2月14日 金曜日
【エクアドル】 バニョス
やっぱり個室はいいなぁ。
誰にも見られず安全なところで眠れる安心感でグッスリ眠れた。
ここはバニョスのチャルビックホステル。
個室で4.5ドル。
荷物をまとめてロビーに降りた。
仲のいいスタッフの兄ちゃんが荷物を見て声を上げる。
「ヘイヘーイ、フミー、たった1泊で行っちまうのかい?」
「俺ももっといたいけど仕方ないよ。クエンカまで今日は行きたいんだ。」
「フミ、もったいないぜ。今日が何の日かわかってるのかい?」
「なんだっけ?」
「バレンタインデーじゃないか。それに金曜日だぜ。今夜はどこのレストランも満席でパーティーだよ。確実に稼げるぜ。」
そうか、忘れてた。
今日は女子が男子にチョコレートをあげる夢のような日じゃないか。
うわああああ!!!誰がチョコレートくれるかなぁ!!!
そわそわしてしょうがねえええええええ!!!!!
1ミリもそわそわしねぇ。
チョコレートくれるどころか日本人の女の子すら見てねぇ。
まぁいいけどね、お返ししなくて済むから気が楽だし、クッキーとか作らなくていいから。
いやー、マジこんな山奥の町にいてよかったー。
ウユニとかマチュピチュとか女子大生だらけのところじゃなくてよかうぐっ……うぐっ………し、仕事……行こう………うぐっ……仕事………
「ひぐっ……わかったよ……じゃあもう1泊するから服洗濯して。」
「いいぜー、稼げるといいな。」
ギター持って泣きながら宿を出た。
いやー、今日もバニョスの町は綺麗だなぁ。
山が雄大で気持ちがいいなぁ。
ラブレター入りの本命チョコレートが欲しいなぁ。
あの手作り感満載のいびつな形がとても嬉しいなぁ。
日本人どこだオラァァァあああああああ!!!!!!
「オラー!!ブエナスタルデス!!ドスカンシオネス、ポルファボール!!チョコレートください!!」
バレンタインデーに1人ぼっちとかマジ切なすぎて逆に気合い入りまくりでレストランバスキング開始。
でもやっぱり1人は緊張する。
俺はヒッチハイクで止まってる車に直接交渉するのが苦手だ。
親指を立てて、誰かが乗せてくれるのを待つのが気が楽。
路上もそう。聴きたい人が足を止めてくれればいいし、いいなと思った人がお金を入れてくれればいい。
自分から要求するのは気が引ける。
断りたい人だってもちろんいるし、要求したら相手も断りづらい。
変な気分が残ってしまうのは嫌だ。
でもここで自分に置き換えて考えてみる。
好きな人以外からでもラブレターをもらったら少なからず嬉しい気分になるもの、じゃなくて俺がレストランでご飯を食べてる時に物売りやパフォーマーがやって来たとして、俺はいつも何気なく断っている。
よほどしつこくない限りそこに嫌な気持ちは発生しない。
いつものことだし、いいパフォーマンスだったらもちろんお金も渡す。
この南米では深く考えることはない。
全力でいい歌を歌うことだ。
平日の昼間はそんなに人出も多くなく、観光客たちもアウトドアのアトラクションに出かけているのであまり見かけない。
そんな中で5軒くらいしか歌うことは出来なかった。
あがりは16.5ドル。
でもレストランのお客さんの中に面白いおばちゃんがいて、今夜パーティーで歌ってくれとのお誘いをもらった。
おばちゃんの運転するゴーカートで町中を爆走して、お店の前に到着。
カラオケバーをやってるみたいで、今夜はたくさんの人が集まるからそこで演奏してくれとのこと。
バレンタインデーのウキウキイベントなんて別世界の話なので、今日は1日とことん歌ってやるぞ。
とは言っても路上で歌うことはできないのでランチタイムが終わったら、宿に戻ってWi-Fi。
ここのところジャングル生活でほとんどネット出来ていなかったらメールがたまり溜まっていた。
ひとつひとつに返信していく。
アメリカを一緒に横断したサックス吹きのカッピーが、帰国してまだそんなに経っていないというのに会社を起こすとメールをくれていた。
手始めに東京の三軒茶屋にライブバーをオープンするらしくもう物件も抑えてるそう。
これから色々と拡大していくという。
アメリカで一緒に語り合った冗談みたいな夢の話。
自分たちの無力さに打ちひしがれた夜。
でもだ、やっぱり奴は確実に前に進む男だ。
俺も負けてられない。
カッピー、日本に帰ったら東京での沈没スポットにさせていただきます^_^
カッピーの野郎、顔が広いしモテるので、チョコレートもらいまくるんだろうなコンチクショーと思いながらも、カッピーのお店の風景をイメージしながら曲作り。
まだまだ固まっていないけどネタとしては悪くない。
こいつはかなり名曲、と思えるやつも出来かけている。
個室の部屋の中、ベッドに座ってもくもくと無限の言葉とメロディを組み合わせていく。
久しぶりにちゃんと曲作りをしていたら、いつの間にか20時前になっていた。
いかんいかん、せっかく夜のために1泊延ばしたんだ。
仕事に行くぞ。
夜のバニョスは外灯が柔らかく光り、おとぎの町の雰囲気を一層濃くする。
観光客の姿も多い。
さぁ、日本人を探し出してチョコレートをもらうぞ!!!!
