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日本人が殺された

1月3日 金曜日
【エクアドル】 キト





「金丸さん、昨日のニュース、やっぱり日本人でした。日本人がグアヤキルで殺されました。」



朝、遅く起きるとユータ君が言った。

は?どういうことだ?

すぐに理解できない。



昨日晩ご飯を食べに入った食堂。
そこのテレビで流れていたニュース。
あれのことだった。


ユータ君の話ではすでに日本でもニュースが報道されているようで大事件になっているようだ。



新婚旅行でエクアドルに来ていた日本人のご夫婦が、グアヤキルでタクシーに乗った後、2人別々の場所で発見されたんだそう。



変わり果てた姿で。

凶器はピストル。


旦那さんは死亡。
奥さんは命に別状はないが重傷を追ってるとのこと。

グアヤキルといえばエクアドルで1番大きな都市で、日本人に人気のガラパゴス諸島への拠点となる街。

カラフルな家々がひしめくサンタアナの丘はとても可愛らしい景観でこれまた人気がある。


ここキトからほんの8時間の距離。

同じ国内。






ふと寒気が走る。

凶器はピストル。

おそらくタクシーに乗ったところ全然違うところに連れて行かれ、ひと気のない場所で男たちに囲まれたんだろう。

もちろんタクシーはグルで、カモを仕事場に運ぶ役割を担っていたはず。

こうなったらもうどうしようもない。

旅人の中にもこれと同じ手口で被害に遭い、貴重品や現金のみならずATMに連れて行かれ限界額まで引き下ろさせられたという話もある。


ただその旅人は無事だった。
抵抗をしなかったから。

だから命を拾った。



では今回の被害者の旦那さんは抵抗をしたのか?

