3月7日 金曜日
【チリ】 南下 ~ サンチアゴ
ゆうべから24時間のバス移動です。
チリは縦長です。
細くて長いです。
まるで僕のむす………おっと、なんでもないですよ。
縦長でゴツゴツしてて先っぽのほうは白いのがぶわーっと広がってて大変なことになってるそうです。
うん、パタゴニアですね。
え?下ネタ?
そんなこと言わないですよ。
いくらバス移動が長すぎて書くことがないとはいえ下ネタで乗り切ってしまおうとかそんな浅はかなこと考えるわけないじゃないですか。
とかなんとか考えているとトラブル発生です。
トラブルやめてくれ…………
サンチアゴに向かう途中の地方都市のバスターミナルでの出来事。
長い移動から一夜明けて久しぶりの休憩ポイント。
どこかの街のターミナルに到着し、30分休憩だぞーということで外に降りて体を伸ばす。
あー疲れた。
お腹空いたので軽く何か食べようかなと売店を覗いてみるが、ただのエンパナダが2500チリペソ、500円もするという鬼のようなチリの物価にオシッコ漏らしそうになりながら、他の安いものはないかなとターミナルの中を歩いていたら、向こうの方で栃木県民ヨウスケ君が何やら慌てふためきながら小走りしている。
いつもクールなヨウスケ君がそんなに慌てて、オシッコでも漏れそうなのかい?
「どうしたの?オシッコ漏れそうなの?」
「ちょ、今知らない女の子が金丸さんのギター持って歩いてたんです!!俺あっち見てきます!!」
オシッコびしゃーーーー
嘘だろ!!
ギターはバス内の棚の上に置いてきた!!
あんなボロボロのギター盗むやつがいるわけねぇ!!
と自分に言い聞かせながらターミナルの中をダッシュ!!
たくさんの人々がいるターミナルの中、外、そして近くのスーパーマーケットまで猛ダッシュ!!
待ってくれ!!
ギターがなくなったらどうやって日本に帰ればいいんだよ!!
新しいの買うか!?
いや、そもそもギターと言っても俺のじゃないかもしれない!!
ヨウスケ君の見間違いかも!!
でもあんな個性的なギターケース、この世にひとつしかないし!!
勘弁してくれえええええ!!!と走り回ったがそれらしきものはどこにもない!!
チリは強盗がなかなかアグレッシブな国だよ、とチリのバッグパッカーたちが言っていたのを思い出す。
嘘だろおおおおおおお!!!
「ヨウスケ君!!見つかった!!??」
「ちょ、こっち来てください!!」
泣きそうになりながらヨウスケ君についてターミナルの中へ。
そして俺たちが乗っているサンロレンツォバスのチケットオフィスへやってきた。
「あれ違いますか?」
ヨウスケ君が窓口の奥を指差す。
なんと、そこには俺のギターが置いてあった。
オシッコびしゃーーーー
俺のギターーーーーーーー!!!!!
受け付けのお姉さんに話すといぶかしげな顔でギターを渡してくれた。
どうやらバスの中にもう1人ギターを持っていた女の子がいたらしく、その子が間違って俺のギターを持って出たみたいだった。
実際バスの中にはその女の子のものであろう安物のギターが取り残されていた。
マジで勘弁してくれよ………
この俺のパールのギター。
世界一周用に買った中古のギターで、ジャンク屋さんでたった5千円で見つけたもの。
ものすごく安いんだけど、後から知ったのはこれが40年前に2年間だけ製造されていたとてもレアなギターだということ。
音もコンディションも抜群で、旅用の最高のギターを手に入れ、これまで世界中で弾いてきた俺の相棒だ。
雨の日も雪の日も、ずっと一緒に戦ってきた。
必ず日本に持ち帰りたい。
盗みではなくてただ単に間違えて持って行かれたなんてシャレにならないよ。
とにかく、もしヨウスケ君が気づかなければおそらくオフィスの中に放置されたまま俺はサンチアゴに出発していたはず。
ヨウスケ君、マジで命の恩人。
「マジでありがとう!!マジでありがとう!!サンチアゴ着いたらビールおごる!!」
「いやー、あってよかったっすわ。」
そんな肝が冷えまくったトラブルもありつつ、バスは南下を再開し、ひたすら走り続けてようやく夕方にサンチアゴの街に入った。
もうただの都会。
大きなビル、綺麗な道路、歩道を埋め尽くす人々、
メキシコぶりの大都会といった雰囲気にワクワクとドキドキが止まらない。
ここではどんな面白い出来事が待っているのか。
もうトラブルは勘弁だぞ。
バスは街の真ん中にある大きなターミナルビルの中に到着。
ヨウスケ君と宮崎出身のケンタロウ君とバスを降りた。
「宿どうするの?」
「いやー、全然わかんねーっすよ。」
「なんかブラジル通りってとこに安い宿があるみたいですよ。」
男3人、混雑するターミナルの中で少し作戦を練り、とりあえずセントロを目指すことに。
俺とヨウスケ君は楽観的すぎて、まぁサンチアゴに着いてからなんとかすればいいやろうという気楽な考え方。
でもケンタロウ君はキチンと前もって情報を仕入れている。
ケンタロウ君はサンチアゴに住む友達の連絡が取れ次第そこに泊まるみたいで、ヨウスケ君はサンチアゴからさらに南下してパタゴニア地方を目指すそう。
でも今はすでに夕方。
とりあえず今夜はサンチアゴに泊まるとのことなので一緒にどこかいい宿を探すことに。
「いやー、人多いねー。」
「ホントっすねー。マジ大都会じゃないっすか。」
「これで歌えたら最高なんだけどなぁ…………あ!!!」
オシッコびしゃーーーー。
ドギャン!!!!!
