6月6日 金曜日
【マレーシア】 クアラルンプール
チャイナタウンの入り口のところにあるバス停の周りは汚い安食堂や屋台がひしめいているんだけど、その中にいかにも大衆的なインドカレー屋さんがある。
前回も来たこのカレー屋さんにイクゾー君とやってきた。
「暑………暑いですね………コーラ飲みませんか……?」
「飲もう……コーラ飲まないとやってられないね……」
インド人しかいない店内、それぞれによそったカレーを持って席に着く。
安いものでライスにカレー、それに一品のオカズを乗せたとしてもたったの8.5リンギット、250円くらいのものだ。
汗をぼたぼたかきながらスプーンを動かし、食後はそのままテーブルでタバコが吸える。
タバコを吸おうと思ったら店の外に出なければいけないルールの国ばかりにいたので、未だにこのラフさに違和感と解放感を覚える。
今日はもうこのクアラルンプールを出る。
というかこのマレーシアを出る。
もうここにいくらいても面白いことは見つけられなさそうだし、トロールを失った悲しみから少しでも離れたかった。
前に進みたい。この街とは合いそうにない。
そんな相性はどこにだってあると思う。
「あー、ホラあそこのインド人見てください。カレーを手で食ってますよ。ヤバくないっすか?」
「そうだねー、俺には出来ないなぁ。」
「なんでインド人って手で食うんすかね。」
「なんでだろうね。」
「もうあれですかね、意地とかなんすかね。」
未知の国、インド。
そして四千年の歴史の中国。
日増しに大きくなるこれらの国への憧れ。
早くここにたどり着くためにも、先に進もう。
今夜夜行バスで向かうのはお隣のタイ。
いつも通りまったく情報はないのでどこに行ってもいいんだけど、タイ南部にはプーケットというリゾート地があるそう。
ここなら観光客も多く、街もそれなりに栄えてるという風の噂なのできっと稼げるし、何より海を見たい。
この閉塞感で心が荒んでいる今、青い空と水平線を眺めたくてしょうがない。
ここを最初の街にしよう。
昨日バスターミナルに行って調べたところ、まずは国境を越えたところにあるハジャイというタイ側の街まで行き、そこからプーケット行きのバスに乗り換えるとのこと。
このハジャイまではWi-Fi付きのバスが55リンギットで走っているとのこと。
1800円くらい。
6時間のドライブでこの値段なら悪くない。
日本人旅行者ならば誰しもが訪れる国、タイ。
日本にいるころから、この前タイに行ってきたんだーと友達が話してるのをよく聞いていた。
物価が安い、人がいい、飯が美味い、ゴーゴーバーの女が最高、
日本からも近く、とてもイージーな国なのに旅気分を味わえるということでタイを世界一周の最初の国に選ぶ人も多い。
旅人にとってボーナスステージみたいな国。
あまりにもメジャーだし、誰もがタイ最高ーなんて言うようなところなのであんまり興味はないんだけど、一応通り道だし要所はおさえておきたい。
映画、ザ・ビーチの舞台になったバッグパッカーとヒッピーの聖地のピピ島ってどこにあんだろ?
あのディカプリオの映画、面白かったんだよな。
世界にはこんな秘密の場所があるんだーって映画見ながら思ったもんだ。
このタイのどこかから行けるみたいだけど、まぁ縁があったら行ってみたいな。
ただ気をつけないといけないのは、現在タイでは軍がらみのデモが起きており、国のあちこちで暴動が発生しているということ。
夜間の外出禁止令が出ていたり、実際死者も出ているとのこと。
アジアに入ってからこのニュースはいつも聞いていたし、様々な人から注意を受けている。
これが中東とかアフリカなら迷うことなくルートから外すところだけど、色々と情報を収集した上で危険地域に近づかなければ問題はないとのこと。
実際、現地に住む方からもそれほど大袈裟なものではないと聞いているし、みんな気にせずタイに向かっているし、何より情勢も安定してきている。
今の状況ならば問題はないだろう。
てなわけで今夜タイに向かって走るので、最後にこの面白くなかったクアラルンプールで思いっきり歌ってモヤモヤ全部吐き出しておさらばしてやるぞこの野郎!!!
