5月16日 金曜日
【ニュージーランド】 グレイマウス ~ ピクトン
「………フミ………フミ…サンー………」
「………あ、は、はい、おはようございます!」
「朝ゴハン、トーストトコーヒーヨウイシテマス。ボクラハチョットエクササイズシテキマスカラ。」
寝ぐせ頭でのそのそと目をこすってキッチンに行くと朝ごはんが用意してあった。
そしてウインドブレーカーを着て外に出て行ったポールさんとサリーさん。
ま、まだ6時半なんですけど………
ブルブルっと震え上がる。
こんな極寒の中でも欠かさず早朝ランニングとかもはや違う生物にしか思えない。
欧米人のランニング信仰は凄まじいな。
ご飯を終えて部屋の片づけをして荷物をまとめているとポールさんたちが爽快な顔をして帰ってきた。
「イヤー、キモチイイデスヨ!タバコナンカスワナイデ、ハシルトイイデス!!」
ランニングから帰ってくるなり服を着替えてすぐに出勤。
ポールさんの車に乗り込んで家を出た。
早朝のグレイマウスはまだ日が昇っておらず、空だけが白んで雲が散らばっている。
冷たい空気に体がこわばる。息が驚くほど白い。
懐かしい日本の冬。
ポールさんが送ってくれたのは、北へと向かう道のジャンクション。
今日の目的地は、南島の北東部にあるフィヨルドに囲まれたピクトンという小さな町。
だいたい5時間の距離。
このピクトンから北島へと渡るフェリーが出ている。
ニュージーランドは日本の本州と北海道みたいに海峡で隔たれているので船に乗るか飛行機じゃないと渡ることはできない。
しかしこのフェリーがフィヨルドの入り組んだ中を進んでいく風光明媚な航海らしく、かなり美しいとのことなので、夜間の便ではなく明るく昼の時に乗りたいところ。
なので、今日中にピクトンまで行き、フェリーターミナルで寝て次の朝の便に乗ればフィヨルドを完璧に楽しみつつ、昼に北島のウエリントンに着いてそのままヒッチハイク開始という、なにこの芸術的な計画!!
非の打ち所がない!!
ヒッチハイクがつかまればの話だけど。
てなわけでヒッチハイクを開始したわけだけど、寒すぎる!!!!
風がビュービューと吹きすさび、顔が痛い!!頭が痛い!!耳がちぎれる!!
後から知ったけどこの朝の気温は2℃で、風のおかげで体感温度ハンパないことになってた。
あまりの寒さにキャリーバッグの影に入ってなんとかしのごうとするが、キャリーバッグごときの大きさで風よけになんてならず、マジで大声出したりジャンプして体ゆすったりして、朝っぱらからどう見ても頭おかしい人みたいになってた。
一刻も早く暖かい車に乗りたいのに、こんな時に限って全く止まらず、極寒地獄の中に1時間もさらされていた。
拷問すぎる…………
なんで誰も止まってくれないんだよー!!!
太陽が雲に隠れた瞬間、気温がズゴン!!と下がって、必死にキャリーバッグの影に隠れる。
この風をどうにかするいい方法はないのか…………
そして思いついた方法。
これ。
キャリーバッグとギターとリュックをうまく組み合わせて、そこにレインコートをかぶせる。
すると風でレインコートが張り付いて大きな壁になった。
うわ!!これめちゃいい!!
めちゃ風よけになってる!!
まるで戦争映画で建物の影に隠れて相手と撃ち合いをするかのごとく、車が来た時だけサッ!と立ち上がって親指を立て、止まらなかったらまたサッ!!と影に避難。
うん、頭悪い人にしか見えないよね………
膝をスリスリなでながらひたすら頑張るがまったくもって止まってもらえず、2時間が経過してしまった。
もう10時。
せっかく早起きして朝から開始したっていうのに、これじゃあいつもと変わらないよ………
チクショー!!今日中にピクトンまで行かないと明日の朝のフェリーに乗れないーーーーー!!!!!
ああああああああああああああああああ!!!!!
止まった!!