夜のラテンアメリカンたちのノリは半端じゃない。
どこのお店でもブラボー!!と声が上がり、アンコールがかかる。
一方、ガイドブックに載っているようなお店の白人観光客たちは上品にパチパチと拍手をくれるのみ。
ミュージシャンにとって中南米はとてもやり易い場所。
でも彼らのとびきり陽気なノリに甘えていてはいけない。
白人観光客たちをうならせるような演奏ができないといけない。
とは言ってもやっぱり南米人のノリは嬉しくてたまらないけどね。
イヤッホオオオオウ!!
と歓声を上げて手拍子し、立ち上がって踊り出す。
最後のお店ではあまりにも盛り上がりすぎて、お店の入り口にも人だかりができるほどになり、すごい騒ぎに。
いやー、最高だわ。
アンコールがいつまでも終わらず結局5曲くらい歌い、強引にありがとー!!とみんなに手を振ってお店を出た。
あああー、これで日本人がいたらチョコレートもらい放題で彼女に自慢してやれるのになぁ。
とか考えながらいい気持ちで歩いていると、しばらく歩いてからさっきのお店に忘れ物をしたことに気づく。
やべっ!!!
ダッシュで戻ると、店内のみんなが何で戻ってきたの?みたいな顔で見てくる。
そして椅子の上に置きっぱなしになっていたお金の入った帽子を手に取ると、お店の中は大爆笑に包まれた。
時間は22時になり、お昼に約束していたカラオケバーにやってきた。
どんなとこなんだろう、と恐る恐る中に入ると、お客さんが全然いないガランとした店内にお昼のおばちゃんがいた。
「まだ早いからもう少し待って。そのうちたくさんお客さん来るから。」
本当かなぁと思いつつ、ビールを飲みながら待っていると、言った通りにドンドンお客さんが集まってきて、23時を過ぎたころには広い店内がほぼ満席になった。
みんなお酒を飲みながら自慢の喉を披露している。
世界中そうだけど、エクアドルでもカラオケは人気だ。
可愛い太っちょのおばちゃんが音外しまくりながら気持ち良さそうに歌っているのがたまらなく愛らしい。
人の入りも充分になったところでようやく俺の出番。
お店の真ん中にある小さなステージに上がり、マイクで声を出す。
期待に満ちた目で俺を見ているお客さんたち。
マイクで歌うの久しぶりだな。
少しエコーのきいた音響で気持ち良く歌うと、店内は歓声に包まれた。
夜のあがりは43ドル。
「良かったら俺たちと飲まないかい?」
白人観光客のカップルに誘ってもらって彼らのテーブルへ。
カナダ人のウィリアムとフランス人のセバスチャン。
気さくな2人と話もはずみ、大笑いしながらビールを飲む。
「俺面白いジョーク知ってるんだよ!!俺たちがすし屋に行くとするだろ?そしたらこう言うんだ。アイスシユー、ユーサシミー。イヤアアアアアアアハッハッハッハッ!!!!」
何が面白いかひとつもわからないけど爆笑してるウィリアム。
俺も楽しくて喋りすぎなくらい喋りまくる。
「いやー、面白い、フミ、明日一緒に遊ぼうぜ。俺たち明日馬に乗りに行くんだ。カナダ対フランス対日本で乗馬対決だ。サムライとして負けられないだろう!?あ、ちょっと待ってて、ショット注文してくる。」
40%はあるスピリッツをレモンかじりながらあおり、2時にお店を出た頃にはふらふらになっていた。
お酒でこんなに酔っ払ったの久しぶりだ。
南米は本当に楽しい。
こんな旅人同士の出会いが毎晩のように訪れる。
もし明日も移動を延期して2人と遊べば、またきっと面白い出来事があるはず。
でも、明日は進まないとな。
「じゃーなー!!フミー!!」
「おやすみー!!」
2人と別れ、静まり返った町をふらふら歩いて宿に戻り、そのままベッドにもぐりこんだ。
ラブレター付きの本命チョコレートはなかったけど、いいバレンタインデーになったな。