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5月の秋晴れ

5月3日 土曜日
【ニュージーランド】 クライストチャーチ




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「金丸さん、おはようございます、朝ごはん食べてくださいね。」


リビングに行くとまる子さんが笑顔でパソコンを叩いていた。


朝から鈴の音のような声で耳が心地いい。
ミセスのファッション誌にそのまま出てきそうなオシャレなまる子さん。

宝塚歌劇団にかつて所属していましたっけ?という燐とした美人が作る朝ごはんというのは、なんともまぁ清潔感があって見た目も美しく、食欲をそそる。

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「マーマイト食べたことあります?癖があるけどニュージーランドの名物ですからもしよかったらどうぞ。マーマイトはピロリ菌をやっつけてくれるんですよ。」


なんだか所作や身の回りの物へのちょっとしたこだわりとか、上品なマダムってのはこういう人のことを言うんだなって思える。

黒いマーマイトを食パンに塗り、カリリとかじった。

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窓の外は昨日のあの陰鬱とした曇天が嘘のような五月晴れ。五月晴れだけど、秋晴れだ。

テラスに出るとブルルッと震えるほど寒いけど、太陽の光がとても気持ち良く、沈んでいた気持ちもだいぶ晴れてきた。

今日はクライストチャーチで歌おう。
この街の人たちと少しでも触れ合って、何かを感じられればな。






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土日は予定がないということで、まる子さんと一緒にドライブに出かけた。

晴れ渡る空の下、色づく街路樹の下を走っていく。
抜けるような青空が小さな寂しさを胸に刺すが、昨日ほどは苦しくない。




現在、学生をしているまる子さん。
才色兼備とはこのことで、博士コースに進み今も勉強中とのこと。

旦那さんは仕事で日本に滞在しているというグローバルなご家族だ。


息子のトミーさんがまだ11歳の時にニュージーランドに移住したとのことだけど、アメリカなどと同じようにニュージーランドでも子供を家に1人で居させることは法律で禁止されてるんだって。


「14歳以下の子供を家に1人でいさせると捕まっちゃうんですよ。だから鍵っ子とか絶対ダメなんです。そのくせ15歳になったら車の免許が取れて、いきなり大人扱いに変わるんですよ。面白いですよね。」



そんな話をしながら海に向かって車を走らせる。
一本道を快調に走る車。







しばらくすると突然風景に違和感を覚えた。

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周りには空き地というか荒れ地というか、湿地帯みたいな光景が広がり、脇にのびる道路がカラーコーンやフェンスで閉鎖されている。

ヒビ割れて波打つアスファルトには雑草が伸び、ずっと放置されているのがわかる。

その向こうにポツポツと家屋の屋根が見える。



「この辺り、地震の前に結構いい値段で売り出された新興の住宅地だったんです。綺麗でとても静かでいいところだったんですけど、今は地盤が崩れてもうほとんどの人が住んでないです。」


確かに道路の横に住宅地らしき入口があり中にたくさんの家が並んでいるのがわかる。

しかしそこはまったくひと気のない廃墟のエリアになっていた。

窓が割れ、落書きされ、草がボーボーと茂り、見るも無残に取り残されていた。

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「ずっと放置されたままなのでホームレスが住み着いたり、若者とかがいたずらしに来たりして問題になってるんですけどね……このままです。」


ズタボロの家もあれば、見た目はまだ綺麗な家もある。
でもやはり人が住むには危険なレベルなんだろうな。

門の呼び鈴が寂しげに雑草に埋れていた。









そんなこの世の果てのような光景の中を走り抜け、少しすると建物が集まっているエリアに入ってきた。

ここには人の暮らしがあるようで、お店も営業しているし車も少し走っている。

中心部の方に向かうとほんの短いメインストリートがあり、わずかばかりのカフェやレストランが並んでいる。
まぶしい太陽の光が通りを照らし、チラホラと人が歩いている。

ここでも古着や小物のマーケットがたち、ささやかな賑わいを見せていた。

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「ここはニューブライトンというビーチで、地震前は本当にたくさんの人で溢れていたの。みんなここに海水浴や散歩に来ていたわ。」


