6月8日 日曜日
【タイ】 プーケット
ガヤガヤガヤガヤ………
ガヤガヤガヤガヤ!!!
目を開けると頭の横に男たちが立っていた。
うう………今何時だ………
まだ6時半じゃねぇか………
ここはバスターミナルのプラットホーム。
そりゃ朝から客引きさんたちも大声で行き先を叫び散らしますよね。
ノソノソと蚊帳から這い出て、ベンチに座った。
ゆうべからの今朝。
ああ………暑くてほとんど眠れなかった………
昨日は昨日で極寒の夜行バスでほとんど寝ていない。
ナチュラルハイ通り越してとりあえずコーラ飲みてぇ。
ベンチで直で寝ていたイクゾー君はまだ起きない。
これだけ周りが騒がしいのに図太いやつだ。
体はボロボロ。
早く宿探してゆっくりするぞ………
イクゾー君を起こして町へと向かって歩いた。
南米を思い出す古いコンクリート造りの建物が並ぶ車道沿いを歩いていく。
汗が流れ落ち、バッグパックと背中の間がぐじょぐじょに濡れるが、吹き抜ける風はどこまでも熱風。
ていうかここどこなんだろう………
さっきから暇そうなバイクタクシーのオッさんがウェラーユーゴー!!と声をかけてくる。
それしか知らないみたいに全員がウェラーユーゴーしか言ってこない。
懐かしいな、この雰囲気。
観光客にはそれを言えばいいみたいに丸覚えしてるようなこの感じ。
しばらく歩いていると後ろから家畜を積むような窓も何もないトラックがやってきたので手を上げてみるとスイーっと横に止まった。
バッグを持ち上げて乗り込み長ベンチに座ると、家畜トラックは勢いよく走り出した。
地元の人たちが乗っているこのトラックは町中を走る循環バスらしく、キチンと停留所に止まりながら走っていく。
生ぬるい風を浴びながら足を投げ出すと、ここがアジアなんだと心から開放感を味わえた。
ああ、これがアジアだなぁ。
しばらくするとバスは町の中に入り、それなりに賑やかな雰囲気になってきた。
プーケットといえば世界のことを知らない人でも名前くらい聞いたことがあるような有名な町。
それなりに大きい地方都市だと思う。
バスを降りるとそこは完全にアジアだった。
通りは溢れかえるスクーターバイクのレーシング会場で、狭い歩道と路上駐車の列でまともに歩くこともできない。
恐ろしい数の電線が電信柱が折れるんじゃないか?というような量でからみつきながら家々の軒先にぶら下がっている。
ゴミゴミしているのはもちろん、行き交う人々と野良犬で通りは埋め尽くされ、アスファルトは汚れきっている。
まるで黒澤明の白黒映画にそのまま色を加えたような昭和の雑踏がそこにあった。
「やべぇ!!アジアやん!!」
「これやべっすね!!早くゴーゴーバー行きたい!!」
イクゾー君と盛り上がりながら歩き、早く荷物を置いてしまおうとひたすらそこらへんにあるホテルで値段を聞いてまわった。
バンコクの相場はだいたい80バーツといったところだと聞いている。280円くらい。
タイはとにかく格段に安い。
ちなみにさっきのバスは10バーツだった。30円。
しかしこのプーケットはタイの中でも物価の高い町らしく、ドミトリーでだいたい200バーツ、680円くらいというのが最安クラスだという。
まぁこの町は観光地。きっとそれなりに稼げるはず。イクゾー君はすでに残金2千円ないので稼げなかったらタイ人確定。
ていうかタイで2千円て(´Д` )
宿の値段はどこも400バーツとか500バーツだった。
別にたいして綺麗なところではないけど地方都市のホテルなんてこんなもんだ。旅人用の安宿というところがなかなか見つけられない
2人とも疲れ切っているので若干口数も少なくなりながら歩き続ける。
路地裏ならもっと安いんじゃないかと狭い小道に入ってみる。
ボロいコインランドリーや小さな食堂があり、子供が裸で走り回っているような懐かしい生活路地をぐるぐるさまよう。
木陰でだべっているおっちゃんたちに一応聞いてみるが、やはり地元の人ってのは安宿というものを知らないのが普通。
そこにあるよーと教えてくれるが、7~8階建てのビジネスホテルみたいなとこを教えられる。
もち却下。
そんな中、迷路のような路地にいきなり宮殿みたいなド派手な建物を見つけた。
お、これ怪しさ満点でいいんじゃないか。
イクゾー君が中に聞きに行ってくれる。
しばらくして戻ってきた。
「どうだった?」
「人がいないです。代わりに屋上でポメラニアンが交尾してました。やめましょう。」