トラック止まった!!
「どこまで行くんだ?」
「ピクトンです!!でもどこでもいいです!!」
「おー、乗ってけー。」
やったオラァああああ!!!!
コンテナに荷物を放り込んで助手席に駆け上がった。
今日最初のヒッチハイク!!
ワイルドなトラックドライバーはこの方!!
超ワイルド!!
寡黙なおじさんが運転するトラックは広大な農地の中をのんびりと走っていく。
どこまでも広がる牧草地。
うねる丘陵と、枯れたポプラの木。
羊や牛、鹿が散らばりどこまでもニュージーランド的な風景だ。
おじさんのトラックのコンテナには小さな食品のダンボールが数個積んであるだけで中はガラガラ。
今日はそんなに仕事がないんだと言いながら巻きタバコを巻いている。
のどかな広域農道みたいな道沿いにある商店に立ち寄ってはそのダンボールをお届けする。
なんかドアの扉と枠組みの配達もあり、その重い扉の運び込みという今日1番の仕事を手伝わせてもらった。
田舎の人たちの暮らしにほんの少し触れられて嬉しかった。
「よし、この曲がり角を左に曲がって………ここがリーフトンって町だ。この分かれ道を真っ直ぐ行ったらピクトン方面だ。じゃあ気をつけてやりな。」
顔にいくつものシワが刻まれた寡黙なおじさん。
あまり喋らないのでわけわかんないとこに降ろされたらどうしようって思ってたけど、ピクトンへのベストなヒッチハイク場所に降ろしてくれた。
こんな山奥の小さな町の中にもやはり中華料理屋さんで中国人が料理を作っている。
もうこの異様な光景にも慣れてきたな。
太陽が上空にのぼり、風が止み、ポカポカ陽気の中で気分良く親指を立てる。
目の前の中華料理屋さんでフィッシュ&チップスを食べようかなぁと悩むが、バッグの中にはグレイマウスのスーパーマーケットでもらったたくさんの差し入れがある。
親指を立てながら冷えたミートパイやチョコシリアルバーを食べた。
そして食べ終わった頃におばちゃんが止まってくれた。20分くらいだったかな。
「ウェストポートまで行くところだから途中で降ろしてあげるわ!乗りなさい!!」
陽気なおばちゃんとの楽しいドライブ。
だいたいヒッチハイクで乗せてくれる人ってのはいい人だから止まってくれるわけで、ヒッチハイカーに興味のない人は止まることはない。
いつも、話が続くかな………とかいろいろ考えてしまうけど、別はそんなに気にすることでもないんだよな。
みんないい人なんだから。
「フェリーの時間?うーん、私も乗ったのだいぶ前だから忘れたなぁ。まぁたくさん出てるわよ。それより沖は波が高くて揺れるわよ。60年代に船が沈没したこともあるの。その時は53人死んだわ。」
ふーん、ていうかその情報聞きたくねぇ!!
30分ほど走り、山の中の分かれ道に降ろしてもらった。
潰れてるのかやってるのかわからないコーヒー屋さんが道の脇で看板を出している。
そのコーヒー屋さんがあるだけで、あとは周りには農地と森しかない。
ここから先は本当に一本道で、北部の都市、ネルソンに行く車しか通らない。
ネルソンからピクトンは1時間半の距離だ。
今の時間は13時半。
「オーイ、ネルソンに行くのかい?問題ないぜ!乗ってきな。」
わずか10分でネルソン行きゲット。
今日中にピクトンまで行くぞ!!
