8月5日 火曜日
【中国】 大理
「中国で行くならば西安は必ず見た方がいいです。」
朝起きて中庭のソファーでカンさんとお喋り。地図を広げて中国のことを教えてくれるカンさん。
中国はウルトラでかい。
そしてそのほぼ全てのエリアに見所が点在してるので満喫しようと思ったらまぁ1年はかかる。
「中国で外せないのは西安と洛陽デス。ここには中国の歴史が全てあります。南京や福州のあたりは日本のことが本当に嫌いな人が多いので行かない方がいいです。北京や上海はそんなに面白くないから大丈夫です。東北のハルビンのあたりは美人が多くて有名です。本当みんな美人デス。チベットやウイグルは治安が悪いのでオススメできません。広東省はお金持ちがすごく多いので路上演奏にはいいと思いますよ。」
世界遺産もめちゃくちゃ多いし、この大理みたいに世界遺産じゃないのに美しい町も無限にある。
シルクロードの悠久の道にあるウイグルエリアなんてきっとこの世の果てのような場所だろうし、内モンゴルの孤独な草原もロマンをかけたてずにはいられない。
行ってみたい場所だらけだ。
中国でかすぎるよ。
でもそんな時間は俺にはない。
香港から台湾への飛行機チケットは今月の26日。
それまでにグルリと東チベットを回って、なんとか香港までたどり着かないといけない。
行ける観光地は本当に限られている。
でも観光よりももっと地元の中国人たちと濃密な交流をしながら、ありのままの中国を体験することのほうが魅力的だ。
頭の中の中国人に対する先入観をもっともっと壊したい。
政治を抜きにして、いち個人同士の彼らの人間性にもっと触れたい。
もし、もし中国人がみんなカンさんたちみたいな奇跡的な人たちばかりなら、何がなんでも日本のすぐ中国をバカにするクソみたいな風潮を変えてやりたい。
よく、映画や漫画で戦争時代を描いたものを見る時、大戦後の引き揚げの時に敗戦国民となった日本人に対して中国人が優しくしてくれたというストーリーを見ることがある。
もちろんそんなのは稀なことで、きっと敗戦した時点でかなり中国人から迫害されただろうけど、そんなの比べものにならないくらい日本人は中国人にひどいことをしてきている。
ハルビンには未だに日本軍が中国人の子供を解剖して人体実験していたという凄惨な歴史の博物館があるという。
そんな戦後の日本人に対して、中国人たちが当時食べ物をくれたり親切にしてくれたという美談が頭の中にいつも残っていて、きっと中国人たちはとても素朴な優しさを持った人たちなんじゃないかというイメージがあった。
中国を嫌いな人はとても多いと思う。
でもそんな絶対に壊れることのない友情や恩義を持った人も少なからずいると思う。
右翼思想は立派だと思う。
確かに日本が悪い中国人にけがされてる事実もあるだろうし、中国資本の流入に危機を抱く人もいると思う。
歴史を盾にした援助の引き出しも確かに違和感はある。
国民の意識のコントロールで様々なことを防げるのかもしれないけど、知らずに毛嫌いをしている現状くらいは誰かに伝えていけたらな。
ツンデレ彼女のランちゃん、めちゃ料理上手やん!!
