7月12日 土曜日
【カンボジア】 シェムリアップ
~ 【タイ】 バンコク
トゥクトゥクの中から手を振る。
朝の町の中、涙ぐんでいるカンちゃん。
カンちゃんの姿が遠ざかりどんどん小さくなり、もう一度手を振ると、ポツンと道端に立っていたカンちゃんが手を上げたのが見え、そして曲がり角の向こうに見えなくなった。
ああ、別れは嫌だなぁ。
久しぶりの1人。
さぁ、先に進まないとな。
カンちゃん、ありがとうね。
欧米人バッグパッカーだらけのバスに乗り込む。
ここからバンコクまでは8時間の移動でたったの10ドル。
めちゃくちゃ安いな。
国境までのバス、国境からのバン、全て手配してくれているので、みんなの後をついて行くだけでいい。楽勝すぎる。
ただちょっと気になるのは、タイのビザラン規制で再入国が厳しくなっているかどうか。
大使館からは2回目ならば特に問題はありませんと言われているが、稀に所持金のチェックがあると聞いている。
1万バーツ、3万3千円ほどのキャッシュを保持しているかをチェックされる場合があり、実際に持っていなかった人が入国を拒否されたという実例も出ている。
俺の所持金、100ドルと謎のお金が250ドル分。
多分イケるはず。多分。
そしてドキドキの国境へ………!!
とかなんの緊張もなく、普通に2秒でイミグレーション通過。
タイのビザラン、そこまで心配しなくても良さそうです。
このポイペト国境はタイとカンボジアを繋ぐ1番主要なボーダーらしく、町として栄えておりものすごくたくさんの人で溢れていた。
タイに入ってもカンボジアとなんら変わらない光景。
ボロボロのリアカーをひく汚い服を着た人たち。
トゥクトゥクが行き交い、無数の屋台が歩道を埋め尽くしている。
しかしどこか心が和むのはどうしてだろう。
すでに1ヶ月過ごした国だからというのもあるだろうけど、それ以上にこの国の持つ柔らかい空気が旅行者を迎えてくれているように思える。
トムヤムクン、パッタイがまた食べられるだけですごく嬉しい。
バンに乗り込み、国境から4時間。
気の利いたことにバンが到着したのはカオサン通りだった。
車を降りると、見慣れた街の風景。
前回来たときはカンちゃんがいてイクゾー君がいてケンゴ君やアンナちゃんもいた。
1人になった今、心は完全に明日のインドに向かって孤独を受け入れていた。
相変わらずパーティー好きそうな欧米人たちが行き交うカオサン通りを歩く。
今夜こそ日本人宿に泊まろう。どうせなら1番有名なナット2というところを目指す。
値段でいったらもっと安いところはあるけど、日本人宿に行ってヨーロッパを周る予定のある旅人を探してボスニアヘルツェゴビナのお金を換金してもらいたいという狙いがある。
わずかな希望を胸にカオサンを歩いていると客引きに声をかけられた。
カオサンを歩けば無数の客引きに声をかけられるので結構うっとおしいんだよな。
「ヘイ!!ヘイ!!」
はいはい、サソリとか食べませんしマッサージも今はいいですよ。
「ヘイ!!カネマル!!カネマル!!」
はいはい、ゴーゴーガールとか全然興味ありませんからってええええ!!!??
なんで俺の名前知ってんの!!??どっからどう見てもただのタイ人なのに!?!
外国人も読んでんのかこのブログ!???
「スゴイ!!カネマルダ!!オドロキマシタ!!」
いや、俺の方が驚いてるし。っていうか日本語なかなか上手ですね。
「オカネトラレタノザンネンダッタネー。ソウイウコトアルンダヨネ。」
どこまで俺のこと知ってんだこのタイ人!!