「鹿が増えすぎてしまってね。生態系が崩れるから国が駆除をしてるんだ。ヘリコプターから撃ったりしてるんだよ。だから国としてもハンティングしてもらいたいのさ。」
狩猟が好きなおじさんの車は快適にネルソンへと向かう山の中を走っていく。
狩猟といっても生活のためではなくスポーツハンティング。楽しむためのハントがニュージーランドではとても盛んに行われている。
獲物は鹿や豚、ウサギが一般的で、今の時期はダック、鴨のシーズン。
そこらじゅうに手つかずの原野や森があって動物が溢れているこの国なので、ハンティングがとても身近なものみたい。
日本では猟友会みたいなのがほそぼそとやってるくらいだもんな。
ニュージーランドは本当に自然との距離が近い文明国だ。
2時間のドライブであっという間に山を抜け、丘の上から美しい湾が見えてきた。
ついに来たぞ。南島の1番上だ。あの湾の向こうには北島が待ち受けている。
車は今までにないくらい綺麗に整備された湾沿いの道を走っていく。
ネルソンもどうやら大きな町みたい。
地理的に考えたら南島の玄関口だもんな。
おじさんはネルソンに住んでいるので、ここはいい町だぜって勧めてくれるけど、申し訳ないが先に進みますと言うと郊外のピクトン行きの道沿いに降ろしてくれた。
おじさん、ありがとうございます。
ヒッチハイクにもってこいな郊外の一本道には先客がいた。
バッグを地面に置いてヒッチハイクしている欧米人の兄ちゃん。
さっきおじさんの車でネルソンに入ってからだけで、3組のヒッチハイカーを見かけた。
これまでまったく見かけなかったが、この南島の玄関口の都会からみんなヒッチハイクの旅をスタートさせるんだな。
「ハーイ、もしよかったら一緒にヒッチハイクしていい?」
「もちろんだよ。」
「それで、君はドイツのどこから来たの?」
「ハハハハ、わかるよ、ドイツ人ばかりだもんな。俺もそうだよ。ブレーメンからさ。」
ちょいとクールなこの兄ちゃん。ヒッチハイクで数ヶ月かけて南島をぐるっと回っているそう。
もちろんワーキングホリデーなんだけど、別に働きたくなければ働かずに旅行して回ったってなんの問題もない。
お菓子をあげて、2人でくっちゃべりながら親指を立てていたら20分くらいで車が止まる。
止まってくれたのはマオリのスーパーフレンドリーに兄ちゃん。
「どこ行くんだいー!!マイフレンドー!!」
「キヨラー!!ピクトンです!!」
「あ、俺はブレナム。」
「OKレッツゴーだぜ!!」
陽気なマオリの兄ちゃんのノリノリの運転で峠越えの道を走っていく。
曲がりくねった上り坂の横は断崖絶壁が続いている。
トラックがブンブンうなりながら登っていくが、スピードが遅くて後ろに長い列ができる。
「この山路は冬場は凍りつくからとても危ないんだ。よくスピンしてしまってここから下に落ちる車があるんだ。」
そんな兄ちゃんが降ろしてくれたのは、相当な山奥の森の中。
こ、ここ!?
とあたふたしながらも荷物を降ろすと、スーパー爽やかな笑顔を残して兄ちゃんは去って行った。
静寂の森。車全然通らない。
ドイツ人の兄ちゃんと2人でポツンと森の中。
よーしよーし、ここは旅の先輩として頼り甲斐のあるところをゲルマン民族に見せつけてやろう………
「大丈夫だよ、心配しなくて。もし今日捕まらなくてもどこかそこのベンチで野宿すればいいんだ。寝袋は持ってる?んー、やっぱり旅をするなら寝袋とマットは最低必需……」
「止まったよ、行くぜ。」
車止まる。
ドイツ人真面目。
「いやー!!若い男だわー!!」
「いやーん!!食べちゃおうかしら!!」
「こっち座りなさい!!ホラ!!私の隣に!!」
乗り込んだ車はフィリピン人のおばちゃん3人。
か、姦しい(´Д` )
無駄にショートパンツで太ももが丸出しだし、タンクトップでおっぱいがブリンブリンになってるけど、ただのおばちゃん。
化粧が濃いおばちゃん。
「あんたジャパニーズでしょ!!私江戸川に住んでたのよ!!」