人混みの中を猛ダッシュ!!!
「ちょ、フミさん、どこ行くんすかフミさん!!」
「バスの中にハーモニカ忘れてきた!!!」
いつもギターケースのポケットに入れているハーモニカやカポタストを入れた小物バッグを丸ごとシートの下に忘れてきた。
ギターを棚に入れる時にポケットがかさばって入らなかったから小物バッグを出してシートの下に置いていたのだ。
忘れてきてしまった。
人混みを弾き飛ばしながらさっきバスが到着したところに戻ってきたが、すでにそこにバスの姿はなかった。
うおおお!!まだ降りてから10分経ってない!!!
その辺りにいるはず!!
都会だから信号とか渋滞で引っかかってるはず!!!
ヨウスケ君に荷物を見てもらって、全力でターミナルの外に駆け出した。
ハーモニカは1つ安くて3千円。それが6つ入っている。カポタストも3千円の良いやつだ。
大事な楽器類なのにバスの中に忘れてくるなんてバカすぎる!!!
さっきヨウスケ君にギターを助けてもらったばかりでまた違うものをなくすとか、もう救いようのないアホだ。
さっき話してたんだよ。こういうトラブルって必ず連鎖するし、強盗とかも注意が散漫になってたり凹んだりしてるところを狙ってくる。だからこういう時に1番気をつけないといけないって。
なのにやりやがった。
なんて懲りないアホなんだ。
「あ、フミさんありましたか?」
「ダメだ、バスはもういない。オフィスに行ってくる。本当ゴメンね。」
「いいっすよ、ちゃんと探しましょう。」
そしてまたもやサンロレンツォのチケットオフィスにやってきた。
こんなに教育とか行き届いてそうな先進国なのに英語1ミリも喋れないおじさんと兄ちゃんにカタコトのスペイン語とジェスチャーで説明。
そしておじさんがどこかに電話をかけ始めた。
しばらく電話でやり取りをしている。
その間もお客さんはたくさんやってきており、忙しそうなおじさん。
焦りまくりながら待ち続けた。
もう帰って来ないか…………
モロッコのiPhone紛失事件を思い出す。
忘れ物をしたらもう戻ってこないよ、と残念そうに言ったあのモロッコ人のおじさんたちの言葉が浮かぶ。
ダメかもしれない……………
しばらくしてお客さんが途切れるとおじさんが言った。
「23時5分にここに来な。」
「どうしてですか……?」
「お前が乗ってきたバスは今違う街に向かってる。それがここに戻ってくるのが23時5分だ。」
「ハーモニカはありましたか!?」
「大丈夫だ心配するな。」
「電話でドライバーさんに確認できたんですか!?」
「ああ、心配いらないから、夜にまた来い。」
はぁぁぁぁぁあああああああああ…………
よかったあああああああ…………
もうトラブル勘弁してくれ………
別に書くことがないから無理やりネタ作ってるわけじゃないですからね…………
マジで焦った…………
慌てて走ったもんだからケンタロウ君とはぐれてしまい、もはやこの大混雑の街で見つけ出すことは不可能。
連絡先もまだ交換してなかったのに。
とにかく、俺のせいで時間はすでに20時を過ぎている。
早く宿を確保しないとサンチアゴはあまり治安がいいとは聞いていない。
とりあえずそこらへんにいる金を持ってなさそうなバッグパッカーたちに聞き込みをするが、あそこがいいぜ!!という即答は返ってこない。
なにやらリパブリカ駅のブラジル通りというところが安宿が多い場所だということは教えてくれる。
これはカラマにいたヒッピーたちも言っていたことだ。
でもこれだけでは不安すぎる。
インターネットで検索しようということになり、ターミナル周辺を歩き回るけどそう簡単に野良Wi-Fiも拾えない。
都会の夜の喧騒、悪そうな若者たち、路上の物売りの怒鳴り声、
そんな中でヨウスケ君と地面に座りこむ。
ちくしょう……行き場がねぇ。
都会の冷たさが身に沁みる。
「ねぇ………地球の歩き方とか持ってないの?」
「……そんなの持ってるわけないじゃないっすか。」
うう………こういう時にめちゃくちゃ役に立つんだろうけどなぁ。
仕方なくWi-Fiを探して歩き回り、なんとか野良Wi-Fiを見つけた。