夕方に宿で待ち合わせることにしてイクゾー君と別れる。
イクゾー君はいつものブギビンタン、俺はこのチャイナタウンのあたりでやることに。
目星をつけていたセントラルマーケットというお土産物ストリートへやってきた。
ポツポツと歩いている人たち。
日差しが半端じゃなくて一瞬でシャツがずぶ濡れになってしまう。
おらー、もう関係ねーぞー、
日本人に会った以外この数日なんも面白くなかったからなー、
やりまくってやるぞこの野郎ー
見てろよちくしょー
熱中症でゲロ吐くまで歌ってやるぞボケ!!とストリートの入り口で演奏開始!!
お店からの爆音うるせぇ!!車道からのクラクションとエンジン音うるせぇ!!
おらあああああああああ!!!!!!!
立ち止まれええええええええええ全然立ち止まらねぇぇぇぇぇえええええええええええ!!!!!!
誰1人足止めねええええええええええあえええ!!!!!!!
もうなんなんだよ!!
なんなんだよマレーシアこの国!!
もうなんかだんだん腹が立ってきて半ばヤケになりながら歌う。
しかし反応は2ミリもない。
え?なにしてんの君?歌ってるの?そんなこといいからドリアン食う?みたいなドリアンいらねぇ!!!臭え!!
20分やっても俺ただの電話ボックス。電話ボックスのほうがまだ稼ぐ。
なんなんだよ…………とガックリ肩を落としていたらセキュリティのオッさんが近づいてきて、マレマレマレードリアンーと言ってあっちへ行けと手を振る。
ここで歌ったらいけないと。
そうですね、僕もたった今ここからクラウチングで離れようと思ってたんですよ。
いやー、奇遇ですね。もうやめようと思ってたタイミングで来ちゃうんですもんね。
これじゃあ警備員に怒られて仕方なくやめたみたいな形ですね。
おいおい、俺たちの国がそんなに好きだからってあんまり勝手は許さないぜ♫みたいな。
違うわオノレエエエエエエ!!!!
1ミリも未練ないわ!!!
おい!!勘違いすんな!!勘違いすんなよ!!
ツインタワー!?ドリアン刺すぞ!?!?
この国2度と来ない。
マレーシア大好きな人には申し訳ないです。
とか書くと、クアラルンプールしか知らないでマレーシア嫌いになるとかバカじゃないの?もっともっと素晴らしいとこあるのに!!
とか言われるだろうけど、もうそういうの面倒くさい。
人との出会いも街との出会いも、タイミングと相性。
その国のことを全て知ることなんて出来ない。
素晴らしいと思う人もいるだろうけど、俺にとってはもう無理。
ああ………東南アジアずっとこんななのかなぁ………
あがり、0。
マレーシアのいいとこ1ミリも見つけられなかったなと思いながら宿に戻り、欧米人バッグパッカーたちがフラフラしている中日記を書いていると、イクゾー君が帰ってきた。
「どうだった?」
「マジビビります……2時間やって9リンギットです。280円。」
「もうダッシュで出よう、この国。」
荷物をまとめて宿を出た。
屋台でバクテーというマレーシア料理を食べながらこれからのプランを話した。
あ、バクテーというのはお肉を甘辛く煮たスープ。
マレーシアに来たなら是非食べてとみんなに言われていた。
最後にこれだけ味わっておきたかった。
ご飯が進む。美味しい。
「イクゾー君、お金大丈夫?あといくらあるの?」
「あと5千円くらいです。プーケットまでいくらくらいですかね?」
「うーん、まぁ3千円もあれは行けるんじゃないかな。」
「なるほど、つまり2千円でタイ入りってわけですね上等じゃないですか。………あ、あれ?タイってお金持って行って贅沢するとこですよね……?ゴーゴーバー行ったり。タイで稼ぐってマジかー………」
「まぁとにかく2千円あれば多分3日は過ごせるはずだからなんとか稼ごう。」
「じゃあ3日は生きられるんですね執行猶予3日ですか。3日以内に結果が出せなかったら本気で終わりですよ。何笑ってるんですか。あああ、プーケット稼げなかったらウケるー。」
バクテーをかきこんでコーラ飲んで、バスターミナルへ。
今21時。昨日調べたバスは22時。
余裕でチケットフロアーへ。
いくつものバス会社の窓口が並んでいる南米を思い出す光景の中、Wi-Fiつきのバス会社へ。
「こんばんはー、タイのハジャイ行きのバスくださいー。」
「フルだよ。」
………………
その隣の窓口へ。
「フルだよ消えろ。」
その隣へ!!