「え、江戸川ぁ!?」
「コンバンハ~、イラッシャイマセ~。」
ああ、フィリピンパブか。
そこでシンガーをやってたそう。フィリピン人って歌マジで半端じゃなく上手い人が多いもんな。
「私たち明日からバトミントンの大会なのよ!!」
「そう!!私たちこう見えても強いのよ~!!」
「ちょっと、スーパーあったら寄ってね!!ウィスキーもうなくなったから。」
「え!?明日バトミントンの試合なんでしょ?!」
「なに言ってるのよ!!飲まなきゃ勝てないのよ!!ショウチュウの水割り~!!」
「あんただいたいいつも飲みすぎなのよ!!」
「うるさいわね!!あんたに言われたくないわよ!!」
「ああ~ん、若い男の子肌だわ~。」
「あんたたち気をつけなさいよ~!!キスされるわよ!!」
あ、姦しい(´Д` )
ドイツ人の兄ちゃんと顔を見合わせて苦笑いしながらも、おばちゃんたちの優しさはとっても暖かいものだった。
おばちゃんたちとスーパーマーケットに寄り、それぞれに欲しいものを買い、それからすぐにブレナムの町に入った。
それなりに賑やかな町の中を走り、中心部のメインストリートに止まってもらった。
「あんた、もう夜なんだからやめときなさい!!私たちと飲みに行くわよ!!」
「バスもあるんだから明日の朝にバスで行けばいいわよ!!」
「フミ、俺今からバッグパッカーズに泊まるけどフミも来ればいいぜ。25ドルくらいだから。」
みんなの言葉を振り切って車を降りた。
ここブレナムからピクトンまでは車で20分くらいの距離。
そんなに遠くないのでバスで行っても値段はしれてるだろう。
でもここまで来たんだ。最後までヒッチハイクで行きたい。
もうすでに完全に夜になっており、道路には寂しげな外灯が光っている。
朝イチから始まった今日のヒッチハイク。
6台目の車が止まり、ついにピクトン行きに乗り込んだ。
「ワオ!!マジかいメーン?!ギターと歌で世界を回ってるのかいメーン?!ロックンファッキンロールだぜメーン!!」
乗せてくれたのはヘビーメタルをこよなく愛するモサモサのヒゲをたくわえた兄さんだった。
兄さんもギターを弾くみたいでBCリッチのギターを4本持っているんだそう。
「イカれてやがるぜ!!ギターを弾きながら世界を一周する。全てのギター弾きの憧れをお前はやってるんだぜメーン!!」
「でももう僕も次のステップに行きたいです。旅はもうずっとやってきたから、結婚して子供を作って。」
「イエーメーン、それもまたロックンロールだぜメーン。」
今まで大興奮して俺の旅の話を聞いてくれていた兄さんが急に静かになった。
「朝起きる、仕事に行く、仕事を終えて家に帰る、ディナーを食べる、寝る、朝起きる、仕事に行く、ずっとそれさ。」
若い頃からギターをやってきたであろう兄さん。
おそらく若い頃にはビッグなミュージシャンになる夢も見ただろう。
しかし現実は夢を諦め、結婚して子供ができ、もう無謀なことは語れない。
多くの大人たちがやりたかったことを諦めて安定のある仕事に就いて、かつての気持ちを忘れていく。
すっかりマトモな大人になって、若者を羨みながらも、そんなことやめとけ、どうせ無駄だ、と自分が出来なかったからお前も出来ないと言ってくる。
そんな大人たちにどれほど会ってきただろう。
日本の飲屋街で歌ってれば、酔っ払ったおじさんたちに毎日のように人生を語られていた。
何かを手に入れるには何かを諦めないといけない。
「でも子供はいいぜ。あれはすごい。人生が変わる。マジで全部が変わる。とてもでかい変化さ。ヒュージだ。」
メタル好きの兄さんの目は嬉しそうにも寂しそうにも見えた。
「じゃあな、元気で日本まで帰るんだぜ。お前なら最後までやり遂げられるよ。」
兄さんを見送る。たった15分のドライブだったけど、とても大きな15分だった。
ピクトンの町は静かな港町だった。
それなりにポツポツとレストランやバーが並ぶメインストリート。
