4月16日 水曜日
【オーストラリア】 ヌーサ
快適なベッドの上、今日も窓の外から漏れこむのはきらめく太陽の光。
最高の天気だ。
今日は朝イチで行きたい場所がある。
シャワーを浴びてジェニファーさんと向かったのは、ここヌーサのカウンシル。役所だ。
目的はバスキングライセンスの取得。
ここヌーサには本気で稼ぎに来ている。
カッピーたちはわずか1時間くらいで200ドル稼いだと言っていたし、路上初心者のイクゾウ君も80ドルいきましたと言っていた。
彼らはライセンスをとってなかったみたいだけど別に何も言われることはなかったそう。
でも、ここヌーサではマジで本腰入れて稼ぎたい。
途中で止められて時間を無駄にするようなことはしたくない。
てなわけでライセンスを取りにやってきたわけだ。
役所の中であっちに行って、あっちの窓口行って、と日本の役所と同じようにたらい回しにされ、ようやくおばちゃんが話を聞いてくれる。
「バスキングライセンスくださいな。」
「バスキングライセンス?……んー……ちょっと待ってね………んー、あれどこかしら………」
書類の手続きの仕方がわからないようでパソコンをカタカタやりながら困っているおばちゃん。
ライセンスくださいって来る人とかあんまりいないんだろうな。
ようやく書類をプリントアウトしてくれたんだけど、4枚もの用紙を渡され、これ全てに記入してと言われた。
自分のID、パフォーマンス内容、活動の紹介文、保証人の情報とかYouTubeのビデオのURLまで書くところもある。
まぁこれも路上で堂々とやるためだ。
英語が堪能なジェニファーさんに聞きながら記入していく。
よーし、だいたい書き終わったかな、というところである文字が目に入る。
★ライセンス代金 51ドル
クソ高え!!
ルクセンブルクの1日10ユーロってのも高かったけど、こいつは高すぎる!!イクゾウに死ねって言ってるようなもんじゃねぇか!!
く、くそ…………
でも安心してやりたいし…………
メイン通りのヘイスティングストリートにはいつも数組のパフォーマーがギターの弾き語りをしているが、きっとみんなライセンスを持っている。
文句を言われないためにもライセンスは取っておきたい………
51ドルは痛すぎるけど仕方ない。
ここで取得してガンガン稼いでしまえばいいだけのことだ。
「あ、申請するのね、分かったわ。ちなみにヘイスティングストリートはやったらダメだからね。あそこ以外ならやっていいからね。」
開きかけた財布をものすごい勢いで閉めて役所グッバイ。
なんだ、じゃあみんなライセンスなしでやってんじゃねぇか。
特に夜の時間帯にパフォーマーはぞろぞろとやってきて通りに散らばって演奏していた。
夜はほとんどフリーな感じなんだろう。
みんながやってるから俺もってのは禁止されてるとこで歌う理由にはならんけど、やらせてもらおう。
注意されたらライセンス取るか、もしくは他の町に移動だな。
アパートに帰ってお昼ご飯を食べ、今日もゆっくりと本を読んだり日記を書いたり。
窓から吹きこむ風がカーテンを揺らし、スピーカーからはジャズが流れる。
ああ、こんな穏やかな時間久しぶりだな。
ジェニファーさんが作ったハンバーグが美味すぎてビール飲んでしまおうかな………というところだけど、ビールはナシだ。
歌う前には酒は入れない。
のんびりするのもここまで。
今夜からこの町で路上開始だ。
そして1人会わないといけない人がいる。
この人もまたイクゾウ君と同じようにブログを読んで俺にコンタクトをとってくれた人。
どんな方がわからないけど、とりあえずFacebookの写真がギターを持ってる人なので音楽をやる人なんだろう。
世界旅をしてる人なのか、旅行でオーストラリアに来てる人なのか、顔もわからない。
でもメールはしばらく前からやり取りしており、今このヌーサにいるよう。
「ジェニファーさん、その人なんか野宿してる人みたいですけど、今夜呼んであげます?」
「うーん、でもイクゾウみたいな子やったらなぁ。まぁ会ってみらんとわからへんわ。」