それからもひたすら歩き回ったがなかなか見つけられず、どうしようかと途方に暮れる。
だいたいこの辺り地元の人たちの生活エリアだからいけないんだよ、きっと安宿エリアがあるはず、と根性で歩いた。
なんとなく人通りのありそうな方に向かって歩いて行くと、ツアー会社を見つけた。
お、てことはこの辺りが観光客の集まるエリアかなと思ったら、案の定たくさんの安宿を発見。
ようやくたどり着いた欧米人が好きそうなバッグパッカー宿の値段はドミトリーで200バーツ、680円で夜間のエアコン付きというものだった。
文句なし。
すぐに荷物を部屋に投げこみ、ドロドロになっていた体を水シャワーで洗い流すとオヒョオオオオ!!って1人で叫ぶくらい気持ちよかった。
「よーし、それじゃあイクゾー君、さっぱりしたことだし歌いに行こうか。」
「えぇー………こんな疲れてるのにやる気でないっす………女の子とのエッチが確定されてないとやる気出ないっす。」
「お金ないやろ。宿代払えないよ。さ、行こ。」
「あああー……鬼だこの人ー………」
俺は今日は町の下見だけでいいので
イクゾー君だけギターを持って宿を出た。
さっき歩きながらある程度目星をつけていた場所を回っていく。
最初は町の真ん中にある市場とショッピングモールが並んでいる場所へ。
お祭りのバザーみたいな屋台通りがあり、美味しそうなタイ料理でまずは腹ごしらえ。
チキンと目玉焼きとライス、それにオカズを1品で65バーツ。200円くらい。
ご飯を食べながら周りを見回すと、やたらと目に付くのが可愛い女の子。
そう、タイの女の子、マジで可愛い。
なんだろ、田舎の素朴な女の子といった清純さがあり、色っぽい人はものすごく色っぽいし、とにかく男心をくすぐる魅力がある。
浅黒い肌はキメが細かく、髪の毛もサラサラで美しい。
日本人男性と日本人女性の国際結婚の相手国について数字を見せてもらったことがあるけど、これがとても分かりやすい内容。
日本人女性の結婚相手は圧倒的に白人が多い。
オーストラリア、アメリカ、イギリスなど。
そして日本人男性はというと、圧倒的にアジア人女性と結婚している。
それもタイやフィリピン人が多い。
経済的な理由ももちろんあるだろうけど、それ以上に人種に対する優劣の意識は確実にあると思う。
日本人女性はエスコートしてくれるスマートな白人男性に憧れを抱くが、日本人男性はブロンドの女の子を落とすような器量はない。身構えて終わり。
でも相手がアジア人女性ならば俺たちは日本人だーと王様気分になれるからガンガン口説く。東南アジアには若くて綺麗で純朴な女の子がゴロゴロいる。男はスレてない女の子ってやつに夢を抱くもんだ。
逆に日本人女性がアジア人と結婚なんてよほど稀なケース。
フン、私日本人だし、中国人?あり得ない。フランス人最高。みたいな。
国の経済ってやつは国民の劣等感優越感に直結するな。
そんな日本人男性たちが女の子買いまくりに大挙するこのタイ。
どこがそんなにいいのかな、と思っていたけど、
こいつは気持ち分かったわ。
確かにタイ人の女の子可愛いわ。
「金丸さん!!あの女の子マジやべっす!!可愛い!!あのスクーターのシートになりたい!!」
「あの子も可愛い!!やべぇ!!チューしたい!!」
「ちょ………俺もう行ってきます!!!」
そんな可愛い女の子を見つけながら歩きまわるのが楽しくて、2人でひたすらあちこちを探検した。
オールドタウンと呼ばれる古き良きプーケットの町並みを残すエリアには古民家を改造したオシャレなカフェや古本屋さんが並び、本当にタイムスリップしたかのような錯覚を覚える。
ディカプリオ主演のザ・ビーチでロケに使われた古びた安宿の安安旅社もこの一角にある。
ちなみにここは最近リニューアルしてドミトリー400バーツ、1300円というもはや安宿の値段ではなくなっているけど、その知名度でお客さんは来るんだろうな。
少し疲れてそこらへんの食堂へ。
お店を閉めて下ごしらえをしてるところに入っていきコーラをもらった。
「うわー、なんかもうこの女の子もめちゃくちゃ可愛いじゃないですか。なんでこんな可愛いんだろ。」
野菜を切っている女の子が俺たちを見て恥ずかしそうにニコリと笑う。
「あーもうやっべぇ、タイ最高だなぁ。エクスキューズミー。コーラいくらですか?」
お金を払おうとして声をかけるが振り向かない女の子。
「あー、エクスキューズミーもダメなんだ。本当に英語わかんないんですね。どうしよう………ハンダゴテー。あ、振り向いた!!ハンダゴテで振り向きましたよ!!タイやべぇー。」
