3月2日 日曜日
【ペルー】 クスコ ~ 山の中
「フミ~、今日はお祭りだから路上で歌ったら稼げるわよー。でも、気をつけてね!」
ヒッピー宿の可愛いソニーが朝から陽気に肩を叩いてきた。
うん、もうこちとらやってらんないくらいの全身筋肉痛祭りなんですけどね。
今チョメチョメしたらどマグロです。
王様エッチですね。マチュをピチュしたせいで。
本当下ネタのキレもボロクソだうっひょおおおいい!!!
というわけでヒョコヒョコ歩きながら宿を出てバスターミナルに向かいます。
一刻も早く先へと進むために、今夜のボリビア行きのバスチケットを買いにバスターミナルへ。
今日も天気は快晴。
いつにも増して人がたくさん歩いているのはソニーが言ってたお祭りのせいかな。
メインスクエアに向かって行くと、ものすごい数の人が通りを埋め尽くしており、賑やかなブラスバンドの音楽が鳴り響いている。
おー、なかなか楽しそうだなぁー…………
ん………?
ん………?
あれなんだったんだろう?
なんかブッカケられてた気がするけど………
まぁいいや。
とりあえずバスターミナルに向かおう。
市バスに乗ってバスターミナルに到着。
さすがに観光地なのでたくさんのバス会社がズラリと並んでおり、カッコいいバッグパックやスーツケースを転がした日本人大学生の姿がわんさか。
次の目的地のボリビアのラパスに向かうバスもいくつかあるみたいだ。
ネットで調べた情報によると、お隣のボリビアの都市、ラパスまではだいたい12~13時間の距離。
クスコの隣のプーノという町で乗り換えがあるもの、
大きな湖をボートに乗って渡るコース、
そしてラパスまで直通のもの。
だいたいこの3種類で、値段は相場が100ソル、37ドルというところらしい。
最安を狙いたいところだけど、今は本当に時間がないので、直通でもいいかなと思っていたところで、ゆうべ路上で仲良くなったおじさんがトランスサルバドルという会社が安くて直通を出していると言っていた。
というわけでトランスサルバドルのカウンターにやってきた。
値段は80ソル!!30ドル!!もち直通!!
最近のウユニラッシュでこの辺りのバスは満席になることが多いとは聞いていたけど無事、夜22時発のチケットをゲットした。
よーし、これであとはこのクスコで路上やって最後のひと稼ぎをしてボリビアだ!!
てなわけでセントロへ戻ってくると、さっきにも増してお祭りは活気を増していた。
老若男女、カラフルな民族衣装を着た人々が音楽に合わせて可愛らしく踊り、大観衆がスクエアを埋め尽くしている。
俺もその人垣に混ざってパレードの見学。
太陽に輝く色鮮やかな衣装と、歴史を感じさせる大聖堂の対照がとても美しい。
ほんとクスコはいつでも楽しませてくれるなぁ、と歩き売りのアイスをチューチュー食べている時だった。
どこか向こうの群衆の中から何かが放り投げられた。
そのオレンジ色の物体は放物線を描きながらこちらの観客たちに向かって飛んでくる。
風船だ。
とその瞬間、風船は勢いよく観客たちの中に落下しておじさんの体に当たって破裂した。
水びしゃああああ!!!!
う、うわ!!なんだ!!!
キャアアア!!と叫び声が上がる。
祭りで盛り上がりすぎたアホがやりやがったのか!?
ここにいたら危ない!!とすぐに避難しようとすると………
ギャアアアアア
イヤアアアアア
オヒョオオオオオ
はい、ブッカケ祭り。
子供から大人までスプレー缶を持ってそこら中の人に泡を吹きかけまくっている。
もうひどい。
とにかく誰かれ構わずブッカケまくり。
綺麗な格好をしたマダムにも、ジェントルマンにも、観光客にも、手当たり次第にぶっかけ。
それだけじゃなく、巨大な水鉄砲を持ったやつらがアホみたいに水を乱射している。
ま、マジか………
これってそういうお祭りなのか!!
路上のいたるところでスプレー缶が売られており、みんなひたすらにブッカケ合いまくり。
アホすぎる(´Д` )
なんつーお祭りだよと思いつつ、被害に遭ったらたまらないので、俺マジで冗談とか通じなくてキレたら自分でも何するかわかんねーからそこんとこよろしく、ペッ、みたいな顔して宿に避難しようとしてたらブッカケられました。
………う、うん、やっぱりこういうのは陽気なラテンのお祭りだからね!!あははーやられちゃったなーって笑って済まさないといけなオノレこの野郎!!!ぶち殺すぞ!!!
ウヒャヒョーーイ!!といって逃げて行く女の子。
チクショー………一応いい匂いはするけどベトベトしやがるじゃねぇか………
今度やってきたらおっぱい揉みまくってやる!!!
