くと、どうやらそれらはパブやバーの看板だった。
柳の木が並ぶ川沿いに、古い家屋を改装した風情ある飲み屋街が広がっていた。
へー、こりゃ趣のあるネオン街だな。
疲れきってはいたが夜まで待ってみようとベンチに座って日記を書いた。
パブやバーの看板が漢字で表記されており、日本の飲み屋街を思い出すその雰囲気に懐かしさがわいてくる。
日本中の飲み屋街を流しで回っている時、知らない町の路地裏にスナックの看板が集まっているのを見つけるのが大好きだった。
ネオン街ってのはどこか秘密の場所のように隠れた細い路地に固まっていたりする。
縁のない人には縁のない場所。
でもそこで夜に生きる人たちもたくさんいる。
日のあたらない夜の町には無数の人間ドラマがあり、高校生のころからその怪しい空気に魅せられていた。
湿った路地裏から聞こえてくるおじさんの演歌の声はなんとも物悲しい響きがあるものだ。
すると、どこからか演歌のメロディが聞こえてきた。
あれ?こんなとこで演歌?
向こうの方から微かに、でも確かに聞こえてくる。
不思議に思って、音のするほうに歩いてみた。
川に架かっている宮殿がライトアップされ、近代的なビルと一緒に夜空に浮かび上がる。
ネオン街の看板に明かりがともされ、けばけばしい色彩が通りに並ぶ。
音楽が次第に近づいてきて、ようやく気付いた。
それは演歌に似てはいたが、中国の伝統音楽だった。
そして音の出どころは川沿いにある広場だった。
日の沈んだ暗い広場の中でたくさんの人たちがその中国の音楽に合わせて踊りを踊っていた。
ゆるやかな、柔らかい旋律に合わせて、なめらかに体を動かす人々。
拳法なのか健康体操かわからないが、それはよく中国の映像で見る光景だった。
薄暗い広場は外灯に照らされ、人々の影が哀愁を帯びたメロディに重なって形を変える。
その時、この大都市を面白みのない街だと思っていたさっきまでの感覚が180度ひっくり返った。
なんて芳醇で、人間の匂いのする街なんだろうと思った。
人間の神秘と何気ない生活がとても密着していて、自然だった。
街あかりがポタポタと川に落ちて、いつまでも踊りに魅了されていた。
飲み屋街に人通りが増してきた頃、タイミングよくパラパラと雨が降りだしすぐに勢いよく地面を濡らし出した。
広場にいた人たちは蜘蛛の子を散らすように帰っていく。
ああ、ここなら確実に歌えたのにな。
成都はとことん路上の相性が良くなかったみたいだ。
ギターを抱えて急ぎ足で宿に向かった。
夜21時のアスファルトは鈍く光り、ネオンがまたたいていた。
今日のあがりは224元。3700円。