メインストリートを抜けるとすぐにそこはビーチとなっており、土曜日の昼下がりということもあってまばらだけどポツポツと人影がビーチに散らばっていた。

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車を止めてまる子さんと歩いた。

かなり遠くまで続いているこのニューブライトンの海岸線。
砂浜を歩く人たちや駆け回る子供の姿が見え、ウミネコの声がにゃーにゃーと潮騒の向こうに聞こえる。

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大きな桟橋が海に突き出しており、その上を人が歩いているのが見える。
かなり遠くまで伸びおり、高い波がその橋脚に当たって砕け白いしぶきを上げている。


たくさんの桟橋があった優しいカリフォルニアの海とは違って、どこか厳しい荒れた海。

光輝く水平線から強い風が吹きつけてきて、頬がすぐに冷たくなる。


もうこの海のすぐ南の方は南極なんだもんな。

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人もまばらなビーチ沿いのメインストリートでギターを取り出した。

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マーケットの人たちや、向かいのコーヒー屋さんで2~3人の人がぼんやり座ってるくらいで路上に適してるとは言えないけど、この寂しいクライストチャーチでは本当に路上をする場所がない。

とにかくここでやってみよう。

静かな通りに静かに歌を響かせた。

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数人の人が声をかけてくれ、コインもまばらに入る。

話ではこの通りにも路上パフォーマーがいるみたいで、もっと早い時間には人もたくさん歩いてるんだそう。

海賊の格好をした人やギターの弾き語りをする人がこの短い通りにもいるということが、ニューブライトンがクライストチャーチの中でも人の集まる場所なんだということがわかる。

でもそんなこの町も15時になるとマーケットが片付けられ、パタリと人がいなくなってしまった。



うう………なんて元気がないんだ………



オーストラリアのビーチはあんなにも自由で開放的で人の活気に満ち溢れていたというのに。


寒いってのもあるけど、やっぱり地震の影響なんだろうな。
みんな外を出歩かない。


ギターを片付けてまる子さんの車に戻った。











「クライストチャーチにはね、バスカーズフェスティバルっていうイベントがあって1年に1回、世界中の路上パフォーマーたちがここに集まるの。街の至る所で大道芸を披露してそれはそれは賑やかでね、新聞にも、明日はこの通りでこんなバスカーがパフォーマンスします、っていう情報が載ったりしてね、とても楽しいイベントなの。」

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街の中心地に戻り、走りながらいろんな話を聞かせてくれるまる子さん。

美術館と大聖堂をつなぐ一本道があるんだけと、かつてここにはたくさんのカフェが並び、穏やかでゆったりとした空気が流れ、無数のバスカーたちがあちこちでパフォーマンスしていたんだそう。

しかし今は廃墟と工事中の建物が並ぶばかりでパフォーマーどころか歩いている人の姿もない。

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やはりこの街で今1番人が集まるのは昨日見たコンテナのショッピングストリートだ。

やってくると、まばらではあるが人の姿があった。

そして数組の路上パフォーマーの姿もある。

向こうの方ではまだ高校生の低学年くらいであろう男の子と女の子が恥ずかしそうに歌っているし、通りの入り口のところでは演奏と呼べないような下手なリコーダーを吹きながらオペラを歌っているおじさんがいる。

地面に座って物乞いをする女の人の姿も。


そして若い兄ちゃんに、チェンジをくれないかと声をかけられた。
チェンジとはお釣りとか小銭のこと。
アメリカにはこうした声をかけてくるやつがたくさんいたけど、オーストラリアには皆無だった。

バスカーズフェスティバルなんてものがあるくらいだから、きっとレベルの高いパフォーマーがいるんだろうなと思っていたが、みんなお小遣い稼ぎ程度のものでしかない。



地震のせいで仕事や家を失った人はものすごくたくさんいるはず。
そういった人たちがここでこうして小銭を稼いで生活の足しにしているんだろうなということは想像にたやすい。



そんな中で歌っていいのか、よそ者の俺が…………?

1ドルでも稼いでしまっていいのか?




