2月28日 金曜日
【ペルー】 マチュピチュ
ゆうべ寝たの1時。
んで起きるの4時半。
拷問すぎる。
昨日のトレッキングで若干の筋肉痛発生中。
そんな状態で朝から山登り。
な、なんでこんな罰ゲームしなきゃいけないんだ………
よし、もう寝よう。眠ってしまおう。
…………ベッドから起き上がる。
いや、行くよ……マチュピチュだもん………
ツインベッドの部屋。隣のベッドで寝る女子大生のゆまちゃんを揺すり起こす。
ほら行くよ。マチュピチュだよ。早く服着て。でもその前にこっちのワイナピチュにももう一度登っちゃおうかな。
マンコ・カパック!!(インカ帝国の初代皇帝)
……はっ!!
夢か………二度寝していた………
時計を見ると5時。
急いで起き上がって歯だけ磨いて食料と水分を持って宿を出た。
早朝の村はもちろんまだ真っ暗闇。
人影はゼロ。
外灯が光る路地を抜けると、人が集まってるところが見えた。
ヘッドライトのついたバスが待機しており、みんなそれに群がっていた。
お金のある人たちを横目に、俺は暗い砂利道へと入っていく。
徒歩でマチュピチュを目指す。
真っ暗で看板が見えなくて道があってるのかもわからないまま、ひたすらのiPhoneのライトで足元を照らしながら歩いていく。
もっと俺みたいな徒歩組がいると思っていたのに、歩いてる人の姿はほんの少し。
みんなでこっちかな?とか言いながら進んでいく。
相変わらずサンダルの裏にとがった石が刺さってイラつくほど痛い。
しばらくすると小さな小屋があり、そこで入山名簿に記入。
橋を渡るとそこから登山道が始まった。
マジでキツイ………
ここマジでキツイ………
そそり立つ急峻な山。
その斜面を一直線にかけ上がるわけだから一歩一歩が高い!!
容赦なく続く山路。
たまにバス道に出るんだけど、汗だくで死にそうになってる俺たちの前をブーンと砂埃を上げて走っていく。
ぬおお………こ、こいつは登りだけでもバス使ったほうがいいと思う…………
ゲロ吐きそうになりながら登っていると、少しずつ空が白んできた。
視界が開けてくると、周りの景色が見えてきた。
あまりにも雄大な山の連なり、谷間を流れる蛇行する川、それらに朝霧がかかり神秘的な空気を醸し出している。
すげえとこにいるんだな。
後半はすでに景色を見る余裕もなく、息も絶え絶え登り続けて、最後の急登を終えた時、広い駐車場に出た。
そこにはたくさんの観光客の姿。
バスを降りて優雅に歩く人々。
絶望的な顔をしてうなだれている徒歩組。
やっとここまで来た………
けどこっからまたワイナピチュの登山………
過酷すぎる(´Д` )
入場ゲートをくぐり歩いて行く。
辺りは真っ白い霧か雲に覆われて、全てが神秘的に閉ざされている。
そしてそんな霧の向こうに、何かの影が見えてきた。
建物らしきものの影。
視界が開けた。
ついにマチュピチュにたどり着いた。
一面に広がる町の跡。
建物、道、神殿、そして段々畑。
それがこの秘境の山の上にひそかに広がっていた。
緻密な石垣が入り組み、巨大な自然石を利用した住居跡が迷路のように広がっている。
なんでこんな山の上に。
なんでこんな秘境に。
400年の間、誰にも知られず忘れ去られていた町。
きっと深い草木に埋れていたんだろう。
ここでかつてインカの人々が太陽の神を信仰していた。
日本が室町時代の頃に、ここで人間が暮らしていたんだ。
壮大な忘却の物語。
ワイナピチュ登山もまたとてつもなくキツイです。
とんがりコーンみたいな急な山を岩にしがみつきながら登っていく。
マジで相当きつい。
そしてすごく危険。
手すりとか柵とか何もない断崖絶壁の上をスレスレで登っていかないといけない。
心臓爆発しそう。
サンダルで行く所じゃねぇ(´Д` )
景色は果てしなく絶景だけれども。
あ、途中男前の大学生4人組とお話しした。
うん、ただのF4か。
爽やかで男前で、きっと相当もてるだろうなぁ。
石のトンネルをくぐり、草に埋れた手つかずの遺跡を越え、ボロボロになりながらようやく頂上に到達した。
頂上は大きな岩がゴロゴロ転がる場所になっており、みんなマチュピチュを見下ろすためにその岩の上にあがって陣取っている。
まぁー、日本人の多いこと。
この時100人くらいが頂上にいたんだけど、30人は日本人。
いたるところから日本語が聞こえる。
舌足らずな喋り方を頑張ってるぶりっ子の女の子とか久しぶりやわ。
「おほー!!もう座る場所あらへんやんけー!!どないなっとんねんー!!」
関西人はマジで声でかい。
予想はしていたけどあまりにも霧が濃く、眼下に広がるはずのマチュピチュは一向に姿を見せてくれない。
みんな我慢強く霧が途切れるのを待ち続けている。
俺もしばらく岩の上に座って待ち続けていたけど、睡眠不足でウトウトしてきた。
ああ………気持ちいいなぁ……
空飛んでるみたいだなぁ………
…………ぬお!!!!
