3月11日 火曜日
【チリ】 イースター島
暑くて目を覚ました。
iPhoneを見ると時間は9時前。
思いっきりゆっくり寝てやろうと思っていたのにテントの中ではこうして朝が来ると強制的に蒸し風呂になって起こされてしまう。
この感覚久しぶりだな。
旅の前半にドイツでテントを買ってからヨーロッパ、アメリカでは何度もテントで寝ていた。
自分だけの空間、そして自然の中に溶け込む感覚が大好きだったけどグアテマラでテントを手放してからずっと味わっていなかった。
テントの入り口を開けると爽やかな朝の風が中に吹き込んだ。
青い空と輝く芝生が広がっている。
まだ実感はないけど、ここはイースター島。
キッチンのところを歩いている男の人の髪型に見覚えがあった。
「おーい、ユウタ君ー。」
「あー、金丸さんー!!そこにいたんですかー!!」
コロンビアで出会い、エクアドルで一緒に年越しをした星マニアのユウタ君が爽やかな笑顔でやってきた。
ゆうべ会えなかったのは星を見に出かけていたからだったようだ。
相変わらずだな。
「いやー、久しぶりですねー。会えて嬉しいです。」
「本当だね。あれから結構経ったけど綺麗な星ランキングは入れ替わった?」
「そうですね、1位のニュージーランドは変わらないですけど、2位にウユニが入ってきました。あれはやっぱりすごかったです。」
世界中の美しい星空を探し求めながら旅をしているユウタ君とそんな話をしながら一緒にご飯を作った。
パスタと缶詰はたくさん持ってきているのでそれでツナマヨパスタを作る。
「金丸さん、そんな貴重な食料もったいないですよ。」
「大丈夫大丈夫、多分歌って稼ぐからさ。」
もうすぐ島を離れるユウタ君は持ってきた食料も乏しくなってきてるよう。
ここからチリの本土に戻る時には、入国した時と同じ様に食料の持ち込みが厳しく規制されているので、ここで全て食べ切ってから戻らないといけないということみたいだ。
そんなユウタ君から島のことについて色々教えてもらった。
行くべき島の名所、レンタカー事情、物価など。
このイースター島にはたくさんのモアイがいるんだけど、面倒なことに島の全域に散らばっているようで、見所はあちこちに点在する。
歩いて行ける場所もあれば、車じゃなければ到底行けない島の反対側にもいる。
交通手段はいくつかあるが、まず公共のバスはないみたい。
ツアーに申し込んでミニバスで行くか、レンタカーで行くかが一般的なようだ。
原付きも自転車もあるみたいだけどかなりハードなので、やっぱり大半の人はレンタカーかな。
ちなみに1日借りて350ドルくらい。
5人で乗って割り勘すれば70ドル。
ガソリン代を入れて1人80ドルってところらしい。
(後から知ったけどこれは正しい値段ではありませんでしたのであしからず。)
ツアーバスや自転車はもちろん安いけど時間や体力、様々な面を考慮するとレンタカーが1番ですよとユウタ君は言う。
物価はだいたいサンチアゴの2倍。
1.5リットルのコーラが2000チリペソくらい。400円ほど。
パスタが1000チリペソくらい、200円てとこ。
ビールはわりと安くて700チリペソ、140円。
レストランは余裕で1食20ドル超えてくるみたいなのでとても行けないな。
出来ることなら野宿をかまして節約しようと考えていたんだけど、やっぱり島での野宿は禁止みたい。
決められた宿泊施設に滞在しないといけない。
さらにさらに、これがヤバイんだけど、
どうやらこの島での路上演奏は禁止されているらしい。
宿のママがそう言うんだけど、もし本当ならマジでヤバイ。
キャンプ場が1泊1000円で9日間、さらに国立公園の入場料が60ドル。
最低でも150ドルは間違いなく飛んでいく。
それに少しは買い物をするだろうから180ドルはかかるはず。
イースター島は観光地。
しかもお金を持ってる人しか来ることの出来ない孤島だ。
それなりに稼げると思っていたので宿泊費くらい出せればいいなと計算していたんだが、路上が禁止となると絶望的にマズイ。
200ドルはあるのでなんとか滞在は出来るが、サンチアゴに戻ってからアルゼンチンへのバス代なんかが足りなくなるかもしれない。
猛ダッシュでブエノスアイレスまで行かないとフライトに間に合わなくなるというのに、バス代がないとかシャレにならねぇ。
なんとかして活路を見出さないと。
と、もうこんな金の算段や日数に追われて慌てふためくのもいい加減に疲れたよ。
少しくらいゆっくりしたい。
せっかく憧れのイースター島に来たんだ。
せめて2日間くらい音楽のことを忘れてボンヤリしたってばちはあたらないよ。
よし、今日明日はとことん体を休めてゆっくりインターネットしたりしよう。
さー、Facebookに何軒メッセージ来てるかなー。
うん、Wi-Fi繋がらないね。
遅すぎる。
もうインターネットもいいや。
この青空に吹き渡る風に文明なんて似合わないよな。
何も持たず手ぶらで散歩に出かけた。
たくさんの木々、ゴツゴツした石垣、ああ、懐かしい沖縄の風景を思い出す。
たしかこんなギラギラした太陽が全てを照らしていた気がする。