「フルフル。週末ってわかってる?ハハハー。」
あああああ!!!
もうマジでいやーーーー!!!!
イクゾー君に荷物を見てもらって片っ端から聞いて回った。
ほぼフル。満席。
たまに空いてても、昨日はWi-Fiつきで55リンギットだったのが、足元見られて80リンギット。2500円。
南米はギリギリに買えば駆け込み価格で安くなったけど、どうやらアジアでは逆に高くなるみたい。
ちくしょう!!
もう80リンギットしかねぇのかよー!!と焦っていたら、ひとつの会社が60リンギットで行くと言う。
1900円くらい。
「それって国境まで行くんですか?」
「あ~、もちろんよ~、早くしないとチケットなくなるわよ~。」
「タイに行きたいんです。ハジャイまで行くんですか?」
「問題ないわ~、買うの買わないの~?」
もうここしかないので60リンギットでチケットを購入。
少し焦ったけどこれでタイまでの足は確保したぞ。
しかしマレーシアはとことんマレーシア。
こうもダメダメだと、最後まで見事にやってくれるもんだ。
バスの出発時間は23時半。
クソ暑い地下のプラットホームで待たされること30分。バスは来ない。
いきなりトランシーバーを持った頭の悪そうな兄ちゃんがやってきて、何かわめくと待っていた人たちがゾロゾロと移動開始。
え?これ俺たちのバス?と兄ちゃんチケットを見せると、キレながら、早く動けやボケ!みたいな顔で指さされる。
遅れてんのお前の会社のミスですよね?なんでキレてるんですか?ボケなんですか?
端っこの22番プラットホームから端っこの1番プラットホームまでみんなで大移動。
空気がこもってて汗ダラダラ。
バスまったく来ない。
アジアですからね、なんか色々遅れるってのは聞いてましたからそれなりに覚悟してましたけどイライラはしますね。
それからさらに1時間経過。
バス来ない。
もう深夜1時。
他の人たちもみんなウンザリした顔。
するとさっきの頭の悪そうな兄ちゃんがまたやってきて、何かわめいた。
みんな面倒くさそうに立ち上がり移動開始。
また移動。
段取り悪すぎ。
何さっきの移動。何の意味があったの?
今度は何番プラットホームですかー………とみんなの後をついて行くと、なぜかバスターミナルの外に出て、街の中へ。
ゾロゾロゾロゾロと外灯の下をひたすら歩く。
へーこの先に何番プラットホームがあるのかなー?
しばらくすると道端にバスが止まっていた。
へー、ウケますね。
なんでターミナルまで来ないのかな。なんでせめてターミナルのすぐ外まで来ないのかな。
スタッフが早くしろよこの野郎!!みたいに手を振って荷物を荷台に放り込んだ。
当たり前だけど謝罪もなんもなしに平然と出発。
マレーシア好きな人、本当ごめんなさい。
こんなことしかなかったです。
努力不足だったと言いたいけど、出来ない。
次のタイに期待します。