6月20日 金曜日
【タイ】 バンコク
カオサン通りの宿は朝方までクラブの爆音が鳴り響いており眠れないという話だったけど、まぁご多分に漏れず半端ない爆音が朝の4時まで轟いていた。
時間覚えてるもん。うるさすぎて。
宿がボロいからマジで窓とか震えるくらいのウーファーだった。
まぁ眠れんことはない。
これでエアコンなしのドミトリーとか拷問でしかないな。
300円くらいプラスするだけでツインのエアコン付きに泊まれるんなら迷うことなんてまったくない。
「おはようございますー。」
「おはよー、眠れた?」
「無理っす……ドミトリー暑すぎてマジで眠れないっす。」
朝、隣の宿の100バーツドミトリー、300円に泊まっているイクゾー君が疲れた顔で中庭に出てきた。
トイレもひとつしかなくて汚くてやってらんないレベルだそう。
ひと昔前はこんな宿なら60バーツ、200円とかで泊まれたそうなのだが、3年前の洪水で街がボロボロになり、それから色んな物価がドンと上がったそうだ。
とりあえず飯でも食いに行こうかと、昨日カンちゃんが教えてくれたマクドナルド前のパッタイ屋台へ。
「おじちゃん、パッタイみっつ!!卵入りで!!」
「タマゴパッタイナー、オハヨウナー、アジノモト。」
カオサン通りのタイ人はほとんどがある程度の日本語が喋れる。
それがなんだか日本人は金持ってるカモ!!ってあからさまな感じではなくて伝統的に日本人が大挙する町だからという自然さが感じられる。
パッタイまじで美味え。
これで30バーツ、100円。
「ところでイクゾー君ドレッドはしないの?カオサンだからすぐできるんじゃない?」
「うーん、そうですね。したいですよ。でもいくらくらいなのかなぁ。」
「あ、ほら、あそことかやってるんじゃない?」
「嫌ですよ!!これ見本で出してる店でやりたくないです。焼け野原じゃないですか。」
大笑いしながらカオサンを歩く。
「ドコイク!!?アジノモトドコイク!!??」
「アジノモト!!トゥクトゥク!!ヤスイ!!」
客引きのオッさんたちを振り切って大通りへ出て、市バスに乗り込む。
大量のバスがひっきりなしに走っているが、そこらへんのおばちゃんやおじちゃんに聞けば、よーし!!お前たちは~番バスに乗るんだ!!心配するな俺たちが教えてやる!!タイ最高!!といった感じでめちゃくちゃ親切に教えてくれるので乗り間違える心配もない。
乗れば乗ったでまたおっちゃんおばちゃんたちの攻撃はやまない。
「サワディーカップ!!エ………アナタスゴクキレイナンデスケド………キレイ!!アナタキレイナー!!」
料金係の超陽気なおじちゃんがカンちゃんにひたすらキレイ!!とまくしたてている。
「なぁみんな!!彼女はキレイナー!!キレイ!!キレイだよ!!」
「そうね、この子はキレイナー!!」
「キレイキレイ!!キレイナー!!」
「キレイナーヒャッホウ!!」
「そうだろう!!!この子はキレイナー!!!」
酔っ払ってんのか?ってくらいテンションがマズイことになってるおじちゃんが乗客全員にあの子はキレイだ!!キレイって言えコノヤロウ!!くらいの勢いでわざわざ後ろの方まで言って回り、そのみんながそうだねキレイナーと微笑みながら言ってくる。
「イヤッフオオオウ!!キレイナアアアアアアジノモトオオオオオオオオ!!!!あ、君たち降りるのここね。コップンカーップ。」
タイ人、超優しい。
ちなみにバス代13バーツ。40円。
れ、レイチャールズまだ生きてたんだ…………
半年分くらいのキレイを30分の間に詰め込まれたカンちゃんとイクゾー君と3人でやってきたのはサイアムというバンコクの中心エリア。
目抜き通りの上空にスカイトレインという電車が走っており、その両側に大きなショッピングモールが連なり、それぞれを綺麗なスカイウォークという歩道橋が連結している。
道が上下左右に入り乱れたその様子はクアラルンプールのような勢いのある大都市に負けない景観だ。
歩道橋の上からはそんな近代的な建造物しか見えないが、一歩地上に降りればゴミゴミとした屋台が並び、バイクの騒音がけたたましく響くアジアの風景へと様がわりする。
地上と上空にそんなふたつの顔を持つこのバンコクの中心エリア。東南アジアでも世界的にメジャーで経済も右肩上がりのタイ。
この街のどこで歌うことができるだろうか。
ここでカンちゃんは申請していたミャンマービザを受け取りに行くために違うエリアへ。
イクゾー君もこの先にあるバンコクワールドなんとかっていう東南アジア1の巨大モールを攻めるとのことで、それぞれの目的地へと別れた。
さー、かましてやるぞ。
歩道橋の上、たくさんの人が行き交う連絡通路の上、MBKだったかな?街のど真ん中にあるショッピングモールの入り口のあたりでギターを構える。
地上にたくさんいる屋台や物売りたちがこの歩道橋の上にはまったくいないというのが気になるところだけど、とにかくチャレンジしてみよう。
思いっきり声を張り上げた。
そして1曲目で50バーツ紙幣、20バーツ紙幣が3枚入った。
おお、こりゃすげえぞ!!
