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ジェニファーさん降臨

4月12日 土曜日
【オーストラリア】 ゴールドコースト






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神の住居。


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神の住居の住人。




「モーテルでもええけど今回はゆっくりさせてもらうでー。あーええ気持ち。コーヒー飲むか?」


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朝から備えつけのコーヒーを飲んでベランダのテラスでタバコをふかす。

庭のプールでは宿泊者たちが泳いだりプールサイドで裸で本を読んだりしている。

すぐそこにゴールドコーストというビーチがあるのにホテルのプールに入るという金持ちのわけ分からん贅沢。

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ああ、オーストラリアに入ってからの野宿生活からいきなり高天ヶ原に瞬間移動して戸惑いを隠せないことなんて1ミリもなく超調子に乗ってますねマジヤベェ。










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お昼に大好きなラーメン横町でランチ。


「ウチそんなに日本食飢えてへんミゲルが食べたいの2つ頼みー。それつまむでな。」


寝てる人のまぶたにアロンアルファつけるような鬼の人だけど、実はとても優しいジェニファーさん。

いつも俺のことを気遣ってくれるのがとても嬉しい。

本当はこれ以上ないくらいおもいやりに満ちた人なんだよな。

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「あははは!!なんやねんそのイクゾウて!!あー、いじめたいわー。イクゾウ会いたかったなぁ。会うとったら間違いなくまぶたにアロンアルファつけて顔中に落書きしとったで。」


この前まですごいやつといたんですよと話すとめちゃくちゃ楽しそうに食いついてくるジェニファーさん。


い、イクゾウ君、会わなくてよかったね………
この人本当にやるから…………












それから街の中を散歩。

大きなピカピカのビルが立ち並び、綺麗なアスファルトの道路と歩道が伸びる。

刈り込まれた植木やステンレスのゴミ箱、モダンなデザインの歩道橋、横断歩道を渡る時に必ず止まってくれる車、


何もかもがあのメキシコとは違う。


でもなんだろう。
全てが違うはずなのにこんなにすんなりとジェニファーさんといることに馴染んでいる。

話し方も間の取り方も、喋りまくる彼女の言葉をたまに聞き流すのも、あの頃のまま。

そういえばまたビーチ沿いの街だな。










ホテルに戻ってこれでもかってくらいゆっくりしていると、今日はもう路上いっかー!!ってなダラケ虫がのそのそ出てきてしまうけど今夜は土曜日。
サボるわけにはいかない。

今夜は150ドルは稼がないとな。









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てなわけでジェニファーさんの運転でやってきたのは久々のサーファーズパラダイス。

ブロードビーチの落ち着いた雰囲気から一変、観光客だらけのテーマパークみたいな街にたくさんの人が歩いている。

やっぱり盛り上がり方に関してはブロードビーチよりもこっちのほうがはるかにすごい。

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ただやっぱり気になるのはタチの悪いハメを外しすぎた酔っ払いたち。

ゴールドコーストに住んでいるダニエルやメラニーたちでさえ、サーファーズパラダイスは危ないからあんまり行きたくないと言っていたほど。

絡まれるのは覚悟の上。
そんな酔っ払いたちを黙らせる歌を歌ってやるぞ。

人が増え始める夕方18時。
いつものポジションで演奏開始。











なかなか調子がいい。

最初はまばらにしか入らなかったお金も、喉の調子が上がってくるにつれてどんどんギターケースに投げ込まれていく。

家族連れやカップルたちが周りのベンチに座り、ちゃんと歌を聴いてくれる。

その様子を向こうの方から嬉しそうに眺めるジェニファーさん。

メキシコみたいな人だかりはできないけれど反応はとてもいい。






太陽が沈み、お店に灯りがともるころには声もガンガン出始め、もはや俺の邪魔をするものはいないくらいの絶好調。
3時間経ったころにはすでに足元に推定100ドルは貯まった。

21時を過ぎてどんどん盛り上がる街。
このくらいからさらにお金の入りが良くなり始める。

こいつは200ドルいっちまうぞ!!








夜21時を過ぎると街の雰囲気は一変。

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それまで家族連れが多かったのが、いきなり若者の酔っ払いたちが増え始める。

どれだけ肌を露出できるか大会みたいなドレスの女の子たち、男はチェックのシャツをブルージーンズにインさせるようなタイトな格好が流行りみたい。結構60年代ファッションに近いかな。


キャアアアアアアアアア!!!!

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オーイエエエエエエエエエエアエ!!!!!

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とあちこちから聞こえ始める叫び声。

パーティー用のリンカーンのリムジンやハマーのリムジンが爆音を流しながらメイン通りをゆっくりと走り、ルーフから顔を出した女の子が興奮してとりあえず叫んどけみたいにフオオオオオオオオオオオ!!!!と絶叫している。





こうなるといきなり行儀が悪くなり始める。

コインを無造作に投げてきて、ケースに入らなくて周りにチャリンチャリンと散らばってしまっても、笑ながら拾えよ欲しいんだろ?みたいな感じのやつら。

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歌ってると目の前にやってきてフオオオオオオオオオオオ!!!と叫んで下衆な踊りを踊って去っていくビッチたち。


それでもお金は入る。
リクエストにキチンと応えられれば10ドルは入る。

イライラしながらも今日の喉は絶好調。
茶化されはするけど、今までの週末ほどではない。
みんなキチンとお金を入れてくれるし、いいじゃん!!と一言添えてくれる。

よーし、今日は23時くらいまでいってやるかー!!


