4月29日 火曜日
【オーストラリア】 ブリスベン ~ ゴールドコースト
電車の窓から過ぎさる景色を眺める。
人の少ない車内はとても静かで、数人の乗客たちは物憂げにケータイ電話を見つめたり本や新聞を読んだりしている。
次の駅を告げる放送が流れる。
誰かが降りては、また新しい人が乗ってくる。
大きな荷物が倒れないように手で抱えて、窓を見る。
オーストラリアのミニお国情報。
★首都………キャンベラ
★人口………2200万人
★言語………イギリス英語
★通貨………オーストラリアドル
★レート………1ドル=1.07オーストラリアドル
★世界遺産………文化3件、自然10件、複合4件
1606年にオランダ人が北部に到達したがジャングルばかりだったので開拓を諦めたが、その後やってきたイギリス人のクック船長がシドニーに到達し、そこからイギリス人の入植が始まる。
最初は犯罪者の流刑地として開拓を推し進め、さらに自由入植地として農地を拡大し、アボリジニーたちを殺害し土地を奪って行った。
どこの国にもある黒い正義の歴史。
1901年にイギリスからの独立を果たすが、白人のみの国家形成が難しく、1980年代から移民を大々的に受け入れ始めたことでアジア人が増大。
アメリカとともにベトナム戦争にも積極的に参加したことから、ベトナム難民もたくさん移入し、ここA子さんが住むダラ地区には現在多くのベトナム人たちがコミュニティを形成しているそうだ。
国土面積が世界6位という広大な国土を持つわりには人口はたったの2200万人しかいない。
その人口のほとんどが沿岸部に集中しているという偏った国でありながら、どうしてこんなにもオーストラリアは豊かな国なのか。
世界でもトップクラスの物価で、トップクラスの給料を手にしているのか。
それはやはりノルウェーと同じように資源が大きな理由になるそう。
ノルウェーの石油と同じように、広大なオーストラリアの土地には石炭や原油、ボーキサイトなどの豊かな地下資源が存在し、それらがこの国の経済をGDP13位という高みに押し上げている。
農業や畜産も盛んではあるが、2200万人という人口でこの豊かさをキープするには何かの秘密が必要だよな。
石油産出国のアラブ圏にしても、こう考えると持って生まれた国の資源ってのはなかなかズルいもんだ。
ワーキングホリデー制度を最初に設けた国らしく、さらに貿易先としても日本との関係は深く、白人国家の中でオーストラリアが1番日本人の生活が定着している国なんじゃないかと思える。
まぁ多分1番はアメリカなんだろうけど、人口の比率とかを考えるときっとオーストラリア。
でもイギリスから始まったアングロサクソン優位思想は未だに根強いらしく、10人に1人はそういった考えを持っているそう。
アジア人に卵投げるなバカ。
アメリカと同じく新しく発見された土地に作られた新しい国。
ヨーロッパやアジアのような人間の芳醇な歴史をそのままに伝える地域があるこの地球の中で、ここはまるで人間の遊び場みたいだ。
テーマパークのような自由なこの空気はハリボテみたいに薄っぺらいけど、それはあくまで人間のエリアだけ。
エアーズロックのようなまだまだ神秘に満ちた自然がそのままに残るオーストラリア。
入植を試みた人間たちが開拓を諦めた厳しいエリアが大部分を占める。
見たこともないような固有の動植物が溢れ、海にはサーファーとイルカが泳ぎ、クジラが潮を吹き、キャンパーがポッサムに襲われるような大自然の国。
世界遺産も自然ものばかりだし。
ていうか俺がオーストラリア初日に寂しさに打ちひしがれながらシドニーで野宿した夜、目の前に見えたあの変な形をした大きな建物、あれって有名なオペラハウスであれも世界遺産だったんだな。
A子さんのお宅を出たのは9時前。
子供たちが学校に行き、A子さんがお仕事に出かけるのを見送り、旦那さんのマークが駅まで送ってくれた。
目的地のゴールドコーストまでは2回の乗り換えが必要なんだけど、A子さんがこれでもかってくらいわかりやすいリストを作ってくれたので何も問題なし。
最後の最後まで、俺のことを心配してくれたA子さんとマーク。
シャイで、元気などこにでもいる思春期の息子たち。
オーストラリアの一般的な家庭にお邪魔させてもらい、何気ない暮らしを垣間見て、一気にこの国に親近感が湧いてきた。
最初はとっつきにくかったオーストラリアだけど、やっと少しずつ慣れてきたような気もする。
A子さん、マーク、アキラくん、ケンくん、このご恩絶対に忘れません。
ネラングという町で電車を降りてバスに乗り換える。
これで目的地のブロードビーチまで行ける。
落ち着いた気持ちで窓から外の景色を…………
ひ、ひとつも落ち着けない(´Д` )!!
心がざわついて仕方ない!!
