6月24日 火曜日
【タイ】 バンコク ~ バス移動
年子の兄貴がいる。
2人兄弟。
仲はよかったと思う。
いつも一緒に遊んでいたし、泣きながらケンカもたくさんしたけど、すぐにまた一緒に遊びに行っていた。
川に行ったり、海に行ったり、山に行ったり。
親の仕事の関係で引越しが多かったのも2人でいつも一緒にいた理由のひとつだったかもしれない。
幼少時代が終わり、2人とも学生になるとだんだん性格に違いが出てくる。
やんちゃでどこにでも行きまくる俺に対して兄貴は結構真面目で、あまり目立つタイプではなかった。
兄貴が家で本を読んでる間、俺はいつも友達の家に集まってタバコを吸って夜の町を徘徊していた。
女の子に奥手な兄貴だったけど、俺はいつも夜な夜なナンパに出かけては遊びまくっていた。
対照的な俺たちだったけどそれでも別に仲が悪くなることはなく、兄貴はいつでも兄貴で、兄弟の中に確実に存在する上下関係はいつも保たれていた。
やがて兄貴は東京へ行った。
ほどなくして俺も旅を始め、お互い会うことも少なくなったが、旅の途中で兄貴の家の近くに行けば連絡して泊めてもらったりしていた。
疎遠というわけでもなく、お互い久しぶりに会う時間をとても楽しんでいたと思う。
なんだろうな、この感覚。
兄貴が東京でケンカをして顎の骨を折られた時、頭を突き抜けるような怒りが湧いた。そして心がとても締めつけられた。
きっと大親友が同じ目に遭ってもこうは思わない。
兄弟だけの特別な感情だと思う。
兄貴に比べて俺は強い。今までどんなきつい状況も切り抜けてきた。だから心配なんていらない。と強がってみても、きっと兄貴も俺が傷ついたら同じように胸を苦しめてくれるんだと思う。
世界一周に出る前、最後に日本を回った時に川崎に住む兄貴のところに寄った。
綱島の駅前に現れた兄貴はスーツを着ていて、それが立派な社会人に見えてなんだかとても誇らしかったということは兄貴には伝えなかった。
ずっと都会暮らしなので車の免許を持っていない兄貴の自転車の後ろに乗り、久しぶりに二人乗りで走った。
自転車なんて本当に高校生ぶりくらいじゃないか?ってほど久しぶりだった。
河原の土手の道を2人で話しながら走った。
なんだかすごく甘酸っぱい気持ちになったのを覚えている。
昔はこうしてよく二人乗りで一緒に遊びに行った。
スポークに靴が挟まってこけて怪我したこともあった。
あれからずいぶんと時が経ち、お互い30歳をこえて、今こうして神奈川の都会の河原を自転車を二人乗りしていることがとても嬉しくて、時間が経ったんだなと感じて寂しかった。
兄貴はあの日、別れ際に1万円をくれた。
金をくれたからというわけではなく、そうした兄貴としての責任感というか義務感というか、弟の決心を応援しようとしてくれてる気持ちがすごく大人っぽく思えて、反面あの頃の偉そうだった兄貴、抜くことのできない存在という幼いイメージと重なり、やっぱり兄弟って特別だなと思った。
そして泊まった夜にこっそりひとりでして拭いたティッシュをトイレに流し忘れてテーブルの上に置きっぱなしにしていて、お前殺すぞって次の日にメールが来たのは本気でごめんっていうかマジ失態。
そんな兄貴が4月に結婚して、お母さんからとてもいい式だったよ、ずっと笑顔だったよとメールが来て、ああ行かなくて悪いことしたなぁと思っていたんだけど、今更になって本当に残念に感じる。
兄貴にも家族にも悪かったけど、俺自身もすごく見たかった。兄貴の嬉しそうな顔を。
いつも感じる。
兄貴は楽しんでるかな。
毎日を充実させてるかな。
悲しい目に遭ってないかな。
人生を喜んでいるかな。
もしそうじゃないならすごく切ない。
そして兄貴も俺に対してそう思ってくれてるはず。
元気な姿で帰ろう。
一緒に駆け回った延岡の社宅の路地裏。
臭いドブ川の横の道。
駄菓子の卸し屋さん。
電信柱と洗濯物。
夕日に照らされた中洲の島。
きっとあの頃のようにどこにでも行ける。
信じられる強さもある。
心も体もめちゃくちゃ元気だ。