落ちたら一発死亡の岩の上で一瞬眠りに落ちてしまい、慌てて周りの岩にしがみついた。
や、やべえ……これ以上じっとしてたらマジで空にダイブしてしまう。
もう諦めてワイナピチュを降りた。
別にワイナピチュに登らなくてもマチュピチュを堪能することは出来る。
有名な写真は小さな丘の上から望めるものだし、そこら中を歩いているアルパカと触れ合うのも楽しい。
普通にそこらへん歩いている。
もちろん日本人は大学生だけではなく、旅行会社のツアーの団体さんもわんさかいる。
ゾロゾロと細い通路を行列になり、はーい、ここでそれぞれの写真撮りましょうねー、とペルー人のガイドさんが流暢な日本語を喋っている、
マチュピチュはやっぱり日本人の憧れの地だなぁ。
観光客の数はマジで半端じゃないので、もはや忘れられた都市とは言い難い。
でもここまでの凄まじく険しい道のりを体験したからこそ、どれほど秘密の遺跡なのかが分かる。
人間はすごい。こんなものを作り出してしまうんだもん。
苦労してきた甲斐があった。
地球って本当に面白いテーマパークだ。
マチュピチュ、一生に一度は必ず行くべきところ!!
苦労して来たということは同じく苦労して帰らないといけないんですよね………
あああ!!!またあのルートを戻らないといけないのか!!
絶望的になりながらもまたぼちぼちと山道を下っていく。
もう太ももとふくらはぎがパンパン。
ガクガクと膝が笑い、石段を降りるたびに崩れ落ちそうになる。
が、頑張れー………
俺頑張れー………
サンダルで滑りながらもやっとの思いでアワスカリエンテの村に戻って来た。
ああ………もうダメ………なにか美味しいもの食べないと………これ以上動けない………
もうパンとハムは勘弁。
ていうか最近ご飯が全然食べられないんだよな。
空気が薄いせいなのかわからないけど、いつもなら余裕で食べられる普通の量が半分くらいしか食べられない。
おかげで体がどんどんやせ細っていく。
ジャストサイズだったズボンもゆるゆるだ。
ちゃんと食べなきゃ。
てなわけでアワスカリエンテでは外食はしないつもりだったけど、やっぱりちゃんと温かいものを食べることに。
食堂やレストランは20~30ソル。150円でたらふく食べられるペルーで千円超えてくる。
庶民の味方のメルカドはどうだろう。
アワスカリエンテはめちゃ観光地ではあるけどちゃんと地元のおばちゃんたちが野菜や色んなものを売っているメルカドもある。
だいたいメルカドの中の食堂はその地域の最安値でご飯が食べられる。
たくさんの地元の人で賑わう食堂スペースへ。
「安くて美味しいご飯はここ!!」
とかって日本人観光客に頼んで書いてもらったであろう紙が貼ってあるお店は無視して隣のお店でこれを食べた。
牛肉とポテトと玉ねぎの煮込み&ライス。
温かいご飯が体に染み渡り、エネルギーになるのがわかる。
これマジで美味かった。5ソル。180円くらい。
満腹になって宿に戻る。
もはや足に力が入らなすぎて、蹴るような歩き方になっててただのチンピラ歩きもしくはチャップリン状態。
宿の階段を登るのも必死。
それくらい消耗している。
ベッドに倒れ、一瞬で眠りに落ちた。
目覚ましの音で目を覚ます。
暗い部屋の中、起き上がった。
もうこのまま朝までずっと寝てしまいたい。
でも歌いに行かないと。
1時間半は眠れた。
少しは力が戻っている。
行くぞ。
立ってギターを弾くだけで足が崩れそう。
それでも声を振り絞る。
欧米人や南米の観光客たちがたくさん足を止めてくれ、ビールの差し入れをしてくれる。
日本人は1分に1組くらいの割合で前を通るけども、いつも通り誰も見向きもしない。
もう王様ゲームとかマチュをピチュするとかそんな気力もない。
ただ精神力で歌を歌った。
人通りも少なくなってきて、そろそろ終わろう、もう終わろうと思っているところに、さっきから目の前で聴いてくれていたおじさんが声をかけてきた。
「ハイ、お腹空いてるかい?」
「あ、は、はい。」
「よし、こっちに来な。」
そういうおじさんに着いて歩いて行くと、すぐ近くにあった路地裏のレストランに入った。
壁におびただしい数の名刺が貼られ、ごちゃごちゃしているんだけどオシャレな店内。
え、な、何、こんなとこでまた歌わないといけないのかな………
もう無理だよ…………
マジで死ぬほど美味しかった。
3千円はするめちゃ高級レストランのディナーコース。
こんなクオリティの高い食事、本当に久しぶりだった。
ゆっくりゆっくりと、時間をかけて噛み締めた。
オニオンとチーズのスープ、
美味しいパン、
マスのトマトガーリックソース、
スイートポテトと茹で野菜、
ポテトチップス、
そしてデザートのチョコレートムース
何から何まで心遣いの行き届いたサービス。
おじさんはこのお店のオーナーさんだった。
インディオフェリスというお店。
「マイニチ、ニホンジンガトテモキマス。スゴイデス。」
笑顔の素敵なスタッフのみんなはある程度の日本語が喋れる。
お店のメニューも日本語表記のものがあるほど。
どうやらお金のある日本人観光客ご用達のお店みたい。みんなここに来るという。
俺たちバッグパッカーには無縁の場所だけど。
「あ、あ、あのご馳走様……でした……すごく美味しかったです。」
「素晴らしい歌をありがとう。いい旅を。」
オーナーのおじさんが優しく抱きしめてくれた。
店を出る。
すっかりひと気のなくなった通り。
疲労困憊したズタボロの体にビールの酔いが強めに回っている。
えーっと………感謝しかねぇ………
これで明日も頑張れる。
いや、明後日もその次も頑張れる。
温かい気持ちが胸に染み渡る。
降り出した雨の中、足が動かなくてこけそうになりながら宿に帰った。
今日のあがりは75ソル。