2月20日 木曜日
【ペルー】 リマ ~ 山の中
「フミ、フミー………フミー、」
「………ん、んあ?はいはい?」
「お友達が来てるわよ。カルロスっていう。」
受け付けの女の子に起こされた。
時間は朝の8時。
お友達………?
あ、ああゆうべのカルロスか。
玄関に出ると、ニコニコしたカルロスが座っていた。
「オハヨウゴザイマス!!ゆうべは楽しかったね!!」
朝から爽やかなカルロス。
ていうかTシャツ(´Д` )
そ、そうやな、俺たち似た者同士だよな。
「俺これから南米を下っていくんだ。フミみたいな旅をしたい。お金もすぐ底をついてしまうと思う。だからなんとか生き抜く方法を学ばないといけないんだ。フミにそれを教えてもらいたい。」
ギターを持って旅しているカルロス。
でもまだ始めたばかりで人前で演奏する自信はないという。
1度だけバスの中で演奏したらしいんだけど全然稼げなかったそう。
それを自分の性格のせいだと言うカルロス。
確かに人が良すぎて遠慮がちなカルロスには人前で堂々と歌ってお金を要求するのは厳しいかもな。
「フミと一緒にクスコに行っていいかい?」
「もちろん。でもずっと一緒ってのは無理だよ。」
「分かってるよ。フミにいろいろ教えてもらいたいんだ。」
朝の遊歩道。2人で静かな海を見ながら色んな話をした。
宿に戻って荷物をまとめていると、大きなバッグパックをかついだカルロスがやってきた。
ニコニコとご機嫌なカルロス。
同じバスの席がまだ空いてるかどうか、civaのオフィスに電話して確認してみた。
どうやらまだ9席空いているみたい。
でもチケットの購入は窓口でしかできないみたいで、直接ターミナルに行くしかないよう。
「空いてなかったらどうしようかな。」
「大丈夫、きっと乗れるよ。」
「それにしても90ソルは安いね!!聞いてた情報では120ソルだったのに、どうやって見つけたんだい?」
2人でメトロバスに乗り、ターミナルへ向かった。
ごちゃごちゃと物売りで賑わうバス通りに到着。
2人で歩いていると、昨日見かけた神マラワレスの兄ちゃんが今日もあの奇跡の技を披露していた。
今日は1人じゃなく仲間が2人いて、3人で代わり番こにやってるみたい。
他の2人もやっぱり凄腕だ。
俺もギターを持っていて同じパフォーマーの空気を出しているのか、いつも向こうから声をかけてくれる。
同じ仲間のように。
しばらく笑いながら話していると、カルロスがノートにメモをとりはじめた。
「何書いてるの?」
「クスコの宿情報だよ。8ソルのところがあるみたい。でも宿っていうか個人的な家みたいなとこらしいよ。」
出た。ヒッピーの裏情報。300円の宿ですか。
宿っていうかキトみたいなヒッピーたちのたまり場といったところかな。
ホステルって名前もないし、住所もわからない。
ただ◯◯病院の近くでそれっぽい奴にきいたらみんな知ってるよ、とのこと。
またその大雑把な宝探しゲームか(´Д` )
とにかく安い。
そしてヒッピーたちならクスコの路上パフォーマンス事情に詳しいはず。
クスコもまた有名な日本人宿があるみたいだけど、お世話になることもなさそうだ。
やっぱりヒッピーの情報が1番だ。
ていうかケータ君やナオちゃん、エビちゃんたちってまだクスコいるのか(´Д` )
この前はみんなでカレーパーティーしたよーとかって楽しそうな写メを送りつけてきやがって。
なんだカレーパーティーって!!
俺なんか下痢で違うカレーパーティーやわ!!
さて、バスターミナルに到着。
早速チケットを買いに行くカルロス。
ああ、やっぱり2人行動っていいなぁ。荷物を見ててもらえるからなぁ。
まだクスコにみんながいたらカルロスも混ぜてあげてカレーパーティーしようかな。
日本人大好きなカルロス、喜ぶだろうな。
ナオちゃんに惚れなゃいいけど。
カルロス名古屋好きだし。
カルロスが戻ってきた。
「あああ……フミー……満席だったぁー………一緒に行けないよおおおおお………」
この世の終わりみたいな顔をしてるカルロス。
せっかく泊まっていた友達の家をひきあげて、荷物を全部持ってここまで来たというのにバスに乗れない。
「ま、マジかカルロス………ざ、残念だよ………次の便はダメだったの?」
「次の便は値段が高いんだ………で、でもきっとクスコに追いつくよ。しばらくいるんだろ?いるよな?」
「ああ、週明けからマチュピチュに行くから間に合ったら一緒に行こうぜ。じゃあ、そろそろ行くよ。」
「ああ……必ず会えるよな!!」
ちょっと心の弱いところがあるカルロス。
誰かに依存せず、揺るがない信念を身につけられる日が来ることを願うよ。
俺もそうなれるよう頑張る。
優しい男だった。
悲しげな笑顔を見せるカルロスにバスの窓から手を振った。
さぁ今から22時間のドライブか。
ちなみにバスの値段は90ソル、33ドルだけど、預け荷物が20kg以上だと別料金がかかってくる。
1kgにつき1ソル。
俺はうまいこと19kgだったので追加料金はなし。
人気のルートのはずなんだけど、バスにはあまりバッグパッカーらしき人は乗っておらず、現地の人ばかりだ。
みんな何をそんなに持ってくの?ってくらいものすごい量の荷物を積み込んでいた。
安いバスは旅人よりも地元の人たちのための移動手段だな。
ほら、こんな物売りも。
おじさんが見事な売り口上で歯ブラシをさばいていた。
22時間の移動なのでご飯はどうするのか?というところだけど、そんな心配はまったく要らず、バスが信号待ちとかで少し止まるだけで物売りの人たちがなだれ込んでくるので、いつでも食べ物を買うことができる。
チキンとポテトとライスのこのご飯が5ソル。
200円しない。
ちなみにタバコも1箱4ソル150円くらい。
ビールとタバコが安い国は俺にとってとても有難い。
バスはリマから海岸線沿いを下っていく。
乾いた大地と丘のような山が連なり、反対側には太平洋という不思議な光景の中を走り抜けていく。
どこまで走ってもその光景は変わらず、太陽が傾き、夕日が荒野を染め上げていく。
寂寞が胸に迫り、旅の実感を与えてくれる。
やがて夕闇が地平線を隠してしまい、バスは夜の中をひた走っていく。
車内のボロいモニターでは、ハリウッド映画がスペイン語で流れている。
エンジン音がうなりをあげる。
海岸線から離れ、山に向かい始めたみたいだ。
窓の外は何も見えない真っ暗闇。
でも坂道を登り、クネクネとカーブが連続し始めた。
乗り物酔いしない俺だけど、あまり体調が良くないせいか頭から血の気が引いて、トイレに入って少し戻した。
気分が悪い。
これがまだ15時間以上続くのか………
長時間移動はそんなに苦じゃないけど、今夜はちょっと長い夜になりそうだ。
明日ついにクスコ。
南米のメインの町とも言える場所に、ついにたどり着くぞ。