というわけで約束の待ち合わせ時間に合わせてジェニファーさんとヘイスティングストリートに向かった。
今日もたくさんの人が優雅に歩くヘイスティングストリート。
高級セレクトショップやカフェが並ぶ街路樹の下をゆっくり走っていく。
そんな中、チラホラと路上パフォーマーの姿。
みんなマイクとスピーカーを使って堂々と歌っている。
スピーカー使って何も言われないんだからこいつは大丈夫そうだな。
待ち合わ場所のイクゾウ公園に到着。
この辺にいるはずだよなー、とキョロキョロしているとジェニファーさんがあれちゃうかー?!と指差した。
ベンチに座ってるお兄さんと目が合うと、お兄さんは驚いた顔で立ち上がってこっちにやってきた。
「はじめまして!ジュンペイです!!」
浅黒く日焼けした肌、長い黒髪、そして爽やかな笑顔。
見るからにサーファーな感じの男前だった。
ワーキングホリデーでオーストラリアにいるという27歳。
なにやら働いてた農場でトラブって辞めたところみたいで、今1人でブラブラとオーストラリアを旅してるんだそう。
「ゆうべ野宿してたの?宿には泊まらないの?」
「いやー、働いてた農場にワーホリの人たちを管理する韓国人の男がいたんですけど、そいつが給料を全然払わないんですよ。明日振り込むから、あさって振り込むから、とか言って全然振り込まないんです。それでも真面目に働いてたんですけど、いつまで経っても払わないから辞めました。だからお金全然ないんです。」
「そ、そうなんだ……じゃあ寝袋とかテントは持ってるの?」
「僕オーストラリア来てすぐ車買ったんですよ。だからその車で回るつもりだったからテントも寝袋もないんです。」
「あ、そう!じゃあ車で寝てるんだ。」
「車盗まれました。ゆうべは浜の岩の上で寝ました。」
またこんな不幸なやつ(´Д` )
なんでこんな不幸なやつばっか集まんだ(´Д` )
不幸なのに超笑顔やし。
ま、まぁとりあえず路上やろうかということで海辺でギターの弦を張り替え、早速ヘイスティングストリートの中を物色して回る。
さっきまでお店がひしめいていてスペースがなく、どこでやろうか頭を悩ませていたんだけど、いつの間にか多くのお店が閉店している。
まだ17時過ぎだというのにどんどんドアが閉まっていき、18時になったころにはもうカフェとレストラン以外はほとんど店仕舞いしてしまった。
そうして通りに街灯が灯り始めるころ、ヘイスティングストリートは完全なるバスカー天国へと変貌していた。
昼間は水着やラフな格好をした人がほとんどだったのに、すでにみんな夜仕様にドレスアップし、ディナーへ向かう人たちで通りが彩られている。
レストランの席はほぼ満席となり、リッチの見本みたいな食事を楽しむレディース&ジェントルマンたち。
そして何よりとても静か。
サーファーズパラダイスみたいにネオンがまたたき、爆音が流れたり奇声を発している若者たちなんて影も形もない。
上品な空気がゆったりと流れる通りで数組のバスカーがポロンポロンとギターを鳴らしている。
気合い充分。
体調もバッチリ。
まだあまり稼げていないオーストラリア。
20万作るという目標を達成出来るかどうかはこのヌーサでの稼ぎに全てがかかっている。
外灯が照らす路上、レストランを行き来する人たちが歩く道で優しくギターを鳴らした。
一言で言うなら、
フィーバー。
すぐに人だかりが出来、上品な人たちが上品にコインや紙幣を置いていく。
乱暴に放り投げてくる人なんていない。
演奏に合わせて踊る子供を微笑みながら見つめるパパとママ。
抱き合うカップル。
優しい笑顔の老夫婦。
曲が終わると、路上の人だけでなく目の前に建っているアパートメントのベランダからたくさんの拍手が起こる。
部屋の中から出てきてずっと手すりにもたれて聞いてくれている宿泊者たち。
誰もがお金を入れる時にビューティフルとかオールザベストとかひとこと添えてくれ、とことんウェルカムだ。
あ、警察歩いてきた!!
