6月16日 月曜日
【タイ】 ピピ島
さぁ、待ちに待ったザ・ビーチの舞台のビーチへと行く日が来たぞよっしゃ曇りいいいいいいいいいいい!!!!!!
綺麗に曇りいいいいいいいいいい!!!!!
な、なんで………昨日あんなに快晴だったのに………
せっかく海に潜るのに暗い海とか嫌だよ………
いや、まだわからん。
俺たちが申し込んだのはワンデイツアーという午前からサンセットまでを見るコース。
午後には晴れるかもしれない。
そのまま泳げる格好で昨日予約したツアー会社の前へ。
すでにたくさんの若者欧米人たちがたむろしていた。
ツアー料金に含まれているブレックファーストが配られる。
「ナイスブレックファースト!アメイジングランチ!!」
と自慢げに言っていたナイスブレックファーストは………
食パンでコールスロー挟んだだけ。
うん、ナイスブレックファースト、
いきなり不満丸出しの顔の白人メンバーみんなでゾロゾロ歩いて海へ向かう。
そこには無数の小舟が浮いており、いかにも離島という景観を作り出している。
どんな船でクルーズするのかなぁと期待していたんだけど、期待通りにローカル感丸出しの小舟に乗り込んでいく。
カッコいいスピードボートみたいに階段がついていて軽快な音楽が流れているような船ではなく、いつの時代ですか?みたいなオンボロのエンジンを積んだ原始的な船だ。
ジャバジャバと海に入り、ハシゴを登って船に乗り込んだ。
船は沖へ出て、いくつかの島をめぐって行く。
記憶の片隅に取り残されたような白砂のビーチが浮かぶ小島。
人を寄せつけない断崖がそそり立つ険しい孤島。
小さな船は波に翻弄されながらも海を渡り、冒険心をあおってくれる。
シュノーケリングポイントに着くと、みんなマスクをはめてドボンドボンと海に飛び込んでいく。
俺も楽しくなってきて勢い良く船から飛び込む。
透明度の高い海。
色とりどりの魚たちが海の中を自由に泳ぎ回り、鱗を揺らしている。
魚の大群がブワーって群がってきて、その中で手を伸ばすとちょんちょんと肌を口で突ついてきて、まるでじゃれついてくるようで可愛らしい。
すごい、こんななつこい魚初めて。
海の中で踊りを踊るように魚たちとたわむれた。
久しぶりにシュノーケリングで泳ぎまくると疲れすぎてヘトヘトになってしまう。
カンちゃんは結構元気そうだ。
「ヘーイ、腹が減ったやつはランチ食べていいぞー。」
お、ツアーに含まれていたランチですか。
アメイジングランチと言っていたご飯の内容は…………
配られたタッパを開ける。
ほぼ具なしのほぼ味なしのチャーハン。
マズすぎる。
全員口に入れた瞬間苦笑いで、ボートに微妙な空気が流れる。
「こ、こいつはアメイジングだな…………」
「だいたい昨日予約した時、明日は天気もいいし海も静かだから最高のクルーズになるわよって言ってたのにさ………」
細かいことは気にしない欧米人たちもさすがに不満がつのってきている。
ボートの空気が悪い。
天気は笑えるくらいの曇り空で、晴れる見込みゼロの荒れ狂う海を小舟が疾走していく。
風がめちゃくちゃ強くて波しぶきがシャワーのように降り注ぎ、タオルも服も全部びしょ濡れ。
全員鳥肌を立てながら震えている。
「ヘイ!!次はザ・ビーチに行くぜ。アメイジングだから楽しみにしてな。」
そんな空気をさすがに察したドライバーがめんどくさそうにボソボソと言ってくる。
そりゃあもうせっかく来たんだから楽しませてもらいますよ。
寒さにガクガク震えながら船に揺られ波を越えていく。
次第にザ・ビーチのある島が近づいてきた。
荒々しい絶壁がそそり立つ人を寄せ付けないような険しい島で、波に翻弄されながらも俺たちの小舟は果敢に岩場へと近づいて行く。
こりゃ確かに隠れ島という雰囲気だ。
人なんて住んでないんだろうなと思ったら崖にがっぽりと開いた岩の裂け目に洗濯物干してるのが見えた。
ウケる(´Д` )
すごいとこ住んでますね(´Д` )
船は岩場の隙間へと進み、陸地のくぼんだ場所へ入っていく。
すると波がピタリと静まり、静寂の海面となった。
トコトコとゆっくり進んでいく船。
周りには海から垂直にそそり立つ絶壁が空を狭めて、秘密の入り江を作っていた。
緑色の水が幽玄に静まっている。
おお、こりゃ映画のイメージそのまんまだ。
静かな入り江の奥地へと着き、そこでまた自由タイム。
みんな思い思いに船から飛び込んでいく。
海水の中がまるでぬるま湯につかっているような温度で、船の上にいるよりはるかに暖かい。
風邪ひかないかな…………
海の中で暖をとってから船に乗り込み、ついにメインイベント、ザ・ビーチへと向かう。
写真ではあの美しい白砂のビーチを見ていたので、そのままあそこに向かってくれるのかなと思ったら、やってきたのはまたもや別の入り江。
崖がそそり立つ岩場の周りに、俺たちのと同じようなツアーの小舟が浮かんでいる。
「よーし、1時間後に戻ってこいよー。」
「え?どこから行くんですか?」
「あそこにロープが見えるだろう。あれをよじ登っていけ。」
えーっと…………
あれですか。
いいですよ、行きますよ。
そりゃあ誰も知らないヒッピー島の秘密のビーチですからね。
簡単にたどり着いちまったら面白くないですからね。
それなりのアドベンチャーくらい望むところですよ。
「キャアアアアアア!!!!」
「オワウ!!シット!!!」
危険です。
みんな船から飛び込んで泳いでロープを目指すんだけど、このロープのところは浅瀬の磯になっていて足元はゴツゴツの尖った岩場。
それだけならいいんだけど、今日は波がかなり荒くていきなりすごい勢いの波がやってきて、それに飲まれて岩場に叩きつけられる人続出。
引き潮で引っ張られてこけて岩場で足を切ったり、またザバーン!と波に飲み込まれたり。
アドベンチャーはいいけどコンディションどうにかしてくれ!!