だってブロードビーチにはあれがあるから!!
そう!!あれ!!
うがあああああああ!!!!運ちゃん飛ばしてくれ!!!!
バスは見慣れた道を走り、向こうの方に懐かしい形のビル群が見えてきた。
帆の形をしたビル、ウネウネした変なベランダのビル、
ブロードビーチ、戻ってきたぞ。
バスが止まった瞬間、飛び降りてひっこけそうになりながらキャリーバッグぶん投げて猛ダッシュ!!!
鬼の形相で交差点を駆け抜けて、そのままヘッドスライディングでテーブルなぎ倒してラーメン横丁にバックホーム!!!
そう!!ラーメン横丁だもん!!
大好きなラーメン横丁だもの!!!
1日も忘れなかったよーーー!!!
「すみません!!ラーメン全部下さい!!」
「あ、お久しぶりですー♫最近来ないねって話してたんですよ。あれから値段設定が変わってランチタイムはラーメン5ドルです。」
「あ、そうなんですね!!いやー、今日は本当天気もいいしやっぱりブロードビーチはいいとこですね。みなさんお元気そうだし。ところでトイレどこですか?ウンコが漏れたみたいなので。」
愛してやまないブロードビーチの日本食屋さん、ラーメン横丁。
もうすっかり仲良くさせていただいており、話もさせてもらった。
このラーメン横丁、どうやらまだオープンして1ヶ月ちょいしか経っていないみたい。
隣にある日本食レストランのチャチャというお店はこのブロードビーチですでに20年看板を掲げる大人気店で、その姉妹店といったところ。
いくらオープンフェア中だと言ってもラーメン5ドルとかやりすぎにもほどがありますよ!!
「あー、それはねー、」
「あ!大丈夫っす!!みなまで言わんで下さい!!愛ですよね!!分かってます!!僕も愛してます!!小ライスもつけてください!!」
はいこれ。
この日本のラーメン屋さんを思い出す貴族セット。
「ヌーサやサンシャインコーストはどうだった?稼げた?」
「はい、すごくいいところでバスキングも稼げました。やっぱりラーメン激ウマです!!」
皆さんとお喋りしてラーメンをたいらげ、大満足で表でタバコをふかす。
ラーメンの後のタバコはドラッグです。
ああ……もうこの店の軒下で野宿して住民票とろうかな………
「あ、あれ?金丸さんですか!?金丸さんですよね?すげえ!!」
振り向くと、そこには人の良さそうな日本人のお兄さんが立っていた。
いたってラフな格好で、こちらに住まれてる方なのかなと思った。
「ブログ読んでます!出発の時からずっと!!いやー、ここのラーメン屋さんが好きってブログに書いてあったからもしかしているかなと思って来てみたら本当に会えました!!」
なんとも素敵な笑顔の彼の名前はゾロさん。
ゴールドコースト在住で日本食レストランのシェフをされているそう。
とても気さくな方で話が絶えることなく盛り上がり、また後から路上を見に行きますねと用事を済ませに歩いて行った。
メールをいただいて待ち合わせをしてからお会いするっていうパターンはあるんだけど、こうして道端でバッタリってのはなかなかないこと。
やっぱりオーストラリアは日本人が多い分、ブログを読んでくださっている方に会うことが多い。
ブログを通して海外に住むたくさんの方に会えることはとても嬉しい。
現地の生の声を日本人目線で聞けるってのは興味深いこと。
でも最近会いすぎてるって気もするけど。
ブロードビーチの路上ポイント、マクドナルド前の階段に座ってゆっくりと歌う。
行き交う人々はビーチに向かう人やスーパーマーケット帰りの地元の人たち。
ジェニファーさん登場から色んなところに行ったけど、やっぱりブロードビーチは落ち着くな。
そして心にも余裕ができている。
連日のバスキングですでにオーストラリアでまぁまぁの貯蓄ができており、現在13万円くらいの手持ち。
そしてニュージーランドまでと、ニュージーランドからシンガポールまでの飛行機チケットも、5万5千円で購入してすでにバッグの中にある。
オーストラリア入った時ってマジで2万円くらいしか持ってなかったから、生活費も合わせたらこの1ヶ月で25万くらい稼いだことになるのかな。
20万円持ってニュージーランドに飛ぶという目標には達していないけど、航空券代を抜いてこれならまぁ上出来かな。
アジアに入るまでに、まだあとニュージーランド、シンガポールというふたつの金持ち国がある。
多分予想では、南米と同じようにアジアでもバスキングで稼ぐことはできると思う。
貧しい地域だから金を落とさない、ってのはどうも違う気がする。
何かしらの方法はあるはず。
飯代と宿代だけでも稼げれば、アジアはガンガン進んで行くだけだ。
インドは絶対稼げないだろうけど(´Д` )
「あ、金丸さんー、やってますねー。」
さっきのお兄さん、ゾロさんがニコニコしながらやってきた。
しかもなんと差し入れを持って。
えーっと、これなんでしたっけ?
