8月13日 水曜日
【中国】 シャングリラ ~ シャンチェン
イクゾー君、久しぶり。元気にしてる?
風の噂で今シンガポールにいるって知ったよ。
アジアはお互いキツかったね。イクゾー君はガンジー並みの食生活をしてたらしいね。
でもシンガポールに戻ったんならきっとちゃんと稼いで美味しいもの食べてるだろうね。
食パン生活はオーストラリアで卒業だよな。
シドニーのセブンイレブンの前で一緒にカップラーメンと食パンを食べてた日が懐かしいよ。
今俺は雲南省の山の中を四川省へと向かっているところだよ。
もうね、ひどいよ道が。
よく山の中に工事車両のための林道ってあるやん。
ダムとかトンネルを作るときとかの仮の道。
あんな道を走ってるよ。
ただのオフロード。
道に穴があきまくっていて、ズガンズガン跳ねて、座席に座ってる姿勢で宙に浮くよ。
岩が飛び出しまくっているからバスの底をガリガリ削るし、雨で道が池みたいになってるし、ガードレールなんてない断崖絶壁の上をギリギリで走っていくし、挙句の果てには工事で道が通行できないんだよ。
ていうかね、道を作ってるんだよ、目の前で。
うん、道を今作ってる。
ユンボで地盤を削って、ショベルカーがザーッとならしているんだよね。
そしてザーッとならしたら、ハイどうぞって走らせるんだよ。
てん圧もなにもしてない土の上を走らせるんだよ。
真横は目のくらむような崖。
そこをバスは低速ギアで走り抜けるから思わずシートをつかむ手に汗がにじむよ。
落石とがけ崩れのオンパレードだし、腰は痛いし下痢は漏れるし、とにかくスリリングだよ。
まぁイクゾー君のシンガポールのカジノ勝負には遠く及ばないけどね。
まぁそんなスーパーデスロードなんだけど景色は目を疑うような絶景だよ。
深山幽谷とはこのことといった山々の連なりで、標高が3000mを超えるほど高いから周りの山が雲に覆われているんだよ。
よく中国の水墨画に描かれている仙人の住む秘境ってやつ。
まさにあれだわ。
そんな深い山の中にチベット仏教の象徴であるタルチョの色鮮やかな旗がからみついていて、雲の中からふいに現れる無数のカラフルな色彩がこの世のものとは思えない景観を作り上げているよ。
山脈の稜線を走り、大渓谷の谷底を駆け抜け、いくつもの峠を越えていると、東南アジアでは味わえなかった旅をしている感覚に酔いしれることができるよ。
イクゾー君と2人でマレーシアからタイまでハチャメチャな移動をした時はまぁまぁ楽しかったけどね。
でもそんないい気分をぶち壊してくれるのが、バスの中の人々だよ。
2人でタイの国境からチェンマイに向かう時、ズタボロのバスの中でシートに寝っ転がって上半身裸になってタバコ吸ってたやん。
本当はダメだけど、誰も他に乗客いなかったし、タイの熱い風と自由な空気でとても気分良かったよね。
今このバスの中は煙で目がしみるてるよ。
オッさんたちがタバコ吸いまくり。
小型バスの中でみんながタバコを吸ったらどうなるか、高校生の頃にたまり場にしてた友達の部屋みたいな感じでもう真っ白。
しかも灰皿なんかないから、みんなそこらへんにポイポイ捨ててるし、地元の人たちの穀物袋とかが車内に山積みになってるし、なにこれ?って状況だよ。
さらにそんな不愉快さに拍車をかけるのが、彼らのエネルギーを溜める声。
「コアアアアアアアアアアア!!!!!!」
「ハオオオオオオウウウウウウウウ!!!!!」
「コアッ!!コッコッ!!ハァウ!