兄さんが教えてくれた目の前のフィッシュ&チップスのお店で腹ごしらえをして港へと歩いた。
たくさんのヨットや船が入江に停泊しており、波のない暗い海の向こうにフィヨルドの入り組んだ山がうっすら見え、夜空には眩しいほどの月が輝いている。
岸壁沿いに歩いていくとターミナルがあり、その裏に大きなフェリーが接岸していた。
夜の中にこうこうとライトを光らせて大きな機械が轟音をあげて動いている。
ターミナルの中はガランと静まっており、すでに今夜の便はもうないということが分かった。
チケット売り場のお姉さんに声をかけた。
「朝の便は11時。その次が19時よ。値段は55ドル。」
ううん………11時か………
てことは向こうに着くのは14時くらい。
まだヒッチハイクは出来るだろうが、もっと早い便はないのか聞いてみた。
「………んー、教えてあげるわね。もうひとつ会社あるけど、平日なら朝8時の便があるけど明日は土曜日だから14時のフェリーしかないわ。だから明日は11時の便が1番早い船よ。」
これがアラブの国なら1ミリも信用しないところだけど、ここはニュージーランド。
俺がここのフェリー会社を利用したところで別にこのお姉さんが何か得をするわけでもない。
そういうことならと、もうチケットを購入した。
今はローシーズンなので55ドルだけど、クリスマスなどのホリデーシーズンには95ドルとかになるそうだ。
ああ……今はこうして全てを信用できるけど、アジアに入ったらまた面倒なんだろうなぁ。
ボッタクリと詐欺師との格闘の毎日になるんだろうなぁ。
ストレス溜まるだろうなぁ。
ターミナルの横にあった公園の小屋の中に潜り込んだ。
暗がりの中、さっきスーパーマーケットで買ったビールを飲んだ。
もう外でビールを飲んでも震え上がらなくてもすむ気温になってきた。
だいぶ赤道に近づいてきたな。
もちろんまだまた寒いが。
寒くなってきて寝袋に入って日記を書いていると、向こうの方からライトの光が近づいてきた。
こっちに歩いてくる。
それは警備員だった。
ここで寝ちゃダメだぜバディ、と言いながら俺の荷物を照らし、その中にビールを見つけると、懐中電灯の動きが止まり、こいつはプロブレムだぜとシリアスな声になった。
ニュージーランドでも公共の場でアルコールを飲んではいけない。
俺にとっては寝酒なのだが、やはり警備員さんとしてはまずいみたい。
罰金をとられることはなかったがここで寝ることはできないので、また夜の中を歩いた。
ゆうべあまり眠れていないし、1日中立ちっぱなしの喋りっぱなしだったのでかなり疲れている。
早く眠りたい……
どっかいい公園は…………
探し回ってはみるものの、どこの公園にもキャンプ禁止の看板が立っており、おまけにさっきの警備員さんが車で俺のことを追跡してくるので、強引に公園に入っていくこともできない。
すでに深夜になっており、気温が下がり、冷えた川からもやが立ちのぼり外灯が照らし出している。
ちくしょう、せっかくピクトンまで着いたのに寝る場所でこんなに困るなんて…………
住宅地の中をあてもなく歩き、ひたすら山の方へと坂を登り、寂しげな方へと向かう。
坂を登るとどんどん藪が多くなり、汗をかきながら荒れたアスファルトを突き進んでいくと道が終わり、倒れた木が道を塞いでいた。
その木の下をくぐってさらに先へ進むと、かつて使われていたであろうアスファルトが草に覆われて月明かりに照らされていた。
ここまで来たらもう誰も来ないだろう………
汗をぬぐってアスファルトに腰を下ろした。
決していい寝場所ではない。
坂の傾斜がすごくて、寝転がると下にズズズっとずり下がってしまう。
それに屋根もないそのまま空の真下なので夜露がすごい。マットを敷いて5分でかなり湿ってしまった。
こりゃビショビショになっちまうな。
こんな夜だけど、でも心は満たされている。久しぶりのフェリーに旅心がうずく。
まるで大間から函館だ。
オークランドまであと3日。
たどり着けるか。