2月19日 水曜日
【ペルー】 リマ
リマには有名な日本人宿がいくつかあるみたい。
でも値段もそんなに変わらないみたいだし、今の俺には日本人宿に泊まるメリットはそんなにないかな。
旅の情報なら南米のヒッピー旅人たちがしこたま有益なやつを持ってるし、別に言葉が通じなくてもそんなに困らなくなってきた。
寂しさもない。
すっかり南米の旅に慣れてきた。
今泊まっているバランコ地区のホステルは欧米人やある程度お金を持ったバッグパッカーが多いみたいで、これまでみたいなヒッピー旅人はあまり泊まっていない。
最近ずっとヒッピーの旅人たちと一緒に行動していたので彼らの飛び抜けたフレンドリーさに慣れていたんだけど、ここではそんなにディープな絡みは発生しない。
みんなそれぞれの時間を大事にして、スマートに過ごしている。
ホステルにも色んな性格がある。
ここもまた心地いい。
ゆうべ早めに寝たおかげでスッキリと目が覚めた。
朝イチでシャワーを浴びると生き返ったように気持ちが切り替わる。
屋上では暖かな日差しの中で数人が朝ごはんを食べていた。
「ヘーイ、フミ、ブエノスディアス。卵を焼いてあげるよ。」
ガタイのいいスタッフのレチェが朝からビールを飲みながら爽やかにコーヒーを淹れてくれた。
「ありがとう。」
「ん?おいおい、なんて声してんだ?大丈夫か?」
やはり一晩では喉は治っておらず、未だトムウェイツみたいなしゃがれ声。
でもゆっくりと卵とパンを食べ、コーヒーを飲んでタバコをふかすと体に元気が湧いてくる。
風邪は回復してきている。
今日も忙しい1日になるぞ。
ギターを持って宿を出た。
リマの街を貫くメトロバスに乗り、セントロへ向かう。
広々とした綺麗なアスファルトの道路を快適に走っていくバス。
真新しい車内には清潔な服を着た人々。
青空にそびえる高層ビルがはるか遠くに見え、リマの街の大きさがわかる。
さっきネットに繋いでこの街の地図を見たんだけど、どうやら昨日新市街だと思ってバスやレストランで歌っていたエリアは、このリマの街外れの一地域に過ぎなかった。
リマはマジででかい。
押し合いへし合いとまではいかないんだけど結構たくさんの人がバスに乗っており、駅に着くたびに新しい乗客が乗ってくる。
ここで驚いた。
車内の人が駅で降りるとき、入り口付近に立っている人たちが一旦バスから出て降りる人たちのためにスペースを作ってあげている。
おかげでスムーズに乗り降りが出来、混雑が生まれない。
こんなの当たり前のこと。
しかし中南米に入ってからというもの、誰も一旦バスを降りるという心遣いをせず、おかげで入り口付近が大混雑して本気で体当たりして人を押しのけないと外に出られないという状況だった。
顔に肘打ちをくらったり、叫び声が響いたりしても頑なに入り口を封鎖する人たち。
それに比べてこのリマの人たちの紳士的な行動にとても好感を覚える。
国の先進性とはこういった国民の生活の中の何気ない余裕に現れる気もする。
そんな快適なバスに揺られてセントロに到着。
街に出ると古めかしい建物が並び、都会の活気に溢れていた。
乾いた風が吹いて、ビルの向こうに見える茶色い山が太陽に照らされている。
中南米の街並みはどこも同じようなもので、セントロヒストリコという旧市街エリアが街の中心にあり、そこがショッピング街となっている。
ヨーロッパ調の石造りの建物はどれも同じ高さで統一されており、カラフルな色彩でとても美しい。
そんな旧市街の真ん中に必ず大きな公園があり、街のシンボルとなる巨大な聖堂が配置されているんだけど、もちろんリマもその通りに作られている。
さすがは大都市リマ。
空にそびえる大聖堂と開放的な公園が壮麗なヨーロッパを思い出させる。
偶然やっていた民族衣装をまとった人たちのダンスパレードがさらに鮮やかに街を彩っている。