赤くて白い線が入ってるラベルの飲み物ですけど、なんかどっかで見たことがあるような気がするなぁ。
思い出せないなぁ。
遠い昔によく見た気がする。
なんだか胸が締めつけらコーラ。
コーラ。
高すぎてずっと飲めなかったコーラ。
あんなに大好きだったのに指くわえて見てるだけだったコーラ。
「い、いただいていいんですか……?」
「もちろんです、どうぞ!」
「犬、と呼んでください。」
時限爆弾を扱うがごとく全神経を集中してキャップを開けるのは、振動で炭酸が泡ひとつでも飛んでしまわないようにするため。
うん、美味い。
美味すぎる。
アジアに着いたら脂っこいご飯とコーラ、毎日楽しんでやるぞ。
「ちょっと弾いてみていいですか?」
ゾロさんもギターと歌をやるみたいで、いつかは世界一周をしてみたいということ。
オーストラリアで永住権を取得できたら、その後に是非回ってみたいんだそう。
尾崎豊のアイラブユーを歌ってくれた。
「うわー、アカンわー、めっちゃ緊張するわー。こんなんよくやってますね、金丸さん。」
いや、俺なんか全然まだまだです。
料理やっててさらに外国人を相手にしてるってほうがよっぽどすごいと思うな。
今日はのんびりやってたにもかかわらず70ドルのあがりで、路上フィニッシュ。
ゾロさんもお酒の好きな方なので、どこかで飲みましょうということで、ビールとワインを買って海辺の公園で乾杯した。
夜風が少し冷たくなった気がする。
この暖かいゴールドコーストにも秋が来てるんだな。
「オーストラリアってねー、何するにもちょうどええんよね。バランスがええんやわ。すごく居心地いいよ。」
すでに2年半ゴールドコーストに住んでおり、すっかりオーストラリアの暮らしに慣れているゾロさん。
年も近くて、なんだかすぐに仲良しになってしまった。
「ちょっとお腹空いたね。晩ご飯食べに行こうよ。どこがええ?」
「そんなもん決まってるじゃないですか。」
「せやな。」
ウホオオオオオオオオオ!!!!!
横丁おおおおおおおおおおおお!!!!!!
「僕まだここ来たことなかってん。オープンしたばっかりやし。何がオススメ?」
「全部美味いです。え……?ってなります。」
カツ丼を注文するゾロさん。
賑わってるにもかかわらず5分くらいで出てきた。
「ゾロさん、マジで半端ないですから。え……?てなりますよ。」
「ほんまー?いうても金丸君、海外長いからロクな日本食を食べてへんやろ?僕も料理人やからそう簡単に、え……?」
本当にビビってるゾロさん。
「こ、これアカンで、ウチの店より美味いで。ヤバイわ。」
「失礼しますー、今日は路上どうでした?これマスターからサービスです。」
いつも可愛い働き者のアミちゃんが野菜スープを持ってきてくれた。
お店の奥を見るとマスターがニコリと手を上げる。
チャンポンスープに野菜を入れただけのシンプルなもの。
「なにこれ、めっちゃ美味そうやん……アカン!!めっちゃ美味い!!」
「うめぇ!!なんだこれ!!ブロードビーチ離れたくない!!」
大騒ぎしながら米粒ひとつ残さずたいらげ、買ってきたワインをあける。
オーストラリアの飲食店はアルコールを提供するためにライセンスが必要なのだが、そのライセンスがべらぼうに高いらしく、多くのお店がお酒の持ち込みOKというシステムにしてある。
お客としても嬉しいところ。
「いやー、美味かったですね………」
「美味かったなぁ……金丸君、明日うちのお店に遊びに来てよ。美味しいお店教えてもらったし、うちのも食べてもらいたいわー。」
ゾロさんの働いてるジャパニーズレストランはサウスポートというゴールドコーストの北のエリアにあるみたい。
必ず行きますと約束して、お互い違うバスに乗り込んだ。
すでにひと気のなくなったバス停に降り、暗い住宅地の中を歩いていく。
静まり返った通りには人影もない。
そして1軒の家に到着。
「ハイガーイズ。」
「ヘイフミー!!ワッツアップブロー!!どこ行ってたんだい!?」
「ヌーサとかマールーラバとかだよ。」
「スゥイ~タズ!!」
前回ブロードビーチにいた時に仲良くなったニュージーランド人のメラニーとダニエルの家。
ルームシェアのみんなも飲もうぜ!!と迎えてくれて、みんなで乾杯した。
ニコもヘパもアナルーもみんないい奴ら。
こんないい奴らがいっぱいいるのかと思うとニュージーランドが楽しみでしょうがないよ。
ああ、友達できるっていいな。
この日はみんなで夜遅くまで飲んだくれた。