中国の女の子はこれくらいできて当たり前だって。
青空の下、のんびりと歩いた。
町を抜け、巨大なテーマパークの建設現場を通りすぎ、どこまでも歩いた。
穏やかな田園風景が広がり、盆地になった大理を囲む山々の連なりが霞んで見える。
清冽な田んぼの緑が風に揺れ、玉ねぎ畑から鼻をくすぐる匂いが流れてくる。
所々で野良仕事をしている老夫婦が話している言葉は何を言っているかはわからない。
でもそれはどう見ても日本の田舎の光景と一寸の違いもなかった。
と、気持ち良く散歩してるように書いてますけど、今人生最大のウンコ野郎ですけどね。
朝から、っていうか寝てる間も1時間おきでトイレで下痢してます。
たまにっていうか外歩きしてる時は95%の確率でウンコ漏れてます。
寝てて漏らす、歌ってて漏らす、草むらがあったらすぐに姿を消す、
小籠包食べながら、おっとスープが漏れちゃった、とか言ってる場合じゃないですよ。もう漏れてますから。
そんなウンコマンの名を欲しいままにしている僕ですけど、一応湖には感動しました。
歴史的な古城観光、湖のクルージング、大理は文化も自然も豊かな美しい町です。
もう完全にこの町の虜だな。
ちなみに欧米人がここで長逗留するのは良質なマリファナが手に入るからです。
中国はそういう薬関係もディープな歴史がありそうだ。
ぶらぶらと小さな集落の中を散歩しているとその何気ない風景に心を締めつけられる。
人々の生活はどこでだって優しく営まれている。
もっとたくさんの生活に潜り込むぞ。
バスに乗って古城に戻り、ギターをとって人民路に向かった。
夕方になり人通りが増えてきたところでまずトイレに行ってお腹の中を空っぽにしてから、さぁ始めようかとギターを鳴らした瞬間、雨ですね。
ぬおお………もうお店に50元、850円払ったんですけど………
赤字とかシャレになんねぇぞ。
軒下で泣きそうな顔をしながら肛門に気を集中させていると、ようやく20時を過ぎたころに雨が止んだ。
ソッコーで演奏を開始するとすぐに人だかりが出来上がり、お金が入り始める。
下痢のせいで体力が落ち切っており、なかなか腹から声が出てこないが、それでも気合いで振り絞っていると、人だかりの中にいつもの顔が。
カンさん、ランちゃん、ワンちゃん、チャンさん、
角楽客桟のみんながわざわざ路上を見に来てくれた。
もう完璧だ。
下痢とか言ってる場合じゃねぇ!!
「カンさん!!」
「どうしました?飲み物いりますか?」
「荷物見ててください!!トイレ行ってきます!!」
雨であまり歌えなかったのもあって2時間で路上終了。
してし今の体調ではこれ以上は歌えない。すぐに息が上がってへたり込んでしまう。
でもなんとかそれなりのパフォーマンスはできたかな。
帰りにみんなのために焼き鳥でも買って帰ろうと思っていたので目をつけていた屋台に立ち寄る。
お世話になりまくっているカンさんたちに何もお返ししていないのでせめて焼き鳥くらいと思うんだが、カンさんはいつも一切俺にお金を出させてくれない。
ここでも強引に焼き鳥を買ってお金を払ってしまった。
路上で稼いでいるので宿代も払いますと言ってもお金の話はしないでください!と受け付けてくれないし、タバコもいつも分けてくれる。
今朝、商店からビールをケースで買ってきて補充しておいたんだけど、それはなんとか受け取ってもらえた。
中国人はいつもお店でご飯の後、俺が払う、いーや!!私が払う!!のお会計争奪戦を繰り広げている。
中国の男にとっておごることは名誉なことのように。
カンさんに何か渡したい。
お金をかけるようなことはできないが、何か気持ちを伝えたい。
しかし何で喜ぶかまったくわからない。
カンさんは成功している社長さんだ。身の回りのものに全てこだわっているし、センスもいい。
安物を渡すのは気が引ける。
何がいいか分からないので、さりげなく聞いてみた。
「カンさん、今何か欲しいものありますか?」
「んー、そうですネ、親の健康です。」
「ぬぐ………じゃ、じゃあ彼女から何かもらうとしたら何がいいですか?」
「彼女が隣にいてくれたらそれでいいです。どうかしましたか?」
な、なんてデキた人間なんだ………
まるで俺がゴミ野郎みたいだ………
「フミさん、何もいらないデス。私が欲しいのはフミさんが日本に帰って作る本です。だから本作ってくださいネ。」
「さっ!フミ!!今日はいくら!?」
宿に帰って恒例のあがり清算。
今日は2時間の演奏で518元。86ドル。
大理最後の路上は満足の金額。
さぁ、いい加減次の町へ進むぞ。