美しい街はそこにいるだけで贅沢な気持ちにさせてくれる。
さぁ、こんな街で歌うことが出来たなら最高なんだけどいかがなものだろう。
かなり長い歩行者天国のショッピングストリートではお決まりの銅像パフォーマンスやサックス吹きが路上で人を集めている。
やれないことはなさそう。
ワクワクしながらとりあえず食堂でハンバーガーをかじりコーラをがぶ飲みして、早速通りの真ん中でギターを構えた。
騒音のない静かな通りに優しくギターを鳴らす。
喉の調子は良くはないが、昨日よりはマシだ。
すぐに人だかりが出来上がり、リマで最初の拍手が起こった。
ああ、やっと拍手もらえたぜ。
こうなるとこっちもノッてくる。
人だかりはどんどん増えて、みんなお金を入れてくれる。
太陽の日差しが半端じゃなくて汗が流れ落ちていく。
すぐ目の前に日陰もあって、他の物売りや露店の人たちは日陰の中にいるんだけど、俺はいつも路上をやるとき少しでもキチンと見てもらえるように日なたでやるようにしている。
太陽の照明はパフォーマンスを際立たせてくれる。
心配していたセキュリティなんだけど、大きな警察犬を連れたお巡りさんが何度も目の前を通ったけれど何も言われることはなかった。
お金はどんどん増えていく。
おおお………リマやばいぞ………
昨日のバスとレストランが嘘みたいに反応がいい。
やっぱり路上はいいなぁ。
嬉しい飲み物の差し入れなんかもあり、1時間半ほどやって休憩を入れたころには、たくさんのペルーソルがギターケースの上にたまっていた。
10ソル紙幣もある。4ドル。
こいつは1日中歌ってたらすごいことになるぞ。
もうちょっとリマ滞在を延ばしてここでガッチリ稼ごうか。
と思っていたら婦警さん登場。
申し訳なさそうにここで歌ってはダメよと言われた。
ああ……そうか………
ライセンスを取るか。
いやそこまでする時間はない。
まぁ1時間半やれただけでも良しとするか。
あがりはなんと133ソル。50ドル。
たったの1時間半で。
ぬおおお………もっとやりたかった………
まぁいくら考えてもしょうがない。
リマでこれなら一大観光地であるクスコならもっと稼げるはず。
予定通り明日移動してしまおう。
その足で昨日到達したバス会社通りへ向かう。
セントロから歩いて20分くらいでたくさんのバス会社がひしめく通りに到着。
あらかじめ調べておいたんだけど、どうやらリマからクスコへのバスで1番安いのはcivaという会社みたい。
参考にさせてもらったのは、
そう、ブログのリリ記です。
あの節約女王のリリーさんが言うなら間違いない。
リリーさん元気にしてるかな。
てなわけで建物の中に入ると、さすがに激安バスなだけあって大混雑。
もしかして明日のバスだと満席かも………と不安になったけども、無事チケットをゲットできた。
値段は90ソル。
22時間の長距離移動で33ドル。
本数もいくつかあるみたいだけど、金曜日の昼に到着するために13時15分の便に決めた。
これで金曜日の昼にクスコに着いてそのまま路上が出来るし、もしライセンスが必要でも金曜の17時までなら役所もやっている。
完璧!!!
あ、そうそう、バスターミナルの近くの交差点で最強のマラワレスを発見した。
自分の背丈以上もあるような一輪車に駆け上がり、クルクルと走り回り、さらにその一輪車を片足で操作し、もう片方の足でフラフープを回し始めた。
もうこの時点で半端じゃないんだけど、この兄ちゃん、さらに左手でもうひとつフラフープを回しながらその指先に回転させたサッカーボールを乗せた。
半端じゃねぇ!!と思っていたら、さらに口にくわえた棒の先っぽにもサッカーボールを乗せてクルクル回している。
も、もう分かった!!あんたがすげえのは分かった!!