「ハーイフミ、かっこいいじゃない。」
「カッコ良くないよ。こんなんで外で歌ってたらギターに水かけられてしまうよ。」
外はもう完璧イカれたブッカケ野郎どもが徘徊しているのでギターを持って出るなんて怖すぎる。
バケツに入れた水を持ち歩いてニヤニヤしてる奴とかもいる。
かけられたらマジで洒落にならない。
んー………でも稼がないとやばいからなぁ………
しばらくしてから、そろそろお祭り騒ぎも落ち着いたんじゃないかなと、もう一度外に偵察に出てみた。
はい無理。
宿に逃げ帰って大人しく日記を書いた。
「フミ、元気でやるんだぜ。」
「どこかの町で会えるよそのうち。」
夜になり宿のみんなに挨拶して回る。
1日中マクラメを編んでた女の子、チャランゴをいつも練習していたやつ、ギター弾きのジェロミーと拳を合わせた。
「フミ、どうやってターミナルまで行くの?」
「んー、バスで行こうかな。捕まらなかったら歩くよ。」
「フミダメ。夜に1人で遠くに歩いたらダメよ。タクシーを使って。私が捕まえてあげるから。」
ソニーが一緒に外に出てくれ、タクシーを捕まえて値段の交渉をしてくれた。
ありがとうな。
本当にいい宿だった。
クスコに行くなら是非現地のヒッピーたちにトゥカシタはどこ?と聞いてみるといい。
きっと楽しい出会いが待ってるはず。
5ソル、180円でタクシーはバスターミナルに到着。
あまりにも日本人大学生が多く、みんなぎこちなくキョロキョロしているので、ここは世界一周をしてるものとしてスマートにバスに乗ってやろうと乗り場に向かうと、係員に止められる。
「セニョール、なんで入れてくれないんですか?」
「そこでターミナル使用料の1.3ソルを払ってこい。」
チラチラ
チラチラチラ
止められてる無様な俺を怪訝そうな目で見ていく、使用料払い済みの大学生たち。
……う、うん、まぁこういう時もあるよね!!
ターミナル使用料?そんなもん聞いたことねぇぞこのクソやろ……じゃなくてちゃんと払わないとね!!
支払いカウンターにはたくさんの人の列。
忙しそうな受付のお姉さん。
うん、こういう時はやはりスマートに支払わないといけないよね。
自分の番が来る前にお金を用意しておいてサッと払えるようにしてあげるのがジェントルマンのたしなみ。
1.3ソルですか。50円ですね。
だったらお釣りが細かくならないようにしてあげるのが大人の心配り。10ソル紙幣と0.3ソルのコインを手に用意。
10.3ソルなら9ソルのお釣りなのでお姉さんも分かりやすい。
こうして日本人としての優しい気遣いをすることで、これからクスコに来る日本人たちに少しでも快適な旅行をしてもらいたいよね。
おっと俺の番だ。
カウンターにさっと10.3ソルを置く。もちろん顔は最高の笑顔で。
お釣りが返ってくる。
8.7ソルしかない。
「セニョリータ、どうしてお釣りが8.7ソルなんですか?9ソルのはずですが?」
「マチュピチュナスカ!!インカインカ!!」
早口でまくしたてて何言ってるかひとつもわからない。
手を振って邪魔だから早くどけと言っている。
「いや、あのねお姉さん落ち着いて。僕は10.3ソル払ったのでお釣りは9ソルですよね?とても簡単ですよね?」
「うるせぇ!!使用料は1.3だろうがここ見ろ?!ああ!?1.3ソルだからお釣りは8.7だろうが?早くどけ!!」
「いや……だから10.3ソルを僕は払いましたよ?お釣りがわかりやすいよ……」
「インカインカ!!マチュピチュ!!早くどけ!!このイカれ野郎!!」
「…………なめてんじゃねぇぞコノヤロウあああああんん!!!??算数できんのかてめー!!」
後ろに大行列を作りながらたかが1円のために大声を出す日本人。
もう怒りマックス。
チラチラ
チラチラチラ!!
哀れなものを見る目で俺のことを見ていく日本人大学生たち。
ひょ!!
ち、違うんだあああああ!!!!
俺はこのお姉さんのことを考えてわざわざお釣りが簡単なようにしてあげただけなのになんでこんなゴキブリ野郎扱いされなきゃいけないんだああああ!!!
後ろで一部始終を見ていた白人の女の子たちが話しかけてくる。
「どうして0.3ソル多く払ったの?10ソルでよかったのよ。ここは南米よ?」
いや、そんなの関係ねぇ。
南米だからとかそんなのまったく関係ねぇ。
実際スーパーとかで買い物しててもこうして端数を多く払ってお釣りを簡単にしたりする。
気を遣ったことをまったく理解してもらえなかったのがムカついてしょうがなく、何度も食い下がりまくったが、もはやお姉さんは俺をゴミ扱い。
後ろには長蛇の列。
………8.7ソルを受け取ってすごすごと退散。
いいよ、たったの1円。
どうだっていいよ。
はぁ……落ち着け、俺。
深呼吸して怒りを収めていると、何人かの人たちが話しかけてきた。
「まぁこういうこともあるさ。アワスカリエンテで君の歌を聴いたよ。いい歌だったよ。」
「クスコの通りでゆうべ歌ってたよね。よかったわ。」
よほど大変な旅をしてるんだね、とか思われたんなら本当に恥ずかしい………
ヒッピーみたいな旅をしてるんだからせめて品を持って過ごさないといけないのに。
今から出国というのに余計なコインが増えてしまったので売店でビールを買った。
バスに乗り込んでひと息。
おおお、ていうかこのバス、マジですげえ。
席広すぎ、背もたれ倒れすぎ。
2階建てのバスに乗るのって初めてだったかな?
あまりの快適さに落ち着きを取り戻して、ゆっくりとビールをあおった。
走り出すバス。
ふぅ、心を落ち着けて次の国だ。