古い民家が並ぶ静かな通りを抜けると、少し車の多い通りに出た。
宿の人が言ってたメインストリートってのはこれのことか………
もっと派手なお店がズラリと並んでいてたくさんの白人たちが闊歩している、そんな光景を想像していたのに、そこはただの小さなスーパーマーケットとやる気のなさそうな土産物屋がポツポツと散らばるだけの静かすぎる通りだった。
マジか…………
路上やったらダメですよっていうか、路上でやる必要がねぇ。
人いなさすぎて………(´Д` )
ネオン管だらけで夜中までダンスミュージック垂れ流しているようなお店はないみたい。
ここにはのんびりとした島のありのままの生活が息づいている。
それがとても心を落ち着かせてくれる。
路上できないのはやばいけど………
メインストリートを抜けて海の方へと降りて行く。
坂道の向こうに目を疑うような青さの水平線が広がっている。
飾らない風景、いつかの日本の、どこにでもある故郷の坂道。
タバコがなくなったので地元の人らしき色黒のおじさんにタバコ1本もらえませんかと尋ねてみた。
「あの、すみません、タバコ1本いただけませんか?………1本でいいです。出来ればメンソールがいいんですけど………」
「…………」
「……あの何か言ったらどうですか?無視しないでください。タバコ1本ください。ライターは持ってます。どうして無視するんですか?タバコ1本くださ」
なんだ、モアイか。
モアイかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
まっじヤベ。
まじモアイやし。
石像やし。
あばばばばばばばばばばば(´Д` )
モアイやしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!
本物やしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!
感動が止まらない。
あーもうダメだ。めちゃくちゃ感動してる。
俺とうとう本物のモアイを見た男になってしまった。
なんと言われようが、なんと蔑まれようが、
「俺、モアイ、見たし。」
って言える。
俺モアイ見たしの響きだけで強くなれる気がしたよチェリーくらいの勢い。
やったぜこの野郎。
俺やったぜ。
もっともっとたくさんのモアイを見てやる。
それから島をしばらく歩き回り、のんびりと海を眺めて風に吹かれた。
海が青い。空が青い。
こんなに青かったっけ?って思えるほどの色彩。
緑も鮮やかだし、全ての色が鮮烈に輝いている。
風の音と潮騒だけが耳に入ってくる。
あまりにも気持ちいい。
解放感に飛んで行きそうだ。
そしてなぜか地元のオッさんと仲良くなり一緒に釣りですね。
話しかけたらすぐ仲良くなれます。
こんな大きな魚が釣れます。
ちょっとやってみるか?と竿を渡されたので、美々津育ちなめんなよとびゅーんとナイスポイントに投げこむと、2秒で魚釣れた。
「てめー!やるじゃねぇかこの野郎?もっといいポイント連れて行ってやる。」
「美々津育ちですから!!」
カルロスおじさんと別の磯に移動して、そっから俺は竿釣り、カルロスおじさんは塩ビ管を切り抜いて作った手釣りの道具でフィッシング開始。
まるでカウボーイのように頭上でクルクルと仕掛けを回し、勢いをつけて海に放つカルロスおじさん。
こんなやり方で狙った場所ぴたりに落としてしまうから年季が違う。
そして本当に入れ食い。
餌はパンを湿らせてダンゴにしただけのものなんだけど、面白いくらい釣れまくる。
「カルロス!!めちゃ楽しい!!」
「ビエーン、ムチョペスカドー。」
深いシワが刻まれたカルロスの顔。
興奮して喜ぶ俺にそうだろうと自慢げにうなづいた。
結局釣りが楽しすぎて19時までカルロスと磯にいた。
イースター島初日は釣りして終わりです。
カルロスに魚持ってけと言われ、2匹もらって明日も来るよと約束して宿に帰った。
「お、金丸さん、その魚どうしたんですか?」
宿に戻るとユウタ君も戻ってきていた。
このイースター島には日本人宿が存在するんだけど、今日は向こうに泊まってる人たちと遊んでいたらしい。
今夜もみんなでダンスのショーを見に行ったりするみたいだ。
「俺が釣ったんだよ。」
「マジっすか?!」
「インディアン、嘘、つかんし。」
というわけでユウタ君と2人で晩ご飯を作った。
いつものツナマヨパスタ、そして魚のワイン蒸し。
これマジでビビるくらい美味かった。
毎日釣りしてこの魚ゲットしてたら食費かからねぇ!!
いや、本気でうまいわ。
それからユウタ君は出かけて行き、俺は1人で外のベンチに座ってのんびりとタバコをふかしてワインを飲む。
ああなんて贅沢なんだろう。
夜空に浮かぶ月と星空。雲は相変わらず早く流れていく。
なんにもない1日が終わっていく。
なんでもない1日。
それがとても自然で美しいと思える。
島の空気に身を委ねて、どこまでもゆっくりと時間を刻みたい。
月が輝く。
ぶら下がって夜を飛んでいく。
気流に乗って。
いい気分だ。