6月12日 木曜日
【タイ】 プーケット ~ ピピ島
眠いを目をこすってベッドから起き上がる。
うう……眠い…………
時間は朝の7時。
7時45分に宿に迎えの車がくることになっている。
早く寝ないといけないのに、ゆうべも夜更かししてしまって寝不足だ………
ゆうべのうちにまとめておいた要らない荷物を宿に預ける。
ピピ島には3泊くらいする予定。着替えだけあればいい。
ピピ島で久しぶりの島生活を満喫してワールドカップを堪能したらこのプーケットに戻ってきて、高速バスで一発20時間のドライブでバンコク行きだ。
タイもなかなかデカイ。
早く先に進まないと。
イクゾー君にバイバイして階段を降りると外は雨が降っていた。
マジか……せっかくのエメラルドグリーンのビーチに行くのに雨なんて勘弁してくれよ………
でもまぁ数日いれば1日くらいは晴れてくれるだろう。
あのディカプリオの映画に出てきたヒッピーアイランド。
一体どんなフリーダムな場所だろうとドキドキしながら迎えの車が来るのを待った。
そして迎え来ない。
チケット代の550バーツ、1800円にはホテルから港までの送迎、そしてピピ島までの船の往復代金が含まれている。
7時45分から8時の間に来るという話だったのにすでに8時になってしまった。
おいおい、マジかよ。
フェリーの出港時間は8時30分。
この朝の通勤ラッシュで混雑する町を走って港まで間に合うのか?
しかしそんな心配をよそに時間はすぎ、ついに8時20分になった。
そーかそーか、もうこれ間に合わないね。
ドライバー寝坊でもしちゃったかな。
よーし、それじゃあどんな風にツアー会社に殴り込んでやろうかなぁ。
サムライなめんよこの野郎!!ってオシッコまき散らしながらオフィスに入ってやろうかな。
あーあ、さすがアジアだなと思いながらも、一応もらっていた名刺を宿の姉ちゃんに見せて電話をかけてもらった。
「すぐ行くから待ってて、だって。」
ふーん、でももう8時25分ですけどね。
もうぜってー間に合わねぇやんと思いながらも座って待ってたら、向こうからオッさんがやってきた。
「あ、ピピ島?チケット見せて。よし、行くぞ。」
お前まず謝れや。
もう8時40分だぞ。
悪びれることなく歩くオッさんについて行くとバンが止まっており、ドアを開けると車内には別の欧米人たちがいた。
みんなウンザリした顔をしている。
彼らも待たされたんだろうな。
雨と通勤ラッシュで混み合う町の中は渋滞で全然進まない。
でもこのオッさんの余裕こいた様子からするとおそらくこれがいつものことなんだろう。
するとオッさんはいきなり道端で車を止めるとドアを開けて出ていき、少しして中国人のカップルを連れて戻ってきた。
まだ乗せんのか(´Д` )
この中国人たち待たされすぎだろ。
もう9時。
まぁいいよ、ピピ島行けるなら別にいいよ。
港に到着すると、30分以上出港時間を過ぎているのにフェリーは普通にそこにあった。
何事もないかのように乗り込む。
大きなカーフェリーなんかではなく、旅客のみのスピードボートといった感じ。
パナマからコロンビアに渡った時のあの地獄のカリブ海漂流みたいな漁船じゃなくてよかった。
船内にはたくさんの乗客たち。
きっとヒッピーとかチャラい白人の若者だらけなんだろうと思っていたけど、ここでもまた乗客の半数は中国人だった。
それもみんなお金持ってそうなセレブ風の人たち。
こんなにポピュラーな観光地なんだな、ピピ島って。
船は荒れた海の中を進んでいく。
波が激しく、小さな旅客船は上下に絶え間無く揺れまくる。
すると船のスタッフさんが何かをお客さんに配り始めた。
ゲロ袋。
オゲエエエエアエエ!!!!
ゲロゲボベチャベチャ!!!
ベチャ!!ベチャベチャ!!!