!」
いきなり大声でエネルギーを溜め始めるんだよ。
超必殺技でも出すのかと思うよ。
そしたら窓の外にプヘエェ!!って痰を吐くんだよね。
もうゲロ吐きそうになるくらい気持ち悪いんだけど、それはまだいい方で、最悪なのはバスの中にペッ!!って痰を発射すること。
真ん中の通路が痰まみれ。
果物の食べカスとか穀物袋とかタバコの吸い殻とか痰とか下痢とか、そして絶え間無く襲ってくるバスごとひっくり返りそうなほどの揺れと衝撃。
そして今度は運転席の後ろから煙がもくもくと吹き出してきたよ。
真っ白い霧の中の山道で、オーバーヒートで動かなくなっちゃった。
もうね、笑えてくるよ。
窓の外も窓の中も、仙人になるための修行にはうってつけのシチュエーションってわけだわ。
イクゾー君の言葉をここで借りるね。
旅楽勝じゃないじゃないですか……
そんな地獄のデスロードでお尻もお腹も精神も崩壊しそうなドライブを8時間くらいかな。
山の中に少しずつ民家が見え始めたよ。
シャングリラの時からさらに建物の趣向が変わり、カラフルで、不思議な模様の描かれたものになったんだけど、それが雄大な山々の麓にポツポツと散らばってるんやわ。
雲に覆われた幽玄な渓谷にそんな不思議な形の民家が寂しげに佇んでいる様子は、ここが今までに訪れたことのない全く異なった独自の文化を形成した地域なんだということをまざまざと教えてくれるよ。
ついにチベットの奥地へと足を踏み入れたんだ。
ここはまさに世界に取り残された地の果てであり、始まりの聖地なのかもしれないね。
バスは四川省最初の町であるシェンチェンという小さな小さな町にようやく到着したんだけど、先を急ぎたいのでそのままバスを見つけることにしたよ。
しかしここから先は道があまりにもハードすぎるのでバスは走ることができず、小さなバンによる交通方法しかないみたい。
そしてそんな危険すぎる道なので夜は運転できないので昼間の便しかなくて、仕方なく明日の朝イチのバンを予約したよ。
次の町、リタン行きが80元、1300円。
というわけでこの夜はこの谷間の小さな秘密の町に泊まることにしたよ。
可愛い白人の女の子がいたからナンパしてご飯食べに行ったらオーストラリア人だったっていう話、悪くないやろ?
オーストラリア、懐かしいよなぁ。
あの安いラーメン屋さんで食べた醤油ラーメンは忘れられんよ。
イクゾー君、旅の始めがオーストラリアでそこから東南アジアと回っているけど、ここらでこれだけ鍛えていたらヨーロッパなんか行ったらめちゃくちゃ楽勝に感じるはずだよ。
ケバブと白ワインと大きな教会。
そして静かで美しい歩行者通りは路上に最適だよ。
そうそう、このブログで登場人物人気投票ランキングってのやってるんだけど、もうそろそろ第2回目の時期だね。
旅の上半期に登場してくれたキャラクターはみんなカッコいい人たちばっかりでね、前回の1位は最強の旅人、カオルさん、2位がスペインとフランスを一緒に旅したミユキさんだったんだ。
みんな素敵な人だったよ。
下半期のキャラクターランキングはまず間違いなくイクゾー君とジェニファーさんのトップ争いになるだろうね。
南米のヘロニモ&マリアンナも上位にくるはず!!
色んな人がいたなぁ。
色んな人と出会っては別れて。
この旅ももうすぐ終わりだよ。イクゾー君の旅はまだまだこれからだよね。
きっとこれから最高にイカした人たちにたくさん会うんだろうね。
あの日の約束、まだ覚えてる?
タイで別れて、次にまた会いましょうって話した場所。
俺は着実にそこに近づいているよ。
また会ったら、どんなエキサイティングなことが待ち受けているかな。
また遊ぼう。地球を舞台に遊べるって最高だよな。
まぁ俺は体調ボロボロだけどね………
ああ、シンガポールのビール美味かったよなぁ。
もう中国では体調悪いせいでずっと飲んでないよ。このまま断酒の勢いだよ。
なんとか約束の地までには元気になっておくよ。
それじゃあ、マカオで待ってるから。
元気で。