2月7日 金曜日
【エクアドル】 テナ
朝から雨が降っている。
ジャングルは静寂に包まれ、薄い霧がかかってどこまでも深く沈んでいる。
ありのままの姿、人の手のくわえられていないものの持つ圧倒的な存在感は一種の恐怖を与える。
でもその存在に心から身を任せたなら、きっとどこまでも解放的な気分を味わえるはず。
ハエがテーブルに群がり、ゴキブリが走る食器容れからフォークをとって朝ごはんを食べる。
ほっ
いえーい
スペイン料理のトルティージャ!!
「ユカカンタモナニ!!」
パパが明るく俺の肩を叩いてくれる。
手に持った大きな鉈でパパはいつも家の周りの木や草を切っている。
あまり力を込めていないように見える一刀で草はストンと切り離される。
俺がやってもこうはいかない。
南米やアフリカなどの先進国ではない地域に行くと、人々は俺たちから見てとても原始的な道具を使って生活している。
不便だなぁと思うところはとても多いけれど、彼らのその道具を使う手際はものすごく鮮やかだ。
危なそうに見えたり、非効率的に見えたりするけれど、実は彼らの研ぎ済まれた感覚、技術というのは俺たちよりもはるかに優っている。
文明の利器に頼って快適さを求めている俺たちは、いつの間にか様々な感覚が鈍っているんだと思う。
セバスチャンという5歳くらいの小さな男の子が器用に火に木をくべているところを見るとつくづくそう思う。
てなわけで今日は雨で仕事には行かないというヘロニモたちを残して1人でテナの町へ向かい、Wi-Fiスポットで文明の象徴みたいなiPhoneをいじくる。
俺のタッチパネルをちょんちょん押して文章を書くスピードはなかなかのもんだ。
俺の中にもジャングルの中で鉈を持って暮らすことのできる人間としての才能はもちろんある。
人間は環境で様々な能力を身につけられる。
インターネットが人間にもたらすものは進化か退化か。
リーナの家がある集落へ向かうバスは18時が最終になる。
それを知らなかったので、しょうがなく3ドル払ってタクシーに乗った。
すでに暗くなったリーナの家では、みんなが焚き火を起こして囲んでいた。
「フミー!!大丈夫だった!?1人でなかなか帰ってこないからみんな心配してたんだよ!!」
みんなの掛け値のない笑顔がとても心地いい。
そんなみんなにスーパーで買ってきたお菓子を渡す。
「イヤッホーウ!!」
「フミ!!お前ってやつは最高だぜ!!」
大喜びでお菓子に群がるみんな。
日本にいたころはお菓子なんてほとんど食べなかったけど、旅をしていると甘いものが無性に恋しくなるもんだ。
「フミ、明日の朝、歯医者さんに行こう。そして明日からサンペドロを作るぜ。」
「マジかー!!よっしゃー!!」
興奮する俺にニコニコしている可愛いリーナ。
スペイン人のパウラが昨日からずっとくっついてくる。
みんなで火を囲んで楽しく話をしているその時だった。
突然、ふくらはぎに激痛が走った。
「いってええええええ!!!!!!」
飛び上がって足を見た。
何もいない。
なんだ?と思った次の瞬間、今度は膝に同じ激痛が。
ぎゃあ!!と叫ぶ俺に驚いてみんなが立ち上がる。
「フミ!!ズボン脱いで!!」
慌てふためきながらズボンを脱ぐと、ポロリと何かが落ちた。
ものすごく大きな蟻だった。
見てみると、ふくらはぎと膝に2本の歯で挟んだような赤い痕ができていた。
痛かったー………
「大丈夫?なんともない?」
「うん、痛かったけど、別になんともないよ。」
ジャングルの中だから虫がいるのは仕方ない。
蚊ではなく、小さな羽虫がたくさんいて、そいつらに刺されると異常なほどの痒みが数日続く。
マリアンナもこの前刺されたところをかいていたら、皮がむけて傷になり、化膿してしまって病院に行っていた。
それくらい痒い。
幸いワニとかアナコンダみたいなやつはまだ見てないけど、こんなやつはいた。
これ完全にまずいやつだよね(´Д` )
リーナの家にはガラスなんてものは1枚もなく、隙間だらけっていうか壁もあんまりないので虫さん入り放題。
寝てる時にこんなやつが体を這ってきたらと思うとゾッとするけど、リーナたちはここで育ってきてるんだからなぁ。
リーナたちの家族はいつも半ズボンにタンクトップで裸足という格好だけど、不思議と虫に全然刺されていない。
これもまた環境に順応する人間のポテンシャルかなぁ。
人間は強い生き物だ。
ちなみにリーナはワニもアナコンダも見たことがあるそう(´Д` )
さぁ、そんな人間が生みだしたサンペドロの秘密。
明日から調理開始。