船の中、ゲロ祭り。
ゲロ音があちこちから聞こえてきて、船内は阿鼻叫喚の様相に。
もう………臭いよ………
鼻で呼吸しながら日記を書くこと1時間半ほど。
船のスピードが落ちてきて窓の外をのぞいてみると、そこには森に覆われた島の姿があった。
生い茂る木々の中に、森に同化するかのような南国風の建物が見える。
おおー、来たぞー、ピピ島来たぞー。
桟橋に寄せられたフェリー。
裸の男たちが手でハシゴを抑え、揺れ動く中慎重に降りていく。
ここは観光地。どれほどうっとおしい客引きに群がられるだろうと思っていたけど、意外なことに誰も声をかけてこない。
一応ホテルのプラカードを持った人たちが待ち構えているんだけど、強引なことは一切してこず、はーいホテル安いよーって言ってるだけ。
ちなみに入島料かなにかわからないけど、1人20バーツの回収がある。60円。
バラック小屋でできたゲートがぽっかりと口を開け、それをくぐるとピピ島に上陸した。
細い路地が迷路のように張り巡らされた島内は完全に観光客向けのお店で溢れてはいるが、ほとんどの建物がバラック小屋みたいな簡易的な造りでそこまでけばけばしいものではなかった。
いくつもの曲がり角が入り組んでおり、すぐに迷子になってしまいそうだが、島自体とても小さなものなので迷っているうちに元の場所に戻ってこられる。
地元の人たちが自転車でのんびり走っており、リアカーを押した兄ちゃんが白人たちを押しのけて行き交う。
ゆうべから降り続いている雨のせいでボコボコに凹んだ道が冠水しており、それがこの島の飾らない姿を見るようだ。
緑が多く、ヤシの木が空にのび、海には古びたモーターを積んだ前時代的な小舟が無数に浮いている。
今日は天気が悪いが、きっと晴れた日には緑色の美しい海になるんだろうな。
島の中心部にはたくさんのレストランやカフェがひしめいており、値段もやはり島価格で高い。
宿も無数にあり、エアコン付きのドミトリーが300バーツ、900円ってのが相場みたいだ。
勘にまかせて路地裏を散策していたら200バーツというドミトリーを見つけた。
やる気のなさそうな兄ちゃんがぼんやりケータイをいじっているその宿は玄関を開ければすぐドミトリーというセキュリティなんてほぼあってないようなところ。
セーフティーボックスもあるけれど、そもそも建物の外に置かれているという面白い場所だけど、この島では盗難なんてほぼないんだろうな。
ここに決めてバッグとギターを置いて散歩に出かけた。
このボロい昔ながらの家屋を無理やり観光客用の土産物屋や食堂に利用しているような雰囲気が、島のビーチリゾートというムードを演出しておりワクワクしてくる。
観光客ズレしていてもおかしくない地元の人たちなんだけど、うっとおしい客引きなんかしてこずいつも絶えずニコニコと微笑んでいる。
観光エリアとローカルエリアが分けられているのではなく、ほとんど共生している様子にとても心が和んだ。
このピピ島には町はひとつしかないんだけど、ビーチは島のあちこちに存在している。
道のない山の中を抜けて行ったところに隠れるように広がる静かなビーチなんてたまらなく開放感があるな。
そして1番のメインが、あのディカプリオの映画、ザ・ビーチの舞台になったマヤベイビーチ。
しかしこのマヤベイビーチはこのピピ島ではなく、目の前に浮かぶひとまわり小さな島の中にそれこそ隠れるように存在しているようだ。
あー、映画の中でディカプリオが遠くに見える秘密の島に渡るあのシーン。
あの島が今目の前にあるのかと思うと、こんなに観光客で溢れる島でもやはり達成感が湧いてくるもんだ。
マヤベイビーチへはツアーでしか行けないとのこと。
周辺の小島をいくつか周りながらシュノーケルを楽しみ、夕日を見て帰ってくるというツアー。
無数のツアー会社が看板を出しているので、まぁどこで頼んでもおんなじようなもんかな。
午後から夕日までの半日ツアーが400バーツ、1300円くらい。
午前から夕日までの1日ツアーが500バーツ、1600円てところ。
朝飯、昼飯、飲み物、そしてシュノーケルセットがついてこの値段だから半端じゃなく安いよな。
オーストラリアやニュージーランドだったら2万円はする。
ピピ島にはふたつの目的でやって来た。
パーティーアイランドなのでクラブで朝まで大騒ぎするのもいいけど、メインはワールドカップ。
島の開放的な気分の中、ビールを飲みながらサッカー観戦。
あ、想像しただけでオシッコ漏れそう。
最高すぎる。
そしてあとはゆっくりすること。
ザ・ビーチのマヤベイを巡り、島の空気にまどろみ、サッカーを見て欧米人たちと大騒ぎする。
イクゾー君が来られなかったのは残念だけど、1人でノンビリするのもいいな。
マレーシアのクアラルンプールで一緒にご飯を食べた女の子のカンちゃんがピピ島に行こうかなと言っていたので、もしかしたら会えるかもしれない。
やべぇ、こんな開放的な南の島で女の子といたら過ちが起きてしまう!!
