1月28日 火曜日
【エクアドル】 バニョス
「フミタケ、まだしばらく滞在するならホテルの手伝いしないかい?午前中に4時間働いてくれたら宿代タダにするよ。それで午後に歌いに行けばいいんじゃないか?」
ロビーにWi-Fiを繋ぎにいくとスタッフの兄ちゃんがそう言った。
ホテルの手伝いか………なかなか面白そうだな。
どうせ平日はやることないし、宿代が無料になるのなら…………
いやいや、午前中にそんな早起きしてベッドメイクやお掃除なんて、朝が究極に苦手な俺が出来るわけない。
本気の仕事ならそりゃやるけど、旅中のノンビリした朝に頑張りたくはないよ。
日記書いたりブログ更新したりメールの返事とか、朝は朝でやることもあるし。
ありがたい話だけどお断りさせてもらい、ソファーにもたれてインターネットタイム。
すぐにメールをチェックしていく。
しかしヘロニモたちからの返事はない。
んー…………どうしようかなぁ。
早く進んでしまいたいけど、ここまできたらサンペドロだけは体験しておきたい。
サンペドロがダメならアヤワスカっていう手もあるけど、アヤワスカは観光客向けっぽいし秘密レベルで言ったらここのサンペドロのほうが高いと思う。
もう少しだけ待ってみるか。
てなわけで、昨日門前払いを食らったライセンス取得へ向かう。
テクテク歩いて昨日と同じ役所にやってきた。
中に入るとお姉さんが暇そうにパソコンの画面を眺めている。
俺を見て、あーあんたね、みたいな感じで奥へ通してくれた。
オフィスの奥にあるお偉いさんの部屋みたいなところを恐る恐る覗いてみる。
お、俺ただの旅人なんですけど、こんなとこに入っていいのかな………
「ここに座りなさい。」
完全にボスですオーラ丸出しのおじさんがメガネの奥で俺を見ている。
ドキドキしながら部屋に入り椅子に座ってボスと向き合った。
え?何この緊張感?
ゲロ吐きそうなんですけど?
「で、何の用かな。」
「あ、え、ろ、ろろ、ロリ巨乳、じゃなくて路上で演奏したいんです。」
「ああ?」
ちらりと俺を見るおじさん。
ご、ごめんなさい!!
ロリ顔で巨乳とか不謹慎ですよね!!!
「おいおい、日本人が歌うのか?いいじゃないか。いつやるんだ?今週末?いやー、すごくいいことだよ。ちょっと待ってな………名前はなんていうんだ?カネマルフミタケ…………よし、はいこれ許可証。バニョスにようこそ。」
おじさんの署名が書かれた紙を渡される。
えーっと………終わり?
建物を出る。
…………スーパー楽勝でライセンスゲット。
やったぜコノヤロウ。
これで週末は歌いまくってやる!!!
というわけで今日やること終了。
えーっと…………ゴミ拾いでもしようかな……………
ライセンスは取れたものの、歌っていいのは金曜から。
この平日はマジですることなし。
出来ることなら、この平日のうちにサンペドロを体験しに行って、週末に帰ってくるってのがベストなんだけどなぁ。
ヘロニモたちから連絡がない以上、待たないといけない。
暇なのでラーメンでも食べようとスーパーマーケットに行ってインスタントラーメンと玉ねぎを買って宿に戻り、屋上にあるキッチンへ。
まだここの屋上に上がってなかったけど、バニョスの小さな町並みと覆いかぶさるように連なる山々が大自然の中にいることを実感させてくれる。
風が吹き渡る空に、飛ばされてしまいそうな開放感。
やっぱり俺は山が好きだなぁ。
キッチンらしきところに入ると、まるでゴミ溜めみたいな流し場があった。
汚れた食器が積み重なり、流しの排水口に色んなものが詰まって溜まった水が濁っている。
野菜のカスやらベトベトの油やらが散乱して、見ただけでオエッてなりそうなほど。
ポテトチップスを箸で食べるほど昔から手を汚すのが大嫌いで、モスバーガーとか食べてて手がべちゃべちゃになるとマジでキレそうになる俺。
変に潔癖なB型。
そして1度始めたらとことんやらないと気が済まない。
袖を捲り上げ、太陽が降り注ぐ屋上で、1人キッチンを大掃除した。
朝のお手伝いのお誘い断ったってのに何やってんだ俺は。
ようやく綺麗になったところで買ってきたラーメンを作り、ノンビリと食べていると、宿に泊まってる色んなやつがやってくる。
アメリカ人やコロンビア人、アルゼンチン人、ヨーロピアン。
そんなやつらと昼下がりの穏やかな時間を過ごす。
コロンビア人のダンがギターを持ってきてポロポロと弾いてくれた。
開放弦を多用した気持ちのいい倍音が風にさらわれていく。
「マザーアースの考え方を知ってるかい?全ての命は生まれては還り、また新たな命となって繰り返す。南米ではそれをパチャママっていうんだ。」
気持ち良さそうに風を浴びるダン。
今、与えられているこの命を、謙虚にどこまでも楽しむように。
ダンと一緒にギターを弾き、それから少し町を散歩してから宿で部屋にこもっていた。
個室はとことん心地いい。
何をしてても誰にも文句を言われない。
どんな時間を過ごしたって、誰も俺を呼びにこない。
いつまでだってここにいることができるんだ。
俺が望むならば。
この命も、どうせ母なる大地へと還り、次の命へと受け渡されていく。
一瞬の命に、何の意味もない。
でも、どうせならこの命で面白いことをしたい。
やりたいことを全部やってしまいたい。
どうせ死ぬんだ。
楽しむために、先に進まないとな。
明日、ヘロニモたちが泊まってるカウチサーフィンの家を探しに行こう。