ドキドキ………
はい、素通り。
何も言われない。
ヌーサ天国決定。
フレンドリーな人々、優雅な空気、可愛い子供たち、
もう何もかもが完璧。
なんだこのオムツダンサーズは!?反則的に可愛い!!
そして誰とでもすぐに仲良くなるジェニファーさんが立ち止まる人たちの相手をしてくれるので、俺も歌に集中できる。
べサメムーチョを歌っていたらイタリア人の超男前とスペイン人の超可愛い女の子のカップルが立ち止まってくれ、俺も久しぶりのスペイン語で頑張って話す。
ジェニファーさんは大好きなスペイン語が話せて飛び上がって喜んで、あっという間にみんな仲良しになった。
色んな人とたくさん話し、笑顔溢れるとてもいい路上になった。
「すげえっす……なんかマジで路上っていいっすね………」
今日会ったばかりのジュンペイ君が目を輝かせながら言ってくれる。
ジュンペイ君はギターを持ってはいるが、バスキングはまだ1回しかやったことがないそう。
日本にいるときはライブハウスで弾き語りのライブをやっていたみたいだけど、海外で路上をやるにはまだ自信がないという。
「いやー、俺もやってみたいです。……でもまだ俺なんかがやれないなぁ………」
「何ゆーてんねん。やったらええねん。はじめから上手な人なんておらへんねんで。あー!!もう楽しかったー!!嬉しいわー!!」
ニコニコしているジェニファーさん。喜んでもらえてよかった。
平日ということもあり21時を過ぎると人通りがなくなってきた。
みんなホテルに戻ってゆっくりとした時間を過ごすんだろうな。
この健全なところがまたたまらん好き。
あんまり遅くなると近所迷惑になるので、この辺で終了。
2時間の演奏であがりは…………103ドル。
ヌーサ、天国確定。
もう吐くくらいご機嫌になってみんなでアパートに戻る。
知らない人を部屋に入れたくないジェニファーさんだけど、ジュンペイなら全然ええで!!とお眼鏡にかなったみたい。
爽やかで素直で男前のジュンペイ君。不幸だけど。
そんな3人で晩ご飯を囲む。
「ちょ、な、何すかこれ………高級レストランやないですか………」
ジェニファーさんの料理とラグジュアリーな演出、そしてこの部屋。
最近ずっと食パンばかりだったというジュンペイ君。
目の前のあまりの光景に若干オシッコ漏らしている。
「やべぇ!!う、うますぎる!!なんすかこれ!!貴族の食べ物じゃないですか!?」
「美味しいよね。ジェニファーさんすごいよなぁ。」
「おおきにー。チンコ触ったろか。」
ビールもタバコもあげると最近ありつけていなかったみたいでしみじみと喜んでいるジュンペイ君。
「僕この前スーパーで大きなハム買ったんですよ。安かったから。でそれをずっと食べてて3日経って気づいたんですけど、それドッグフードだったんです。下痢が5日止まらなかったです。だからこんなご飯食べられて幸せです!!美味えええ。」
なんでこんな変なやつが次から次へと現れるんだ(´Д` )
いやー、最近旅慣れしてきてるからかこんなアホなネタを作れてないなぁ。
いや、旅慣れしてきたとかそういうことじゃないか。
ドッグフードくらい分かるよな。
世の中には面白いやつがたくさんいるもんだ。
「ちょ、僕そんなアホなキャラじゃないですよ!!イクゾウ君と同じみたいな感じになってるじゃないですか!!」
さすがにイクゾウ君でもドッグフードは食べないと思うよ………
そんな感じで大笑いしながらの夜はふけた。