ピピでピピピッ!!
はぁ、なんもないんだろなぁ…………
テキトーにそこらへんの食堂でご飯を食べてから宿に戻り、ギターを持って町の真ん中へ。
ローカルの人たちで溢れるスーパーマーケットと市場のある路地で歌ってみることに。
自転車やリアカー、島民たちがごちゃごちゃと行き交うこの路地はそこまで観光客もおらず、物も比較的安い。
うーん、こんなとこでバスキングした人なんているのかな。
稼げなさそうだけど、まぁせめて宿代くらい出ればいいかな。
スーパーマーケットの角でギターを取り出すと、みんながチラチラとこっちを見てくる。
そして笑顔でやってくれやってくれ!!と盛り上げてくれる。
やっぱりタイの人はノリが最高だな。
喧騒の中で歌った。
お金はそこまで入らない。
でもみんなこの珍しい日本人に興味津々で歌が終わると笑顔で親指を立ててくれる。
お弁当の差し入れ、飲み物の差し入れ、お菓子の差し入れ、
お金というよりかは、そういった物を置いていってくれる人が多い。
なんだかそれが島の暮らしを象徴しているみたいで、お金をもらうよりも胸が暖かくなる。
日が暮れるまで2時間ほど歌って、あがりは600バーツ。1800円。
たくさんの差し入れを持って宿に戻っていると、観光客向けのバーが並ぶ通りで客引きのおじちゃんに声をかけられた。
あ、さっき歌ってて拍手してくれたおじちゃんだ。
ここに座んなー、と言われ、客引きのおじちゃんたちが暇そうにたむろしている中に座ってみんなでお喋りしながら差し入れのお弁当を食べた。
みんな、この島は好きかい?と聞いてくる。
最高ですねと言うと、満足そうにニッコリと笑う。
やる気なさそうに客引きするおっちゃんたちのゆるさがとても心地いい。
ビールを片手に夜になった迷路の中を歩いた。
バーやレストランの派手な照明が細い路地を照らし、クラブミュージックがガンガンに流れ、イケイケの若い白人たちがイヤッホー!!と盛り上がっている。
ピザ屋さんやハンバーガー屋さんが多く、さらにものすごい数のタトゥー屋さんがある。
モロに白人向けといった雰囲気だけど、悪くはない。
そんな南国の島の怪しい熱帯夜をさらにディープな空気にしているのが、マッサージ屋さん。
いくつものマッサージ屋さんが通りに並んでいるんだけど、店先に気だるそうに寝そべっているタイ人女の人たちが挑発するような目でこちらを見てきて、そして俺の服をつかんで引き止めてくる。
マッサージ、マッサージ、
キモチイイ、チンチン、マッサージ
そんなカタコトの日本語を言ってはキャハハハ!!笑っている。
ケバいメイク、体の線を強調した服、下卑た挑発。
入り口からのぞくと、自分の家にいくつかのマットを並べたような簡素なマッサージルームが見え、いかにもといった雰囲気のピンク色の照明が薄暗く部屋を照らしている。
全身マッサージ1時間で250バーツ、800円足らずという激安の値段。
しかしそこからプラス料金でいわゆるスペシャルマッサージ、ヌキをしてくれるってわけだ。
いくらかわかんないけど、別に興味はない。
ていうか普通のマッサージをしてもらいたい。
「ダイスキヨー。シッダウン。」
マッサージ屋さんのお姉ちゃんたちに捕まり、店先に座ってみんなでお酒を飲んだ。
なんかわからないお酒をコップについで渡され、飲んでみると強いアルコールが喉にしみる。
「アハハハー!!ダイスキデスカー!!」
と笑う女の人たちは、商売女にある独特な饐えた色気を漂わせていたが、決して不快ではなく、その明るい性格にとても和んだ。