それはわからない。

もしかしたら言う通りに従っていたのに、非情にも撃たれたのかもしれない。






震えが体を貫く。

きっと同じ手口で被害に遭ったことのある旅人たちも心底震えているはず。

自分はラッキーだったと思っているはず。


俺もそう思う。


ピストルによる強盗。
いくら想像したとしても今までそんな犯罪なんてテレビの中の出来事でしかなかった。

それがこんな身近に、それも日本人が被害に遭うなんて。




俺だったかもしれない。

この前のグアテマラで、ニカラグアのヒッチハイクで、ロサンゼルスの砂浜で、イスラエルの公園で、エジプトの広場で、ヨーロッパ中の野宿で、


あの時ピストルやナイフを出されていたら死んでいたのは俺だったかもしれない。


いつ死ぬかなんてわからない。

日本の交通事故の死亡率に比べたら世界の犯罪による死亡率なんて可愛いもの。

日本で車を運転しているほうがよほど危険。

ではなぜあんなにのほほんとシートベルトも締めずに運転できるのか。


慣れなんだろうな。
俺は大丈夫っていう油断。




今の俺はどうだろう。

油断はしていないつもり。
いつも鋭敏に危険を察知しているつもり。


でもピストルが出されるかどうかを俺に予知できるだろうか。


こいつはそんなもの持ってないやつだ。
このタクシーのドライバーは強盗とグルのようなやつじゃない。



その判断が俺にできるだろうか。


ピストルを出した相手の、引き金を引く指を思いとどまらせる能力が俺にあるだろうか。






気を引き締め、ガイドブックや現地の人の言う通りに行動していれば、少なからず危険を避けることは可能だと思う。


今回の事件、被害者の2人は夜にタクシーを拾ったという。

俺は知らなかったけど、グアヤキルではタクシーは極力使わず、ましてや夜に乗るなんて絶対にダメというのがこの国を旅行するもののルールだそう。


被害者の2人が知らなかったからいけなかったのか。








もう命は戻らない。
新婚旅行という幸せの絶頂に起きたことだと想像すると、悲しみがこみ上げてくる。

残された奥さんのことを考えると、胸が締め付けられ涙が出そうになる。



死んだら終わり。

命の重さ、というやつを時に忘れてしまう時がある。

死んだら終わりなんだ。

命に比べたら旅がお粗末になることなんて紙みたいに軽いこと。

俺は必ず生きて帰る。






南米では1人行動は極力避ける。

極力団体行動。

そして危険な状況になったら無謀な抵抗はしない。


夜はなるべく行動しない。



ああしてれば良かった、って思えるだけマシだということを肝に命じないとな。


被害に遭われた方のご冥福を心からお祈りします。










photo:01




朝からビビッちまってるけど、旅は変わらずハードであることに変わりはない。

これから南米を下り、マチュピチュ、ウユニ塩湖、イースター島、そしてアルゼンチンからニュージーランドへの脱出というミッションは変わらず目の前に立ちはだかっている。


金は途方もなく必要。
多分イースター島が全部で8万くらい。
そしてアルゼンチンからのフライトが15万くらいか。

もちろん南米を観光地を周りながら下れば節約しながらでも最低7~8万は要るはず。


全部で30万はかかる。

今の所持金、公開しましょうか。


13万円です。


いやー、ホントどうしよう。


これがヨーロッパならいっくらでもどうにでもなる。
2~3週間あったら余裕シャクシャクで稼げる。


でもここは南米。

あの経済国のコロンビアでさえ、1日40ドルが関の山だった。


この危険な南米をこれから南下しながら、ギャンブルのように街をチョイスして稼いでいかないといけない。


不安で仕方ない。

でもやらないといけない。


俺に残された時間はあと半年。
彼女との約束は2年。


必ずやり切る。
ギターと歌がある。
親に頼って金送ってくれなんて絶対しないぞ。




で、で、で、でも、もしちょっと遅れたら、その時は、あの、勘弁してね…………












というわけで金を節約するために、昨日下調べに行ったヒッピーたちの溜まり場である宿に移ることに。

今泊まってるホステルタクソは、設備もスタッフも文句無しに素晴らしいし、8ドルという値段もここら辺の相場に比べたら悪くない。


でもヒッピーの溜まり場は3ドル。
異常なまでの安さ。

多少の汚さや不便は我慢しないとな。










歩いて5分ほどでヒッピーホステルに到着。


「オラー!!よく来たわね!!ビエンビエン!!さ!こっちよ!!」


俺とユータ君とナオコちゃんの3人で来たので、5人部屋を貸してくれることに。

photo:02





値段は少し上がるが3.5ドルなら文句無し。

シャワーは水だし、キッチンは使い物にならないし、ドアの外でドレッドのヒッピーたちがボブマーリーをガンガン流しながらマリファナをくゆらしているけど、値段にはかえられない。


こんな最底辺のホーボーたちの宿もたまにはいい。

ナオコちゃんの顔は引きつってるけど。









さぁ歌いに行くぞ。

今日は金曜日。
夜までガッツリやってやる。



まず昼のうちは旧市街を攻めることに。
昨日警察に怒られてから街を歩き回り、ある程度の目星はつけている。


photo:03




やってきたのは人で溢れかえるホコ天のショッピングストリートから横に伸びる脇道。

その脇道にあるスーパーマーケットの前にギターをおろした。


いい場所とは言えない。
でも観光客が歩くような通りはバッチリ警察の目が光っている。

ここならそんなに目立たないし、人通りもまばらだけどあるにはある。

よし、やってみっか。










photo:04




お金を入れてくれる人たちはみんな笑顔。


いい歌ね、

いい声ね、

ありがとう、


みんな笑顔で声をかけてくれる。
その顔にあるのは優しさ以外の何物でもない。
愛を持った人たちだとすぐに分かる。


でもこの国で先日、日本人が殺された。
信じられないよ。






どうかこの無垢な笑顔がいつまでも続いてくれますように。

photo:05






3時間ほどやってあがりは40ドル。

昨日に比べたら良いとは言えないが、怒られなかっただけマシとしとかないとな。











宿に戻り、それからエビちゃんとヨシコさんの見送りにバスターミナルへ。



2人は今から夜行でクエンカへ向かう。
俺も月曜日にグアヤキルに行くつもりだったけど、今回のことがあったのでグアヤキルはナシにして、クエンカに向かうとしよう。

一足先に行って待ってて下さいね!!
エビちゃん、ヨシコさん、気をつけて!!




2人を見送ったら、さぁもういっちょ路上いってみようか。

ギターを持って新市街の飲み屋街エリアへ。

photo:06




年越しの夜もすごい盛り上がりを見せていたけど、金曜日の夜である今夜もまぁイカれたどんちゃん騒ぎ状態になっていた。

photo:07




クラブやレストラン、バーがひしめくエリアはサルサの音楽が響き、たくさんの人が通りを埋め尽くしている。
欧米人の観光客、南米の他の国からの観光客、そして地元の人たちが入り混じり、独特な活気に満ちている。
すごいな、キト。


photo:08




そんな一角でギターを鳴らす。

喧騒はやかましいが、負けないように声を振り絞る。




騒音にも治安の悪さにも負けてたまるか。

絶対にやり切ってやるからな。


2時間やって夜のあがりは21ドル。
計61ドル。

photo:09
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