というところだった。












何か近くで変な音が聞こえ始めた。


な、なんだ?この奇妙な音楽は?


よく聞いてみると、どうやらウクレレかなんかで弾き語りをしてるみたい。

ラバンバらしきものを歌ってる。



はっきり言ってめちゃくちゃ下手くそ。



俺もお構い無しに演奏を続ける。


のだがこの奇妙な音楽、どうやらすぐそこでやってやがる。本当すぐ隣のお店の前。

これだけ広い通りなのでどこでもやる場所あるのに、わざわざ俺の真横にやってくるというケンカ上等っぷり。


しかもなかなかの人だかりを作ってやがる。

な、なんで!?このめちゃくちゃな演奏なのになんで?




「あ、アカン!!ミゲル!!あれアカンで!!太刀打ちできへんであれ!!」


偵察に行ったジェニファーさんが大爆笑しながら戻ってきた。


大阪人のジェニファーさんをここまで笑わせるなんてナニモンだ!?と俺も見に行ってみた。










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…………こ、こいつはかなわねぇ………



そこには黄色いシャツとピンクのズボンを着て、ウクレレを弾きながらテンションがマックス振り切ってるアジア人のオッさんがいた。

なぜか体がボディビルダーみたいにムキムキで服がピチピチになっている。
そして超笑顔。

ただのお笑い芸人。

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リズムめちゃくちゃでひたすら同じコードを弾きながらラバンバを歌っている。

さらに歌のあい間にアチョー!!とか言ってまったく関係ないカンフーキックを繰り出したり、いきなり片手2本指で腕立てを始めたりするマジすげぇ。

ていうか演奏どうでもよくてそれがすげぇ。

一応エルビスとかロックアラウドクロックとかの曲もやるんだけど、必ず途中からラバンバに変わる。
ていうかコードとリズムが全部一緒なので別の曲とか関係ない。

ラバンバ!!とか言いながら片手で拳腕立てしている。
超笑顔で。


もはやなんのパフォーマンスかまったくわからないけど、オッさんのあまりのテンションと意味不明な筋トレに酔っ払いの若者たちも大ウケで大騒ぎ。

みんな大爆笑。


同じアジア人が横でこんなこと始めちゃったら俺なんにもできねぇよ。






でもなんだか悪い気はしない。

めちゃくちゃ下手くそがすぐ近くで演奏し始めたりすると何邪魔してんだこの野郎!!ってムカついたりするけど、このオッさんはもうそんな次元じゃない。

めちゃくちゃなんだけど、それがなんか完成されている。



この白人至上主義者が多いと言われるオーストラリアの、さらにゴールドコーストなんてとこでアジア人がこんなパフォーマンス。

完全にアジア人はやっぱりスチューピッドだぜとか思われてるかもしれない。


でも俺はこのオッさんにリスペクトしか覚えない。

すげえこの人。





面白い人が大好きなジェニファーさんが話しかけに行って色々聞いてきたところ、どうやら彼はシンガポール人。55歳。

この歳でこのパフォーマンス。すげえ。

何かの宗教を信仰してるみたいで、この路上パフォーマンスのあがりは全て宗教団体に寄付してるんだそうだ。



最初の頃は飛ばしまくっていたけれど、だんだんキックの角度が下がってきて、ラバンバにも勢いがなくなってきた。
そりゃ55歳だもんな。


それでもぜーはーぜーはー言いながらアチョーーー!!!とウクレレをかき鳴らしている。
超笑顔で。


いやー、世界中でいろんなパフォーマー見てきたけど、かなり上位に入るすげー人だ。

感動させてもらった。






この場所はオッさんに譲って、少し場所を変えてやって23時に路上終了。

あがりは126ドル。

オッさんが現れずにずっとあそこでやれていたらもっとガンガンいっていたけど、いいもん見られたから良しとしよう。

オッさん、勉強させてもらいました。





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ハメをはずした若者たちで狂乱の様相になってきたサーファーズパラダイスに背を向けてジェニファーさんとホテルに帰る。



高級ホテルの素晴らしすぎる部屋のソファーに体をうずめる。

ああ………帰るところがあるってなんて楽なんだ……

ジェニファーさんが日本に戻るのは16日。
また野宿生活に戻れるかどうか不安でならない………


「ホナうち寝るでなー。ごめんやしておくれやしてごめんやっしゃー。こっち来たらチンチン切り取るからなー。」



そう言ってベッドルームに入るジェニファーさん。

俺はソファーで布団をかぶる。

メキシコでは元気バリバリだったジェニファーさんだけど、今回は本当にすぐに疲れてしまっている。

なるべく負担をかけないようにしないといけないな。





静かな部屋の中、ビールを1本。



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