でもそんなこと考えていたら南米でもアラブ圏でもどこでだって、俺がやっていることは現地の人たちの稼ぎを削ってしまうことだ。

俺のせいで稼ぎが5ドル減ったホームレスや物乞いがきっとたくさんいたはず。



しかし彼らの仕事の邪魔をしてしまうことを遠慮していたらバスキングの旅なんて出来ない。

豊かなところでは稼いでよくて、貧しいところでは自粛、なんてバスキングにはあまり関係ない気がする。

お金がある人は10ドルを落とすし、ない人は10円をくれる。

金額に大小なんて1ミリも関係ない。

路上パフォーマンスは金が全てじゃないことはパフォーマーみんなが分かっていること。
ただ節操がなかったらただの物乞いだ。


歌は人に活気を与える。路上でやれば街に活気が出る。
そう信じる。

コンテナストリートの真ん中で思いっきり歌った。










「もっと早く来なきゃダメよ。この街は17時には人がいなくなってしまうからね。明日は日曜日だからたくさんの人が来るわ。11時~15時がベストタイムだからその時にやったらすごく稼げるわよ。あなたの歌は素晴らしいから。」


明日来なさいねーと言ってくれた赤い服を着たおばちゃん。

どうやらこのおばちゃん、シティーカウンシル、つまり役所の人間で、この通りを見回ってる人だった。


いつもなら俺のことを止める立場の人。
でもそんな人から明日ここでやってねと言われたことが嬉しかった。


コンテナストリートで1時間弱の演奏で30ドルくらい入り、あがりはビーチのも合わせて39ドル。

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「あらー!あんまり歌ってないのに39ドルも入ったんですか?すごーい!!」


今日1日俺のバスキングに付き合って下さったまる子さん。本当ありがとうございます、助かりました……


そんなまる子さんと夜景を見に行ってから晩ご飯へ。

廃墟の街と化しているクライストチャーチの夜景は、意外なほどにキラキラと輝いていた。



て、ていうか、ただのデートですね………

こんな美人と…………

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晩ご飯で向かったのはクライストチャーチの隣町。

わざわざ車を走らせてまでこんな小さな町に食べにくるようなお店があるのか?




やってきたのはこんなお店。

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ショッピングセンターの一角にあるこの現地人で大盛り上がりのお店は、日本の鉄板焼きのお店だった。

おばちゃんがエプロンしてて、演歌が流れてて、サラリーマンが新聞読みながらお好み焼きつついてる鉄板焼き屋さんではなく、これでもかってくらいオシャレに演出されたジャパニーズTEPPAN YAKIのお店は世界中にたくさんあって、どこの国でも大人気。


味はもちろんだけど、その人気の秘密は派手なエンターテイメント。



計算された鮮やかな動きはもちろん、



こういうペッパーミルのジャグリングとか、

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やり過ぎなくらいのフランベとか、

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ん?

そうシェフはまる子さんの息子のトミーさん。

22歳にして鉄板焼きのシェフ、和太鼓奏者、アイスホッケープレイヤーという多才な彼は大学でなんとかなんとかって言うなんとかの勉強をする将来有望すぎる青年。

お母さんも鼻が高いだろうな。




味は……………


もう書くまでもない。
この写真を見るたびに感動を思い出すだろうな。
エビがマジで美味かった………

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玉子焼きのカケラを口に投げ入れてくれます。

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また最後にはこんなことしてくれるし。

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反対から書くっていう洒落たパフォーマンス。
うん、もうバスキングできる。






そしてまたご馳走になってしまった………


「クライストチャーチを出たら南部のほうはかなり厳しい毎日になると思いますから。ここでエネルギーつけてくださいね。」


まる子さん、ありがとうございます………









この鉄板焼き屋さん、タカオという名前で、この町に2店舗を持つ人気店。

地震の時、救援に来た復旧隊の人たちに毎日昼夜200個ずつのお弁当を配っていたそう。

店員さんは全員日本人で、みんな仲良く、たまにトミーさんの家で集まって飲んだりするみたい。

てなわけで今夜も集まることになり、俺とまる子さんは先に帰り、シャワーを浴びているうちに、みんながドヤドヤとやってきた。






ビールを飲み、ワインを開け、少し歌わせてもらい、とても楽しい夜。


「まる子さん、何か音楽かけますけどどういうのがいいですか?ボサノバとかジャズでいいですか?それともクラシック?」


「AC/DCかけて!!私実は激しいのが好きなの!!キッスとかガンズ&ローゼスとか!!」


え、ええ!?まる子さんマジですか!?
なんて可愛い人だ^_^



街は廃墟で活気はないけども、現地に住んでる人たちはみんな元気だな。

明日は思いっきり歌うぞ。



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