理解できずにあわあわしているとことの真相を教えてくれた。
どうやらこのおじさん?お兄さん?の彼女さんが日本人らしく、その彼女さんが俺のブログを読んでくれてるみたいで、いつもギターを持った日本人の話を聞いていたんだそう。
それにしてもこんなカオサンのど真ん中で見知らぬタイ人に名前呼ばれるなんてビックリするわ。
僕とカンちゃんがお金をカオサンで盗られたことを同じタイ人としてすごく気にしてくれていたようで、宿泊していたホテルの名前などを教えて欲しいと言われた。
彼はツアー会社で働いているので、少しでもやってくる旅行者が同じ被害に遭わないように呼びかけてもらえたら嬉しいな。
ナットさん、話ができてよかったです。
日本人宿のナット2にはたくさんの日本人がいた。
一応数人にヨーロッパには行かないですか?と聞いてみたが、これからヨーロッパに行くけどまだ先の話だから………と返事は芳しくない。
ゴリ押しはもちろんできない。
やっぱり厳しいか………
自分で稼ぐしかないか。
180バーツ、600円のシングルルームに荷物を入れ、ギターの弦を張り替えたら気合いを入れて宿を出た。
やってきたのはカオサンから大通りを挟んだ大きな公園の横に広がるローカルのマーケット。
この前バンコクを出る日に発見して、ここいいかもな、と目星をつけていたのだ。
そして今夜は土曜日。
予想は的中して、用水路沿いのエリアにかなり大きなマーケットが出来上がっていた。
数え切れない屋台とテントがひしめき、うじゃうじゃとものすごい数の人が歩いていた。
よっしゃ!!いける!!と興奮しながらそのテント群の中に飛び込んだ。
やる場所がねぇ……………
1ミリもスペースがない…………
どんな狭い隙間にも何かしらのお店が出ており、商品が地面に並べられている。
迷路のように通路が入り組んでおり、人が多すぎてまともに歩けないほどの混雑。
ライトがこうこうと光り、楽しそうな人たちを照らしている。
食べ物の屋台が美味しそうな臭いの煙を立ち上らせ、そして値段もすごく安い。
ただの買い物で来るんだったらとても楽しいであろうマーケットの中を1人で慌てふためきながら急ぎ足で人をかきわける。
くそ、どこでやればいいんだ。
テントの外に出ても、暗がりの歩道には骨董品というかゴミというか意味不明なものを売っている人たちがズラリと並んでいる。
急いで見て回るが、人通りがなくなるところまで綺麗に何かしらの店が広がっており、どうしても場所がない。
諦めてたまるか!!と無理やり横断歩道の横で歌ってみたが、車道を行き交う車とバイクの騒音で自分で弾いてるギターも聞こえにくい。
そんなんで足を止める人なんているはずもなく、無残に撃沈。
チクショー!!このままじゃインドがマジでやばいよー!!
もうこうなったら最終手段しかねぇ。
カオサンでやってやる。
通りのど真ん中でぶちかましてやる!!と玉砕覚悟で爆音が鳴り響くカオサン通りに突撃。
おーおー、いい感じですな。
爆音とオカマとサソリ売りで溢れかえっているカオサン通り。
昼間は広々とした通りなのに、夜になると歩道に様々なお店の商品やバーのテーブルが並べられて、歩くのもやっとなくらいの狭さになる。
知ったことか!!と無理矢理やってやろうとしたが、まぁ案の定店の人たちからNGが出る。
ぬぬぬ………
オカマに腕をつかまれながら振り払って歩き回り、テラウラの通りにやってきた。
カオサン周辺にはいくつもの個性的な路地があるんだけど、このテラウラという通りは他の爆音でやかましい路地と違って落ち着いた静かな場所。
間接照明が柔らかく通りを照らしており、カフェやレストランやマッサージ屋さんではみんなのんびりとお喋りしている。
よし、ここしかねぇ。
ちなみにテラウラってのは正式名称ではなく、寺の裏だからテラウラという日本人の間での呼び方。
この路地にも日本人ご用達の宿があるみたい。
パッタイ屋台の横のスペースでギターを取り出すと、なんだなんだ?と人が足を止め始めた。
パッタイを注文待ちしている欧米人たちもこちらを見ている。
静かな通り。
他に音はないし、間接照明がとてもいい雰囲気を演出している。
東南アジア最後の路上だ。
悔いのない歌を。
曲が終わると拍手が起きた。
ヒュー!と歓声があがり、さらに人が集まってくる。
パッタイ屋さんのおじちゃんがお店の椅子を通りに並べてくれた。
みんながその椅子に座ると、その静かな路地に即席のライブバーが出来上がった。
お金の入りは少ない。
でもたくさんの人が聞いてくれることが何より嬉しい。
みんな注文したパッタイを食べながら歌を聴いてくれ、足を止めてくれた通行人もちょっと聞いていこうか、とパッタイを注文する。
ディランの風に吹かれてを歌うと、目の前の古本屋のお姉さんが嬉しそうに拍手してくれた。
あがりは1時間ちょい歌って420バーツと1ドル。
1500円くらいだけど、充実感はある。
きつかった東南アジアもこれで終わりか。
明日は朝の4時半に起きて空港へ行き、昼前にはインドに到着する。
実感がない。
明日の昼にはインド。
あの混沌の国についにたどり着く。
別にインドなんて大したことないさ、と動じずにいたいけれど、心はとても正直なものでドキドキが止まらない。
旅人にとってインドは特別な存在。
必ず通る道。
そして誰もがそれまで培った人生観をぶち壊されていく。
俺もぶち壊されるだろうか。
平然となんてしていられない。
この胸の昂揚感を抑えられない。
新しい場所に行くぞ。
この夜が明けたら、またふりだしだ。