死者出るぞ(´Д` )
そんな荒波にもまれながらなんとかみんなロープにしがみつき、潮でボロボロになったロープをよじ登って行く。
ボロボロすぎていつちぎれてもいいようなロープ。
落ちたら下の人たち巻き込んで岩場でどざえもんコース。
そんな危険な崖をなんとか越えると、そこからは平坦な林の中へと入って行く。
もうこっからは楽勝だ。
ちなみにこんなデンジャラスコースなのでもちろんiPhoneなんて持っていけないので写真はなし。
防水の袋を用意してきていた人たちはなんとか持って行ってた。
林の中を抜け、あぜ道を進むと、そこには天国があった。
そそり立つ断崖絶壁に囲まれた隠れたビーチ。
薄い青の水、白い砂、どこにでもありそうなビーチだけども、確実に、確実に今まで見たビーチとは存在感が違った。
まさしく夢の中のような、ビーチというものの理想の姿をそのまま再現したような、完璧な美しさだった。
砂浜を歩くと驚いた。
まるでクリームの上を歩いているようななめらかな肌触り。
砂があまりにきめ細かく、ついた足跡がすぐに水ににじんで消えていく。
水色の海に入ると、穏やかな波が戯れるように体を浮かせる。
遠浅になっており、どこまでも歩いていくことができる。
暖かい海水が肌を優しく包む。
まるで人工物かのように完成されきっている。
なんだこのビーチ。
映画で使われてなかったとしても、間違いなくここは天国だ。
いや、むしろ映画に使われる以前の知る人ぞ知るビーチだったころはどれほど神秘的な場所だったことか。
ああ…………最高だ………
これでもうピピ島に未練はない。
大満足したもののビーチを離れるのは寂しかった。
ヒッピー村でマリファナを吸いながら大自然に溶け、いつまでもまどろみ続けるっていう映画の世界もどれほど素晴らしいことか。
なにもないこのビーチでいつまでも夜空を眺めることが出来たらどれほど素晴らしいことか。
この夢はまたいつかにとっておこう。
ピピ島に来て本当に良かった。
またもや崖をロープでよじ降りて、波に飲まれながら岩場を脱出し、シュノーケルをしながら船へ戻る。
ここから本当はモンキービーチと呼ばれる猿のいる浜に行き、島の反対側でサンセットを見る、というところまでがツアーのセット内容なんだけど、ここでドライバーが面倒くさそうに言う。
「猿はいない。サンセットは雲で見られない。さぁどうする。」
何を開き直ったように言ってんだこのオッさん。
いや確かに猿は気分で出てこないかもしれないし、夕日はこんな雲じゃ影も形も見られないよ。
でももっとなんかあんじゃないのかな。
船の欧米人たちも不満が一気に噴き出した。
フルーツが配られるって言ったじゃない!!
シュノーケルのマスクも人数分なかったじゃない!!
面倒くせーみたいな顔のドライバー。
確かに面倒くせーこと言ってるかもしれんけど、ツアー内容の半分くらいしか達成してない。
ついにドイツ人たちがいくらかお金をバックしろと言い出した。
不穏な空気になる小舟の上。
なんだかせっかくあんな素晴らしいビーチに浮世を忘れさせてもらったのに一気に現実に引き戻されたみたいだった。
もういいよ、寒いから帰ろうよと言い、ブラジル人たちも帰ろうぜと言ってくれ、予定より早く港へ戻った。
猿も夕日も見られなかったけど、十分満足。
できることなら快晴の日に行きたかったけど、ザ・ビーチのあの現実離れした美しさは堪能することができた。
それだけで充分。
宿に戻り、シャワーで海水と砂を洗い流し、今日もお祭りみたいに賑わうピピ島の中、カンちゃんといつものレストランへご飯を食べに行った。
波の音がとても心地いい。
暖色のライトが海辺の小道を柔らかく照らしており、あちこちに野良猫が寝そべっている。
遠くで聞こえるクラブミュージックのウーファー。
ピピ島はパーティーアイランド。
静謐な美しさには程遠いけれど、これもまた南の島の楽しみ方なのかな。
誰もが夜にまどろみ、踊り狂い、島の孤独に酔いしれていた。