そしてふとマッサージしてもらおうと思った。
250バーツなんて安いもんだ。
「OK!!カモン!!レイダウンヒア!!」
ピンク色の室内に入ると、カビ臭い風俗店の匂いがした。
何年も何年もここで仕事をしている女たちの匂いに胸焼けがおきそうになる。
マットに座ると、女の人がカーテンを閉めて周りを囲い外から見えないようにした。
その瞬間、いきなり俺に覆いかぶさってきてキスをしてきた。
キスというよりか口をベロベロとなめられる、あの嫌いなキス。
「ちょ、ノーノー、それはしなくていいよ!!」
「アア……ダイスキ………モット……モット……」
どこで覚えたのか、そんな言葉を耳元でエッチに囁いてくる。吐息交じりに囁く演技っぷりは、まさに年季の入ったベテラン風俗みたいだ。
そして強引に俺のチンチンをまさぐってきた。
理性が吹っ飛びそうになる。
やば、めちゃくちゃ上手い。職人技だ。
もうやってもらうか………と一瞬頭をかすめる。
「マッサージ250バーツ、ハァハァ……アアン………プラス250バーツ、オールマッサージ……アハン………」
ま、マジか………1時間の全身マッサージとヌキをあわせてたったの1600円だと……
いかん!!いかんぞ!!
正気を保て文武!!
風俗なんか行ってる場合じゃねぇぞ!!
タイだからってエレファントがパオーンとかしてる場合じゃねぇ!!
我慢しろ!!我慢す
パオーン。
「アリガトゴザマスー。」
「ダイスキデスー、オヤスミー。」
や、やってしまった………
口ではなく手オンリーなんだけど、あまりの職人技にカップラーメンまだ出来上がってませんけどレベルで瞬殺。
ハメてないのにハメ技くらいの勢いで瞬殺。
精気を抜かれて足腰フラフラになりながら盛り上がる町を歩く。
音のする方に歩いて行くと、ビーチの波打ち際にたくさんのクラブが並ぶパーティーゾーンがあり、爆音と潮騒が混ざり合う中で白人たちが叫んでいた。
そんな真ん中で何やら火が燃えている。
火のついたロープを回して縄跳びをしていた。
酔っ払ってハイテンションになった白人たちがフォオオオオ!!!と果敢に飛び込んでいって、体にロープが直撃して爆笑している。
さすがはピピ島、なんでもありだな。
ちょっとやってみたいなと思ったけど、足腰ガクガクになってる今飛び込んだら間違いなく火だるまになるのでやめといた。
アホみたいな顔をして歩く。
きっと相当アホなことになってたと思う。
周りを見ると、結構ほとんどの人たちが同じようにアホな顔をしながら酒を飲んで、叫んでいる。
ああ…………なんだここ………
楽園すぎるぞ…………
タイにハマる人の気持ち。完璧理解。
こりゃ何度でも来たくなるわ。
このゆるい自由な空気に浸っていたらもうなんだってアリな気がしてくる。
この国で肩肘張った旅をすること自体野暮なことなのかもな………
宿の横のバーの前を通ると、たくさんの人だかりができており、モニターに何かが写っていた。
なんだろ?と立ち止まって見てみる。
大きなスタジアムの真ん中で誰かが歌って、何かのセレモニーをやっているようだった。
………あ!!これワールドカップの開幕セレモニーやん!!!
時差で今から開幕なんだ!!
あああ!!!もうテンション上がってきた!!!
バーの中に入り、大盛り上がりの白人たちに混じってアホみたいな顔をしてビールを飲む。
そしてこの日は朝の5時までブラジル戦を見て歓声をあげていた。
ネイマールすげぇ!!
ピピ島、
マジでヤバイ。