誰もが親指を立て、微笑みながら通り過ぎていく。
こいつは下手したら3000バーツ超えるぞ!!
はい警備員登場。
タイ語を喋りながら首を横に振っている。
はいそうですね。
すぐに消えます。
場所を変えて今度はショッピングモールの近くではなく完全に歩道橋の上でギターを鳴らす。
1曲目でタイのイマドキの兄ちゃんがウィンクして100バーツ紙幣を置いてくれた。
うおおお!!バンコクすげえ!!
はい警備員登場。
風のごとくギターをしまってさようなら。
その後も何ヶ所かやってみるものの歩道橋の上はことごとくダメ。
それならばと地上に降りて歌ってみると誰も注意してこない。
が、おびただしい数のバイクがレース会場みたいに走り回り、あまりの騒音にチューニングの音が聞こえないほど。
誰も足を止めない。
汗がしたたり落ちて濡れたギターをケースに入れて歩いた。
必ずどこかにいい場所があるはず。
諦めんぞ。これだけの街だ。必ずある。
しかしあまりにでかいこのバンコク。
中心部はこの有様なので完全に無理。
では駅はどうだ?何ヶ所か入ってみるが、警備員が全ての通路で目を光らせているので退散。
郊外のショッピングセンターは?
スーパーマーケットは?
やる場所はきっとある。
だがこの巨大でカオスな都市の中、当てもなくいいポイントを探し出すのは至難の技だ。
でも諦めん。
必ずどこかにある路上場所を砂浜から指輪を探し出すように見つけなければ。
汗をぼたぼた流し、階段をのぼったり降りたり、電車に乗って違うエリアに行きさまよい歩く。
ここもダメ、ここもダメ。
早足で通りを抜け、喉が乾いたらそこらへんで水を買い、急ぐ。
フアランポンという駅にたどり着くが地下道らしきものもやはりなく、周りにはひと気のないローカルの生活エリアが広がるのみ。
歩いて歩いて、とにかく歩いて、熱中症になるんじゃねぇかってくらい汗を出し尽くして足が痛くなり、セブンイレブンの軒先にへたり込んだ時にはカオサン通りに戻ってきていた。
セブンイレブンでアイスを買ってかじった。
冷たいミルクの味が乾いた口に広がる。
もうだめだ………疲れたぁ………
ヘトヘトになって夕暮れのカオサン通りを抜け、宿に戻った。
宿にはすでにミャンマービザを無事取得したカンちゃんが戻ってきていた。
イクゾー君も一足先に宿に帰ってきていた。
「……どうだった?」
「ダメでした………警備員に怒られないところを見つけたんですけど、全然入らなくて………2時間くらいやったんだすけど260バーツです……」
俺のあがりは最初に入った200バーツのみ。700円。
マジか………こいつはバンコク厳しそうだな………
とにかく疲れすぎたので早くビール飲もうぜと近くの屋台へ。
このまとわりつくような熱気に包まれたバンコクでは歩き回るだけですごく疲弊してしまう。
コンビニで買ってきた48バーツ、160円のビールをあおると身体中に染み渡る。
昨日のケンゴさんもやってきてみんなで辛いタイ料理を食べながら汗を流す。
最近現地の人との出会いが少ない。
ちょくちょくはあるし、世間話くらいはするが、友達の一歩手前になった時のFacebookを交換するという機会すら最近は少ない。
日本人と和気あいあい観光と安い物価を楽しむっていうことに関してはなんの問題もないが、刺激ももちろんない。
イクゾー君はゴーゴーバーに行きたがっているし、カンちゃんもタイ名物のゲイのショーは楽しいよと言っているがそういうのには興味ないしなぁ。
まぁ深くは考えないでおこう。
タイはとにかくこの美味い料理と美味いビール、安い物価、そして陽気で人懐こい人たちとの触れ合いを気構えずに受け入れよう。
というわけで妙にテンションが上がってしまって、なんかしようぜ!!とみんなで夜のうるさい町を歩く。
そしてアジア名物の虫の屋台を発見。
バッタやら芋虫やらサソリやら色んな虫が唐揚げにしてある屋台。
親指ちっちゲームで1番エグいゴキブリみたいなヤツを食べる罰ゲームをすることに。
「イクゾー負けろ、イクゾー負けろ、イクゾー負けろ、」
「いーや、俺虫だけは本気で無理なんで負けません。これはシャレになりません。」
「ちっちの3。あ、いち抜けです、やったー。」
「ちっちの2。オラァ!!イクゾー負けろイクゾー負けろ。」
「ちっちの0。わーい、勝ったでー。」
「………………」
「さ、富士のハスラーさん、男見せていただきましょうか。」
「お、俺……本気で……虫だけは無理………」
「おじさん、この1番デカイやつください。」
「あああ!!嫌だ!!虫なんて嫌だああああ!!!」
さ、明日も路上頑張るぞ。