すぐに検索した結果、ドミトリー8000チリペソとか9000チリペソとかの中にあって6000チリペソというかなりの安宿を発見。1200円だ。
しかし………日本人宿か………
「どうするヨウスケ君、日本人宿でもいい?」
「うーん、まぁいいっすよ、安いし。」
40時間のバス移動で今はもう疲れ果てている。
一刻も早くゆっくりしたい。
ヨウスケ君もいるし、あまりわがままも言えない。
おー、久しぶりの日本人宿だな………
地下鉄という大都会の象徴のようなものに乗りこみ、リパブリカ駅に到着しブラジル通りへ。
そこから脇道に入ると、なんだか古めかしい建物が並ぶ歴史地区になる。
どこか迷宮に迷い込んだような不思議な気分になるこのエリア。
小さな噴水、無機質な石の建物、どこからか聞こえるカンツォーネ、
そんな一角にホステルタレスはあった。
時間は21時。殺意覚えられないかドキドキしながら呼び鈴を鳴らす。
人が出てきた。
可愛らしい黒人の女の子。
「ベッドありますか?」
「んー、ちょっと待ってて…………あるわよー、さぁ入って入って。」
管理人として働いている黒人のドナがあまりに可愛い。
クリクリした目ともしゃもしゃの髪の毛、キュートな表情、
女の子らしい気配りにとても癒される。
宿の中はとても雰囲気のあるライトに照らされていた。
ガヤガヤとたくさんの人がいるけれどもちろん全員日本人。
テラス、キッチン、共有スペース、それぞれグループになってかたまっている。
でもなんだかそんなに肩身の狭さは感じない。
ウユニでだいぶ日本人に慣れたみたいだ。
「あ!フミさん!!どこ行ってたんですか!?」
そんな日本人たちの中にケンタロウ君の姿もあった。
「そんな、わざわざ付き合ってくれなくてもいいよ。」
「いいっすよ、行きましょ。」
荷物を置いてすぐにバスターミナルに戻ろうとする俺と一緒に行ってくれるというヨウスケ君。
見た目は栃木のドーベルマンといった狂犬オーラを漂わせているのに、なんて優しくて男気のあるやつなんだ。
さすがは元サッカー部部長で栃木県代表選手。
ブログランキングの55位あたりにいるハートビートというブログを書いているというのはここだけの秘密。
そんなヨウスケ君と夜の大通りを歩いた。
通りにある酒場ではどこも若者たちが盛り上がっていて、歩道にはところどころマリファナの臭いも漂っている。
そういえば金曜日なんだな。すっかり曜日の感覚が狂っている。
俺たちも売店でビールを買った。
500mlのビールが600チリペソ、120円。
完璧日本と同じ物価だ。
そしてすぐに乾杯した。
疲れた体に冷たいビールが染み渡る。
食堂の値段はマジで目ん玉飛び出るほどで、どのメニューも700円から800円という恐ろしいもの。
仕方なく1番安いホットドッグを注文したらパンにソーセージを挟んでマヨネーズがかかっただけのものが出てきた。
これで700チリペソ、140円。
今までの中南米の国では140円出せばお腹いっぱい食べられたのにと、ヨウスケ君と苦笑いしながら簡素なホットドッグをかじった。
ハーモニカが入ったポーチは無事返ってきた。
オフィスのおじさんはクールに笑いながらこれがチリだぜと自慢げに言った。
どこか冷たいシステマティックな安心感が日本を思い出させる。
ボリビアやペルー、エクアドルでは道を尋ねただけでそこから濃密なコミュニケーションが生まれた。
むしろ尋ねなくても向こうからすぐに何か困ってないかい?と声をかけてくれた。
ここでは誰も声をかけてくれないどころか、俺たちのことを見向きもしない。
あの濃密なコミュニケーションがうっとおしいほどだったのに、それがこうも一気になくなるとどうも疎外感が否めない。
久しぶりの冷たい都会の空気と一緒にビールを飲み干す。
「明日は何するの?」
「とりあえずバスのこと調べにターミナルに行きます。フミさんは?」
「歌うよ。イースター島の生活費稼がないと。あと旅行代理店だな。オーストラリアのイータスを申請しないと。」
何もないバス移動の日がこんなにもバタバタの1日になってしまったけど、とにかく何も失うことなく、むしろヨウスケ君との友情が深まったサンチアゴ到着。
さぁ、明日からまた忙しいぞ。
バス移動お疲れ!!