度肝抜かれていたら、最後にこの兄ちゃん、残った右手一本で片手のバトンジャグリング。
なんだ、ただの神か。
あんまりすごくてお金渡した。
高い一輪車に乗ることでかなり後ろの方のドライバーにも見てもらうことができるという計算され尽くしたパフォーマンス。
きっと相当稼ぐだろうなこの人。
いやー、すげーもん見せてもらった。
あんなの見たらただボールでお手玉してポロポロ落としてるような他のマラワレスが遊びにしか見えんわ。
世界中にバスカーはいて、貧しいといわれる南米にも南米の稼ぎ方があって、その中でもやっぱりピンキリのパフォーマーがいる。
俺も頑張んないとな。
メトロバスに乗ってバランコ地区に戻り、少し休憩をしてから、さぁもういっちょ仕事いってみよう。
このバランコ地区もたくさんの観光客や富裕層の人がいるので、バスカーの姿は多い。
銅像、チャランゴやケーナのフォルクローレ、ジャズバンドなどなど、味わいのあるパフォーマーがいいポジションに陣取っている。
俺も負けてられんぞ。
人通りの多いスターバックスの横の広場で早速演奏開始。
まばらに人だかりが出来始め、みんなベンチに座ってゆったりと聴いてくれる。
家族連れやカップル、白人観光客、アジア人観光客の姿はまったくない。
バランコ地区はアジア人は来ないところっぽい。
そんな中、喉がそろそろ限界に近づいてきてるけど根性で歌っていると、アジア人の団体さんが立ち止まってくれた。
服装からしてお仕事で来ている様子のおじさんたち。
するとみなさん、スッとケースにお金を入れてくれ、こう言ってくれた。
「頑張れよ。」
なんだか一気に身が引き締まった。
少し乱暴だけど、熱い日本人サラリーマンの激励。
海外で出会う日本人はみんなとても丁寧な人ばかりだ。
みんな腰が低くて綺麗な敬語を使う。
でも日本で歌っている頃、おじさんたちがかけてくれる言葉はとても熱いものばかりだった。
そんな気持ちでやってんならやめちまえ!!
明日死ぬ気で歌え。
お前の根性はそんなもんか?
日本人は精神論、根性論が好きだと思う。
俺も好きだ。気合いがあればたいがいのことはなんとかなる。
海外ではこういったムカつくほどの叱咤激励をもらうことってほとんどない。
多様な生き方が認められる海外では、人のやってることにそこまでムキになる性格ではないように思える。
久しぶりに日本人の熱い心に触れて背筋が伸びた。
サラリーマンのおじさん。ありがとうございました。
気合いがあればなんでも出来る!!と声を枯らしながら歌い、しばらくして他のミュージシャンたちがやってきてそろそろ交代お願いしますと言ってきたので、観客の人たちに次は彼らの演奏をお楽しみ下さいー!!とバトンタッチ。
夜のあがりは1時間半で63ソルと2ドル。
今日の合計、73ドル!!!
よっしゃあ!!!
「やぁ!!すごくよかったよ!!ハジメマシテ!!」
演奏を終えて片付けをしていると、1人の兄ちゃんが話しかけてきた。
笑顔が素敵なカルロスはエクアドル人の旅行者。
ちょっとなよっとしてるけどいたって健全な男だ。
少し日本語が喋れるのでどうしてか聞いてみたら、どうやらカルロスの兄ちゃんが日本で働いてて日本人女性と結婚しているそう。
それで日本に行ったこともあるそうだし、色んなところを旅行もしたみたい。
「札幌の人がめちゃ優しかったよ!!みんな英語喋れなくてカタカナ英語なんだけど、道を尋ねた時、英語を喋れない女の子が一緒に目的地まで連れて行ってくれたんだ。あの子可愛かったなぁ。」
そんなカルロスと意気投合し、一緒にご飯を食べに行き、ビールを飲んだ。
「日本のご飯は最高だよ!!うますぎて食後にいつももう死んでもいいって思ってたよ!!」
カルロスと公園で話していると、アクセサリー売りのヒッピーたちや、楽器を持ったパフォーマーたちがたくさん話しかけてくる。
3日しかいないのに、もうすっかりこの近辺に友達や顔見知りができた。
いつものように拳をこつんと合わせる。
日本人宿に行き日本人と行動するのももちろんいい。
でもこのサウスアメリカでは、南米人の旅人たちとの出会いこそが1番面白いところじゃないかなと思える。
彼らと仲良くなることで南米がどんどんディープに面白くなっていく。
「フミ、僕も明日クスコに行きたいな!!一緒に行っていいかい?」
遠慮気味に聞いてくるカルロス。
お、また何か新しい展開があるかな。
さぁ、もっともっと、とことん行くぞ南米!!