それからも色んな話をしながら歩き回る。
「金丸さん、日本帰ってからライブやるんですか?」
「うん、やるかなー。イクゾー君、旅終わって母校とかから公演の依頼がきたらどうする?」
「え?そりゃ出ますよ。」
「それでは小林イクゾー先輩のご登場です!みたいな感じで。」
「はい、いいですかーみなさん、教科書は、ゴミ。恐怖は、食べ物。先生はただの紙芝居のおじさん。タイはヤヴァイ。これでもう一発ですよ。イッパツ。うわーやべー、子供可愛いー。」
というわけで全国の学校関係者のみなさま、イクゾー君の公演依頼、募集いたします。
道を踏み外す子供になること請け合いです。
大笑いしながらオールドタウンの中を歩いていたら、なにやら屋台の準備をしている一本の通りを見つけた。
通行止めになり、すでに結構たくさんの人が集まっていた。
「あれ?ここいいんじゃない?きっと日曜の夜市みたいなのがあるんだよ。やった完璧じゃん。」
「え、ええ………やっぱやんなきゃダメっすか………?もういっそのこと町の中に200個くらいギターケース置いといたら明日の朝には何か入ってるんじゃないですかね?」
「イクゾー君、やろうか。お金あといくらだっけ?」
「1500円です。やります。見ててください。俺のホンキを。」
「ホラ!あの子可愛いよ!!」
「行ってきます!!」
イクゾー君、路上開始。
どんどん屋台は増えていき、焼き鳥やらカレーやらお菓子やら、とにかくワクワクするようなお店が数百メートルに渡ってどこまでも並び、人で溢れかえっている。
そんな中で歌を響かせるイクゾー君。
タイの路上はどんなもんか………
あ、入った。
あ、またお金入った。
すごい、みんなめちゃくちゃ笑顔でどんどんお金が入っていくやん!!
イクゾー君がタバコ休憩する間、俺もヘルプでちょっと歌ってみた。
タイ人スーパーウェルカム。
え?あのクアラルンプールの悪夢はなんだったの?
タイ人めちゃくちゃフレンドリーだ!!
イクゾー君にギターを返して俺は夜市を練り歩いた。
楽しそうな人々。
笑顔が飛び交い、俺も自然と笑顔になっていく。
日が沈むと明かりがともり、一層人通りが増して活気に満ちてきた。
たくさんのパフォーマーたちがあちこちで場を盛り上げ、誰もがお金を落としていく。
観光客の姿もあるが、ここは完全に地元の人たちのお祭りで、そのけばけばしていない落ち着いた雰囲気に親しみが湧いてくる。
夜風が気持ち良く汗ばんだ肌をなでる。
可愛い女の子の浅黒い肌に浮かぶ美しい汗。
ただ歩くだけでこんなにも夢中にさせてくれるなんて、一瞬でタイの夜に魅せられていた。
イクゾー君の元に戻るとギターケースの中にはたくさんの紙幣が。
やったじゃん!!と話していると、向こうのチキンライスを売ってる屋台のおばちゃんがふたつパックに詰めて持ってきてくれた。
ニッコリ笑ってタイ語で何か言ってくれる。
あー!!タイなんだこの国!!!!
しばらくして人通りがさらにすごいことになり、周りでアンプを使ったバンドたちが演奏し始めたのでこのへんで路上終了。
ギターを持って宿に戻る道でめちゃくちゃ興奮しながら歩く俺たち。
「タイヤバい!!ここマジでヤバい!!」
「マジヤバいっすね!!僕たち今日だけで何回ヤバいって言っただろ!!」
「飯美味いし、なんでも安いし、女の子可愛いし、人は優しいし、天国じゃん!!ヤバすぎる!!」
「女の子めちゃくちゃ可愛いっす!!やべー!!あの子も可愛い!!あー!!お尻噛みてぇー!!」
「それはいいかな。」
「そういうの好きっす。」
大瓶が48バーツ、160円のビールを買って宿に戻り、ベランダでチキンライスを食べながら乾杯。
汗をかきまくって疲れた体にビールが染み渡る。
そして気になるあがりを数えてみたら660バーツあった。
2200円てところ。
わずか2時間くらいのもんだし、もっとキチンと場所を選べばおそらく1000バーツは余裕でいく。
ご飯が50バーツの国でこれだけ稼げれば上等も上等だ。
それに一回一回の金額は小さいにしてもたくさんの人が入れてくれるのでやり甲斐がある。
嬉しくてたまらないところにあの笑顔を向けられたら体の中がとろけそうになるよ。
「やべぇよイクゾー君、忘れてた。ここ微笑みの国だ。」
「うっわ、俺微笑みながら行かなきゃ、ゴーゴーバーに。可愛い女の子、射程圏内はいっちゃったっす。チュっす。」
日本人がタイ大好きな理由、1日で分かった。
ここヤバイわ。