1月7日 火曜日
【エクアドル】 キト
朝っぱらからボブマーリーの声で叩き起こされる。
ヒッピーたちの朝は早い。
のんびり寝てるかと思えばいつも8時過ぎには活動を始める。
レゲエのリズムに合わせてバタンバタン!!と身支度をし、バトンやボールなど、それぞれのジャグリングの道具をバッグに入れて、行ってくるぜー!!と陽気に出かけて行く。
なぜかこの宿にいる連中は全員が路上パフォーマンスで、みんな稼ぎながら旅をしている。
この宿はさながら路上パフォーマーたちの合宿所だ。
昨日の盗難事件から一夜明ければみんな何事もないかのようにそのことには触れない。
「フミは今日は仕事に行くのかい?」
「もちろんだよ。みんなはどこでパフォーマンスしてるの?」
「バラバラさ。俺たちは自由だからね!」
小柄なコロンビア人のチキがお手玉のボールをクルクル回しながら出て行った。
よーし、俺もパフォーマーの端くれ。
南米脱出のためのチケット代を稼ぎに路上に行くぞーーーー!!!!!!
土砂降り。
なんだよもぉ…………
ここんとこ毎日降ってんじゃねぇかよ…………
まさか南米の雨季ってやつに突入したんじゃねぇのか?
みんなこの雨季の水が張ったウユニ塩湖を見るために続々と南米入りをしてきている。
ウユニ塩湖には綺麗な鏡張りになって欲しいけど、せめてあと2週間だけ晴れてくださいませ………
空は真っ暗な雨雲がどこまでも覆い尽くしている。
スコールみたいな一時的なものではなく、同じ強さでいつまでも降り続いている。
こんなんじゃとても歌えない。
でももしかしたら止む瞬間があるかもしれない。
止んだらソッコーで歌って、降ってきてら隠れての繰り返しでやるしかないか………
そんな止んでくれる気配なんて1ミリもしない空の下、走ってトロリーバスに乗り込んだ。
圧迫死するんじゃないかってくらいすし詰めの限界を超えたトロリーバスになんとか詰め込まれ、スリに注意しながら旧市街へ。
いつもバッグのフタも閉めない俺だけど、一応ここではバッグを前に抱える。
旧市街は土砂降り雨で人もほとんどいない。
そんな中を濡れながら歩き、昨日の楽器屋さんにやってきた。
昨日あれからも楽器屋を回り、10軒くらい探し回ったけど、俺が欲しいようなブルース用のハープはほとんど売ってなく、あっても70ドル以上というウンコ漏れそうな値段だったので結局買うことは出来なかった。
エクアドルのハーモニカは死ぬほど高い。
でも買わないと路上は出来ない。
仕方なくこの、マジでしょうもないオモチャみたいなハーモニカを買った。
ひとつ20ドル。
あああああ高え(´Д` )
日本だったら5ドルくらいで売ってるようなやつなのに………
買った瞬間試し吹き。
だからさぁ………なんで新品なのに音が微妙に狂ってるんだよ………
そんなことしたらダメだよ………
しかも音量がメチャ小さいし、少し強く吹くとベンドして音が変わってしまう。
はぁ、マジで使い物にならねぇ………
でも仕方ない。70ドルのハーモニカなんて買えないもん。
そうこうしてると雨が少しずつ弱まってきた。
お!!いいぞいいぞ!!
さっきまで水たまりに波紋を作っていた雨が止んだ。
うおおおお!!!今しかねぇ!!!
ダッシュで路上に立って音速でギターを取り出して、演奏開始!!!
ハーモニカ、ダメすぎる!!
音が全然出ねえ!!
それでもパラパラ入っていくお金。
よし!!いける!!
20分で雨、降り始める。
荷物を抱えて近くの軒下に逃げ込んだ。
あっという間に土砂降りになり、みんな頭にビニール袋を乗せて走っていく。
はぁ、もう今日は止まねぇか………
残念すぎる買い物で40ドルも使ってしまったのに路上ができない。
かろうじて20分で7ドルはたまった。
7ドルあれば宿代と飯代くらいは出る。
でも俺が稼がないといけない金ははてしなく遠い750ドル。
あ、め、めまいが…………
土砂降り雨の中、俺もトロリーバス乗り場に走った。
新市街に戻り、その足で昨日の旅行代理店にやってきた。
代理店も昨日あれから何軒か回って値段を比べてみたけど、やはり650ドルが最安値みたい。
うん、イースター島に6万5千円で行けるなら大満足だよ。
ただ安くで往復しようと思ったら結構長いこと島に滞在しないといけないみたい。
調べてもらったところ、9日間の滞在が必須条件。
9日間かぁ………
いくら憧れ続けたイースター島でもそんなに滞在して何しようか。
いやいや、旅に出る前からの、この世界一周のメインイベントと言ってもいいモアイの島だ。
絶海の孤島を隅から隅まで楽しみ尽くしてやる。
チリの首都、サンチアゴからの往復チケットを650ドルで購入した。
そしてもうひとつ。
南米脱出のための飛行機チケット。
ブエノスアイレスからの出発になるんだけど、当初はニュージーランドが目的地だった。
しかしニュージーランドよりもオーストラリアに飛んだほうが4万ほど安いことが発覚したので、順番を変えてオーストラリアの後にニュージーランドに行くことにした。
ここで問題なのが、オーストラリアに片道の航空券で飛べるのかどうか。
アメリカを一緒に横断したカッピー、ユージン君は、カリフォルニアからオーストラリアに飛んだけど、厳しいチェックなんて1ミリもなく、楽勝でフライト&入国出来たそう。
多分オーストラリア入国は楽勝だと思う。
問題なのはブエノスアイレスでの搭乗の時にアルゼンチン航空が受け入れてくれるかどうか。
片道で載せることを嫌がる航空会社はとても多い。
というか基本持ってないと乗せないのが彼らのルール。
まぁ無理なら無理でオーストラリアからニュージーランドへの飛行機チケットを買っておけばいいだけのことなんだけどな。
でもそうなると今度はニュージーランドに行く時に次の国へのチケットを用意しておかないといけない。
うー、めんどくせぇ………
こうやって一手先一手先を用意しないと飛行機の旅はできないんだなぁ。
この旅でまだ3回しか飛行機乗ってないからよくわかんないよ。
飛行機移動も、アジアに入ってしまえば多分終わりになる。
このオセアニアを乗り切ればあとは全て陸路移動、そして中国から韓国へのフェリー、釜山から福岡へのフェリーのみだ。
チケット情報もゲットして宿に帰って来た。
みんなも雨のせいでろくに仕事が出来なかったみたいで宿の中に閉じ込められていた。
でも俺みたいに悲壮的ではない。
ヒャッホウ!!って言いながら音楽をかけ、廊下でサッカーをしてドタンバタン飛び回っている。
彼らは自由なホーボー。1日分の宿代と飯代が出ればそれで充分。
残りの時間は思いっきり遊んで、思いっきりリラックスしていればいい。
いい過ごし方だよな。
俺も、このオーストラリアへのチケット問題さえ解決してしまえば、あとは南米は生活費と移動費と観光費を稼ぐだけで貯蓄する必要のない気楽な旅になる。
なんとしてもこのキトでカタをつけてやる。
窓の外は雨が降り続いている。